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【特許★】特許権侵害差止等請求事件(「オゾンとの接触を抑制」を客観的に達成すれば充足であるが、引用発明は「オゾンとの接触を抑制」する旨の記載がないことを相違点として、進歩性を認めた事例。

2025年08月21日

【特許★】特許権侵害差止等請求事件(「オゾンとの接触を抑制」を客観的に達成すれば充足であるが、引用発明は「オゾンとの接触を抑制」する旨の記載がないことを相違点として、進歩性を認めた事例。

-大阪地判令和4年(ワ)第3344号【高純度PTH含有凍結乾燥製剤の製造方法】<武宮裁判長>-

◆判決本文

【本件発明、対象方法、判旨抜粋、先行する仮処分決定の抜粋、若干の考察】

1.本件発明(製造方法)

『1A: 無菌注射剤の製造施設内における、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法であって、
1B: PTHペプチド含有溶液調製工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程終了の間の工程のうち、少なくとも搬入工程を含む1以上のグレードAの環境を有する工程において、
1C: PTHペプチド含有溶液と同無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを特徴とする方法であって、
 1D: 同PTHペプチド含有凍結乾燥製剤とは、当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質の量も1.0%以下であり、
1E: 及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下であることを少なくとも意味する、
1F: PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法。』

2.対象方法

 『搬入工程を含む工程において、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触が抑制される』

3.判旨抜粋

(1)構成要件1Cの充足論

『構成要件1Cは、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを規定するのみで、その手段について特定の方法に限定するものではなく、本件発明の他の構成要件において、これを限定する記載はない。

また、本件明細書には、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制する手段は特に限定されないことが明記されており…、同手段の例示として、PTHペプチド含有溶液周辺の空気の流動性や流動量を抑制すること…及びPTHペプチド含有溶液周辺を不活性化ガスで置換すること…が記載されている。

このような構成要件及び本件明細書の記載内容に照らすと、本件発明1において、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制する手段は限定されておらず、何らかの方法によりこれを実現すれば足りるものと解される。…

被告方法では、搬入工程を含む工程において、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触が抑制されるから、被告方法は構成要件1Cを充足する。』

(2)無効論/進歩性欠如(新規性については論点とされていない)

『相違点1-3

本件発明1では、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを特徴とする方法である旨定められているのに対し、乙1発明は、無菌薬剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを特徴とする方法である旨の記載がない点』

『乙1公報に記載された発明は、無菌移送に着目したものであり、薬剤の酸化抑制を目的としたものとは認められない。確かに、乙1公報の特許請求の範囲のとおり、乙1発明では、滅菌「不活性」保護ガス(窒素)が使用され、これには酸化抑制効果があるが、これは薬剤を無菌状態で移送することを目的としていると解されるのであって、上記の発明の詳細な説明に鑑みれば、当業者が、周囲空気との接触による酸化の抑制を目的としていると認識するとは認め難い。被告が主張するような、窒素等の不活性ガスは滅菌されなければ 滅菌不活性保護ガス」にはならない、薬剤と周囲空気との接触を抑制し、不活性ガスを充填することによって薬剤の酸化防止を図ることができる、との技術常識が存在したとしても、乙1公報に、酸化抑制効果を意図した具体的な記載がなく、薬液と周囲空気との接触の抑制による酸化の抑制との技術思想が開示されているとは認められない。

そして、…乙1公報記載の実施例は「二酸化炭素に敏感なオメプラゾール」に関するものであるところ、オメプラゾールが、酸化防止を要する薬剤ではなく、「無菌状態で移送しようとしている」非密封容器内の薬剤の例として挙げられていることも踏まえると、当業者が、このような実施例を周囲空気との接触による酸化の抑制を要する薬剤の例と解するとは認められない。同様に、…「容器2およびその中味は必ず薬用でなければならないというわけではない。衛生的あるいは非酸化性の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体状の化学物質を充填した他のタイプの容器も本発明の方法によって処理できる。」との記載は、薬用ではない衛生的あるいは非酸化性の移送等を要する化学物質を充填した他のタイプの容器も乙1発明の無菌移送方法により処理できることを示すものにすぎないと解すべきである。
このような乙1公報記載の特許請求の範囲、従来技術の課題、発明の目的や効果、実施例からしても、乙1公報記載の発明は、薬液を無菌状態で移送することに着目した発明であって、薬液が周辺空気と接触することによって酸化することを抑制することを示唆するような発明であるとは認められない。』

