【特許★★】損害賠償請求事件(出願時に知られていなかった課題であるが特許請求の範囲に属する「EGFaミミック抗体」を当業者が出願日当時に試行錯誤なく取得できなかったとして、サポート要件・実施可能要件違反とした事例)
-東京地判令和2年(ワ)8642【PCSK9に対する抗原結合タンパク質】第2次侵害訴訟<杉浦裁判長>-
【本判決の要旨、若干の考察】
1.特許請求の範囲(本件特許1の請求項1及び9、本件特許2の請求項1及び5)
(ア) 本件特許1
【請求項1】 PCSK9と LDLRタンパク質の結合を中和することができ、PCSK9との結合に関して、配列番号49のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号23のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する、単離されたモノクローナル抗体。
【請求項9】 請求項1に記載の単離されたモノクローナル抗体を含む、医薬組成物。
(以下、…「配列番号 49のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号23のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体」を「21B12抗体」という。)。
(イ) 本件特許2
【請求項1】 PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ、PCSK9との結合に関して、配列番号 67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体と競合する、単離されたモノクローナル抗体。
【請求項5】 請求項1に記載の単離されたモノクローナル抗体を含む、医薬組成物。
(以下、…「配列番号67のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖と、配列番号12のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖とを含む抗体」を「31H4抗体」といい、これと21B12抗体を併せて「参照抗体」ともいう。)。
2.判旨抜粋
2-1.EGFaミミック抗体を出願日当時に取得できなかったとしてサポート要件違反と判断した部分
『 (6) EGFaミミック抗体が本件発明に含まれること
EGFaミミック抗体とは、15個のPCSK9のコア残基の大部分を認識する結合中和抗体である…。また、本件発明における「中和」とは、PCSK9のLDLRタンパク質結合部位を直接封鎖することによって、PCSK9と LDLRタンパク質の間の相互作用を妨害し、遮断し、低下させ、又は調節することを含む意味である…。さらに、参照抗体との「競合」とは、参照抗体がPCSK9と結合する部位と同一又は重複する PCSK9上の部位に結合して、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻害する(例えば、低下させる)ことを含む意味である…。
結合部位対照表によれば、15個のPCSK9のコア残基の大部分を認識するEGFaミミック抗体は、参照抗体である 21B12抗体及び31H4抗体のいずれに対する関係でも、同各抗体が結合する PCSK9のコア残基と同一又は重複する部位に結合し、参照抗体の特異的結合を妨げ、又は阻害すると共に、LDLRタンパク質結合部位を直接封鎖して、PCSK9とLDLRタンパク質の間の相互作用を妨害等するものといえる。
したがって、EGFaミミック抗体は本件発明に含まれる。
(7) サポート要件違反及び実施可能要件違反の有無
…EGFaミミック抗体とは、15個の PCSK9のコア残基の大部分を認識する結合中和抗体である。本件明細書の記載によれば、参照抗体である21B12抗体はそのうち6個のアミノ酸残基を、31H4抗体はそのうち 3個のアミノ酸残基を認識するに過ぎないから…、参照抗体はいずれもEGFaミミック抗体ではない。また、結合部位対照表に記載されている本件明細書の各実施例抗体は、最大でも8個のアミノ酸残基を認識するにとどまるから(1A12抗体)、これらはいずれも EGFaミミック抗体とはいえない。他に本件明細書の各実施例抗体が EGFaミミック抗体であることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件明細書には、EGFaミミック抗体が取得できたことが記載されているとはいえない。
当業者が、本件明細書の記載に基づき、一連の手順を最初から繰り返し行うことによって、本件明細書に具体的に記載された参照抗体と競合する中和抗体(ビン 1に含まれる21B12抗体と競合する 15個の抗体、ビン 3に含まれる31H4抗体と競合する7個の抗体)以外に、参照抗体と競合する中和抗体を作製できると仮定しても、A教授の第2鑑定書…では、「特定のマウスが特定の抗体を生成するかどうかは運に支配されるため、候補となり得る抗体を全て生成しスクリーニングすることは不可能である」とされるところ、この点につき疑義を抱くべき合理的な事情は見当たらない。そうすると、本件明細書記載の抗体の作製過程を経たとしても、免疫化されたマウスの中で PCSK9のどの位置に結合する抗体が得られるかは「運に支配される」ものといえることになる。しかるに、EGFaミミック抗体を含め、特定の位置に結合する抗体を作製する方法が本件特許の出願時における技術常識であったことを認めるに足りる証拠はない。
