知財高判平成29年(行ケ)第10121号
「はんだ合金」事件<森裁判長>
従属項が進歩性×であったが、引用例の「必須成分」を「任意成分」とすることは容易想到でないとして、独立項が進歩性〇と判断された事例です。
請求項1は含有成分としてニッケルが言及されていない「はんだ合金」であり、請求項2は、「さらに,ニッケル,インジウム,ガリウム,ゲルマニウムおよびリンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含有し,・・・」という従属項でした。
本判決は、審決と同様に、請求項1の発明(本件発明1)と主引用発明との相違点として「本件発明1では,任意成分として,ニッケルを0質量%超~1質量%以下の範囲で含むことを許容するものであるのに対し,引用発明1では,Ni:0.04質量%を必須成分として含有する点。」を認定した上で、「引用発明1及び4におけるニッケルは,…クラックの発生を抑制するとともに,一旦発生したクラックの伝播を抑制するという,引用発明の課題解決のために不可欠な技術的意義を有する必須の成分とされているものである。それに対して,本件発明1においては,ニッケルは任意成分にすぎない。したがって,両者の技術的意義が相違する」から実質的な相違点であると認定した上で、「任意成分とする動機付けは存在しない。」として、請求項1の進歩性を認めました。
⇒本判決の論理を一般化すれば、引用発明の課題を解決するための必須成分について、当該成分が必須でない異なる課題を立てた発明を出願して、当該成分をクレームアップしないでこれを任意成分であると主張すれば新規性・進歩性が認められることとなってしまうのではないかという疑問があります。(これは、合金の分野に限らない問題であろうと思われます。)
他方、本判決は、請求項2はニッケルが任意成分でないとして、進歩性を否定しました。(ただし、当事者も請求項2で上記相違点を主張していませんでした。)
⇒請求項2においてもニッケルは任意成分ではないかと思いますが、仮にその点を措いても、請求項1の結論と対比すると、任意成分とした広いクレームの進歩性が〇、必須成分とした狭いクレームの進歩性が×という結論に違和感を感じる実務家も多いと思われます。
※請求項1もニッケルを含有するはんだ合金を排除していないところ、ニッケルを引用文献と同じ程度に含有するイ号製品に対し権利行使できるのか?
筆者は、「自由技術の抗弁」が復権すると考えており、ブログ記事では裁判例に基づいて詳解しています。
《請求項1及び2》
【請求項1】 実質的に,スズ,銀,銅,ビスマス,アンチモンおよびコバルトからなるはんだ合金であって,前記はんだ合金の総量に対して,前記銀の含有割合が,2質量%以上4質量%以下であり,前記銅の含有割合が,0.3質量%以上1質量%以下であり,前記ビスマスの含有割合が,4.8質量%を超過し10質量%以下であり,前記アンチモンの含有割合が,3質量%以上10質量%以下であり,前記コバルトの含有割合が,0.001質量%以上0.3質量%以下であり,前記スズの含有割合が,残余の割合であることを特徴とする,はんだ合金。
【請求項2】 さらに,ニッケル,インジウム,ガリウム,ゲルマニウムおよびリンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含有し,はんだ合金の総量に対して,前記元素の含有割合が,0質量%超過し1質量%以下である,請求項1に記載のはんだ合金。
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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