『乙1発明は、薬液を無菌状態で移送することを目的とする発明であって、搬入工程(運搬及び搬入)において、薬液が周辺空気と接触することによる酸化を抑制することを目的とする発明であるとは認められないから、これを前提とする…主張は採用できないし、同様に、薬剤と無菌薬剤製造施設内空気に含まれるオゾンとの接触を抑制する作用がその構成自体に内在するという…主張も採用できない。…乙1公報にはオゾンによる薬液の酸化についての記載やその示唆はない。確かに、乙1公報には、非酸化性の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体状の化学物質を充填した他のタイプの容器も本発明の方法によって処理できるとの記載があるものの、かかる記載は、当業者の理解を前提としても、乙1発明の無菌移送方法が、オゾンによる薬液の酸化の防止に使用できることを記載しているものとは認められない。また、本件特許の優先日前の技術常識を踏まえても、乙1発明をPTHペプチド凍結乾燥製剤の製造に適用する当業者は、乙1発明の構成が、薬液のオゾンとの接触抑制のためにも作用すると当然に理解・認識するものとはいえない。すなわち、③PTHペプチドが酸化されやすいことが技術常識であったとしても…、これらの公報等はオゾンが酸化原因であることを特定するものではなく、④オゾンがメチオニンやトリプトファンを酸化することが技術常識であったとしても…乙第10号証は、オゾン濃度が1ppmの環境下において、遊離のアミノ酸を対象とするものであり…、乙第11号証は、PTHペプチドとはアミノ酸配列及びペプチド鎖長を異にするラナテンシンペプチドを対象として、溶媒を空気蒸発させる態様によるものであることから、これらの文献は、PTHペプチドが、空気に含まれるオゾンにより酸化されることを特定するものではない。そもそも、…本件発明は、PTHペプチドを含有する製剤は特に高純度であることが必要とされるという従来技術の課題に加え、本件発明の発明者らが、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤を工業的に製造しようとするとPTH類縁物質を含んだ製剤が製造されることを知見したことによるものであるところ、乙1公報に工業的製造を前提とする前記課題に関する記載や示唆はなく、本件特許の優先日前において、前記知見が技術常識であったことを裏付ける資料もないから、乙1公報に接した当業者が、PTH含有凍結乾燥製剤の搬入工程においてPTH類縁物質が生成されるという課題を認識することにはならず、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することに関する動機付けがあるとはいえない。したがって、当業者は、乙1発明及び技術常識から、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを理解し認識するとはいえ…ない。』

4.先行する仮処分決定(同一当事者、同一特許、同一対象製品。主引例が同じか不明)

知財高決令和6年(ラ)第10001号<中平裁判長>(基本事件・大阪地裁令和4年(ヨ)20011)は、本大阪地判と概ね同様である。(本大阪地判が先行する同知財高決を踏襲したともいえるが、同知財高決の原々決定も大阪地決である。)原々決定に対する保全異議(大阪地裁令和5年(モ)59004)も含めてそれなりの人数の裁判官による判断を経ていることを考えると、本件発明の「…オゾンとの接触を抑制することを特徴とする」という作用をクレームアップした(医薬用途)方法発明”の充足論・無効論については、本件のような考え方が、裁判所における主流であるのかもしれない。