これらの事情を踏まえると、本件明細書に記載された抗体の作製方法に関する記載をもって、本件明細書の発明の詳細な説明が、本件発明に含まれるEGFaミミック抗体を当業者が作製できるように記載されているということも、また、本件発明に含まれるEGFaミミック抗体が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているということもできない。
そもそも、原告は、本件特許の出願日から約4年後の 2012年(平成24年)に至っても、EGFaミミック抗体を取得できていないことを自認している上、EGFaミミック抗体を見つけることは一筋縄ではいかないだろうと述べている…。このように、EGFaミミック抗体は、特許権者が本件出願日の後にあっても取得できておらず、取得困難と認識している抗体である。
以上によれば、本件明細書には EGFaミミック抗体及びその具体的な作製方法は記載されておらず、当業者において、本件明細書の記載及び本件特許出願当時の技術常識によっては、これを作製できないものと認められる。
したがって、本件発明は、いずれも発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、また、発明の詳細な説明が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものともいえない。すなわち、本件特許は、サポート要件及び実施可能要件に違反し、特許無効審判により無効にされるべきものである。』
2-2.原告の主張を排斥した部分
『ウ 原告の主張について
(ア) 原告は、本件優先日又は出願日には、EGFaドメインを模倣する抗体という概念も、EGFaミミック抗体と称する抗体を取得しようという課題も存在せず、我が国の特許制度においては、出願時に存在しない課題について解決手段を提供することまでは求められていないから、出願時に課題として認識されたことのないEGFaミミック抗体が本件明細書に記載されていないとして、サポート要件及び実施可能要件違反とすることはできない旨を主張する。
しかし、原告の主張を前提としても、EGFaミミック抗体の作製という将来解決すべき課題及びその課題解決手段の構成について、本件明細書に記載されておらず、公開されたものといえないにもかかわらず、特許発明として保護することは、発明を公開した代償として特許権を付与するとの特許制度の趣旨・目的に適合せず、相当でない。特許権者である原告でさえも本件発明に含まれるEGFaミミック抗体を取得できない状況にあったことを踏まえると尚更である。』
2-3.訂正の再抗弁を排斥した部分
『本件特許は、本件発明にはEGFaミミック抗体が含まれると解されるところ、本件明細書に記載された抗体の作製方法に関する記載をもって、本件明細書の発明の詳細な説明が、本件発明に含まれるEGFaミミック抗体を当業者が作製できるように記載されているということも、また、本件発明に含まれるEGFaミミック抗体が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているということもできないことにより、サポート要件及び実施可能要件違反を理由として特許無効審判により無効にされるべきものと考えられるものである。このため、本件発明からEGFaミミック抗体が除外されない限り上記無効理由が解消されることはないところ、原告の訂正の再抗弁が前提とする本件無効理由1及び2はこれとは異なるものであり、本件再訂正の内容を見ても、本件発明からEGFaミミック抗体を除外するものとはいえない。
そもそも、被告製品に含まれるアリロクマブはEGFaミミック抗体である。これが本件再訂正発明の技術的範囲に属するとする原告の主張の趣旨に鑑みると、本件再訂正が本件発明からEGFaミミック抗体を除外する趣旨とも理解し得ない。
したがって、本件再訂正によってはサポート要件違反(及び実施可能要件違反)の無効理由は解消されておらず、訂正の再抗弁は成り立たない。』
2-4.第一次訴訟との関係について判示した部分
『本件において、被告は、EGFaミミック抗体に係るサポート要件及び実施可能要件違反の無効理由の主張に当たり、前訴及び別件審決取消訴訟では提出されなかった本件メール及び本件プレゼンテーション資料に主に依拠している。被告又はサノフィ社において、これらの証拠を前訴又は別件審決取消訴訟の事実審の口頭弁論終結日以前に提出できたことをうかがわせる具体的な事情はないことに鑑みると、この点に関する被告の主張をもって信義則に反して許されないとまではいえない。』
3.同じ結論(サポート要件違反)であった知財高裁判決(令和3年(行ケ)第10093号=令和3年(行ケ)第10094号<菅野裁判長>)
