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【特許★】特許権侵害差止等請求事件(特許権者が訴訟前の交渉中に提案した実施料率(5%)が一要素として勘案され、事後的に定められる実施料率はその2倍にあたる10%と判断された事例。)

2022年10月24日

-東京地判令和3年8月31日・平成30年(ワ)第1130号「印刷された再帰反射シート」<田中裁判長>-

◆判決本文

【本判決の要旨、知財高裁大合議判決、若干の考察(大合議判決後の傾向)】

1.東京地判令和3年8月31日・平成30年(ワ)1130「印刷された再帰反射シート」<田中裁判長>(本判決)

本判決は、概要として以下のように判示して、特許権者が訴訟前の交渉中に提案した実施料率(5%)を一要素として勘案し、事後的に定められる実施料率はその2倍にあたる10%と判断した。

“実施に対し受けるべき料率は,①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。

原告は,本件訴訟の提起前に,被告らを含む3Mグループに対し,本件特許のライセンス料率5%を提案していたこと(乙41),他方で,米国3Mは,過去に第三者に提起した特許権侵害訴訟において,再帰反射シートに関する特許の実施料率は9%であると主張していたこと(甲71),米国3Mらは,過去に第三者に提起した訴訟において,ロイヤルティ料率20%での合意をしたこと(甲72,乙66),株式会社帝国データバンク編「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書 ~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~」(平成22年3月)において,再帰反射シート(樹脂シート)が該当する「化学」の最小値が0.5%,最大値が32.5%,平均が4.3%であるとされていること(甲73,乙67),被告3Mジャパンらは,原告に提起した特許権侵害訴訟において,実施料率を10%と主張していること等が認められる。

本件発明は,前記のとおり,再帰反射シートの構成全体に関わる発明であり,相応の重要性を有しているといえ,これらの構成を備えた従来技術は存在せず,この点についての代替技術が存在することはうかがわれない。

本件発明は,被告旧製品の全体について実施されており,これによって向上される耐水性・耐候性は,需要者の購入動機に影響を与えるものであるから,本件発明を被告旧製品に用いることにより,被告らの売上及び利益に貢献するものと認められる。

さらに,原告と被告らは,いずれも再帰反射シートの製造販売業者であり,競業関係にある。

⇒本件特許権を侵害した被告らに事後的に定められるべき,本件での実施に対し受けるべき料率は,10%を下らないものと認めるのが相当である。”

2.知財高判(大合議)平成30年(ネ)第10063号「二酸化炭素含有粘性組成物」事件

 同知財高裁大合議判決は、特許法102条2項(侵害者の利益相当額)、特許法102条3項(実施料相当額)に基づく損害額の算定方法及び考慮要素について判断した。

 特許法102条3項については、令和元年新法特許法102条4項を先取りして、「特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。」と判示し、料率を定める具体的方針として、「①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべき」という一般論を判示した。

 そのうえで、同知財高裁大合議判決は、具体的事案についての当てはめとして、「①本件訴訟において本件各特許の実際の実施許諾契約の実施料率は現れていないところ、本件各特許の技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率が、国内企業のアンケート結果では5.3%で、司法決定では6.1%であること及び被控訴人の保有する同じ分野の特許の特許権侵害に関する解決金を売上高の10%とした事例があること、②本件発明1-1及び本件発明2-1は相応の重要性を有し、代替技術があるものではないこと、③本件発明1-1及び本件発明2-1の実施は被告各製品の売上げ及び利益に貢献するものといえること、④被控訴人と控訴人らは競業関係にあることなど、本件訴訟に現れた事情を考慮すると、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率は10%を下らないものと認めるのが相当である。」と判示した。

 この判示は、「国内企業のアンケート結果」=株式会社帝国データバンクが作成した「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~(平成22年3月)」で報告されている料率(5.3%)の概ね2倍にあたる10%の実施料率を認定したものであり、今後の実務に向けて一つの指針となると思われる。

