1.特許請求の範囲(訂正後の請求項1)
複数の炭素繊維強化樹脂層で構成される、ドライバー用ゴルフヘッドを装着する、ドライバー用ゴルフクラブ用シャフトであって、炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と、-30~-70°に配向された層とをシャフト全長に渡って貼り合せて成るバイアス層と、炭素繊維がシャフト軸方向に配向され、シャフトの全長に渡って位置するストレート層と、炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と、-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る細径側バイアス層と、さらに同様な太径側バイアス層を有しており、前記バイアス層と前記ストレート層の弾性率がともに、200GPa~900GPaの強化繊維から成る繊維強化樹脂層で構成され、
シャフトのトルクをTq(°)とした場合に、1.6≦Tq≦4.0を満たし、
前記バイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし、
前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に、0.05≦A/B≦0.12を満たし、
前記細径側バイアス層の重量をA(g)、前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に、1.0≦A/C≦1.8を満たす、ドライバー用ゴルフクラブ用シャフト。
2.サポート要件に関する判旨抜粋
『サポート要件を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくても当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日特別部判決・判時1911号48頁参照)。…
…本件各発明の課題は、「ねじり剛性が高い繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト(ロートルクの繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト)であって、スイングの安定性が高く、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されることなく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたものを提供すること」(以下「本件課題」という。)であると認めるのが相当である。…
シャフトのトルクを4.0°以下とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。…
シャフトのトルクを1.6°以上とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。…
バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。…
ストレート層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の20%以上とするとの点については、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。…
細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の180%以下とするとの点については、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。…
細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の100%以上とするとの点については、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。…
細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の12%以下とするとの点については、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。…
細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とするとの点については、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。』
3.若干の考察
一般に、サポート要件を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくても当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断する。この点は、知財高裁大合議判決平成17年(行ケ)第10042号【偏光フィルム】事件により確立している。
サポート要件の「発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」の判断は、特許請求の範囲に記載された全ての発明特定事項が揃ったときに発明の課題を解決できる(と当業者が認識できる)かが問題であり、一つ一つの発明特定事項により発明の課題を解決できる必要はないはずである。(例えば、下掲・知財高判令和1年(行ケ)10128【低鉄損一方向性電磁鋼板】事件<高部裁判長>、知財高判令和2年(ネ)10029【セルロース粉末】事件<大鷹裁判長>、東京地判令和1年(ワ)31214【塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム】事件<田中裁判長>、等参照)
それにも関わらず、本件判決は、8つの項目を立てて、4つの数値限定の上限及び下限を其々個別に取り上げ、それらの数値限定が独立に発明の課題を解決しないことを指摘して、サポート要件を否定した。
本件判決がサポート要件について何故このような判断枠組みを採ったかは判決文からは読み取れないが、本件発明は、異議手続において1つの数値範囲のみを限定した請求項(「0.5≦B/(B+S)≦0.8」)がサポート要件違反である旨の取消理由通知を受けたことに応じて、3つの数値限定を追加して4つの数値限定に増加したという経緯であるから、少なくとも特許権者は、訂正後の4つの数値限定の上限及び下限が相俟って本件発明の課題を解決すると主張しているはずである。
