平成28年1月13日(平成27年(行ケ)第10096号)(知財高裁2部、清水裁判長)
本件は、本件商標に対する無効審判請求の無効成立部分に対する取消訴訟である。原告(商標権者)は、被告が無効審判請求(商標法4条1項11号等)の根拠とした引用商標(11号該当性)について、平成25年9月17日に不使用取消審判を請求したところ、引用商標の不使用が認められ、引用商標は審判の予告登録日(同年10月7日)に遡って消滅した。これにより、当該引用商標は、本件商標の登録査定時(同年9月25日)には存在していたが、設定登録時(同年10月11日)には消滅していたこととなり、審決は引用商標の指定商品と抵触する指定役務について本件商標を無効とした。
そこで原告は、このような特殊な場合には無効理由の判断基準時を設定登録時とすべきと主張した。
しかし裁判所は、最三小平成16年6月8日判決を引用し、このような事情があっても、商標法4条1項各号該当性の判断基準時は、原則どおり登録査定時である、と判断した。
本判決が引用する最三小平成16年6月8日判決(裁判集民事214号373頁)は、商標法4条1項各号該当性を判断する基準時を原則として商標登録査定又は拒絶査定時(拒絶査定に対する審判が請求された場合には、これに対する審決の時)であることを明確にした重要な判決である。同判例は商標法4条1項8号について判断したが、本判決は実務上最も頻繁に用いられる11号について判断していること、商標登録取消審判請求制度趣旨にも触れつつ、商標登録査定又は拒絶査定時を基準時とした理由についても言及した点で、参考になる。
★同最高裁の詳細な説明として、吉田和彦「民事判例研究第2回「他人の氏名等を含む商標の登録に必要な承諾の存在時期」」「法律のひろば」67頁2005年6月号(ぎょうせい2005年)
★同最高裁判例の判例評釈として、高部眞規子判タ主要民事判例解説1184号172頁臨時増刊号、長谷川浩二「重要判例解説」L&T26号73頁,平尾正樹「判批」判評554号25頁(判時1882号189頁),横山久芳「判批」平16重判解(ジュリ1291号)270頁
★商標法4条1項各号該当性の判断基準時に関して、(小野昌延編・注解商標法254頁〔工藤莞司〕,特許庁編・工業所有権法逐条解説〔第16版〕1069頁,東京高判平1.6.27判時1329号176頁)
原告は,上記事実経過から,本件は,本件商標の登録査定時には引用商標が存在していたが,本件商標の設定登録時には引用商標が消滅していたという特殊な場合であり,その不都合を回避する必要があるから,本件商標の設定登録時をその無効理由の判断基準時とすべきである,と主張する。
しかし,商標法4条1項各号所定の商標登録を受けることができない商標に当たるかどうかを判断する基準時は,原則として登録査定時である(最三小平成16年6月8日判決,裁判集民事214号373頁)ところ,同条1項11号に関しては,当該商標の登録出願前に出願された他人の登録商標又はこれに類似する商標と対比しつつその商標登録の可否を検討し,拒絶の理由を発見しないときは商標登録をすべき旨の査定をしなければならない(商標法16条)のであるから,同条3項の適用を受けることなく,当該登録査定時をもって上記判断基準時と解すべきものである。
原告は,本件商標の登録査定後に引用商標の不使用を理由とする商標登録取消審判請求の予告登録がなされ,その後に本件商標の商標登録が行われ,当該審判請求に基づいて引用商標の商標登録が取り消されたことから,本件商標の商標登録の可否は当該登録の設定時を基準として判断すべきであるとする。しかし,仮にこの主張を認めるとすると,商標登録取消審決に基づく商標登録取消しの効果を商標登録取消審判請求の予告登録より以前に遡らせることと同様となり,商標登録取消審決が確定したときは,当該商標権が審判請求の登録の日に消滅したものとみなす旨の規定(商標法54条2項)の趣旨に反することとなるから,相当ではない。
(Keywords)商標、商標法4条1項11号 不登録事由の判断基準時 登録査定時 設定登録時
◆判決本文
文責:弁護士・弁理士 外村 玲子(第二東京弁護士会)
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中村合同特許法律事務所
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