 この侵害プレミアム、すなわち、特許権侵害訴訟で侵害判断が出る前は非充足又は無効の可能性がある分だけ料率を低く合意される傾向にあることは当然であり、特許権侵害訴訟の判決においてはそのような可能性が消滅している分だけ料率が高くなるべきであるという議論は従前よりなされており、例えば、元大阪高裁の山田知司判事が、Law and Technology No.75 2017/4「特許法102条3項の損害認定」において、「実施料相当額の認定は、類例または業界の相場から出発して、当該事案の特殊性による増減額要素の重みづけを明示して仮想ライセンス料の認定に努力し、そこから有効な特許を侵害されたことを考慮して原則2倍とすべきである。」と述べていたことと合致する。

 なお、この帝国データバンクの平成22年報告書は、近時の裁判例で多く引用されており、無料でダウンロードできるので、特許実務家は必ず確認すべきであろう。

3.若干の考察(「二酸化炭素含有粘性組成物事件」大合議判決後の傾向)

知財高判(大合議)平成30年(ネ)第10063号「二酸化炭素含有粘性組成物」事件以降の裁判例で特許法102条3項の実施料率について判断した事例を概観すると、被告製品における当該特許の重要性など事案毎の判断ではあるものの、「特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になる」というテーゼが適用された事案はそれほど多くない。

なお、知財高裁大合議判決(令和元年6月7日)以降、令和2年11月18日判決までの5件中3件において、知財高裁大合議判決の判示である「特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべき」という表現が使われたが(知財高判令和2年(ネ)第10025号「発光装置」<森裁判長>、知財高判平成30年(ネ)第10006号、第10022号「システム作動方法」事件<鶴岡裁判長>、大阪地判平成28年(ワ)第12296号「棒状フック用のカードケース」事件<谷裁判長>)、東京地裁令和2年12月1日判決以降、東京地裁令和4年1月27日判決までの7件にはいずれも「通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべき」という表現は使われていない。(何れも、下掲参照。)

もっとも、本判決も結論としては特許権者が訴訟前の交渉中に提案した実施料率(5%)を一要素として勘案し、事後的に定められる実施料率はその2倍にあたる10%と判断しており、「事後的に定められる実施料率」は「通常の実施料率」に比べて自ずと高額になり、その一つの目安は通常の実施料率の概ね2倍であるという考え方と合致している裁判例も複数ある。何れにしても、特許権者が訴訟前の交渉中に提案した実施料率が一要素として考慮され、その2倍の実施料率を認定した裁判例として実務上参考になる。

「事後的に定められる実施料率」として、例えば、後掲・東京地判令和1年(ワ)第20074号「エアロゾル発生システムのための加熱アセンブリ」事件、知財高判令和2年(ネ)第10025号「発光装置」<森裁判長>、大阪地判平成28年(ワ)第12296号「棒状フック用のカードケース」事件<谷裁判長>、大阪地判平成29年(ワ)第9201号「シリコーン・ベースの界面活性剤を含むアルコール含有量の高い発泡性組成物」事件<杉浦裁判長>は、特許発明の技術分野における実施料率の平均値の概ね2倍の実施料率を認定した。

 他方、後掲・東京地判平成31年(ワ)第10945号「シート貼付構造体」事件<國分裁判長>、知財高判令和3年(ネ)第10005号「ピストン式圧縮機における冷媒吸入構造事件」<菅野裁判長>、東京地判平成29年(ワ)第24942号「ウェブページ閲覧方法」事件<佐藤裁判長>、東京地判平成29年(ワ)第28541号「ピストン式圧縮機における冷媒吸入構造」事件<柴田裁判長>、東京地判平成29年(ワ)第29228号「流体供給装置」事件<柴田裁判長>は、「事後的に定められる実施料率」を「通常の実施料率」と実質的に異ならない程度の率と認定した。

 判決で認定される特許法102条3項の損害額を計算するための「実施料率」が事案毎であることは当然であるが、上述したとおり、「事後的に定められる実施料率」として、「通常の実施料率」の概ね2倍の実施料率が認定された裁判例も本判決を含めて5件あること、特許権者が訴訟前の交渉中に提案した実施料率が勘案され、事後的に定められる実施料率をその2倍の実施料率と判断した裁判例(本判決)もあることは、実務上参考になる。

