平成27年11月13日(平成27年(ワ)第27号)(東京地裁40部、東海林裁判長)
株式会社ディーエイチシー(原告)が、台湾DHCからバッテリーテスターを輸入して、「DHC-DS」という標章を附して販売していた被告に対し当該標章の使用中止を求めて交渉していたが暗礁に乗り上げたため、「DHC-DS」の標準文字につき,指定役務にわざわざバッテリーテスターを含めた上で原告商標として出願し,その登録を得ると直ちにこれを被告に対して行使した事案において、権利濫用として請求が棄却された事例。
原告は、青色の横長長方形内に「DHC」の欧文字を白抜きで表して成る商標権を有していたが、被告が提起した当該商標の指定役務中第35類(電気磁気測定器を含む)を対象とする不使用取消審判を全部認容する旨の審決がなされたため、交渉が暗礁に乗り上げたという経緯がある。
(被告標章)
商標権の行使が権利濫用とされたリーディングケースは、最高裁平成2年7月20日判決(民集44・5・876、判時1356・132)〔POPEYE商標事件〕である。近時の下級審では、大阪地判平成25年(ワ)第7840号〔メロン熊商標事件〕がある。
同論点については、知的財産法の理論と実務第3巻―商標法・不正競争防止法―「10 商標権の行使と権利の濫用」(高部眞規子)(新日本法規出版)が参考になる。
台湾DHC(執筆者注:訴外であり、被告の輸入元)はその設立から30年近くを経た会社であり,諸外国で「DHC」の商標権を取得している上,バッテリーテスター等について相当な製造実績を有している。そして,被告はこの台湾DHCからバッテリーテスター等を輸入・販売しており,現在に至るまで台数にして…,金額にして…規模の販売実績を有しているものである。
また,被告は,その使用する標章をめぐって原告と交渉する中で,「DHC JAPAN」との標章の使用をやめて「DHC-DS」という標章を使用し始めたものであって,被告も原告の利益に一定程度の配慮をしていることがうかがわれ,この点に特段の背信性等があるともいい難い。
そして,被告が使用し始めた「DHC-DS」との標章(被告各標章)についてみても,「DHC」との部分のみならず「DS」という部分も造語であって(被告は「大作商事(だいさくしょうじ)」の「だ」と「し」の頭文字であると説明する。),この部分だけが特定の観念を有するものでもないし,文字の大きさも「DS」の部分は「DHC」の部分と同じかやや小さい程度にとどまるのであって,被告各標章全体をみても,「DHC」の部分のみが著しく強調されているというわけでもない。
他方で,原告は…「電気磁気測定器の小売」を行ったことはなく,ましてやバッテリーテスターの製造・販売を行ったこともない。しかるに,原告は,被告の使用する標章をめぐって交渉を積み重ねている中で,被告が譲歩を示して,当初原告から商標権の侵害であるとして使用の中止を求められた「DHC JAPAN」を「DHC-DS」という標章に変更してこれを使用していることを十分認識しながら,被告との交渉が条件が折り合わず暗礁に乗り上げたとみるや,自らの標章につき不使用取消審判を受けているにもかかわらず,あえて被告の使用していた「DHC-DS」の文字につき,指定役務にわざわざバッテリーテスターを含めた上で,原告商標として出願し,その登録を得ると,直ちにこれを被告に対して行使したことが認められる。
以上の諸事情に照らせば,原告が,被告に対し,原告商標権に基づいて被告各標章の使用の差止めを求めるとともに,被告各標章を付した商品の廃棄等を求めることは,権利の濫用に当たり,許されないものといわざるを得ない。
(Keywords)商標、権利濫用、DHC、バッテリーテスター、台湾、大作商事
文責:弁護士・弁理士 高石 秀樹(第二東京弁護士会)
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中村合同特許法律事務所