*一連の第一次訴訟では未検討であったメカニズムから主張
*効果のクレームアップでサポート要件を充たすという考え方を否定
*専門家意見書を重視
*「EGFaミミック抗体」について判断するまでもなくサポート要件違反とした。(特許権侵害訴訟である本判決と異なり、無効論のみが問題となる審決取消訴訟であるため、係争対象である被疑侵害物が「EGFaミミック抗体」であることに絡む判断は控えたものと考えられる。)
『…そもそも本件発明の課題は、…LDLRタンパク質と結合することにより、対象中のLDLRタンパク質の量を減少させ、LDLの量を増加させるPCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和する抗体又はこれを含む医薬組成物を提供することであり、このような課題の解決との関係では、参照抗体と競合すること自体に独自の意味を見出すことはできないから、このような観点からも…本件発明の技術的意義は、21B12抗体と競合する抗体であれば、21B12抗体と同様のメカニズムにより、結合中和抗体としての機能的特性を有することを特定した点にあるというべきである。…
被告は、…21B12抗体(参照抗体)と競合するが、PCSK9とLDLRタンパク質との結合を中和できない抗体が仮に存在したとしても、そのような抗体は、本件発明1の技術的範囲から文言上除外されているなどとして、本件発明がサポート要件に反する理由とはならない旨主張する。しかし、既に説示したとおり、21B12抗体と競合する抗体であれば、21B12抗体と同様のメカニズムにより、PCSK9とLDLRタンパク質との結合中和抗体としての機能的特性を有することを特定した点に本件発明の技術的意義があるというべきであって、21B12抗体と競合する抗体に結合中和性がないものが含まれるとすると、その技術的意義の前提が崩れることは明らかである(本件のような事例において、結合中和性のないものを文言上除けば足りると解すれば、抗体がPCSK9と結合する位置について、例えば、PCSK9の大部分などといった極めて広範な指定を行うことも許されることになり、特許請求の範囲を正当な根拠なく広範なものとすることを認めることになるから、相当でない。)。…
本件発明に係る別件審決取消訴訟においては…サノフィによるサポート要件違反に関する主張は退けられている。しかし、これは、当時の主張や立証の状況に鑑み、21B12抗体と競合する抗体は、21B12抗体とほぼ同一のPCSK9上の位置に結合し21B12抗体と同様の機能を有するものであることを当然の前提としたことによるものと理解することも可能である。これに対し、本訴においては、【A】博士や【B】博士の各供述書、【F】教授の鑑定書等…による構造解析、「EGFaミミック抗体」に係る関係書証…等の新証拠に基づく新主張により、上記前提に疑義が生じたにもかかわらず、この前提を支える判断材料が見当たらないのであるから、別件判決の結論と本件判断が異なることには相応の理由があるというべきである。…
以上によれば、本件発明1及び9は、いずれもサポート要件に適合するものと認められないから、これと異なる本件審決の判断は誤りである(なお、 原告の主張のうち…「EGFaミミック抗体」に係る点は首肯するに値するものを含み、サポート要件が満たされているとする被告の主張に疑義を生じさせるものと考えるが、この点に関する判断をするまでもなく、上記のとおり、本件発明1及び9は、いずれもサポート要件に適合するものとは認められないから、更なる判断を加えることは差し控えることとする。)。』
4.若干の考察
本判決は、一連の第一次訴訟(下掲)では争点とならず、令和3年(行ケ)10093、10094<菅野裁判長>では判断が控えられた、特許請求の範囲に属する「EGFaミミック抗体」を出願日当時に取得できなかったとして、サポート要件・実施可能要件違反と判断した。
第一次訴訟は原告がサノフィ日本法人であり、第一次訴訟後、本判決前の令和3年(行ケ)10093、10094は原告がリジェネロンであったため当事者が異なり形式的に蒸し返しが問題とならなかったが、本判決では原告がサノフィ日本法人であったため、蒸し返しというアムジェンの主張が判断され、「被告又はサノフィ社において、これらの証拠を前訴又は別件審決取消訴訟の事実審の口頭弁論終結日以前に提出できたことをうかがわせる具体的な事情はない」と判示した(※被告はサノフィ日本法人、「サノフィ社」はフランス法人である。)。無効審判請求人としては、記載要件違反についても、その時点で主張し得る事項はすべて主張すべきであるが、少なくとも本件では、維持審決が確定した後であっても、その時点では主張し得なかった技術的事項を専門家意見書とともに主張することで、記載要件違反の主張を”おかわり”出来た。(後出のとおり、第一次訴訟で特許権者(アムジェン)勝訴としてサノフィに対する差止を認容した知財高判平成31年(ネ)第10014号<高部裁判長>は、『特許発明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができることまで記載されている必要はない。また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に記載されているかどうかは,実施可能要件とは関係しないというべきである。』と判示した。このように、第一次訴訟においても特許発明の技術的範囲に「EGFaミミック抗体」が含まれることは議論の俎上に載っていた。)(実際に、第二次訴訟において記載要件違反と判断された事例が幾つか存在する。)