本件明細書においては実施例及び比較例がそれぞれ1点しかなかったこともあり、仮に4つの数値限定の上限及び下限を総合すれば本件発明の課題を解決できると当業者が認識できたという事情は無いかもしれない。しかしながら、各数値限定の上限及び下限について其々バラバラにサポート要件を判断した本判決の当てはめは、今後の事案においても同じ手法で判断されるとすれば、本件発明の課題解決と特定の構成ないし数値限定/パラメータ(の上限・下限)とが1対1対応している必要があることとなり、サポート要件の判断基準を実質的に変容しかねないものである。本判決の結論の是非は別として、本判決におけるサポート要件のあてはめについては、大いに議論されるべきであろう。
1.知財高判令和1年(行ケ)10128【低鉄損一方向性電磁鋼板】事件<高部裁判長>
【請求項1】 板厚方向に対する応力が引張り応力であり,かつその最大値が40MPa以上で鋼板素材の降伏応力値以下である応力が存在する領域が,鋼板の圧延方向に7.0mm以下の間隔で形成されていることを特徴とする低鉄損一方向性電磁鋼板。
「…サポート要件の適否を判断する前提としての当該発明の課題の認定は,原則として,発明の詳細な説明の記載に基づいてするのが相当である。…本件各発明については,「発明が解決しようとする課題」として記載されたとおり,「一方向性電磁鋼板の鉄損をヒステリシス損と渦電流損に分けて,特に磁区細分化による渦電流損の観点から,歪および応力分布を表面内だけでなく,板厚内部も含めて定量的に適正な条件下で制御することにより,優れた一方向性電磁鋼板を提供すること」を課題とする…。…
イ 作用機序について
(ア) 渦電流損の低減
本件明細書には,鋼板の板厚内部の応力状態,特に板厚方向に対する引張り応力こそが,還流磁区を発生させる芽であり,180度磁区細分化を促進させることが記載されている(【0015】)。…本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件各発明は,鋼板の板厚方向に対する引張り応力を導入し,その最大値が40MPa以上で鋼板 素材の降伏応力値以下である応力の存在する領域を,鋼板の圧延方向に7.0mm 以下の間隔で,鋼板の板厚内部に形成するとの構成を採用することにより,一方向性電磁鋼板の鉄損をヒステリシス損と渦電流損に分け,特に磁区細分化による渦電流損の観点から,歪及び応力分布を表面内だけでなく,板厚内部も含めて定量的に適正な条件下で制御することにより,優れた一方向性電磁鋼板を提供するとの課題を解決したものと認められる。
本件各発明の課題解決の機序…からすれば,…板厚,分布幅・照射痕幅等の諸条件のいずれかを変化させた試料で実験したとしても,本件発明の上記の課題解決手段の機序が大きく阻害されるとか,全く異なる機序に変化してしまうような事情が生じるとは解されない…。」
2.知財高判令和2年(ネ)10029【セルロース粉末】事件<大鷹裁判長>
【請求項1】・・・平均重合度が,該セルロース粉末を塩酸2.5N,15分間煮沸して加水分解させた後,粘度法により測定されるレベルオフ重合度より5~300高いことを特徴とするセルロース粉末。
「本件明細書には,実施例2ないし7及び比較例1ないし11のセルロース粉末について,それぞれの原料パルプ(市販SPパルプ,市販KPパルプ等)のレベルオフ重合度が記載されている…。…本件出願当時,酸加水分解時に,非結晶部分は酸で分解されやすいが,結晶部分は分解されず残り,残った部分の化学構造と結晶構造は,原料セルロースのままであって,分解されずに残った部分の結晶領域の長さが「レベルオフ重合度」に対応することは技術常識であったことを踏まえると,本件明細書の上記実施例及び比較例記載のセルロース粉末のレベルオフ重合度は,原料パルプのレベルオフ重合度とおおむね等しいものと理解できる。…加えて,本件明細書の表4には,実施例2ないし7及び比較例1ないし11のセルロース粉末の平均重合度の記載があることからすると,本件明細書に接した当業者は,上記セルロース粉末が差分要件を満たすかどうかを把握できるものと解される。また,本件明細書の表4には,「平均重合度」,「粒子の平均L/D(長径短径比)」,「平均粒子径」,「見掛け比容積」,「見掛けタッピング比容積」,「安息角」及び「平均重合度とレベルオフ重合度との差分」(差分要件)のいずれもが本件発明1の数値範囲内にある実施例2ないし7のセルロース粉末の円柱状成形体とそのいずれかが本件発明1の数値範囲外である比較例1ないし11とのセルロース粉末の円柱状成形体について,平均降伏圧[MPa],錠剤の水蒸気吸着速度Ka,硬度[N]及び崩壊時間[秒]が示されている。そして,実施例2ないし7のセルロース粉末は,いずれも,安息角が55°以下,錠剤硬度が170N以上,崩壊時間が130秒以下であり,ここで,安息角は,55°を超えると,流動性が著しく悪くなり…,錠剤硬度は成形性を示す実用的な物性値であり,170N以上が好ましく…,崩壊時間は崩壊性を示す実用的な物性値であり,130秒以下が好ましい…のであるから,実施例2ないし7のセルロース粉末は,成形性,流動性及び崩壊性の諸機能をバランスよく併せ持つセルロース粉末であるということができる。したがって,当業者は…実施例2ないし7のセルロース粉末は,本件発明1の課題を解決できると認識できる…。…
…本件明細書…の記載から,セルロース粉末がレベルオフ重合度まで加水分解されてしまうと,乾燥前のセルロース粒子のL/Dが低下しやすく,その後の乾燥工程でセルロース粒子が凝集して,得られるセルロース粉末のL/Dが小さくなり,L/Dが小さくなると,成形性が低下することを理解できる。そして,本件発明1の差分要件は,レベルオフ重合度まで重合度が低下しないように加水分解することを,セルロース粉末の平均重合度とレベルオフ重合度の差分(差分要件)で表し,その下限を「5」としたことを理解できるから,当業者は,本件発明1の差分要件の数値範囲の全体にわたり,本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められる。…」
3.東京地判令和1年(ワ)31214【塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム】事件<田中裁判長>
