令和5年(行ケ)10069【半田付け装置】<清水響>
*進歩性判断~既判力の範囲
第一次判決が判断しなかった点があるが、進歩性判断は、本件発明及び引用発明の認定、一致点・相違点の認定を踏まえた法律判断である。
審判官が、第一次判決とは別異の事実を認定して異なる判断を加えることは、第一次判決の拘束力により許されない。
「最高裁昭和51年3月10日大法廷判決…の趣旨を踏まえると、…既判力は、審決に違法性一般がないことではなく、特許無効審判事件において審理された特定の引用例に記載された発明(公知技術)に基づく進歩性の有無について判断した審決に違法性がないことに関して生じる」
(判旨抜粋)
最高裁昭和51年3月10日大法廷判決(昭和42年(行ツ)第28号)民集30巻2号79頁の趣旨を踏まえると、特許発明の進歩性判断が問題となる特許無効審判事件の審決の取消訴訟における請求棄却判決の既判力は、審決に違法性一般がないことではなく、特許無効審判事件において審理された特定の引用例に記載された発明(公知技術)に基づく進歩性の有無について判断した審決に違法性がないことに関して生じるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、前記認定のとおり、第一次判決(原告の請求を棄却した部分。以下同じ。)は、本件発明4につき、これが本件出願日前に当業者において甲1引用発明に基づき容易に発明をすることができたものとはいえないと判断して、これと同じ判断をした第一次審決を是認し、原告の請求を棄却したものである。そして、第一次判決は、その後確定したのであるから、甲1引用発明に基づき、本件発明4が進歩性を欠くとはいえないとした第一次審決に違法性がないことは、既判力をもって確定されているというべきである。
本件で問題となっているのは、本件審決の違法性であって、第一次審決の違法性ではないが、原告が、本件訴訟において、甲1引用発明に基づき、本件発明4が進歩性を欠く旨主張(取消事由3)し、進歩性欠如を否定した本件審決の判断部分が違法である旨主張することは、実質的にみれば、第一次審決の違法性に関し既判力が生じている部分(同じ引用発明に基づき進歩性がないとはいえないとの判断)について、これと異なる判断を求めるものとして、許されないというべきである。
https://www.ip.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail?id=6141
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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