本件事案では、サノフィは、アムジェンの本件発明の発明者の一人が本件特許の優先日から約5年後に発信した「我々は、現在、EGFaミミック抗体を取得できていない、しかし、ファイザーは有しているから、それは可能なはずである〔(RN316)〕…EGFaミミック抗体は、我々が現在有する抗体の2つの一部重複するエピトープのちょうど中間に位置することから、EGFaミミック抗体を見つけることは一筋縄ではいかないだろう。」という『本件メール』、及び、アムジェンが『本件メール』と同時期に作成した「Missing Epitope…’(見つからないエピトープ)」との記載がある『本件プレゼンテーション』を証拠提出するに至り、本判決は、サノフィのサポート要件・実施可能要件違反の主張がこれらの資料に主に依拠していることを理由として、①出願時にクレームに含まれる発明の実施が当業者において困難であったことを認定するとともに、②信義則違反(蒸し返し)としなかったのであるから、如何にこれらの資料が結論に影響したかが分かる。したがって、特許権者としては、米国のディスカバリーも考慮すると、出願後に発明の技術的範囲に属する構成が実施が困難であると認識していることを示す資料を残すべきではないだろう。(サノフィがどのように『本件メール』及び『本件プレゼンテーション』を日本の裁判所に提出可能なように入手できたかも国際訴訟戦略上重要である。)
なお、『本件メール』及び『本件プレゼンテーション』を克服するロジックとして、「当業者であるファイザーが実施できているのだから当業者は過度の試行錯誤なく実施できた」という趣旨の主張が有り得たことを示唆する論稿がある(『2023.09.28「アムジェンv.サノフィ」東京地裁令和2年(ワ)8642―取得困難を自認した出願後の発明者のメール内容が実施可能要件及びサポート要件の判断に影響した事例―』、医薬系”特許的”判例ブログ)。https://www.tokkyoteki.com/2024/11/2023-09-28-r2-wa-8642.html
本判決は、本件明細書中の15個の実施例が何れも「EGFaミミック抗体」でないことを認定した。仮にその内の1つが「EGFaミミック抗体」であったならば全ての「EGFaミミック抗体」につきサポート要件・実施可能要件が満たされるのかは別論として、兎に角、すべての実施例ががサポート要件・実施可能要件違反をもたらす構成と異なることは、サポート要件・実施可能要件が否定される方向に働く重要なファクターである。その意味で、被告側としては、被告製品が実施例と異なることを足掛かりに、”仮に実施例がサポートされていても、被告製品までも含むならばサポート要件・実施可能要件違反”という主張を常に念頭に置くべきであろう。(本件でも、アムジェンが「EGFaミミック抗体」を除くクレームに訂正しなかったのは、被告製品が「EGFaミミック抗体」であるからである。)
サポート要件・実施可能要件の判断基準時は出願時(優先時)であるから、出願後に当業者が課題解決を認識できたとか、過度の試行錯誤なく製造可能になったとしても、サポート要件・実施可能要件違反は治癒しない。もっとも、本判決では、出願時(優先時)に「EGFaミミック抗体」に係る課題が認識されていなかったとか、出願時に当業者が認識しなかったものが特許請求の範囲に含まれることが”出願後に”判明したから出願時点ではサポート要件・実施可能要件を満たしていたという特許権者(アムジェン)の主張は斥けられた。このように、出願後同効材につき記載要件違反を問われるならば、均等論の活用も視野に入れた方がよいかもしれない。すなわち、出願時点ではクレーム文言を狭くしておいて、出願後に判明した出願後同効材に均等侵害を主張するときは、サポート要件も実施可能要件も問われない上に、容易推考性も行為時基準であるため、均等侵害が認められるチャンスがあるのである。その意味で、バイオやAI等の予測困難な技術分野においては、広いクレーム文言から始めて出願経過に応じて狭くするという出願上のセオリーとは別に、狭いクレームも最初から従属項に忍び込ませおき、均等論も念頭に置く出願・権利行使戦略が検討に値する。
