クレームアップされた発明の「課題」・「効果」が発明特定事項として新規性・進歩性を判断した裁判例は多い(例えば、①知財高判平成27年(行ケ)第10097号「発光装置」事件<大鷹裁判長>、②知財高判平成28年(行ケ)第10107号「乳癌再発の予防用ワクチン」事件<森裁判長>、③知財高判平成29年(行ケ)第10041号「熱間プレス部材」事件<高部裁判長>、④知財高判平成29年(行ケ)第10003号「…ドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物」事件<高部裁判長>、等)。
しかし、
新たに見出した課題・効果・機序を「用途」として特定して、新規性が認められた裁判例は珍しい。
知財高判平成30年(行ケ)第10036号
「IL‐17産生の阻害」事件<森裁判長>は、
公知の医薬組成物がある疾 患の治療薬として知られていたところ、同一の疾患の治療薬であるが、公知の作用でなく、新たに見出した作用を「用途」として特定した発明につき、同発明の組成物を医薬品として利用する場合に,当該新たに見出した作用が必要な患者に対して選択的に利用するものであることを理由として、新規性を認めた。
⇒新たな「発見」は特許性が認められないが、選択的に利用される場合は、用途発明として認められる!!
(判旨抜粋)
「本件特許発明1は,T細胞を処理するための組成物の用途が『T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する』ためであると特定されているのに対し,甲3発明にはそのような特定がない点で相違する。…甲3発明の『T細胞を処理する』とは,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激を阻害することを指すものであって,甲3には,記載も示唆もされていない「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことを指すものではない…。…
原告は,甲3X発明に係る抗体含有組成物の用途は,「T細胞の処理による乾癬治療」であるが,乾癬患者について格別の限定又は選別をすることなく,「T細胞の処理による乾癬治療」を実施すると,当然に,「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生阻害」も生じるから,甲3X発明の「T細胞の処理による乾癬治療」と本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生阻害」とは,用途として同一であり,甲3X発明と本件特許発明1との間に相違点はないなどと主張する。…次のとおり理由がない。
(ア) …本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができる。
(イ) 他方,…甲3には,IL-23アンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることは,記載も示唆もされていないから,甲3発明が,「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものではないことは,明らかである。…
(ウ) そうすると,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲3発明の「T細胞を処理するため」という用途とは,明確に異なるものということができる。そして,このことは,本件優先日当時,IL-17の発現レベルを測定することが可能であったことによって左右されるものではない。」
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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