【関連裁判例の紹介(知財高裁大合議判決(令和元年6月7日)以降、損害論において、特許法102条3項の実施料率が判断された事例)】

<p(1)【令和4年1月27日】東京地判令和1年(ワ)第20074号「エアロゾル発生システムのための加熱アセンブリ」事件<國分裁判長>

実施に対し受けるべき料率については,①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。

・本件発明の実際の実施許諾契約における実施料率は現れていない

・証拠(甲14)によれば,本件報告書には「食料品,タバコ」の技術分野における実施料率の平均が3.8%であること,「健康;人命救助;娯楽」の技術分野における実施料率の平均が5.3%であることが記載されている

⇒特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実施に対し受けるべき料率は,10%を下らないものと認めるのが相当である。

(2)【令和3年11月25日】東京地判平成31年(ワ)第10945号「シート貼付構造体」事件<國分裁判長>

実施に対し受けるべき料率は,①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者の競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。

・原告が本件特許権の実施を許諾した例があることを認めるに足りる証拠はなく,また,本件全証拠によっても,スマートフォンの液晶を保護するフィルムに関する特許発明の実施許諾料に関する業界相場は明らかでないものの,前記(ア)aのとおり,全産業のロイヤルティ料率の平均値が4パーセント台前半であることをうかがわせる統計資料が存在する。

・フィルムの貼りやすさは,フィルム自体の機能と同程度の顧客誘引力を有するものであって,貼りやすい構造を有するフィルムは,その売上げ及び利益に相当程度貢献していることが推認される。そして,本件特許発明1及び3は,前記1(2)イのとおり,装置に保護フィルムを貼付する際の位置ずれを防止することを課題とし,この課題を解決するものであるから,フィルムに関する発明として重要であるということができ,フィルムの顧客誘引力を生じさせる一要素として売上げ及び利益への貢献度が高いというべきである。

・原告も被告もゲーム機又はスマートフォンの液晶画面を保護するフィルムを販売又は販売の申出をする株式会社であるから,競業関係にあるものと認められる。

⇒特許権侵害をした者に対して事後的に定められる,実施に対し受けるべき料率は,本件においては5%と認めるのが相当である。

(3)【令和3年9月16日】知財高判令和3年(ネ)第10005号「ピストン式圧縮機における冷媒吸入構造」事件<菅野裁判長>

実施に対し受けるべき金銭の料率の算定に当たっては,①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。

・本件訂正発明について実際に実施許諾契約が締結されたことを示す証拠はない。

・圧縮機の分野では,実施料率を3%から4%程度とする例を中心としつつ,その前後の実施料率とする例も相当程度あることがうかがわれること,本件訂正発明が相応の技術的価値を有し,代替品もなかったこと,一審原告と一審被告が競業関係にあり,相互に実施許諾を行うことが考えにくいこと,他方,本件訂正発明の作用効果に対する顧客吸引力等は一定程度限定されること,被告各製品の売上高はクラッチ部分を含むものであること等の本件諸事情を考慮

⇒特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実施に対し受けるべき料率は,3%と認めるのが相当である。

(4)【令和3年8月31日】東京地判平成30年(ワ)第1130号「印刷された再帰反射シート」事件<田中裁判長>(本判決)

(5)【令和3年1月20日】東京地判平成29年(ワ)第24942号「ウェブページ閲覧方法」事件<佐藤裁判長>

実施に対し受けるべき料率は,①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである(知財高裁平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日特別部判決・判時2430号34頁参照)。

・原告が主張するとおり,本件ライセンスにおけるライセンス料率は,自らのウェブサイトにおいて広告を掲載する場合は3%であるが,他社のウェブサイトに広告を掲載するなどして,広告枠を媒体社などから購入する費用を生ずる場合には1.5%とするものであると認めるのが相当である。

・被告の地域ターゲティング広告が本件ライセンスのいずれの類型に属するかにつきみるに,YDNのうち被告ウェブサイトに広告を掲載する部分及びプレミアム広告はウェブサイト運営社用に当たるから,ライセンス料率は3%となり,YDNのうち他の提携ウェブサイトに広告を掲載する部分はアドネットワーク事業社用に当たるから,ライセンス料率は1.5%となるものと認められる。