なお、第一次訴訟で特許権者(アムジェン)勝訴としてサノフィに対する差止を認容した知財高判平成31年(ネ)第10014号<高部裁判長>は、『発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができることまで記載されている必要はない。また,本件各発明は,抗原上のどのアミノ酸を認識するかについては特定しない抗体の発明であるから,LDLRが認識するPCSK9上のアミノ酸の大部分を認識する特定の抗体(EGFaミミック)が発明の詳細な説明の記載から実施可能に記載されているかどうかは,実施可能要件とは関係しないというべきである。』と判示した。このように、第一次訴訟においても特許発明の技術的範囲に「EGFaミミック抗体」が含まれることは議論の俎上に載っていたが、結論を異にした。第一次訴訟と本判決との決定的な違いは、第一次訴訟は「特許発明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができることまで記載されている必要はない」という判断枠組みであったのに対し、本判決は「EGFaミミック抗体」を含む特許発明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができることまで記載されている必要があるという判断枠組みであったことである。
【第一次訴訟判決~何れも、サポート要件・実施可能要件○】
第一次訴訟の確定判決(東京地判平成29年(ワ)16468<柴田裁判長>=平成29年(行ケ)10225<大鷹裁判長>、平成31年(ネ)10014<高部裁判長>)の概要
前訴確定判決は、本件明細書中の記載を精査した上で、「前記2のとおり,本件各明細書の記載から,当業者は,本件各明細書の記載 のスクリーニング方法等を用いることによって,本件各明細書で開示された抗体以外にも,本件参照抗体と競合し,PCSK9とLDLRとの結合を中和する様々なPCSK9-LDLR結合中和抗体を得ることができると認識することができる。」と判示した
ここで、「前記2」とは機能的クレームの充足論に関する検討部分であるから、本判示は、機能的クレームの発明の技術的範囲が実施例に具体的に記載された構成以外に及ぶか否かという争点と、実施例に具体的に記載された構成以外がサポートされているか否かという争点とが、表裏一体の議論であり、検討事項が同じであることを意味している。本稿では省略するが、前訴確定判決によれば、実施可能要件との関係も表裏一体の議論である。
逆に、機能的クレームの発明の技術的範囲が実施例に具体的に記載された構成以外には及ばない場合(明細書に開示された発明に関する記述の内容から、当業者が実施例以外は実施し得えない場合)は、機能的クレームの発明の技術的範囲は実施例に限定され、その範囲でサポートされており、実施可能であるという意味で、やはり表裏一体である。
ところで、本件発明は、①参照抗体と競合する、②結合を中和できる抗体であるという機能・効果で特定された発明であるため、当該特性を有するあらゆる抗体を包含しており、優先日時点で発見されていない抗体まで含む、いわゆる「リーチスルークレーム」である。機能的クレームの充足論は、イ号抗体が明細書に開示された発明に関する記述の内容から当業者が実施し得る構成であれば発明の技術的範囲に含まれるというピンポイントの検討が可能であるが、他方、(機能的クレームに限らず)サポート要件は、発明の全範囲に亘って優先日当時の当業者が課題を解決できると認識できる必要があるため、単純に表裏一体の議論ではないという考え方も有り得るところである。他方、リーチスルークレームであることを理由に、異なる基準でサポート要件を判断するという学説・裁判例は見当たらず、優先日時点で発見されていない物も含めてサポートされているかという問題であろう。
この点について、同特許の維持審決に対する審決取消訴訟(平成29年(行ケ)第10225号<大鷹裁判長>)は、「…抗体の構造を特定することなく,機能ないし特性…のみによって定義された発明であるため,文言上ありとあらゆる構造の膨大な数ないし種類の抗体を含むものであるが,本件明細書に記載された具体的な抗体は…3種類の抗体しかなく,また,参照抗体と『競合する』抗体であれば,PCSK9とLDLRとが結合中和するとはいえ…ないから,本件明細書に記載されていないありとあらゆる構造の抗体についてまでも,本件明細書の記載から…課題を解決できると認識し得るものではない」という主張に対し、「動物免疫法によるモノクローナル抗体の作製プロセスでは,動物の体内で特定の抗原に特異的に反応する抗体が産生され,その免疫化動物を使用して作製したハイブリドーマをスクリーニングし,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特定されていくことは技術常識であるから,特定の結合特性を有する抗体を得るために,その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認められない。…また,参照抗体と『競合する』抗体であれば…結合を中和するものといえないとしても,本件訂正発明1は『…結合を中和することができ』る抗体であることを発明特定事項とするものであるから,…上記認定を左右するものではない。」と判示した。
同知財高裁判決は、明細書の開示及び技術常識によれば、特許発明に含まれる「構造の膨大な数ないし種類の抗体」は、すべてサポートされていると判断したものである。(なお、同知財高裁判決は、実施可能要件についても同様に判断している。)
