平成27年11月24日(平成27年(行ケ)第10017号)(知財高裁2部、清水裁判長)
拒絶審決は実施可能要件及びサポート要件違反と判断したが、知財高裁は各要件を認めた。(もっとも、審決の進歩性欠如の判断は維持されたため、審決は維持された。)
実施可能要件については、証拠を参照して、「様々な治具等によって空間内の特定の位置に固定されることは,技術常識」「間隔の精度をどの程度とするかは,各分離ディスクの固定手段により適宜調整可能」とした。
サポート要件については、発明の詳細な説明から発明の課題を認定した上で、「間隔保持部材の有無は,上記各課題の解決には関連しないのであるから,間隔保持部材がない構成が記載されていないと解することはできない」とした。
実施可能要件については、出願時に当業者が実施できたことを裏付ける「技術常識」、及び、明細書に明記されていない要素が「適宜調整可能であること」を示す証拠資料を、審決取消訴訟段階においても、改めて調査し、提出することが有用である。
サポート要件の適否基準は、「発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」である(平成23年(行ケ)第10147号等)。この観点から、本判決も示しているとおり、本願発明の「課題」を位置付けが重要である。
なお、本判決は、実施可能要件とサポート要件とを峻別してあてはめている。従前は両要件を表裏一体と考える裁判例も散見されたが、フリバンセリン事件(平成21年(行ケ)第10033号)以降、近時の裁判例においては、両要件を峻別する考えが主流である。
(1) 特許法36条4項1号について
…複数の部材を相互にはんだ付け又は溶接により接合する場合に,当該複数の部材は,一定の時間相互に近接保持される必要があるが,様々な治具等によって空間内の特定の位置に固定されることは,技術常識といえる。例えば,従来,?フルフェイスホイール用リムとディスクを溶接する際に,治具によって両者を仮固定する(甲12の1),?動圧軸受を構成するシャフトとスラストプレートとを溶接する際に,両者を調芯用治具に仮固定する(甲12の2),?電動機ロータと支持ディスクとを溶接を含む手段で接合する際に,組立て治具により両者を仮固定する(甲12の3),?ベースとフィールドスルーとを,はんだプリフォームによりはんだ付けする際に,テフロン製治具で両者を仮固定する(甲12の4)ことが開示されており,このことは,本件発明のように,多数の分離ディスクが含まれる場合も同様である。そして,当業者にとって,各分離ディスクの間隔をどの程度とするか,また,その間隔の精度をどの程度とするかは,各分離ディスクの固定手段により適宜調整可能なことである。
(2) 特許法36条6項1号について
…本願発明は,分離ディスクの凹部内に配置されている封止部材による摩耗などに起因するディスク強度の問題や…,これを回避するためねじ接続を採用し,さらに,分離ディスクを圧縮する構成によった場合の各分離ディスクの対称性や相互の位置合わせへの悪影響といった問題…を解消するために,金属製のディスクをはんだ付け又は溶接によって接合するという構成を採用したものであるところ,間隔保持部材の有無は,上記各課題の解決には関連しないのであるから,間隔保持部材がない構成が記載されていないと解することはできない。…
被告は,遠心分離機においては遠心分離を受ける液体用に分離室を多くの薄い流動空間に分け,分離ディスク間の隔離部材(間隔保持部材)を配置することが一般的であり,適切に遠心分離を行うために分離ディスク間の薄い流動空間を正確に形成する必要があることは明らかである,と主張する。しかしながら,被告の摘示する特表平11-506385号公報(甲2)には,間隔保持部材を機能させる場合,すなわち,間隔保持部材が必要な場合には,分離ディスクに固定するとの記載しかなく,間隔保持部材が必須ということは読み取れないし,他にこの点を認めるに足る証拠もない。
(Keywords)36条、実施可能要件、サポート要件、アルファ、ラヴァル
文責:弁護士・弁理士 高石 秀樹(第二東京弁護士会)
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中村合同特許法律事務所