⇒本件各発明の実施についての相当な実施料率は,YDNのうち被告ウェブサイトに広告を掲載する部分及びプレミアム広告につき3%,YDNのうち他の提携ウェブサイトに広告を掲載する部分は1.5%と認めるのが相当である。

(6)【令和3年1月15日】東京地判平成30年(ワ)第36690号「携帯情報通信装置」事件<國分裁判長>

特許発明の実施に対し受けるべき料率を認定するに当たっては,①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮するのが相当である。

①本件発明を含め,原告による特許発明の実施許諾の実績はない。また,業界における実施料の相場等として,本件報告書及び前記「実施料率〔第5版〕」における平均値等の記載を採用することも相当ではない。このような状況に照らせば,本件発明に関し,業界における実施料の相場等を示すものとしては,被告が締結した被告製品に関する特許の実施許諾契約の内容を参考とするのが相当である。

 そして,被告従業員の前記陳述書においては,被告各製品に関連する標準必須特許以外のライセンス契約において,パテントファミリー単位での特許権1件あたりのライセンス料率が●(省略)●%であり,そのうち,ランニング方式での契約をとるC社との契約においてはライセンス料率の平均が約●(省略)●%であったこと,また,被告が,平成22年頃,被告各製品の販売に関連し,画像処理・外部出力関連の標準規格の特許ライセンス料を含む使用許諾料として支払っていた額は1台当たり合計●(省略)●米ドルであったことが説明されている(別紙5「被告各製品の販売状況」記載の売上合計を販売台数合計で除して算出した,被告各製品1台当たりの売上高は約●(省略)●円である。)。

②本件発明が被告各製品にとって代替不可能なものとは認められず,

③本件発明を実施することによる被告の利益の程度も明らかではないこと,

④原告と被告との間に競業関係がなく,原告は,特許発明について自社での実施はしておらず,他社に実施許諾をして実施料を得ることを営業方針としているものの,これまで保有する特許発明について,実施許諾契約の締結に至ったことはない

⇒本件発明について,被告各製品の製造,販売に対して受けるべき実施料率は0.01%と認めるのが相当である。

(7)【令和2年12月1日】東京地判平成29年(ワ)第28541号「ピストン式圧縮機における冷媒吸入構造」事件<柴田裁判長>

実施に対し受けるべき金銭の料率の算定に当たっては,①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。

・本件訴訟において,本件特許権についての実際の実施許諾契約の実施料率は現れていない。

 本件特許権の技術分野に近似する分野(「機関またはポンプ」)の実施料率についてのアンケート調査結果によれば,実施料率3~4%未満の例が最も多く(37.5%),実施料率5~6%未満の例や実施料率2~3%未満の例は同数(12.5%),実施料率1~2%未満は3件(18.8%)とされており(上記認定事実(ウ)),また,他の調査結果やデータベースには,実施料率3%又は6%の例(上記認定事実(ア))や実施料率5~8%又は3%の例(上記認定事実(イ))もあったとされていることからすれば,圧縮機の分野では,実施料率を3%から4%程度とする例を中心としつつ,その前後の実施料率とする例も相当程度あることがうかがわれる。

・本件訂正発明は,その顧客吸引力が相当に限定的であったことや,被告各製品の販売において代替不可能な技術であったとはいい難いものであったことがうかがわれる。

特許法102条3項の損害額の算定に当たっては,被告各製品はクラッチ部分と組み合わされて販売されており,被告各製品の売上高は,クラッチ部分を含む被告各製品の売上高であるという事情も考慮する必要がある。

・本件においては,被告による特許権の侵害があったこと,原告と被告は競業関係にあること,ロータリバルブを備えたピストン式圧縮機の市場は寡占状態にあり,相互にライセンスを行っていない閉ざされた市場傾向にあること(弁論の全趣旨)などの事情がある一方で,前記(イ)のとおりの本件訂正発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性を考慮した本件特許権の価値は限定的であるといえること,被告各製品の売上高はクラッチ部分を含むものである