以下、知財高決令和6年(ラ)第10001号の抜粋を示す。

『「⑷ 容易想到性について…

ア 容易想到性を検討する前提として、相違点1-1に係る本件発明1の構成の内容及び技術的意義について検討する。…PTHペプチドを含有する製剤を骨粗鬆症の治療・予防のために投与する場合、その投与期間が長期にわたることもあり得るから、PTHペプチドを含有する製剤は特に高純度であることが必要とされる…という課題があったところ、本件発明の発明者らは、典型的製造過程によりPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を工業的に製造しようとすると、当該有効成分(PTHペプチド)の化学構造が変化した物質(PTH類縁物質)を含んだ製剤が製造されてしまうことを知見し、特に製造スケールが大きくなると、生産数量の増加に伴ってPTH類縁物質の生成量が実質的に許容できない程度までに増加することが危惧されるという問題に直面し…、特に搬入工程において、PTHペプチド含有溶液等が医薬品製造施設内の空気環境に含まれるオゾンに暴露されることを抑制することにより、PTH類縁物質の生成が顕著に防止・低減されることを見出した…。すなわち、本件発明は、PTHペプチド含有溶液調整工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程終了の間の工程のうち、少なくとも搬入工程を含む工程で、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを解決手段として、PTH類縁物質の含量が低い高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得るとの課題を解決するものである。そして、本件発明は、PTH類縁物質の含量を、構成要件1D及び1Eで特定される低いレベルとすることを実現するものとされている。そうすると、…「PTHペプチド含有溶液と同無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制すること」(構成要件1C)は、…「当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質量も1.0%以下」、及び「PTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下」(構成要件1D及び1E)というPTH類縁物質量の基準割合の条件を達成するための手段であるということができる。

イ 乙1公報の発明の詳細な説明には、「さらに、容器2およびその中味は必ず薬用でなければならないというわけではない。衛生的あるいは非酸化性の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体状の化学物質を充填した他のタイプの容器も本発明の方法によって処理できる。」との記載がある。このうち「さらに、容器2およびその中味は必ず薬用でなければならないというわけではない。」という第1文は、その記載に基づいて、容器2及びその中味について、薬用でもよいが、薬用であることが必須であるわけではなく、薬用以外でもよいという意味と解され、薬用とそうでない場合の双方を含むものと解される。そのため、これに引き続く第2文の「衛生的あるいは非酸化性の移送あるいは保管の状態を必要とする液体状あるいは固体状の化学物質」についても、薬用とそうでない場合の双方を含むものと解され、第1文によって、第2文にいう上記「化学物質」から薬用の物質が排除されており、薬用以外の化学物質のみが含まれると解すべき根拠は認められない。そうすると、乙1発明が、薬用の化学物質についての非酸化性の移送を排除しているとは認められない。
しかしながら、乙1公報の発明の詳細な説明には、PTHペプチド含有製剤の製造については何も記載されておらず、PTH類縁物質の含量が低い高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得るとの課題も開示されていないから、乙1発明に接した当業者が、乙1発明を、「当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質量も1.0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下」であるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に適用することを想起するとは認められない。抗告人は、PTHが酸化しやすい物質であることは本件特許の優先日前の技術常識であり、当業者は、PTHペプチドを有効成分とする凍結乾燥注射剤を製造するに当たり、「製剤開発に関するガイドライン」(乙20)に基づき、酸化を防止して、高純度の医薬品を製造することができるよう製造工程を確立することを検討するから、乙1発明をPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造のために使用することを当然検討すると主張する。しかし、乙1に、抗告人の主張する上記技術常識を組み合わせ、更に乙20の文献の記載を組み合わせたとしても、当業者が、典型的製造過程によりPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を工業的に製造しようとするとPTH類縁物質を含んだ製剤が製造されてしまうという課題を認識するとはいえず、乙1発明を「当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質量も1.0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下」の無菌注射剤であるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に適用することを想起するとも認められない。』

『抗告人は、…本件発明1の構成要件1D及び1Eの基準の上限値は、この数値自体に格別の技術的意義が認められるようなものではないから、乙1発明をPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造のために適用しようとする当業者において、製造しようとする製剤のPTH類縁物質の含有量の基準を、構成要件1D及び1Eのとおりと定めることは格別困難なものではな…いと主張する。しかし、…補正後の原決定「理由」第4の4⑷のとおり、本件発明は、PTHペプチド含有溶液調整工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程終了の間の工程のうち、少なくとも搬入工程を含む工程で、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを解決手段として、PTH類縁物質の含量が低い高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得るとの課題を解決するものであり、かつ、PTH類縁物質の含量を構成要件1D及び1Eで特定される程度に少なくするものである。これに対し、乙1公報には、PTHペプチド含有製剤の製造については何も記載されておらず、PTH類縁物質の含量が低い高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得るとの課題も開示されていないのであって、この課題を解決するための上記解決手段を実現する動機付けを見出すこともできない。そうすると、そもそも、乙1発明に接した当業者が、PTH類縁物質の含量が低い高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を得るとの課題を解決するために、乙1発明を、PTH類縁物質量の割合が一定以下である高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法に適用することを想起するとは認められないから、当業者において、乙1発明をPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造のために適用し、かつ製造しようとする製剤のPTH類縁物質の含有量の基準を構成要件1D及び1Eのとおりと定めることを容易に想到すると認めることもできない。』

