令和4年(行ケ)10059【ガラス】<本吉>
*望ましい数値範囲をクレームアップした
⇒数値範囲の上下限が明細書記載と一致する必要なく、含まれていればサポート要件〇
クレームの「上限値及び下限値として、本件明細書に記載の数値範囲に含まれる数値が記載されていれば足りる」
*物性要件と組成要件からなる本件発明の課題を物性要件とは異なると認定して、組成要件を満たす物が物性要件を満たす蓋然性は不要とした
(※平成28年(行ケ)10189と区別した!!)
(判旨抜粋)
【請求項1】…液相温度が1140℃以下であり、ガラス転移温度が672℃以上であり、屈折率ndが1.825~1.850の範囲であり、かつアッベ数νdが41.5~44である酸化物ガラスであるガラス
…構成要件A7)の上限値である「0.828」は、本件明細書【0026】の【表2】に記載された最も好ましい上限である「0.85」を下回るものであるから、やはり好ましい上限値といえ…、構成要件A(12)の上限値である「0.50」は、本件明細書【0063】の【表22】に記載された最も好ましい上限である「0.6」を下回るものであるから、やはり好ましい上限値といえる…。なお、本件発明は本件明細書に記載の数値範囲から望ましい数値範囲を請求項に記載したにすぎないと認められるから、数値範囲の上限及び下限が本件明細書に記載の上限及び下限と一致しなければサポート要件に適合しないとはいい得ず、上限値及び下限値として、本件明細書に記載の数値範囲に含まれる数値が記載されていれば足りると解される。…
…当業者において、本件明細書で説明された成分調整の方法に基づいて、参考例を起点として光学ガラス分野の当業者が通常行う試行錯誤を加えることにより本件発明1の各構成要件を満たす具体的組成に到達可能であると理解できるときには、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らし課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
原告は、…本件組成要件を満たしながら本件物性要件を満たさないものがあって、本件組成要件を満たすことと本件物性要件を満たすこととの間に相関関係を見いだすことは不可能である…などと主張する。
しかしながら、本件発明の課題は…高屈折率低分散ガラスの有用性を更に高めるために、Gd、Ta及びYbのガラス組成において占める割合を低減すること、熱的安定性に優れたガラスを提供すること及び機械加工に適するガラスを提供することであって、そのために、本件組成要件及び本件物性要件を満たす構成をとることとして、その課題の解決を図ったものである。
したがって、本件組成要件と本件物性要件とが課題と解決手段の関係にあるということはできないから、本件組成要件で特定されるガラスが高い蓋然性をもってガラス転移温度を含む全ての物性要件を満たすという関係を有することが認識されるまでの必要はない。また、本件発明は、本件組成要件と本件物性要件の双方を満たすものを特許請求の範囲としているものであって、本件組成要件の全数値範囲にわたって、本件組成要件を満たすガラスは本件物性要件を満たすとしているものでもない。本件組成要件を満たすが本件物性要件を満たさないガラスがあるとして、それは端的に本件発明の特許請求の範囲に含まれないガラスにすぎない。なお、本件明細書において好ましい範囲として記載された数値の範囲とその選択の根拠に鑑みると、本件組成要件の数値範囲が過度に広いとは認め難い。…
(なお、原告は、知的財産高等裁判所がした別件判決(甲7)で示された「組成要件で特定される光学ガラスが高い蓋然性をもって当該物性要件を満たし得るものであることを、発明の詳細な説明の記載や示唆又はその出願時の技術常識から当業者が認識できること」を本件におけるサポート要件充足の判断基準とすべき旨を指摘するが、サポート要件の充足の有無は、発明の課題との関係において認定されるべきものであるところ、同判決では発明の課題を「所定の光学定数を有し、高屈折率高分散であって、かつ、部分分散比が小さい光学ガラスを提供すること」としているのであり、このような、異なる発明における異なる課題において事例判断として示された別件の理由中の判断を、そのまま本件に適用することは相当ではない。)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/153/092153_hanrei.pdf
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)