【請求項1】(赤線部分が「物性値」。黒字が「組成値」。⇒引用発明1-2(乙12)は「組成値」が全て一致し、「物性値」が不明である。)
A TD方向(ラップフィルムの幅方向)の引裂強度が2~6cNであり,かつ,
B MD方向(ラップフィルムの流れ方向)の引張弾性率が250~600MPaである
C 塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムであって,
D 温度変調型示差走査熱量計にて測定される低温結晶化開始温度が40~60℃であり,
E 塩化ビニリデン繰り返し単位を72~93%含有するポリ塩化ビニリデン系樹脂に対して,
F エポキシ化植物油を0.5~3重量%,クエン酸エステル及び二塩基酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を3~8重量%含有し,かつ,
G 厚みが6~18μmである,
H 塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。
「…被告は,仮に本件発明の組成値を満たすラップフィルムであれば本件発明の物性値も満たすという関係が否定されるのであれば…サポート要件を満たさない旨を主張する。…そこで検討するに,…本件明細書の「発明が解決しようとする課題」には,従来の塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムでは,カット性を良くするためにフィルムの引裂強度を低くすれば裂けトラブルが多発し,これを低減するためにフィルムの引裂強度を高くすればカット性が悪化するなど,裂けトラブルの抑制とカット性の向上の両立が課題となっていた旨の記載がある…。また,「課題を解決するための手段」には,本件発明は,上記課題の解決手段として,TD方向の引裂強度が2~6cNであること,MD方向の引張弾性率が250~600MPaであること,温度変調型示差走査熱量計によって測定される低温結晶化開始温度が40~60℃であることという 物性値を満たす構成の塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを採用した…旨の記載がある…。…そうすると,…本件発明の課題が,裂けトラブルの抑制とカット性の向上を両立させた塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを提供することにあるところ,本件発明は,その解決手段として,本件発明の組成値に加えて,本件発明の物性値を満たすものを採用したものであり,その結果,裂けトラブルの抑制とカット性の向上を両立させた塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを得ることができるものと優に認識できる…。」
(4) 決定取消事由の1(構成2ないし5に係るもの)について
ア 構成2について
(ア) Tq≦4.0°について
a シャフトのトルク(Tq)を4.0°以下とすることにより得られる効果等に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「トルク(Tq)を4.0°以下とすることによって、ゴルファーの力量が飛距離の安定性や左右への方向安定性に与える影響を低減させることができ、これらの両立を達成できる傾向にある。」との記載(【0021】)があり、また、「ねじり剛性が高い繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト(ロートルクの繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト)であって、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されることなく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたものが得られる」との効果(以下「本件効果」という。)が得られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例1の各トルク(°)がそれぞれ2.4及び4.8であるとの記載(【表4】)がある。しかしながら、これらの記載は、シャフトのトルクを4.0°以下とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、したがって、構成2のうちシャフトのトルクを4.0°以下とするとの点については、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、低トルクのシャフト(ねじり剛性が高いシャフト)が飛距離の安定性及び方向安定性において優れていることは本件出願日当時の技術常識であり、本件出願日当時の当業者は実施例1と比較例1との比較から、シャフトのトルクを4.0°以下とすることにより飛距離の安定性及び方向安定性(比較例1よりも優れた飛距離の安定性及び方向安定性)が得られるものと理解し得ると主張する。しかしながら、原告の上記主張並びに原告が上記技術常識に係る証拠として提出する甲12及び21ないし23は、シャフトのトルクを4.0°以下とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、シャフトのトルクを4.0°以下とすることにより本件課題が解決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成2のうちシャフトのトルクを4.0°以下とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
c なお、原告は、本件各発明が構造力学に基づく物理学的な発明であって、発明の実施方法や作用機序等を理解することが比較的困難な技術分野(薬学、化学等)に属する発明ではないとして、構成2の境界値の厳密な根拠が本件明細書に記載されている必要はないと主張するが、本件各発明が構造力学に基づく物理学的な発明であることをもって、シャフトのトルクを4.0°以下とすることにより本件課題が解決される理由を本件明細書の発明の詳細な説明において適切に説明する必要がないということはできないから、原告の上記主張を採用することはできない(この点については、以下の構成2のうちシャフトのトルクを1.6°以上とするとの点及び構成3ないし5についても同じである。)。
