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【特許★】引用文献中の複数の段落から一まとまりの技術思想を抽出可能、データがない数値限定を設計事項として、進歩性を否定した事案

2023年03月10日

-令和3年(行ケ)第10096号<本多裁判長>「光源」事件-

 

◆判決本文
 
 

【本判決の要旨、若干の考察】

1.特許請求の範囲(請求項1)

青色光を放出する発光素子と、
前記青色光を緑色光及び赤色光に変換する量子ドット材料、樹脂および散乱剤を含み、前記発光素子が放出する前記青色光を白色光に変換して放出する光変換層と、
を含み、
前記散乱剤は、前記光変換層の全体重量に対して10重量%以下で含まれており、
下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす光源:
(1) 前記白色光は、ピーク波長が518nm~550nmの間にあり、半値幅は90nm未満である前記緑色光成分と、ピーク波長が620nm以上である領域にあり、半値幅が49nm以下である前記赤色光成分とを含む;
(2) 前記白色光の色座標において、赤色頂点は0.65<Cx<0.69かつ0.29<Cy<0.33の領域に位置し、緑色頂点は0.17<Cx<0.31かつ0.61<Cy<0.70の領域に位置する。

 
2-1.進歩性に関する判旨抜粋(①引用文献中の複数の段落から一まとまりの技術思想を抽出可能)

『…引用文献の段落[0012]、[0013]及び[0015]には、緑色発光半導体ナノ結晶及び赤色発光半導体ナノ結晶のそれぞれの発光ピークのFWHM(半値全幅)が約45nm以下であること又は45nm以下であってもよいことが開示されているところ、引用文献の前後の文脈に照らすと、これらの開示は、引用文献が開示する発明一般に当てはまるものと解される。…引用発明において「緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり」との構成を採用すると…との構成が採用できなくなるとの記載又は示唆はみられない。そうすると、…一まとまりの技術的思想に基づく単一の発明中に両者の構成を併存させることは十分に可能であるから、前者の構成を含むものとして引用発明を認定した本件審決に誤りはない。』

2-2.進歩性に関する判旨抜粋(②低コスト化は自明の課題(証拠不要))

『…低コスト化が多くの技術分野に共通する技術的課題であることは、引用文献を始めとする刊行物等に明示の記載や示唆がなくても自明のこととして認められる事柄である…。』

2-3.進歩性に関する判旨抜粋(③実施例のデータがない数値限定⇒設計事項)

『…「散乱剤が光変換層の全体重量に対して10重量%以下で含まれている」との構成について

…本願明細書には、単に、「10重量%以下で含まれてもよい。」…、「10重量%以下含まれることが好ましく、1重量%以上5重量%以下含まれることがより好ましい。」…、「10重量%以下であることが好ましい。」…などの記載があるのみである。しかも、…実施例として記載されている同含有割合の最大値は、6重量%…にすぎず、本願明細書には、同含有割合が10重量%を超える場合の実験結果についての記載は全くみられない…。以上によると、光変換層の全体重量に対する散乱剤の含有割合を10重量%以下とすることには、特段の臨界的意義はないものといわざるを得ない。加えて、…、光変換層内の散乱剤、赤色量子ドット材料及び緑色量子ドット材料の含量比を調節することにより、白色光の色座標を調節することは可能であり、また、本願明細書の段落【0137】によると、散乱剤の含量を調節することにより、白色光の輝度等を調節することも可能であると認められ、周知文献1の段落【0116】に「ある好ましい実施形態において、散乱体の濃度範囲は0.1から10重量%である。」との記載があることも併せ考慮すると、光変換層の全体重量に対する散乱剤の含有割合は、当業者において、光変換層により得られる白色光をどのようなものにするかに応じ適宜設計することのできたものである。』

