Q92 意匠権侵害と損害賠償
(1)令和元年改正以前は、意匠法39条1項により「実施の能力」を超えるとして、また、「販売することができないとする事情」に相当するとして控除された部分について、重畳的に同3項に基づく実施料相当額を請求できるかという点につき否定的な裁判例が主流でしたが、同改正により、「実施の能力」を超える数量、「販売することができないとする事情」に相当する数量に応じた実施料相当額を請求できることが明文化されました。なお、同改正法は1項のみを改正しましたが、2項についても同様に、推定覆滅部分に対し3項の重畳適用が認められるのではないかと言われています。
なお、令和元年改正により意匠法39条4項が新設され、いわゆる侵害プレミアムが明文化されました。これにより、侵害訴訟において認められる同3項に基づく実施料相当額は、業界相場よりも高額となります。
損害「額」の推定規定については、特許権侵害及び商標権侵害についても同様の改正がなされましたが、著作権侵害及び不正競争防止法違反では改正がなされませんでした。
なお、特許権侵害、意匠権侵害、商標権侵害は「過失」が推定されますが、著作権侵害、不正競争防止法違反では「過失」が推定されません。
(2)部分意匠であっても、意匠法39条1~3項による損害「額」推定の計算式は、全体意匠と同じですが、「販売することができないとする事情」として控除される割合が大きくなり、寄与度ないしこれに類する考え方により控除ないし推定覆滅される割合が大きくなる結果、全体意匠と比較して損害額が少なくなる傾向はあります。もっとも、部分意匠であっても、当該部分が被告製品の主要部であり、需要者も当該部分に着目して購入することを理由として、部分意匠の寄与度を100%と判断した裁判例もあります。
(3)大きなビルの建築物の意匠権を侵害した場合であっても、意匠法39条1~3項による損害「額」推定の計算式自体は同じですが、「実施の能力」、「販売することができないとする事情」、寄与度ないしこれに類する考え方により控除ないし推定覆滅される割合が大きくなることが想定されます。
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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