⇒特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実施に対し受けるべき料率は,2%と認めるのが相当である。

(8)【令和2年11月18日】知財高判令和2年(ネ)第10025号「発光装置」<森裁判長>

特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきであり,①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な実施料率を定めるべきである。

・一審原告は,クロスライセンス以外の形態でLEDメーカーにライセンスを供与することは,一部の例外を除いてはなく,特許権が侵害された場合,一審原告の製造するLEDへの置換えが可能な場合にはそれを前提に5%前後の実施料率を用いて,置換えが難しい場合にはより高い実施料率を用いて和解をしており,平成28年に,本件特許1を含む二つの特許権を侵害するLED電球の販売に係る事案において,10%の実施料率を想定し,それに8%の消費税相当額を付加して,裁判上の和解をした。

・平成10年度までにおいて,電子・通信用部品分野のうち,半導体については,実施料率8%以上の契約が少なからず存する。

・本件特許1は,長時間の使用に対する特性劣化が少なく,色ずれや輝度低下の極めて少ない発光装置に係る特許であり,本件特許2及び3は,ダイシングの際の剥離の防止や廃棄される樹脂の低減を図るとともに,生産効率を大幅に向上させ,安価な発光装置を提供する方法及び当該装置に係る特許である。これらの特性は,液晶テレビのバックモニタ用の白色LEDとして,大きく活かされるものであったといえ,殊に,本件特許1は,非常に重要な産業上の意味を持つものとして,その後のLED市場の急速な拡大に大きく寄与した。

⇒以上で述べたところに,前記(1)で特許法102条3項の実施料率について述べたところや,前記(2)で認定した関連技術分野における実施料率の特徴や幅,YAG系蛍光体を用いた白色LEDの価値等に係る他の事情を総合すると,平成26年1月から平成28年12月までの期間(ただし,本件特許3については平成27年10月23日以後,本件特許2については平成28年12月16日以後)における本件発明1~3の実施料率は,10%を下回ることのない相当に高い数値となるものと認められる。

 液晶テレビである一審被告製品は,本件LED以外の多数の部品から成り立っており,上記(ア)の実施料率をそのまま適用することは相当ではないが,・・・一審被告製品の売上げに対する本件発明1~3の技術の貢献は相当に大きいものであり,・・・一審被告製品の売上げを基礎とした場合の実施料率は,0.5%を下回るものではないと認めるのが相当である。

(9)【令和2年1月30日】東京地判平成29年(ワ)第29228号「流体供給装置」事件<柴田裁判長>

実施に対して受けるべき料率について,本件において,本件発明の実施許諾契約の存在を認めるに足りず,証拠(乙20)によれば,平成22年8月31日に発行された「ロイヤルティ料率データハンドブック~特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ~」において,「器械」の実施料率は平均3.5パーセントであり,最大値は9.5パーセント,最小値は0.5パーセントであることが認められる。これらに,原告と被告とは競業関係にあることその他の本件に現れた諸事情を総合的に考慮して,本件における実施に対して受けるべき料率としては5パーセントが相当であると認める。

(10)【令和元年9月11日】知財高判平成30年(ネ)第10006号、第10022号「システム作動方法」事件<鶴岡裁判長>

特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,実施に対し受けるべき料率は,①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。

本件訴訟において本件特許Aの実際の実施許諾契約の実施料率は現れていないところ,本件特許Aの技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率が,本件アンケート結果では2.5%(最大値4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%)であり,同実施料率は正味販売高に対する料率を想定したものであることが認められる。そして,このことを踏まえた上,侵害品に係るゲームソフトにおいては,ゲームのキャラクタや内容,販売方法の工夫等が,その売り上げに大きく貢献していることは否定できないとはいえ,本件発明A1に係る技術も,売上げの向上に相応の貢献をしていると認められることや,本件発明A1の代替となる技術は存在しないこと,控訴人と被控訴人は競業関係にある

⇒特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実施に対し受けるべき料率(以下「本件実施料率A」という。)は,消費税相当額を含む被控訴人の正味販売価格に対し,3.0%を下らないものと認めるのが相当である。

