大阪地判平成23年(ワ)3850【軟質プラスチック容器】
<損害論>102条1項
認容額1973万
寄与度10%(90%減額)
<寄与率>
本件発明の効果が発揮された件数は、極めて少数。
原告の宣伝広告においても,ピンホールリスクの低減効果は「細部機能改良」の項に記載されているだけ。
<推定覆滅事情>102条1項但書:原告が原告製品を販売することができないとする事情
原告製品又は被告製品と同様の軟質プラスチック容器に関する市場占有率は,原告が30.4%,被告が28.6%であることについて,当事者間に争いがない。
被告製品の販売数量は原告の実施の能力の範囲内であり,本件発明について代替技術は立証されていない。
<寄与率>本件発明の寄与率は10%
代替技術は立証されていない。
本件発明の技術的意義~特定の用途を要する補強リブにより突条を保護し,ピンホールの発生を防止した。
⇒もっとも,原告製品及び被告製品の1年当たりの販売数量と対比すると,本件発明の効果が発揮された件数は,総数としてみても極めて数が少ない。
原告の宣伝広告~原告製品の販売広告において,折り畳み自在であること,軽量であること,その他容器の信頼性を高める工夫がされていることなどとともに,本件特許発明によるピンホールリスクの低減効果についても相当の割合を割いている。⇒ピンホールリスク以外の様々な要因についても考慮されることが認められるし,原告の宣伝広告においても,本件特許発明によるピンホールリスクの低減効果については「細部機能改良」の項に記載されている…,本件特許発明の販売における寄与について,過大に評価することはできない。
被告の宣伝広告~被告が,「20リットル改良品(20A)のご提案について」と題する書面を顧客らに送付した。被告製品における寄与率も,原告製品における寄与率と同等。
(判旨抜粋)
102条1項但書の事情
原告製品又は被告製品と同様の軟質プラスチック容器に関する市場占有率は,原告が30.4%,被告が28.6%であることについて,当事者間に争いがない。
しかしながら,前記(1)のとおり,被告製品の販売数量は,原告の実施の能力の範囲内であったことなどが認められる上,後記のとおり,本件特許発明について代替技術が存在することを認めるに足りる主張立証もない。
そうすると,被告製品は,本件特許発明の実施品である原告製品を代替したものと解するのが相当である。
寄与率
以下の事情からすれば,本件特許発明の寄与率は,10%とするのが相当である。
(1)本件特許発明の有用性
ア 本件特許発明の技術的意義
(中略)
前述したところによれば,本件特許発明の本質的特徴は,このような用途を要する補強リブにより突条を保護し,ピンホールの発生を防止したところにあることが認められる。
イ 代替技術の存否
被告は,このような本件特許発明の代替技術として,乙1発明及び特開平8-48364公報(以下「乙10公報」という。)に記載された発明(以下「乙10発明」という。)がある旨主張するが,以下の理由から,この主張を採用することはできない。
(中略)
乙10発明は,本件特許発明と同様の課題を解決するための発明であるとはいえるものの,その実施状況や効果について認めるに足りる証拠もないから,本件特許発明を代替するものといえるかは不明である。
ウ 本件特許発明の作用効果
証拠によれば,原告が原告製品の製造販売を開始した平成8年より前の平成7年度におけるクレーム総数●●●件のうち折り溝部からの漏れは●●件であったこと(甲26),これに対し,平成11年度における折り溝部からの漏れに関するクレームは●件であり,クレーム総数に占める割合は●●●●%であったこと(甲27の2)が認められる。
これらのことからすれば,本件特許発明は,ピンホールの発生を防止するという課題解決において,相応の効果を奏するものであることが認められる。
もっとも,原告製品及び被告製品の1年当たりの販売数量と対比すると,上記クレーム件数は,総数としてみても極めて数が少ないものである。
(2)原告による宣伝広告
証拠(甲23の1ないし25の2)によれば,原告は,原告製品の販売広告において,折り畳み自在であること,軽量であること,その他容器の信頼性を高める工夫がされていることなどとともに,本件特許発明によるピンホールリスクの低減効果についても相当の割合を割いていることが認められる。
また,軟質プラスチック折り畳み容器自体は,比較的単純な構造のものであり,原告も約42年間にわたり製造販売を継続してきたこと(甲28)などからすれば,相当に成熟した技術分野であること,そうした状況において他の競合製品と差別化するために,本件特許発明が相応の価値を有することは認められる。
他方において,上記原告の宣伝広告の内容から明らかなとおり,原告製品又は被告製品の購入に当たっては,ピンホールリスク以外の様々な要因についても考慮されることが認められるし,原告の宣伝広告においても,本件特許発明によるピンホールリスクの低減効果については「細部機能改良」の項に記載されていること及び前記(1)ウで検討したところからすれば,本件特許発明の販売における寄与について,過大に評価することはできないものというべきである。
(3)被告による宣伝広告
証拠(甲3)によれば,被告が,「20リットル改良品(20A)のご提案について」と題する書面を顧客らに送付したこと,同書面は,被告現行品から本件特許発明に関する構成を備えた被告製品に改良したことを報告し,購入を促す内容のものであることが認められる。
このことからすれば,被告製品についても本件特許発明の実施による販売への寄与があったものと推認される。
前記(3)のとおり,原告製品又は被告製品の購入に当たっては,ピンホールリスク以外の様々な要因についても考慮されるものであるとしても,被告製品における本件特許発明の販売における寄与率についても,原告製品における寄与率と同等のものと解するのが相当である。
(4)被告製品の販売数の推移
乙31,48によると,被告が「バロンボックス」という製品名で製造販売していた液体容器について,被告現行品から被告製品に切り替え,その後,改めて,被告現行品に切り替えたところ,平成20年6月から平成24年2月までの販売数には,大きな変化はなく,全体として漸増し,その傾向は,被告製品の販売中止後も変わりないことが窺える。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/662/082662_hanrei.pdf
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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