『●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● したがって、自由技術の抗弁に関する抗告人の上記主張は採用することができない。』

5.若干の考察

(1)構成要件1C「PTHペプチド含有溶液と同無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを特徴とする方法」の位置付け

 本判決は、「…オゾンとの接触を抑制する」(構成要件1C)という発明特定事項について、引用発明は「乙1発明では、滅菌不活性」保護ガス(窒素)が使用され、これには酸化抑制効果があるが、これは薬剤を無菌状態で移送することを目的としていると解されるのであって、上記の発明の詳細な説明に鑑みれば、当業者が、周囲空気との接触による酸化の抑制を目的としていると認識するとは認め難い。」として、この点を相違点として、進歩性を認めた。

このように、従来技術と構成が同じであるにもかかわらず主観(認識)の相違により新規性・進歩性が認められる類型としては、”用途発明”が挙げられる。”用途発明”の充足論は、単に物を販売等するだけでは足りず、典型的には、当該用途を標榜して(ラベルを付して)販売するか、当該用途に用いることをプロモーションしていた場合に、用途の発明特定事項が充足となる。この点につき、東京地決令和6年(ヨ)第30029号【加齢黄斑変性症】事件<中島裁判長>は、「本件発明における特許法2条3項にいう『実施』とは、専ら本件特定患者群に投与するために、抗VEGF剤を生産、使用、譲渡等をする行為をいう」と判示した。

しかしながら、本判決は、「オゾンとの接触を抑制する」という発明特定事項を、『用途』と解釈したわけではないため、被告が「オゾンとの接触を抑制する」ことを標榜して方法を使用していたという認定・判断をすることなく、「被告方法では、搬入工程を含む工程において、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触が抑制される」ことが客観的に達成されることだけを事実認定して、構成要件1Cの充足性を認めた。

充足論をそのように考えるならば、引用発明でも、「オゾンとの接触を抑制する」ことで酸化を抑制することが客観的に達成されるならば、構成要件1Cを具備するとして一致点と考えなければ、無効論では引用発明においても達成されていたにもかかわらず記載(認識)がなかったことが相違点となり新規性・進歩性が認められるのに対し、充足論では客観的に達成されていれば充足となってしまうから、不合理・不衡平な結論となるという懸念がある。実際、本判決ではそのような結論となってしまった。

実は、被告方法も「オゾンとの接触を抑制する」ことで酸化を抑制する目的であったのかもしれない。それ故に、被告がこの点を争わなかったのかもしれない。そうであるとしても、本判決の書きぶりは、無効論(進歩性)と充足論とで、構成要件1Cの解釈について不整合が生じており、今後の特許実務への影響が懸念される。

また、製造方法の発明におけるクレームドラフティングとして、「用途」ではなく、作用・メカニズムとしてクレームワーディングを工夫することで本判決のような結論を得られるとすれば、出願実務における工夫の余地が広がったと言えるかもしれない。

(2)知財高判平成18年(ネ)第10075号との対比

知財高判平成18年(ネ)第10075号【ルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法】は、明細書の記載から、「ルイス酸抑制剤」の目的は「中和」による抑制であると認定し、他の因果関係によりルイス酸抑制の効果を得られると仮定しても非充足と判断した。もっとも、同判決では、明細書の記載からそのように限定解釈されたものであるのに対し、本判決では「本件明細書には、PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制する手段は特に限定されないことが明記されており」という事実関係であったから、充足論としては整合する。