 
3.若干の考察

(1)本判決は、本事例においては、引用文献中の複数の段落から一まとまりの技術思想を抽出可能であるとして、引用発明を認定した。

   引用発明が「一まとまりの技術思想」である必要があることは裁判例が確立しており、肯定事例、否定事例が多数蓄積している。

   この点は、補正/訂正/分割出願時に、明細書中の引用文献中の複数個所から摘まみ食いしてクレームアップすることが「一まとまりの技術思想」と言えないときに新規事項追加と判断されることとパラレルである。(その意味で、進歩性判断時の主引用発明の認定と、新規事項追加の事例を有機的に理解することが実務上望ましい。この点は諸外国移行時の、米国MPEP、欧州審査ガイドライン、中国審査指南等の理解も同様である。)

(2)容易想到性判断時には、本願(本件)発明と主引用発明との相違点を埋めるために、動機付けが必要とされており、例えば、主引用発明と副引用発明との課題の共通性などが挙げられる。容易想到性検討時に、共通する課題が記載されていれば論理付けし易いが、記載されていなくても、出願日(優先日)当時の技術常識に照らし自明の課題であれば、主引用文献その他の引用文献に当該課題について記載が無くてもそれが主引用発明の課題であるとして論理付けを行ってよい。

この点は、サポート要件について、知財高判(大合議)平成17年(行ケ)第10042号【偏光フィルムの製造法事件】が、「特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべき」と判示し、出願日(優先日)当時の技術常識に照らして、引用文献等に課題解決手段等の記載や示唆が無くてもサポート要件を満たすという一般論を示したこととパラレルに考えられる。(その意味で、サポート要件と進歩性はバーターの関係にある。)

(3)数値限定/パラメータ発明は、新たな課題を見出し、同課題を当該数値/パラメータで解決できることを見出した、というストーリーで明細書に記載されていると容易想到性を否定することが困難であり、同課題が出願時に知られていたとか、出願時に知られていた課題と実質的に同じである等の議論が必要であることが多い。i

   本判決は、「散乱剤が光変換層の全体重量に対して10重量%以下で含まれている」との構成(数値限定)について、本願明細書中に、単に「10重量%以下で含まれてもよい。」などの記載があるのみであること、実施例の最大値6重量%であり、10重量%を超える実験結果はないこと等から、光変換層の全体重量に対する散乱剤の含有割合は、当業者が適宜設計することができたとして、容易想到と判断した(進歩性否定)。

 

【関連裁判例の紹介(①引用発明の認定~「一まとまりの技術思想」を抽出可能かが争われた事例)】

《1》引用文献等から「一まとまりの技術思想」を抽出できなかった事例。(特許権者有利)

1.平成18年(行ケ)第10138号【…反射偏光子事件】<中野>

「…引用例1には,液晶表示素子,光源,表示モジュール,反射型直線偏光素子の各構成要素が記載されていると認められる。しかし,引用例1の液晶表示素子においては,反射型偏光子とミラーとの間に位相差板を配置することが,必須の構成であり,位相差板とミラーを有しない反射型偏光子単独では,「反射型偏光子」を用いる技術的意味を有しないものとなってしまう…。したがって,引用例1に審決のいう引用発明を構成する各構成要素が記載されていても,反射型偏光子を含む液晶表示素子の発明を,ひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握することはできない…。」

2.平成23年(行ケ)第10385号【炉内ヒータを備えた熱処理炉事件】<芝田>

「引用発明は,従来技術である第3図,第4図に記載の焼成炉の問題を解決するため,ファン28を炉内に設けた構成が特徴点となっているのであり,その特徴点をないものとして引用発明を認定することは,引用例に記載されたひとまとまりの技術的思想を構成する要素のうち技術的に最も重要な部分を無視して発明を認定するものであり,許されないというべきである。

  引用発明においては,炉体の外部に配置された駆動モータにより駆動されるとともに一つの炉壁に支持されているファン28によって,ヒータの熱で高温になった雰囲気ガスを強制的に攪拌することで炉内温度を均一にするものであるから,ヒータ33は,ファン28と被焼成物が収容されている匣組み22との間に位置することが合理的であり,発熱体が炉側壁に沿って並列する構成は想定できないというべきである。  」