(11)【令和元年9月10日】大阪地判平成28年(ワ)第12296号「棒状フック用のカードケース」事件<谷裁判長>

本件発明の寄与度を考慮するのは相当でない。そして,プラスチック製品(イニシャル・ペイメント条件無し)の平成4年度から平成10年度までの実施料率の統計データによると,最頻値は1%,中央値は3%,平均値は3.9%であること(乙83),本件発明の構成によるとカードケースの使用者の操作性等が相当向上すると認められること,前記認定のとおり,被告による被告製品の売上には被告の販売力やブランドイメージ等が大きく影響したと認められること,その他本件に現れた事情に加え,さらには特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうこと(前掲知財高裁令和元年6月7日判決参照)をも考慮すると,本件で相当な実施料率は5%と認めるべきであり,原告ソーグの特許法102条3項に基づく損害は(中略)円(計算式:被告製品の売上額(中略)円×5%×1/2(共有持分の割合))となる。

(12)【令和元年6月20日】大阪地判平成29年(ワ)第9201号「シリコーン・ベースの界面活性剤を含むアルコール含有量の高い発泡性組成物」事件<杉浦裁判長>

同項に基づく損害の算定に当たって用いる実施に対し受けるべき料率は,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,むしろ,通常の実施料率に比べておのずと高額になるであろうことを考慮すべきである。

特許法102条3項による損害を算定する基礎となる実施に対し受けるべき料率は,①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。

・「実施料率〔第5版〕」(社団法人発明協会研究センター編,平成15年発行。甲38)によれば,「医薬品・その他の化学製品」(イニシャル無)の技術分野における平成4年度~平成10年度の実施料率の平均値は7.1%であり,昭和63年度~平成3年度に比較して上昇しているところ,その要因として,「実施料率全体の契約件数は減少しているものの,8%以上の契約に限れば件数が増加しており,この結果,…実施料率の平均値が高率にシフトしている。」,「この技術分野が他の技術分野と比較して実施料率が高率であることと,実施料率の高率へのシフト傾向は,医薬品が支配的であるが,これは近年医薬品の開発には莫大な費用が必要となってきており,また,代替が難しい技術が他の技術分野と比較して多いためであると考えられる。」との分析が示されている。また,同時期の実施料率の最頻値は3%,中央値は5%であることも示されている。

 他方,「平成21年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~本編」(株式会社帝国データバンク,平成22年3月作成。乙11)によれば,「健康;人命救助;娯楽」の技術分野における実施料率の平均は5.3%,最大値14.5%,最小値0.5%とされている。また,「バイオ・製薬」の技術分野においては,平均6.0%,最大値32.5%,最小値0.5%とされている。

・被告各製品と本件各発明の実施品に加え,第三者の製品も,本件各発明の奏する作用効果と同趣旨と見られる効果を利点としてうたっていることなどに鑑みれば,泡状の手指消毒剤において本件各発明が持つ技術的価値は高いものと見られる。また,手指消毒剤の市場において,泡状の製品のシェアが徐々に高まっていることがうかがわれることに鑑みると,本件各発明の経済的価値も積極的に評価されるべきものといえる。もっとも,後者に関しては,ジェル状の製品のシェアはなお維持されているといってよいことに鑑みると,その評価は必ずしも高いものとまではいえない。実施料率の決定要因としては,当該特許発明の技術的価値よりも経済的価値の方がより影響力が強いと推察されることに鑑みると,このことは軽視し得ない。

・被告各製品の売上高を見ると,その販売数量は多いといえるから,被告各製品はいわゆる量産品であり,利益率は必ずしも高くないと合理的に推認される。この点は,本件各発明を被告各製品に用いた場合の利益への貢献という観点から見ると,実施料率を低下させる要因といえる。

⇒特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実施に対し受けるべき料率については,7%とするのが相当である。

(原告)日本カーバイド工業株式会社

(被告)スリーエムジャパンイノベーション株式会社、スリーエムジャパンプロダクツ株式会社

執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)(特許ニュース令和4年10月12日の原稿を追記・修正したものです。)

監修:吉田和彦(弁護士・弁理士)

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