(イ) 1.6°≦Tqについて
a シャフトのトルク(Tq)を1.6°以上とすることにより得られる効果等に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明のゴルフクラブ用シャフトにおいては、トルク(Tq)が小さい程、方向安定性が優れる傾向にあるが、1.6°より大きくすることによって、シャフトに充分な強度を与えることができ、シャフトの折損を低減できる傾向にある。」との記載(【0021】)があり、また、本件効果が得られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例1の各トルク(°)がそれぞれ2.4及び4.8であるとの記載(【表4】)がある。しかしながら、これらの記載は、シャフトのトルクを1.6°以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、したがって、構成2のうちシャフトのトルクを1.6°以上とするとの点については、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、トルクが小さくねじれがないとシャフトがねじれにより折損してしまうことは本件出願日当時の当業者にとって自明であるし、トルクを1.6°程度とすることがシャフトの製造上の限界であることは当該当業者が当然に理解している事項であるから、当該当業者はシャフトのトルクを1.6°以上とすれば、使用に耐え得る十分な強度を有するシャフトとなるものと理解し得ると主張する。しかしながら、原告の上記主張のうちトルクを1.6°程度とすることがシャフトの製造上の限界であることを本件出願日当時の当業者が当然に理解していたとの事実を認めるに足りる証拠はないし、また、原告のその余の主張は、シャフトのトルクを1.6°以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、シャフトのトルクを1.6°以上とすることにより本件課題が解決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成2のうちシャフトのトルクを1.6°以上とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
イ 構成3について
(ア) 0.5≦B/(B+S)について
a バイアス層の合計重量(B(g))をバイアス層の合計重量とシャフト全体にわたって位置するストレート層(以下、単に「ストレート層」という。)の合計重量の和(B(g)+S(g))の50%以上とすることにより得られる効果等に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明のゴルフクラブ用シャフトは、シャフトに使用するバイアス層の合計重量をB(g)、シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に、0.5≦B/(B+S)≦0.8・・・(1)を満たすことが重要である。(1)は、技量が高いゴルファーやスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なトルクTq(°)を生み出す要素を示している。つまり、(1)を満たさないゴルフクラブ用シャフトは、シャフトが捩じれすぎたり、または捩じれないがためにシャフトが折損してしまう原因につながる。」との記載(【0014】)があり、また、本件効果が得られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例1における各B/(B+S)がそれぞれ0.6及び0.4であるとの記載(【表4】)がある。しかしながら、これらの記載は、本件各発明におけるB/(B+S)に係る0.5との数値が実施例1における0.6及び比較例1における0.4の中間値であることを含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、したがって、構成3のうちバイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とするとの点については、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、バイアス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小さくできることは自明であり本件出願日当時の技術常識であるとして、本件出願日当時の当業者は実施例1と比較例1との比較から、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上としておけば、その他の条件を技術常識の範囲内で適宜調整して決定することで、容易にTq≦4.0°の構成(構成2)が得られるものと理解し得ると主張する。しかしながら、バイアス層の重量の割合を大きくすることでシャフトのトルクを小さくできることが本件出願日当時の技術常識であったとしても、原告の上記主張は、実施例1と比較例1を比較する点を含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とすることにより本件課題が解決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成3のうちバイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
(イ) B/(B+S)≦0.8について