3.平成27年(行ケ)第10077号【水洗便器事件】<清水>

「…原告は,ボウル面の上縁部に洗浄水を導く水平な通水路を備えることは,ボール面噴出口が1つであるか2つであるかを問わない周知技術である旨を主張する。しかしながら,水洗便器の技術分野において,洗浄水の噴出口の数,通水路の構造と洗浄水の供給路,流水路とは一連の技術事項であるといえ,このような一連の技術の一面だけに着目し,ひとまとまりの技術事項の一部を抽出することは,それ自体が技術思想の創作活動であるから,安易な抽象化,上位概念化は許されず,技術事項に対応した慎重な検討が求められるというべきである。…水洗便器の洗浄においては,洗浄水の供給の形態,噴出口の数,通水路及び流水路の形状に様々なものがあり,このような様々な洗浄方式の相違を考慮せずに,ボウル面の上縁部に洗浄水を導く水平な通水路を備えることが,噴出口の数,そして,それにより当然に異なる洗浄水の流路のいずれも問わない周知技術であると認めることは相当でなく,少なくとも,本件訂正発明及び甲1発明と同様の,洗浄水の水平方向への供給口が一つであって,その流路が一方向である水洗便器の洗浄方式を前提として,上記の周知技術が認められるか否かを判断すべきものといえる。」

4.平成30年(行ケ)第10041号【地殻様組成体の製造方法事件】<鶴岡>

「…進歩性の判断に際し,本願発明と対比すべき特許法29条1項各号所定の発明は,通常,本願発明と技術分野が関連し,当該技術分野における当業者が検討対象とする範囲内のものから選択されるところ,同条1項3号の「刊行物に記載された発明」は,当業者が,出願時の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。…引用文献は,その表題から,放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分に向けた検討状況を1枚の資料にまとめたものと認められる。…

 引用文献には,放射性物質が検出された下水汚泥をどのように焼却するか,下水汚泥焼却灰はどの程度の放射性物質を含むものであるか,下水汚泥焼却灰をセメント原料化する際,できる限り影響が小さくなるようにどのような対策をするのか等,下水汚泥焼却灰を処分するに当たっての具体的な方法,手順,条件など,技術的思想として観念するに足りる事項についての記載は一切存在しない。そうすると,引用文献には,単に放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分に向けた方針,及び当該方針に関する有識者の意見が断片的に記載されているにすぎず,下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法というひとまとまりの具体的な技術的思想が記載されているとはいえない。」

≪2≫引用文献等から「一まとまりの技術思想」を抽出できた事例。(特許権者不利)

1.平成17年(行ケ)第10672号【高周波ボルトヒータ事件】

「…引用発明の認定においては,引用発明に含まれるひとまとまりの構成及び技術的思想を抽出することができるのであって,その際引用刊行物に記載された具体的な実施例の記載に限定されると解すべき理由はない。

…甲1自体には実現できるように記載されてない高周波誘導加熱の具体的な構成そのものは,…本件特許出願当時,…技術常識であったのであるから,当業者は,甲1の「…高周波加熱トーチ」の高周波誘導加熱に上記技術常識であった誘導加熱体の具体的な構成を参酌し,高周波誘導加熱を実現することができるものとして,甲1発明を把握することができたものと認められる。」

2.平成30年(行ケ)第10151号【ギャッチベッド用マットレス事件】<鶴岡>

「…引用文献1には,「マットレス装置452は家庭または他の療養施設での個人使用の為にユーザにより購入されることもある」…と記載されており,このように個人が使用する場合には,適切な感触を得られる硬さの部材の組合せが既に決定されているのであるから,多種多様な部材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法があることは想定されない。したがって,小売用テスト装置(店舗内のテスト用マットレス)に用途を限定しない引用実施例のマットレス装置452において,多種多様な部材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法があることは,一体不可分の必須の技術思想に当たらず,その中から一つの組合せ及び使用方法を抽出した例を引用発明とすることに支障はない。引用発明は,引用例に記載されたひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握可能であれば足りるところ,審決で認定された引用発明は,この要件を充たしているといえる。