両判決の対比から、『目的』をクレームアップする場合に、明細書中の発明の詳細な説明に、当該目的を達成する「手段は特に限定されない」と明記しておくと、限定解釈を回避でき、特許権者(出願人)にとって有利になると考察できる。(もちろん、当該『目的』を達成するメカニズムに進歩性が認められる場合は、サポート要件等との関係から当該メカニズムを明細書中の発明の詳細な説明に記載する必要があるが、その場合は、発明の技術的範囲が当該メカニズムに限定されることは仕方がない。)

【関連情報の紹介】

1.目的がクレームアップされた発明の充足論において、明細書の記載に基づいてメカニズムが限定解釈され、非充足と判断された事例

知財高判平成18年(ネ)第10075号【ルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法】

*明細書の記載から、「ルイス酸抑制剤」の目的は「中和」による抑制であると認定し、他の因果関係によりルイス酸抑制の効果を得られると仮定しても非充足と判断した。

*知財高判平成20年(行ケ)第10276号で実施可能要件違反とされた。本件の非充足結論は無効理由の裏返しか?

*「機能的クレーム」の解釈指針に近い

 【構成要件D】 該容器の壁内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供給するルイス酸抑制剤で被覆する工程

 【イ号方法d】 該容器の壁内壁を…エポキシフェノリックレジンのラッカーで被覆する工程

(判旨抜粋)

 本件明細書の…各記載によれば,麻酔薬として広く用いられるセボフルラン(フルオロエーテル化合物)は,容器内壁に存在するルイス酸(酸化アルミニウム等。以下「容器由来ルイス酸」ということがある。)と接触すると,容器由来ルイス酸がセボフルラン中のアルファフルオロエーテル部分を攻撃することにより,皮膚や粘膜に有害なフッ化水素酸を含む分解産物に分解される(以下,単に「セボフルランの分解」などというときは,当該分解を指す。)との問題があったところ,本件特許発明は,安定したセボフルランの貯蔵方法を提供するため,ルイス酸の空軌道に電子を供与してルイス酸との間に共有結合を形成することによりルイス酸と上記アルファフルオロエーテル部分との反応を妨げるような性質を有する物質(本件明細書にいう「ルイス酸抑制剤」)で容器内壁を被覆して,当該物質により容器由来ルイス酸の潜在的な反応部位を遮断し(以下「容器由来ルイス酸を中和する」などということがある。),もって,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解を防止することを目的とするものであるといえる。したがって,本件特許発明にいう「ルイス酸抑制剤」とは,上記性質を有する物質であって,容器由来ルイス酸を中和し,もって,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解を防止するとの作用効果をもたらすものであると認められる。

 このように,本件特許発明においては,ルイス酸抑制剤により容器由来ルイス酸を中和することを手段として,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止との作用効果を実現するものであるから,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止が容器由来ルイス酸の中和と関係なく実現される場合には,ルイス酸抑制剤が,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解を防止するとの作用効果をもたらすとはいえず,そのような場合におけるルイス酸抑制剤は,本件特許発明にいう「ルイス酸抑制剤」に該当しないものと解するのが相当である。換言すれば,本件特許発明にいう「ルイス酸抑制剤」に該当するためには,当該ルイス酸抑制剤による容器由来ルイス酸の中和と容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止との間に,当業者の認識を踏まえた因果関係が認められることを要すると解すべきである。

 そして,…本件特許発明は,ルイス酸抑制剤による容器内壁の被覆後,容器内壁とセボフルランとが接触することを当然の前提にしているものと解される。したがって,容器由来ルイス酸とセボフルランとが接触するものと認められない場合,例えば,物理的な要因により,セボフルランの通常の貯蔵条件下及び貯蔵期間内における容器内壁とセボフルランとの接触が完全に又は著しく妨げられる場合(そのような接触があるとの立証がない場合)には,容器由来ルイス酸とセボフルランとの接触があるものとは認め難く,それ故,容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止とルイス酸抑制剤による容器由来ルイス酸の中和との間に,当業者の認識を踏まえた因果関係があると認めることはできない…。構成dにおいては,EPRにルイス酸抑制剤としての作用効果があると仮定してみても,ルイス酸抑制剤による容器由来ルイス酸の中和と容器由来ルイス酸によるセボフルランの分解の防止との間に,当業者の認識を踏まえた因果関係があると認めることはできないから,構成dの「エポキシフェノリックレジンのラッカー」が構成要件Dの「ルイス酸抑制剤」に該当するということはできない。

