平成23年(行ケ)10364【…比出力が高い電動モータ】
*複数の部材から成る発明の実施可能要件は、構成する部材ごとに検討すべき(商事法務「特許審決取消訴訟の分析」P91)
*作用効果・発明以外は、些か不明瞭でも実施可能要件〇
*上限値が特定されていないが実施可能要件〇
*複数の部材から成る本願発明の実施可能要件は、本願発明を構成する部材ごとに実施可能要件を検討すべきである。(※商事法務「特許審決取消訴訟の分析」の分析。同書P91)
(判旨抜粋)
【請求項】 ポリマー材料で作製されて固定子を含むモータ・ハウジングを備えた流体冷却式電動モータであって…熱伝導性で電気絶縁性の充填剤を少なくとも40重量%の量で含有することを特徴とする電動モータ
本願発明は…物の発明であるが,その特許請求の範囲に記載の構成を備えた電動モータであるから,本願発明が実施可能であるというためには,本願明細書の発明の詳細な説明に本願発明を構成する部材を製造する方法についての具体的な記載があるか,あるいはそのような記載がなくても,本願明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に基づき当業者が当該部材を製造することができる必要があるというべきである。
…本願明細書【0006】の記載部分は,本願発明の作用効果について言及しているにすぎないものであって,本願発明の実施方法について言及しているものではないから,仮に当該部分が明瞭でないとしても,そのことは,当業者が本願発明を構成する部材のうち,特に当該記載部分と関係する「ポリマー材料」及びこれに関連する部材を製造することを不可能ならしめるものではない。…
…被告は,本願発明の構成では充填剤の充填量が100重量%近くの場合も含まれる結果,モータ・ハウジングをどのようにして形成するのかを当業者が容易に実施し得ない旨を主張する。しかしながら,本願明細書の記載…及び図1によれば,本願発明の「モータ・ハウジング」は,ポンプ及び電動マイクロモータ等を備える構造的な部材であることが明らかであって,「流体によって冷却される,比出力が高い電動モータ」として使用可能な程度に強度等を備えていることは,当然の前提であるというべきであって,モータ・ハウジングを構成する「ポリマー材料」について,充填剤が100重量%近くとなり,主たる成分であるデュロマーをほとんど含まない材料を使用することは,それ自体,想定することが不合理な前提である。したがって,被告の上記主張は,それ自体不合理なものとして採用できない。
また,被告は,本願発明の「ポリマー材料」となるデュロマー(液体エポキシ樹脂)の物性や充填剤(Al2O3の細粉)の熱伝導性が一義的に決まらないから,本願発明の作用効果が推認できず,デュロマーが40重量%以上含有されることで熱伝導率が著しく増大する理由(臨界性)が不明であるばかりか,液体エポキシ樹脂やAl2O3の細粉も当業者が実施できる程度に具体化されていない旨を主張する。しかしながら,作用効果の有無や,デュロマーの重量比が有する技術的意義は,いずれも本願発明の容易相当性の判断において考慮され得る要素の一つであるにすぎず,実施可能性とは直接関係がないばかりか,上記の液体エポキシ樹脂及びAl2O3の細粉の材料は,いずれも市販品として容易に入手可能である…から,これらの材料の詳細が本願明細書に示されていないからといって,当業者が本願発明を実施できなくなるものではない。
本願明細書【0014】の記載部分は…日本語としていささか不明瞭なものであり,…より明瞭なものに補正されることが望ましい。しかし,…上記「軸受」及び「シャフト封止材」は,いずれも本願発明を構成する部材ではないから,上記引用に係る記載部分が,上記のとおりいささか不明瞭であるとしても,そのことによって,当業者が本願発明を実施することができなくなるというものではない。…
https://www.ip.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail?id=2978
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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