 もっとも,審決が,引用文献1に開示された多種多様な部材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法の中から,引用文献1に具体的には全く例示されていない例を抽出したのであれば,原告のいうように,本願発明1の相違点を予め減らすべく事後分析的な認定をしたといえることもあろう。しかしながら,…引用発明は,引用文献1に接した当業者が特段の「深読み」を要せずして把握し得る構成を備えたものであるから,審決に,事後分析的な認定をしたという誤りもない。…4通りの使用方法があることを引用発明1の認定において考慮しなかったことに誤りがあるとはいえない。」

3.平成30年(行ケ)第10122号【水中音響測位システム事件】<鶴岡>

「審決は,甲3の1文献及び甲3の2文献を併せて「甲3文献」とした上で,甲3文献に甲3構成b3が記載されていると認定しているところ,甲3の1文献が博士学位論文,甲3の2文献が甲3の1文献の内容の要旨であることについては,当事者間に争いがない。そうすると,甲3の2文献に記載されている内容は,甲3の1文献に記載されているものと認められるから,これらの2つの文献からひとまとまりの技術的思想を認定し得るというべきである。」

4.令和1年(行ケ)第10091号【走行練習用自転車事件】<鶴岡>

「…引用発明の認定に際しては,ひとまとまりの技術的思想を構成する要素のうち,本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない限度で認定すれば足り,特段の事情がない限り,本件補正発明の発明特定事項との対応関係を離れて,引用発明を必要以上に限定して認定する必要はないと解される。…

 本件補正発明は,ボルトの本数を,発明特定事項として何ら限定するものでないから,引用発明の認定に当たって事項①を捨象しても,本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない限度で認定している…。…

本件補正発明は,三角部材に相当する部材を備えることを発明の構成要素とするものではなく(本件明細書において発明の一実施形態として【0018】で言及され,本願図1ないし3に図示されているにとどまる。),それを除外することを構成要素とするものでもない。したがって,引用発明の認定に当たって事項②を捨象しても, 本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない限度で認定している…。…

 以上によれば,事項①及び②を捨象した審決の引用発明の認定は,引用文献1に開示された考案の有するひとまとまりの技術的思想につき,本件補正発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない限度で認定したものということができる。かかる認定が,引用文献1に記載された技術内容から必須の一部構成を捨象したとも,不当に抽象化・一般化・上位概念化したともいえない。」

5.≪本判決≫令和3年(行ケ)第10096号【光源事件】<本多>

「…引用文献の段落[0012]、[0013]及び[0015]には、緑色発光半導体ナノ結晶及び赤色発光半導体ナノ結晶のそれぞれの発光ピークのFWHM(半値全幅)が約45nm以下であること又は45nm以下であってもよいことが開示されているところ、引用文献の前後の文脈に照らすと、これらの開示は、引用文献が開示する発明一般に当てはまるものと解される。…引用発明において「緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり」との構成を採用すると…との構成が採用できなくなるとの記載又は示唆はみられない。そうすると、…一まとまりの技術的思想に基づく単一の発明中に両者の構成を併存させることは十分に可能であるから、前者の構成を含むものとして引用発明を認定した本件審決に誤りはない。

…低コスト化が多くの技術分野に共通する技術的課題であることは、引用文献を始めとする刊行物等に明示の記載や示唆がなくても自明のこととして認められる事柄である…。」

 

【関連裁判例の紹介(②新規事項追加~明細書中の引用文献中の複数個所から摘まみ食いしてクレームアップすることが「一まとまりの技術思想」と言えないときに新規事項追加と判断された事例)】

1.平成25年(行ケ)第10346号【水晶発振器の製造方法】<石井>

⇒明細書中で、2つの段落に独立に記載した事項を併せた追加を新規事項追加とした。

【(訂正後の)請求項1)】第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する工程と,第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する工程と,…

「…本件特許明細書には,【0041】に,中立線を残して,その両側に溝を形成し,音叉腕の中立線を含めた部分幅W7は0.05mmより小さく,また,各々の溝の幅は0.04mmより小さくなるように構成する態様,及び,このような構成により,M1をMnより大きくすることができることが記載されている。また,【0043】には,溝が中立線を挟む(含む)ように音叉腕に設けられている第1実施例~第4実施例の水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子の基本波モード振動での容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さくなるように構成されていること,及び,このような構成により,同じ負荷容量CLの変化に対して,基本波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化が2次高調波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化より大きくなることが記載されている。

