【知財実務オンライン】特許権利化実務における論理と思考の軸としての仮説的推論〜化学発明を中心として〜」(弁理士・都祭正則)
論理的推論には「演繹」「帰納」の他に「仮説的推論(アブダクション)」が存在する。
1. 発明者資料には、客観的な事実は記載されているが、その構成を選んだ理由、他の構成がダメな理由、苦労話、効果発現のメカニズム等、「語られていない本質」が欠落している場合が多い。
アブダクションを用いて、「なぜこの記載があるのか」「なぜこの点に触れていないのか」と推論しながら発明者資料を検討する。
2. 発明者資料に記載された因果関係が「綺麗すぎる」場合、後付けの理屈であり、実際には試行錯誤や想定外の結果があったのではないかと仮説を立てて質問を準備する。
3. 発明者との面談面談は、「悪魔の代弁者」の役割を演じるため、信頼関係を構築する
4. 明細書作成(特に化学発明)では、メカニズムを断定的に書くと「容易に予測できた」と進歩性を否定されるリスクがあるため、「驚くべきことにこの効果が発現したが、メカニズムは完全には解明されていない。しかし、このように推測される」といった形で、あえて論理の「淀み」を作る筆致が有効である。
発明の課題は、ハードルを低く設定する(例:「速効性『または』高強度」とする、OKの基準値を緩める)ことで、より広い範囲をサポート要件違反なく権利化できる可能性が高まる。
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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