大阪地判平成21年(ワ)10811【回転歯ブラシの製造方法及び製造装置】
<損害論>102条1項
寄与度10%(覆滅90%)
販売不可事情80%
<推定覆滅事由>102条1項但書
①多数の小売店と取引関係
②広告宣伝活動
③価格差
<寄与度>
物の発明を前提として製造方法を進歩させただけ
<推定覆滅事由>102条1項但書:原告が原告製品を販売することができないとする事情
被告は,希望小売価格500円とし,多数の小売店と取引関係を持った上,多大な費用をかけての広告宣伝活動も相まって,かかる数量の販売を遂げたものといえる。
原告製品の販売数量は,平成15年,平成16年をピークに,平成17年から平成18年にかけては落ち込み,同年には事業が行き詰まりを見せていた。
原告製品では円筒形のブラシが回転自在に取り付けられている一方,被告製品ではブラシの柄に固定されているなど構造上の差異がある。
価格差~被告は希望小売価格500円。原告製品の小売価格は1500~3000円と,歯ブラシとしては相当に高額。
<寄与度>
原告製品の最大の特徴は,ブラシ単体を多数枚重ねて形成した回転ブラシを柄部材に回転自在に取り付けている点にあり,かかる構造の有する歯垢駆除,歯茎マッサージによる歯周病予防・改善などの効能,さらに一般の歯ブラシとは一線を画するその形態の有する美感が,一般消費者たる需用者の需要を喚起するものといえる。
⇒被告が侵害したのは,そういった回転ブラシやブラシ単体を熟練技術を必要とせず,効率よく製造する方法及び装置の発明に係る特許権であって,
本件方法発明は,物の発明を前提として,その製造方法を進歩させたという位置付けにとどまる。⇒本件発明の寄与度を10%と認めるのが相当である。
(判旨抜粋)
覆滅事由
被告は平成19年11月9日以降の約4年間で,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●の被告製品を譲渡したものであるが,希望小売価格500円(甲27の2・3)とし,多数の小売店と取引関係を持った(甲33,34)上,多大な費用をかけての広告宣伝活動(甲9,甲27の1~3,弁論の全趣旨)も相まって,かかる数量の販売を遂げたものといえる。
これに対し,原告製品は,原告 T・World が平成19年11月9日に設立されて本件独占的通常実施権の許諾を得る前から,原告P1が代表取締役を務める TC・Dental によって製造販売され,同日以降は原告T・World のみが製造販売してきたものであるが,両者を通じた原告製品の販売数量は,おおよそ以下のとおりであった(甲55)。(中略)
すなわち,原告製品の販売数量は,平成15年の約●●●本,平成16年の約●●●本をピークに,平成17年から平成18年にかけては既に年間●●本台にまで落ち込み,同年には事業が行き詰まりを見せていた(甲56)。しかも,本件独占的通常実施権の許諾があった平成19年11月9日以降(さらにいえば本件特許権の設定登録がされた同年7月6日以降),原告製品について,小売店での店頭販売は行われていない(甲56,弁論の全趣旨)上,それ以前に TC・Dental による広告宣伝(甲23,53)はあったにせよ,上記時期以降,自社インターネットを除いては,テレビCMや雑誌掲載などの目立った広告宣伝活動が行われたと認めるに足りる証拠はないのである(原告 T・World 自身,原告製品において,広告宣伝費が発生していないことを認めている。)。
また,原告製品と被告製品とは,いずれも円筒形のブラシを備えるとの点で共通するものの,原告製品ではこれが回転自在に取り付けられている一方,被告製品ではブラシの柄に固定されているなど構造上の差異がある(甲23~25,甲27の1~3,甲28,31,32)上,具体的な販売数量が明らかでないものの,原告製品同様に円筒形のブラシ部が回転自在に取り付けられている歯ブラシ,被告製品同様に円筒形のブラシ部が柄に固定されている歯ブラシともに類似製品が散見される(乙56~68)のであるから,被告製品が販売されなかったとしても,そのすべての顧客が原告製品を購入するとの関係も認め難い。
加えて,原告製品の小売価格は,TC・Dental が販売していた当時で3000円,原告 T・World においても1500円と,歯ブラシとしては相当に高額なのであるから,この一点をしても,被告製品と同じ数量の販売ができたかは疑わしい。原告P1自身「●●●●●●●●●●●●●●●●という計画で」あった(甲56)というのであるから,損害額の主張において,原告製品1本当たりの利益の算定で高い価格設定を前提としている以上,販売できたであろう数量が少なく認定されることは甘受すべきともいえる。
以上からすれば,原告 T・World が本件独占的通常実施権を得た平成19年11月9日以降,被告による本件独占的通常実施権の侵害行為がなかったとしても,原告製品が,被告製品と同じ●●●●●●●●本もの数量を販売することができないとする事情があったといわざるを得ない。そして,これら事情に相当する控除数量は,被告の譲渡数量●●●●●●●●本の80%に当たる●●●●●●●●本と認めるのが相当である。
寄与度
原告製品によって原告が得る利益について,本件特許方法発明の寄与度を検討するに,原告 T・World 自身も強調するとおり,原告製品の最大の特徴は,ブラシ単体を多数枚重ねて形成した回転ブラシを柄部材に回転自在に取り付けている点にあり,かかる構造の有する歯垢駆除,歯茎マッサージによる歯周病予防・改善などの効能,さらに一般の歯ブラシとは一線を画するその形態の有する美感が,一般消費者たる需用者の需要を喚起するものといえる。しかし,本件で被告が侵害したのは,そういった,回転ブラシやブラシ単体を熟練技術を必要とせず,効率よく製造する方法及び装置の発明に係る特許権であって,回転ブラシやブラシ単体の機能に直接関するものではない。原告製品自体は,原告P1が別途特許出願した発明(特願平12-83736号,乙45の1中の丙17。特許査定を受けたかは証拠上明らかでない。)の実施品であり,本件特許方法発明は,かかる物の発明を前提として,その製造方法を進歩させたという位置付けにとどまる。また,原告は,上記のような原告製品の形態について,意匠登録をしており(甲47),原告製品のパッケージにも当該登録意匠が明記されている(甲11)。なお,同パッケージには,発明の名称をロール歯ブラシとする別の特許(甲45)が表示される一方,本件特許の表示がないのは前記のとおりである。
このように考えると,本件特許方法発明は,原告製品の主要部たる回転ブラシを構成するブラシ単体の製造方法につき,従来技術と比べ,「高度な熟練を要することなく,しかもできるだけ工程数少なく効率良く製造できる」(甲2)技術という意味で,原告製品による利益に一定の寄与をしているといえるものの,その寄与度は,原告製品自体,すなわち,その構造上の特徴や作用効果,さらにはその形態の有する美感の寄与度に比べると相当に低いといわざるを得ない。
したがって,本件特許方法発明の寄与度を10%と認めるのが相当である。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/148/083148_hanrei.pdf
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)