a ストレート層の合計重量(S(g))をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和(B(g)+S(g))の20%以上とすることにより得られる効果等に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、前記(ア)aの記載(【0014】及び【表4】)がある。しかしながら、これらの記載は、ストレート層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の20%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、したがって、構成3のうちストレート層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の20%以上とするとの点については、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、ストレート層がシャフトの曲げ剛性及び曲げ強度を高め、曲げによる折損を防ぐ役割を果たすこと並びに曲げによる折損を防止するとの観点からストレート層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の20%程度以上とすべきことは本件出願日当時の技術常識であるとして、本件出願日当時の当業者はストレート層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の20%以上としておけば、シャフトが曲げにより折損すること(ねじれがないためにシャフトが折損すること)を防ぎ得るものと理解し得ると主張する。しかしながら、原告が上記技術常識に係る証拠として提出する甲12、21及び23によっても、曲げによる折損を防止するとの観点からストレート層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の20%程度以上とすべきことが本件出願日当時の技術常識であったとの事実を認めることはできず、その他、本件出願日当時にそのような技術常識が存在したものと認めるに足りる証拠はない。
そうすると、ストレート層がシャフトの曲げ剛性及び曲げ強度を高め、曲げによる折損を防ぐ役割を果たすことが本件出願日当時の技術常識であったとしても、原告の上記主張は、ストレート層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の20%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、ストレート層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の20%以上とすることにより本件課題が解決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成3のうちストレート層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の20%以上とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
ウ 構成5について
(ア) A/C≦1.8について
a 細径側バイアス層の重量(A(g))を太径側バイアス層の重量(C(g))の180%以下とすることにより得られる効果等に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「シャフトに使用する細径側バイアス層の重量をA(g)、太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に、1.0≦A/C≦1.8・・・(4)の条件を満たすのが好ましい。この(4)の条件を満たすことによって、技量が高いゴルファーやスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なシャフトの捩じれ剛性値を得ることができるとともに、スイング時におけるグリップ部の安定性が向上する傾向にある。より好ましい条件は、1.1≦A/C≦1.8であり、さらに好ましい条件は、1.2≦A/C≦1.8であり、飛距離の安定性と方向安定性がより向上する傾向にある。」との記載(【0019】)があり、また、本件効果が得られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例1における各A/Cがいずれも1.2であるとの記載(【表4】)がある。しかしながら、これらの記載は、細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の180%以下とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、したがって、構成5のうち細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の180%以下とするとの点については、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の180%以下とすることにより【0019】に記載された効果(技量が高いゴルファーやスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なシャフトのねじれ剛性値を得ることができるとともに、スイング時におけるグリップ部の安定性が向上するとの効果)が得られる結果として、細径側バイアス層を積層するだけでなく太径側バイアス層をも積層することで、単に細径部のトルクを小さくすることを回避し、デメリット(非熟練ゴルファーにとってフィーリングが硬くなったりヘッドの返り(トゥダウン)が悪くなったりすること)が生じないようにし得ることは本件出願日当時の当業者にとって自明であるとして、当該当業者は細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の180%以下とすることにより上記のデメリットを回避できるものと理解し得ると主張する。しかしながら、細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の180%以下とすることにより上記のデメリットを回避し得ることが本件出願日当時の当業者にとって自明であったとの事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、原告の上記主張は、細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の180%以下とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の180%以下とすることにより本件課題が解決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成5のうち細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の180%以下とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