ところで、「参照抗体と『競合する』抗体であれば,PCSK9とLDLRとが結合中和するとはいえ…ない」という無効審判請求人の主張は、如何に位置付けられるのであろうか。この点については、クレームアップされた効果の位置付けが問題となるところ、同知財高裁判決のように、「結合中和する」という効果がクレームアップされている以上、同効果を奏しない構成(本件発明でいえば、「結合中和」しない抗体)は特許発明から除外されている以上、サポート要件の検討対象外という、前訴確定判決と同様の考え方が多数であった。他方、後掲するとおり、①平成28年(行ケ)第10189号<鶴岡裁判長>「光学ガラス」事件は、課題がクレームアップされている場合は、クレームされた組成が同課題を高い蓋然性で満たすと認識できる必要があるとしており、②平成24年(行ケ)第10151号<芝田裁判長>「高強度高延性容器用鋼板」事件も同旨であった。課題・効果をクレームアップする発明においては、これら①及び②の裁判例(後掲)も念頭において実務に携わる必要がある。
知財高判平成31年(ネ)第10014号<高部裁判長>
『発明の詳細な説明の記載に,PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ,PCSK9との結合に関して,参照抗体1又は2と競合する,単離されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度の記載があれば,当業者は,その実施をすることが可能というべきであり,特許発明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができることまで記載されている必要はない。』
知財高判平成29年(行ケ)第10225号<大鷹裁判長>
『原告は,…請求項1…は,抗体の構造を特定することなく,機能ないし特性(「結合中和」及び「参照抗体との競合」)のみによって定義された発明であるため,文言上ありとあらゆる構造の膨大な数ないし種類の抗体を含むものであるが,本件明細書に記載された具体的抗体はわずか2グループないし2種類の抗体しかなく,また,参照抗体と「競合する」抗体であれば,PCSK9とLDLRとが結合中和するとはいえず,参照抗体と「競合する」抗体であることは,「結合中和」の指標にはならないから,本件明細書に記載されていないありとあらゆる構造の抗体についてまでも,本件明細書の記載から,PCSK9とLDLRとの結合中和抗体の提供という本件訂正発明1の課題を解決できると認識し得るものではないとして,本件訂正発明1及び5はサポート要件に適合しない旨主張する。
しかしながら,動物免疫法によるモノクローナル抗体の作製プロセスでは,動物の体内で特定の抗原に特異的に反応する抗体が産生され,その免疫化動物を使用して作製したハイブリドーマをスクリーニングし,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特定されていくことは技術常識であるから,特定の結合特性を有する抗体を得るために,その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認められない。
そして,…請求項1は,「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」,かつ,「PCSK9との結合に関して」,参照抗体(31H4抗体)と「競合する」ことを発明特定事項とするものであり,…当業者は,抗体のアミノ酸配列を参照しなくとも,本件明細書の記載から,…請求項1…に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得られるものと認識できるものと認められる。また,参照抗体と「競合する」抗体であれば,PCSK9とLDLRとの結合を中和するものといえないとしても,本件訂正発明1は「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ」る抗体であることを発明特定事項とするものであるから,そのことは,上記認定を左右するものではない。』
東京地判平成29年(ワ)第16468号<柴田裁判長>
(1)充足論(発明の技術的範囲)
本判決は、「…本件各明細書には、本件参照抗体と競合する,PCSK9-LDLR結合中和抗体を同定,取得するための,免疫プログラムの手順及びスケジュールに従った免疫化マウスの作製方法,ハイブリドーマの作製方法,スクリーニング方法及びエピトープビニングアッセイの方法等が記載されている。そして,当該方法によれば,本件各明細書で具体的に開示された以外の本件参照抗体と競合する抗体も得ることができるといえる。そうすると,本件各明細書の記載から当業者が実施可能な範囲が,本件各明細書記載の具体的な抗体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1若しくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限られるとはいえない。したがって,本件各明細書の記載から当業者が実施可能な範囲が本権各明細書記載の具体的な抗体又は当該抗体に対して特定のアミノ酸の1もしくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限られることを前提として,本件各発明の技術的範囲が本件各明細書記載の具体的な抗体又は当該抗体に対して特定の位置のアミノ酸の1若しくは数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する抗体に限定されるとの被告の主張は採用することができない。」と判示した。