 しかし,上記【0041】と【0043】の各記載に係る構成の態様は,それぞれ独立したものであるから,そこに記載されているのは,各々独立した技術的事項であって,これらの記載を併せて,本件追加事項,すなわち,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝が形成された場合において,基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい」という事項が記載されているということはできない。…そうすると,本件追加事項の追加は,本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものというべきである。」

2.平成28年(行ケ)第10257号【携帯情報通信装置事件】<森>

⇒明細書中で、2つの段落に独立に記載した事項を併せた追加を新規事項追加とした。

「段落【0143】には,段落【0117】,【0118】に記載されているような,ウェブページの閲覧やテレビ動画の表示の場合との関連性を示唆する記載はない上,段落【0143】の記載は前記のとおりであって,画像データファイルの解像度を変更することなく表示することが記載されているから,段落【0143】の記載に接した当業者が,その記載を段落【0117】,段落【0118】の記載と関連付けて,ウェブサーバから画像データファイルをダウンロードして画像を表示する場合に画像ファイルの解像度を変更することが記載されていると理解するとは考えられない。」

3.令和1年(ワ)第30991号【2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン,2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロペン,2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンまたは2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物事件】<田中>

⇒当初明細書で個別に記載されている特定の3種類の化合物の組み合わせが必然である根拠は記載無し。補正要件×(新規事項追加)

「…請求項1及び2は,…補正(本件補正)により,本件特許請求の範囲は,「ゼロ重量パーセントを超え1重量パーセント未満の,HFO-1243zf及びHFC-245cbと,を含む,」という文言を有するものとなった。…

当初明細書においては,そもそもHFO-1234yfに対する「追加の化合物」として,多数列挙された化合物の中から特に,HFO-1243zfとHFC-245cbという特定の組合せを選択することは何ら記載されていない。この点,当初明細書においては,HFO-1234yf,HFO-1243zf,HFC-245cbは,それぞれ個別に記載されてはいるが,特定の3種類の化合物の組合せとして記載されているものではなく,当該特定の3種類の化合物の組合せが必然である根拠が記載されているものでもない。また,表6(実施例16)については,8種類の化合物及び「未知」の成分が記載されているが,そのうちの「245cb」と「1234yf」に着目する理由は,当初明細書には記載されていない。さらに,当初明細書には,特許出願当初の請求項1に列記されているように,表6に記載されていない化合物が多数記載されている。それにもかかわらず,その中から特にHFO-1243zfだけを選び出し,HFC-245cb及びHFO-1234yfと組み合わせて,3種類の化合物を組み合わせた構成とすることについては,当業者においてそのような構成を導き出す動機付けとなる記載が必要と考えられるところ,そのような記載は存するとは認められない(なお,本件特許につき,優先権主張がされた日から特許出願時までの間に,上記各説示と異なる趣旨の開示がされていたことを認めるに足りる証拠はない。)…」

=控訴審令和3年(ネ)第10043号<菅野>

⇒特定の組み合わせを選び出すことが、「自明」である必要あり

 

【諸外国における「新規事項追加」の実務~日本の審査基準/裁判例、米国MPEP、欧州審査ガイドライン、中国審査指南+最高人民法院の解釈】





 