(イ) 1.0≦A/Cについて
a 細径側バイアス層の重量(A(g))を太径側バイアス層の重量(C(g))の100%以上とすることにより得られる効果等に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、前記(ア)aの記載(【0019】及び【表4】)がある。しかしながら、これらの記載は、細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の100%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、したがって、構成5のうち細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の100%以上とするとの点については、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、本件各発明は細径部のトルクを小さくすることが飛距離の安定性及び方向安定性を高めるとした甲6発明の効果を前提としつつ、更に前記(ア)bの非熟練ゴルファーにとってのデメリットを克服するとの課題を解決するものであるから、本件出願日当時の当業者は細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の100%以上とすることにより【0019】に記載された効果(技量が高いゴルファーやスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なシャフトのねじり剛性値を得ることができるとともに、スイング時におけるグリップ部の安定性が向上するとの効果)が得られる結果として、細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の100%以上とすることにより飛距離の安定性及び方向安定性が高まるものと理解し得ると主張する。しかしながら、甲6によっても、本件出願日当時の当業者において、細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の100%以上とすることにより飛距離の安定性及び方向安定性が高まるものと理解し得たとの事実を認めることはできず、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、原告の上記主張は、細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の100%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の100%以上とすることにより本件課題が解決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成5のうち細径側バイアス層の重量を太径側バイアス層の重量の100%以上とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
エ 構成4について
(ア) A/B≦0.12について
a 細径側バイアス層の重量(A(g))をバイアス層の合計重量(B(g))の12%以下とすることにより得られる効果等に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、「シャフトに使用する細径側バイアス層の重量をA(g)、バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に、0.05≦A/B≦0.12・・・(2)が好ましい範囲である。この範囲であると、技量が高いゴルファーやスイングスピードが速いゴルファーに必要なシャフトの捩じれ剛性値となるため好ましい範囲である。また、0.06≦A/B≦0.12であるとより好ましく、0.07≦A/B≦0.12であると飛距離の安定性と方向安定性が期待できるため、さらに好ましい範囲である。」との記載(【0017】)があり、また、本件効果が得られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例1における各A/Bがそれぞれ0.08及び0.14であるとの記載(【表4】)がある。しかしながら、これらの記載は、本件各発明におけるA/Bに係る0.12との数値が実施例1における0.08と比較例1における0.14の間にある値であることを含め、細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の12%以下とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、したがって、構成4のうち細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の12%以下とするとの点については、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、細径側バイアス層を積層するだけでなく全長バイアス層や太径側バイアス層をも積層することにより、細径部のトルクだけが小さくなることを回避して非熟練ゴルファーにとってのデメリット(フィーリングが硬くなったりヘッドの返り(トゥダウン)が悪くなったりすること)が生じないようにし、幅広いゴルファーにとってフィーリングが良好なシャフトを実現し得ることは本件出願日当時の当業者にとって自明であるから、当該当業者は細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の12%以下とすることで、非熟練ゴルファーにとってもフィーリングが良好なシャフトを実現し得るものと理解し得ると主張する。しかしながら、本件出願日当時の当業者において、細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の12%以下とすることで、非熟練ゴルファーにとってもフィーリングが良好なシャフトを実現し得るものと理解し得たとの事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、原告の上記主張は、細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の12%以下とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の12%以下とすることにより本件課題が解決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成4のうち細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の12%以下とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