⇒本判示は、機能的クレームの発明の技術的範囲論である。例えば、知財高判平成24年(ネ)第10094号「パソコン等の器具の盗難防止用連結具」事件は、「特許請求の範囲に記載された構成が機能的,抽象的な表現で記載されている場合…明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきである。ただし,このことは,発明の技術的範囲を明細書に記載された具体的な実施例に限定するものではなく,実施例としては記載されていなくても,明細書に開示された発明に関する記述の内容から当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が実施し得る構成であれば,その技術的範囲に含まれる」と、機能的クレームの一般的解釈規範を示している。
なお、過去に機能的クレームの侵害論が認容された裁判例は以下の3個であり、本件は4個目の認容事例である。
①東京地裁平成21年(ワ)第34337号「魚掴み器」事件<阿部裁判長>(控訴審判決無し)
②東京地裁平成24年(ワ)第3817号「端面加工装置」事件<長谷川裁判長>(控訴審・知財高判平成25年(ネ)10107号<設樂裁判長>も同旨。控訴棄却)
③東京地裁平成25年(ワ)第32665号「シートカッター」事件<長谷川裁判長>(控訴審・知財高判平成26年(ネ)10124号は、無効の抗弁を認めた。)
(2)サポート要件
本判決は、本件明細書中の記載を精査した上で、「前記2のとおり,本件各明細書の記載から,当業者は,本件各明細書の記載 のスクリーニング方法等を用いることによって,本件各明細書で開示された抗体以外にも,本件参照抗体と競合し,PCSK9とLDLRとの結合を中和する様々なPCSK9-LDLR結合中和抗体を得ることができると認識することができる。」と判示した
⇒ここで、「前記2」とは機能的クレームの充足論に関する検討部分であるから、本判示は、機能的クレームの発明の技術的範囲が実施例に具体的に記載された構成以外に及ぶか否かという争点と、実施例に具体的に記載された構成以外がサポートされているか否かという争点とが、表裏一体の議論であり、検討事項が同じであることを意味している。本稿では省略するが、本判決によれば、実施可能要件との関係も表裏一体の議論である。
逆に、機能的クレームの発明の技術的範囲が実施例に具体的に記載された構成以外には及ばない場合(明細書に開示された発明に関する記述の内容から、当業者が実施例以外は実施し得えない場合)は、機能的クレームの発明の技術的範囲は実施例に限定され、その範囲でサポートされており、実施可能であるという意味で、やはり表裏一体である。
ところで、本件発明は、①参照抗体と競合する、②結合を中和できる抗体であるという機能・効果で特定された発明であるため、当該特性を有するあらゆる抗体を包含しており、優先日時点で発見されていない抗体まで含む、いわゆる「リーチスルークレーム」である。機能的クレームの充足論は、イ号抗体が明細書に開示された発明に関する記述の内容から当業者が実施し得る構成であれば発明の技術的範囲に含まれるというピンポイントの検討が可能であるが、他方、(機能的クレームに限らず)サポート要件は、発明の全範囲に亘って優先日当時の当業者が課題を解決できると認識できる必要があるため、単純に表裏一体の議論ではないという考え方も有り得るところである。他方、リーチスルークレームであることを理由に、異なる基準でサポート要件を判断するという学説・裁判例は見当たらず、優先日時点で発見されていない物も含めてサポートされているかという問題であろう。
この点について、同特許の維持審決に対する審決取消訴訟(平成29年(行ケ)第10225号<大鷹裁判長>)は、「…抗体の構造を特定することなく,機能ないし特性…のみによって定義された発明であるため,文言上ありとあらゆる構造の膨大な数ないし種類の抗体を含むものであるが,本件明細書に記載された具体的な抗体は…3種類の抗体しかなく,また,参照抗体と『競合する』抗体であれば,PCSK9とLDLRとが結合中和するとはいえ…ないから,本件明細書に記載されていないありとあらゆる構造の抗体についてまでも,本件明細書の記載から…課題を解決できると認識し得るものではない」という主張に対し、「動物免疫法によるモノクローナル抗体の作製プロセスでは,動物の体内で特定の抗原に特異的に反応する抗体が産生され,その免疫化動物を使用して作製したハイブリドーマをスクリーニングし,特定の結合特性を有する抗体を同定する過程において,アミノ酸配列が特定されていくことは技術常識であるから,特定の結合特性を有する抗体を得るために,その抗体の構造(アミノ酸配列)をあらかじめ特定することが必須であるとは認められない。…また,参照抗体と『競合する』抗体であれば…結合を中和するものといえないとしても,本件訂正発明1は『…結合を中和することができ』る抗体であることを発明特定事項とするものであるから,…上記認定を左右するものではない。」と判示した。
