平成31年(行ケ)第10019号「L–グルタミン酸生産菌」事件<森>
引用文献中に記載されたデータの理解につき、執筆者自身が引用文献中で述べた考察を重視した。⇒進歩性〇
⇒引用文献の執筆者の考察は補強材料として有用であろう。
引用文献中の全ての開示を要確認。
本判決の事案では、データに関する執筆者の考察が引用文献中に記載されていたが、仮にそうではなく、データに関する執筆者の考察が別の文献中に当該データを引用しつつ記載されていた場合であっても、同様の議論が妥当すると思われる。
<本裁判例の解説>
本判決の事案では、進歩性判断において、公知文献(甲8)に記載されたデータから、当業者が如何なる技術思想を読み取れるか、「引用発明の認定」が争点となった。
無効審判請求人は、「甲8のTable 1.は,担体系とは別に,浸透圧調節チャネルという新たな排出経路を実験的に明らかにした」という甲8文献の開示事項を前提として、「甲8の時点において,担体系(特定の溶質分子を結合して一連の構造変化を行って細胞膜を通過させるタンパク質である担体による排出を指す。)によるコリネバクテリウム・グルタミカムからのグルタミン酸の排出が提唱されていたが,甲8のTable 1.は,担体系とは別に,浸透圧調節チャネルという新たな排出経路を実験的に明らかにしたから,甲8に接した当業者は,この浸透圧調節チャネルを排出経路として利用するよう動機付けられたはずである。」と主張した。
しかしながら、本判決は、引用文献(甲8文献)に記載されたデータの理解について、「グルタミン酸の排出については,浸透圧調節チャネルではなく,担体による排出である」という、甲8文献中において執筆者自身が述べた考察を重視して、甲8文献の開示に係る無効審判請求人による真逆の主張を否定し、進歩性を認めた審決を維持した。
本判決の事案では、引用文献中に執筆者の考察が記載されていたが、仮にそうではなく、別の文献中に執筆者の考察が記載されていたケースも同様の議論が妥当すると思われるし、更に言えば、当該別の文献が対象特許の優先日後に公開されたものであっても、同様の議論が妥当するから、引用文献の執筆者の文献は補強材料として有用であると思われる。
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※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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