平成25年(ネ)10017, 平成25年(ネ)10041【オープン式発酵処理装置】
<102条1項但書>
本件発明の特徴的部分は「V字型掬い上げ部材」のみ
多数本のパドルのうち,数本にすぎない
原価わずか
被告のパンフレット、原告HP及び製品カタログにおいて,形状を示す記載なし
<推定覆滅事由>102条1項但書:原告が原告製品を販売することができないとする事情
本件発明は改良発明であって,発明を基礎付ける特徴的部分は「V字型掬い上げ部材」のみ。それ以外のオープン式発酵装置の構成は進歩性欠如。
当該「V字型掬い上げ部材」は,多数本の長杆からなるパドルのうち,長尺開放側面側に位置する該回転軸の外端から1本ないし数本のパドルについて用いられるものにすぎない。
当該「V字型掬い上げ部材」の原価は,オープン式発酵装置の原価に比して,ごくわずかである。
被告のパンフレット、原告HP及び製品カタログにおいて,当該「V字型掬い上げ部材」の形状を示す記載はなく,同形状は需要者に対する購入動機として寄与していない。
当該「V字型掬い上げ部材」は、技術的には重要である。
各社の設計から、当該「V字型掬い上げ部材」の形状の採用は,オープン式の発酵槽を採用したことに伴う,必須の改良事項であったものと推測できる。
(判旨抜粋)
覆滅事由
本件訂正発明2は,本件発明1の改良発明であって,発明を基礎付ける特徴的部分は,V字型掬い上げ部材であり,それ以外のオープン式発酵装置の構成については,前記のとおり,本件発明1がKS7-12発明との対比において進歩性を欠き無効とされる以上,進歩性を有するものでないことからすれば,かかる事情は,特許法102条1項ただし書の「販売することができないとする事情」として考慮すべきものである。
本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材に係る構成以外の構成については,進歩性を有するものではなく,発明を基礎づける特徴的部分は,当該掬い上げ部材に限局されており,しかも,当該掬い上げ部材は,回転軸の周面にその軸方向に配設された多数本の長杆からなるパドルのうち,長尺開放側面側に位置する該回転軸の外端から少なくとも1本ないし数本のパドルについて用いられるものにすぎない。さらに,掬い上げ部材に関する原価は,オープン式発酵装置の原価に比して,ごくわずかであることは明らかである。被告のパンフレット(甲5)原告日環エンジニアリングのホームページ(乙12の1~3,68),製品カタログ(甲15)において,長尺開放側面への堆積物の拡散を防げるような掬い上げ部材を採用したことが特徴であることを示す記載はなく,需要者に対する購入動機として,掬い上げ部材の形状が大きく寄与したということはできない。
しかし,前記において述べたとおり,本件訂正発明2は,堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどを防いで,床面を走行する台車の車輪の軌道上に堆肥が達し,円滑な走行を阻害し,その外方へ崩れた拡散分を人手によりスコップなどで掬い上げ,堆積物の頂面へ積み上げる面倒な作業を要するなどの不都合を解消できるという効果を奏するものである。そのための構成として,長尺開放側面側に位置する該回転軸の外端から少なくとも1本ないし数本のパドルについて,本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材を採用したもので,オープン式発酵装置が,平行する長尺壁を設けその長尺壁間に被処理物を投入堆積させるピット式発酵槽を採用せず,一方を長尺壁とし,他方を長尺開放側面としたことにより,攪拌機の往復動に伴って長尺開放側側面に堆積物が拡散することになるのは必然であることからすれば,本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材は,これを防ぐための構成として重要なものである。そして,現に,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告日環エンジニアリングが製造し,荏原製作所に販売し,同社によって 所在の「堆肥センター」に納入設置された「オープン式KS5-H1200型混合機」(本件混合機)について,平成12年3月ころに納入後の試運転が行われたが,それから間もない同年5月8日に三角爪(V字型掬い上げ部材)と無償での交換がなされていること(甲12の7,乙15,16),被告が鈴木建設に販売したロ号装置においても,増田牧場に納入した分については,納入後2か月以内に無償で掬い上げ部材105dへと交換がなされ,その後の大木牧場への納入の際には,当初から掬い上げ部材105dが装着されていたこと(甲6,7,乙66),本件特許2の実施品としては,上記に認定した原告日環エンジニアリングが本件独占的実施権2に基づいて製作した3件に限られず,「エコ・マックスせんだい」, 所在の堆肥製造施設, 所在の「おおえ朝日堆肥センター」, 所在の「浪江町共同有機堆肥センター」, 所在の「鮭川村堆肥センター」, 所在の「なかよしゆうきセンター」に納品設置されたオープン式発酵装置においても,V字型掬い上げ部材が用いられたこと(甲32~38,57,61),及び本件訂正明細書2に記載された本件訂正発明2の開発動機,経緯を考慮すると,本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材の採用は,オープン式の発酵槽を採用したことに伴う,必須の改良事項であったものと推測できる。
以上の事情を総合考慮すれば,ロ号装置の販売数量の80%については,原告日環エンジニアリングが販売することができないとする事情があったと認めるのが相当である。
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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