同知財高裁判決は、明細書の開示及び技術常識によれば、特許発明に含まれる「構造の膨大な数ないし種類の抗体」は、すべてサポートされていると判断したものである。(なお、同知財高裁判決は、実施可能要件についても同様に判断している。)
ところで、「参照抗体と『競合する』抗体であれば,PCSK9とLDLRとが結合中和するとはいえ…ない」という無効審判請求人の主張は、如何に位置付けられるのであろうか。この点については、クレームアップされた効果の位置付けが問題となるところ、同知財高裁判決のように、「結合中和する」という効果がクレームアップされている以上、同効果を奏しない構成(本件発明でいえば、「結合中和」しない抗体)は特許発明から除外されている以上、サポート要件の検討対象外という本判決と同様の考え方が多数であると思われる。他方、後掲するとおり、①平成28年(行ケ)第10189号<鶴岡裁判長>「光学ガラス」事件は、課題がクレームアップされている場合は、クレームされた組成が同課題を高い蓋然性で満たすと認識できる必要があるとしており、②平成24年(行ケ)第10151号<芝田裁判長>「高強度高延性容器用鋼板」事件も同旨であった。課題・効果をクレームアップする発明においては、これら①及び②の裁判例(後掲)も念頭において実務に携わる必要がある。
(3)進歩性
本判決は、「…被告は,本件各明細書によれば,本件参照抗体と競合するか否かを何ら指標とすることなく,PCSK9-LDLR結合中和抗体を複数作製したところ,そのような抗体の多くが本件参照抗体と競合するものであったこと,…PCSK9-LDLR結合中和抗体を取得した場合,その中には本件参照抗体と競合する抗体が多く含まれており,少なくとも所定の割合で含まれているから,当業者は,何らかのPCSK9-LDLR結合中和抗体をいくつか作製するだけで,本件参照抗体と競合する結合中和抗体を取得し得たこと,本件参照抗体と競合する抗体がPCSK9-LDLR結合中和抗体であることは限らないことから,21B12参照抗体又は31H4抗体と競合するとの発明特定事項は本件各発明に進歩性を付与するものではないことを主張する。…しかし,…本件優先日当時,当業者が,本件各明細書に記載されているのと同様の方法を用いて本件各明細書に記載されているPCSK9-LDLR結合中和抗体を作製することができたことを認めるに足りる証拠はない。また,…本件優先日当時,当業者が本件参照抗体を容易に作製することができたとも認められない。被告が指摘する本件各明細書の記載をもって,本件参照抗体と競合するとの発明特定事項が本件各発明に進歩性を付与するものではないと認めることはできない。」と判示した。
⇒本判示は、優先権当時に作製できた抗体が、結果的には本件参照抗体と競合するものであったとしても、優先権当時に本件参照抗体を容易に作製できなかった以上、進歩性は否定されないと判断したものである。
このような考え方は、知財高判大合議平成28年(行ケ)第10182号「ピリミジン誘導体」事件が、「『刊行物に記載された発明』については,当業者が,出願時の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。」として、引用「発明」の適格性を厳格に捉えたことと通ずるものである。
もっとも、このような考え方を貫徹すると、従来技術から具体的な技術的思想を抽出することができない場合、当該従来技術と同一の物が特許発明の技術的範囲に属することとなる。そのような物に対する特許権の行使を認めるべきか否かについては議論が収束しておらず、この点を判断した裁判例も存在しない。筆者は、この論点について、知財高判平成29年(行ケ)第10121号「はんだ合金事件」<森裁判長>について取り扱った特許ニュース平成30年12月10日号において、従来技術を(一部)含む特許発明の新規性・進歩性が認められた裁判例、及び、自由技術の抗弁に関する裁判例・学説を整理したため、再掲する。
なお、同特許の維持審決に対する審決取消訴訟(平成29年(行ケ)第10225号<大鷹裁判長>)は、「…免疫化プログラムの条件及びスケジュールを最適化し,参照抗体を得るのに適した免疫化マウスを作製するには,通常期待し得る範囲を超えた試行錯誤を要する」ことを、参照抗体を得ることを容易に想到することができなかったことの理由として指摘している。
このことは、優先日当時は過度の試行錯誤を要したことから進歩性が認められる発明が、明細書の開示により、過度の試行錯誤を要することなく実施可能となり、実施可能要件を満たすという関係にあることを示している。
以 上
(原告)アムジエン・インコーポレーテツド
(被告)サノフィ株式会社
執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)(特許ニュース令和7年3月14日の原稿を追記・修正したものです。)
監修:吉田和彦(弁護士・弁理士)
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