◆判決本文
1.氏名表示権を規定する著作権法19条1項にいう「著作物の公衆への提供若しくは提示」とは、同法21条から27条までに規定する著作権に係る著作物の利用によることを要しない。
2.ツイッターにおける他人の著作物である写真の画像を含む投稿により、同画像が、著作者名の表示が切除された形で同投稿に係るウェブページの閲覧者の端末に表示された場合に、当該表示画像をクリックすれば元の画像を見ることができるとしても、同投稿をした者が著作者名を表示したことにはならない。
3.ツイッターにおける他人の著作物である写真の画像を含む投稿をした者が、プロバイダ責任制限法4条1項の「侵害情報の発信者」に該当し、「侵害情報の流通によって」氏名表示権を侵害したものというべきである。
1.氏名表示権につき、著作権法19条1項は、「著作者は、・・・その著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する」旨を規定するところ、判決要旨1は、同項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」が同法21条から27条までに規定する著作権に係る著作物の利用によることを要するか否かにつき、裁判例(大阪地判平25・6・20判時2218号112頁〔ロケットニユース24事件〕)や本件の第一審判決(東京地判平28・9・15判時2382号41頁)が必要と解して同法23条1項に規定する自動公衆送信(送信可能化を含む)行為を構成しないインラインリンクによる氏名表示権侵害を否定したのに対し、本件の控訴審判決(知財高判平30・4・25判時2382号24頁)は不要と解して当該氏名表示権侵害を肯定しており、それらの評価も学説上分かれていたところ、最高裁判決として初めて不要と解したものである。
2.判決要旨2は、写真家の氏名が表示された写真画像を無断複製しつつ投稿されたツイートをリツイートしたことによりタイムラインにおいて当該画像がツイッターのシステムの仕様によりトリミングのうえ表示されて当該氏名表示部分が表示されなくなったことについて、当該リツイート者の行為によるものと認定判断しつつ、さらに当該表示画像をクリックすれば元の画像を見ることができるとしても、当該リツイートした者が著作者名を表示したことにはならない旨を認定判断して、当該リツイート者による氏名表示権侵害を肯定したものである。
3.判決要旨3は、氏名表示権侵害を直接惹起する、元画像ファイルへのリンク及びその画像表示の仕方の指定に係るリンク画像表示データをプロバイダ責任制限法4条1項の「侵害情報」に当たるものと認定判断しつつ、当該データをサーバーの記録媒体に記録してユーザーの端末に送信したリツイート者が「侵害情報の発信者」としてユーザーへの当該データの送信という「侵害情報の流通によって」氏名表示権を侵害したものと認定判断したものである。
1.氏名表示権を規定する「著作権法19条1項は,文言上その適用を,同法21条から27条までに規定する権利に係る著作物の利用により著作物の公衆への提供又は提示をする場合に限定していない。また,同法19条1項は,著作者と著作物との結び付きに係る人格的利益を保護するものであると解されるが,その趣旨は,上記権利の侵害となる著作物の利用を伴うか否かにかかわらず妥当する。そうすると,同項の『著作物の公衆への提供若しくは提示』は,上記権利に係る著作物の利用によることを要しないと解するのが相当である。
2.「被上告人は,本件写真画像の隅に著作者名の表示として本件氏名表示部分を付していたが,本件各リツイート者が本件各リツイートによって本件リンク画像表示データを送信したことにより,本件各表示画像はトリミングされた形で表示されることになり本件氏名表示部分が表示されなくなったものである(なお,このような画像の表示の仕方は,ツイッターのシステムの仕様によるものであるが,他方で,本件各リツイート者は,それを認識しているか否かにかかわらず,そのようなシステムを利用して本件各リツイートを行っており,上記の事態は,客観的には,その本件各リツイート者の行為によって現実に生ずるに至ったことが明らかである。)。また,本件各リツイート者は,本件各リツイートによって本件各表示画像を表示した本件各ウェブページにおいて,他に本件写真の著作者名の表示をしなかったものである。
・・・以上によれば,本件各リツイート者は,本件各リツイートにより,本件氏名表示権を侵害したものというべきである。」
3.「本件各リツイート者は,その主観的な認識いかんにかかわらず,本件各リツイートを行うことによって,・・・本件元画像ファイルへのリンク及びその画像表示の仕方の指定に係る本件リンク画像表示データを,特定電気通信設備である本件各ウェブページに係るサーバーの記録媒体に記録してユーザーの端末に送信し,これにより,リンク先である本件画像ファイル保存用URLに係るサーバーから同端末に本件元画像のデータを送信させた上,同端末において上記指定に従って本件各表示画像をトリミングされた形で表示させ,本件氏名表示部分が表示されない状態をもたらし,本件氏名表示権を侵害したものである。そうすると,上記のように行われた本件リンク画像表示データの送信は,本件氏名表示権の侵害を直接的にもたらしているものというべきであって,本件においては,本件リンク画像表示データの流通によって被上告人の権利が侵害されたものということができ,本件各リツイート者は,『侵害情報』である本件リンク画像表示データを特定電気通信設備の記録媒体に記録した者ということができる。
【Keywords】著作権法19条1項、著作物の公衆への提供・提示、写真家、氏名表示権、氏名表示権の侵害、写真画像、ツイッター、ツイート、リツイート、トリミング、プロバイダ責任制限法4条1項、侵害情報、侵害情報の発信者、侵害情報の流通、発信者情報開示
※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません
文責:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:k_iida@nakapat.gr.jp