【本判決の抜粋(進歩性判断の判示部分)】

3 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について

 (1) 周知技術の認定の可否

 ・・・

 (2) 引用発明に本件技術を適用する動機付けの有無
ア 引用発明は、その構成から明らかなとおり、光変換層内に複数の緑色発光半導体ナノ結晶及び赤色発光半導体ナノ結晶(量子ドット材料)を含むものであるところ、周知文献2の段落【0033】には、量子ドット材料の濃度を大幅に低下させることができると、ディスプレイの製作費用も量子ドット材料の数の減少に比例して大幅に減少させることができる旨の記載がある。そして、一般に、低コスト化は、多くの技術分野に共通する技術的課題であるところ、量子ドット材料の濃度を減少させることにより低コスト化を図れるのであれば、当業者としては、できる限り量子ドット材料の濃度を減少させるよう動機付けられるのが通常である。
ここで、引用発明の内容からも明らかなとおり、量子ドット材料は、光変換層内にあって、LED光源から入射される青色光を緑色光又は赤色光に波長変換するものであるところ、光変換層内の量子ドット材料の濃度を減少させつつ減少前と同等の波長変換を実現するために、量子ドット材料の波長変換の効率を高める必要があることは、当業者にとって自明の事柄である。そうすると、引用発明においてコストの低下を追求する当業者にとっては、量子ドット材料の波長変換の促進のため、散乱剤を添加するとの本件技術を適用する動機付けが十分にあると認めるのが相当である。
イ 原告は、当業者はディスプレイでの理想的な白色点及び輝度の増加を目的として散乱剤を添加するものであるとして、当該目的を既に達成している引用発明に本件技術を適用する動機付けはない旨の主張をするが、引用発明に本件技術を適用する目的は上記アにおいて説示したとおりであるから、原告の上記主張は、前提を誤るものとして失当である。
また、原告は、引用文献には、当業者において低コスト化を図るために量子ドット材料の使用量を少なくしつつ十分に波長変換がされるようにしようとする旨の示唆等は全くないと主張するが、低コスト化が多くの技術分野に共通する技術的課題であることは、引用文献を始めとする刊行物等に明示の記載や示唆がなくても自明のこととして認められる事柄であるから、原告の上記主張を採用することはできない。
さらに、原告は、引用発明に接した当業者は白色光の赤色頂点及び緑色頂点の色座標につき従前の値(引用発明(本件第3LED)の値)を維持しようとは動機付けられないから、当業者にとって引用発明に本件技術を適用する動機付けはないと主張する。しかしながら、引用文献(表2、段落[0092])によると、本件第3LEDは、色再現性及び相対輝度に優れているのであるから、低コスト化を図ろうとする当業者としても、引用発明(本件第3LED)の上記効果を維持しつつ、量子ドット材料の濃度を減少させる、すなわち、光変換層に散乱剤を添加するとの本件技術を適用しようとするのが通常であると認められる(なお、量子ドット材料と散乱剤の濃度の調節により、白色光の赤色頂点及び緑色頂点の色座標の値を調節し得ることは、後記(3)において説示するとおりである。)。したがって、原告の上記主張も、採用することはできない。
(3) 引用発明に本件技術を適用することについての阻害要因の有無
原告は、引用発明に本件技術を適用して散乱剤を添加すると白色光の赤色頂点及び緑色頂点の色座標の値が変化してしまい、引用発明の優位性が損なわれ、その目的を達することができなくなるから、引用発明に本件技術を適用することには阻害要因があると主張する。
確かに、原告が依拠する周知文献2の段落【0158】、甲21(原告従業員作成の陳述書)及び甲22(同)によると、光変換層(QDフィルム)に一定量の散乱剤(シリカビーズ)を添加すると、得られる白色光の色座標が変化し、白色光の色座標が変化すると、その赤色頂点及び緑色頂点の色座標も変化することになるものと認められる。
しかしながら、周知文献2の段落【0158】の記載によると、同段落に記載された散乱剤の添加は、光変換層内の量子ドット材料の含有量を変えずにされたものと認められるところ、前記(2)において説示したとおり、引用発明に本件技術を適用する目的は、低コスト化の実現のため、光変換層内の量子ドット材料の濃度を減少させることにあり、散乱剤は、量子ドット材料の濃度を減少させつつ減少前と同等の波長変換を実現するために添加されるものである。そうすると、原告が依拠する周知文献2の段落【0158】の記載等によっても、引用発明に本件技術を適用すると白色光の赤色頂点及び緑色頂点の色座標の値が変化してしまい、引用発明の目的を達することができなくなると認めることはできず、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はないから(なお、本願明細書の段落【0139】によると、散乱剤、赤色量子ドット材料及び緑色量子ドット材料の含量比を調節することにより、白色光の色座標の値を調節することは可能であると認められる。)、引用発明に本件技術を適用することについて阻害要因があると認めることはできない。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 「散乱剤が光変換層の全体重量に対して10重量%以下で含まれている」との構成について