2.用途発明の充足論と新規性・進歩性判断

 東京地決令和6年(ヨ)第30029号【加齢黄斑変性症事件】<中島裁判長>(民事40部)は、以下のとおり判示して、医薬用途発明の実施を専ら基準(特許法2条3項にいう「実施」とは、専ら請求項で特定された医薬用途に用いるために(本件発明では本件特定患者群に投与するために)生産、使用、譲渡等をする場合に用途充足となる)により非充足とし、一定割合が対象患者に投与されていれば充足とする特許権者の主張によれば新規性を欠くとして、特許権侵害を否定した。

 『用途発明とは、既知の物質について未知の性質を発見し当該性質に基づき顕著な効果を有する新規な用途を創作したことを技術的特徴とするものである。そうすると、用途発明についての特許法2条3項にいう「実施」とは、専ら新規な用途に使用するために既知の物質を生産、使用、譲渡等をする行為をいうものと解するのが相当である。これを本件発明についてみると、本件発明に係る特許請求の範囲の記載及び本件明細書(【0005】、【0006】、【0018】)の記載によれば、既知の物質である抗VEGF剤は、従来、全病変サイズの少なくとも50%を占めるクラシック主体型活動性中心窩下CNV領域を有するwAMD患者(pCNVwAMD患者)に有効なものとして認識されていたところ、本件発明は、一定の組入基準及び除外基準を満たす全病変サイズの50%未満の活動性CNV病変サイズを有するwAMD患者(sCNVwAMD患者。以下「本件特定患者群」ともいう。)において、pCNVwAMD患者よりも優れた治療効果を発揮するという抗VEGF剤の未知の性質の発見に基づき、本件特定患者群に投与することによって顕著な効果を有する新規な用途を創作したことを特徴とするものと認められる。そうすると、本件発明における特許法2条3項にいう「実施」とは、専ら本件特定患者群に投与するために、抗VEGF剤を生産、使用、譲渡等をする行為をいうものと解するのが相当である。・・・

 これを本件における債権者製品についてみると、前記前提事実によれば、債権者製品は、そもそも債務者製品のバイオ後続品であり、本件承認申請時に提出された債権者製品の添付文書案には、適応症として「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性」という記載があるにとどまり、【効能又は効果】及び【用法及び用量】の各欄においても、本件特定患者群に関する記載は一切認められず、本件特定患者群に投与することによって顕著な効果を有する趣旨をいう記載も一切認めることはできない。上記認定事実によれば、債権者製品は、本件発明の構成要件A2、B、Cによって規定される患者群(本件特定患者群)に投与するものとして承認申請がされているものとはいえない。そうすると、債権者が、本件承認申請とは異なる用途で債権者製品をあえて販売等する蓋然性が認められる特段の事情があれば格別、本件全疎明資料によっても、当該特段の事情を明らかに認めるに足りない。これらの事情の下においては、債権者による債権者製品の製造販売等は、専ら本件特定患者群に投与するために抗VEGF剤を生産、使用、譲渡等をする行為とはいえず、本件特許権を侵害するものと認めるに足りない。

のみならず、仮に債権者製品が結果的に一定割合の本件特定患者群に投与される可能性を理由として、債権者製品の製造販売等が本件特許権を侵害するという債務者の見解に立ったとしても、前記前提事実によれば、債権者製品は、債務者製品のバイオ後続品であって、債務者製品と同等性、同質性を有するものであり、かつ、債務者製品は、本件優先日よりも前の時点において製造販売されていたのであるから、債務者製品についても、債権者製品と同様に、一定割合の本件特定患者群に投与されていたものと認められる。そうすると、債務者製品の製造販売は、特許法29条1項2号にいう公然実施に該当し、本件特許が無効にされるべきものであることは、自明である。』

(原告)旭化成ファーマ株式会社

(被告)沢井製薬株式会社


 
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