ア 本願明細書の段落【0136】(【表12】)によると、散乱剤(ZnO)の含有量は、1重量%、3重量%又は5重量%とされているところ、白色光の輝度は、散乱剤の含有量が3重量%の場合が最も高いとされている。また、光変換層の全体重量に対する散乱剤の含有割合の臨界的意義に関し、本願明細書には、単に、「10重量%以下で含まれてもよい。」(段落【0036】)、「10重量%以下含まれることが好ましく、1重量%以上5重量%以下含まれることがより好ましい。」(段落【0055】)、「10重量%以下であることが好ましい。」(段落【0129】)などの記載があるのみである。しかも、上記段落【0136】に記載された実施例を含め、本件補正発明の実施例として記載されている同含有割合の最大値は、6重量%(段落【0140】(【表13】))にすぎず、本願明細書には、同含有割合が10重量%を超える場合の実験結果についての記載は全くみられない(なお、甲19(A作成の平成30年10月18日付け宣言書)には、同含有割合が10重量%を超える場合の実験結果についての記載がある。しかしながら、散乱剤として5重量%のZnOを用いた場合の輝度及び色座標につき、甲19の表に記載された値と本願明細書の段落【0132】(【表11】)及び段落【0136】(【表12】)に記載された値とは一致せず、また、散乱剤として5重量%のZrO2を用いた場合の輝度及び色座標についても、甲19の表に記載された値と本願明細書の上記【表11】に記載された値とは一致しないから、甲19の実験において用いられた光変換層は、本件補正発明の光変換層と異なるものである可能性がある。したがって、甲19に記載された実験結果をそのまま採用することはできない。)。
以上によると、光変換層の全体重量に対する散乱剤の含有割合を10重量%以下とすることには、特段の臨界的意義はないものといわざるを得ない。
加えて、前記(3)において説示したとおり、光変換層内の散乱剤、赤色量子ドット材料及び緑色量子ドット材料の含量比を調節することにより、白色光の色座標を調節することは可能であり、また、本願明細書の段落【0137】によると、散乱剤の含量を調節することにより、白色光の輝度等を調節することも可能であると認められ、周知文献1の段落【0116】に「ある好ましい実施形態において、散乱体の濃度範囲は0.1から10重量%である。」との記載があることも併せ考慮すると、光変換層の全体重量に対する散乱剤の含有割合は、当業者において、光変換層により得られる白色光をどのようなものにするかに応じ適宜設計することのできたものである。
イ 原告は、散乱剤についての上記「10重量%以下」との値は光変換層中の散乱剤の量と白色光の輝度及び白色座標のバランスとの関連性を新たに見いだすことにより得られたものであって技術的意義を有するから、単なる設計的事項ではないと主張する。しかしながら、上記アにおいて説示したとおり、白色光の輝度及び色座標については、散乱剤及び量子ドット材料の含有比を調節することによって適切な値を得ることができるのであるし、周知文献1の段落【0116】にも記載があるとおり、散乱剤についての上記「10重量%以下」との値は、当業者において通常は到達し得ないような特殊な値でもないから、散乱剤の含有割合を上記「10重量%以下」とすることは、当業者が適宜設計し得たというべきである。したがって、原告の上記主張は、採用することができない。
(5) 小括
以上のとおりであるから、相違点に係る本件補正発明の構成は引用発明及び本件技術(周知技術)に基づいて当業者が容易になし得たとした本件審決の判断に誤りはない。取消事由2は理由がない。

  
執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)(特許ニュース令和5年3月6日の原稿を追記・修正したものです。)
監修:吉田和彦(弁護士・弁理士)
 
〒100-8355 東京都千代田区丸の内3-3-1新東京ビル6階
中村合同特許法律事務所

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[i]高石秀樹「パラメータ発明の進歩性判断」(工業所有権法学会年報第44号)
https://www.takaishihideki.com/_files/ugd/324a18_ed5f0d7975c342ecb2530c6041d32cc5.pdf

 
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