(イ) 0.05≦A/Bについて
a 細径側バイアス層の重量(A(g))をバイアス層の合計重量(B(g))の5%以上とすることにより得られる効果等に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、前記(ア)aの記載(【0017】及び【表4】)がある。しかしながら、これらの記載は、細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、したがって、構成4のうち細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とするとの点については、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件出願日当時の当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
b 原告は、本件各発明は細径部のトルクを小さくすることが飛距離の安定性及び方向安定性を高めるとした甲6発明の効果を前提としつつ、更に非熟練ゴルファーにとってのデメリット(フィーリングが硬くなったりヘッドの返り(トゥダウン)が悪くなったりすること)を克服するとの課題を解決するものであり、加えて、本件各発明におけるA/Bに係る0.05以上0.12以下との数値範囲が実施例1におけるA/B(0.08)をほぼ中央値とするものであることも併せ考慮すると、本件出願日当時の当業者は細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることで、上記のデメリットを回避しつつ、飛距離の安定性及び方向安定性を高め得るものと理解し得ると主張する。しかしながら、甲6によっても、本件出願日当時の当業者において、細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることにより上記のデメリットを回避しつつ、飛距離の安定性及び方向安定性を高め得るものと理解し得たとの事実を認めることはできず、その他、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件各発明におけるA/Bに係る0.05以上0.12以下との数値範囲が実施例1におけるA/B(0.08)をほぼ中央値とするものであることを考慮しても、原告の上記主張は、細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、その他、細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とすることにより本件課題が解決されるとの本件出願日当時の技術常識を認めるに足りる証拠はないから、構成4のうち細径側バイアス層の重量をバイアス層の合計重量の5%以上とするとの点については、本件出願日当時の当業者がその当時の技術常識に照らし本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
オ 原告のその余の主張(決定取消事由の1(構成2ないし5に係るもの)に関連するもの)について
(ア) 原告は、低トルクのシャフト(ねじり剛性が高いシャフト)が飛距離の安定性及び方向安定性において優れているとの技術常識並びにバイアス層を増やすことにより低トルクのシャフトが得られるとの技術常識を有する本件出願日当時の当業者が本件明細書を読めば、実施例1及び比較例1における各トルクから、トルクを比較例1のそれよりも有意に小さい4.0°以下とし、実施例1及び比較例1における各バイアス層の割合(B/(B+S))から、バイアス層の割合(B/(B+S))を比較例1のそれよりも有意に大きい0.5以上とすることにより、比較例1よりも良好な飛距離の安定性及び方向安定性が得られるであろうことを当然に理解し得ると主張する。しかしながら、実施例1及び比較例1の記載から、本件出願日当時の当業者において、トルクを比較例1のそれ(4.8°)よりも有意に小さい角度とすること及びバイアス層の割合(B/(B+S))を比較例1のそれ(0.4)よりも有意に大きい値とすることにより、比較例1よりも良好な飛距離の安定性及び方向安定性を示すであろうと推測し得るとしても、当該当業者において、トルクを具体的に(1.6°以上)4.0°以下とすること及びバイアス層の割合(B/(B+S))を具体的に0.5以上(0.8以下)とすることにより、本件課題を解決できると認識できるとは認められない。
(イ) 原告は、本件出願日当時の当業者は本件明細書の記載により、本件各発明の構成要件を充足し、その他の条件につき当該当業者が技術常識の範囲内で決定したシャフトであれば、その飛距離及び方向が比較例1のシャフトにおける飛距離及び方向と比較してより安定したものとなることを容易に理解し得ると主張する。しかしながら、前記アないしエにおいて説示したところに照らすと、仮に本件各発明の課題が飛距離及び方向において比較例1のシャフトよりも安定したシャフトを得ることであるとしても、実施例1及び比較例1を含む本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、本件出願日当時の当業者において、本件各発明の構成要件を充足するシャフトであれば当該課題を解決できると認識できると認めることはできないというべきである。
(原告)三菱ケミカル株式会社
(被告)特許庁長官
執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)(特許ニュース令和6年4月15日の原稿を追記・修正したものです。)
監修:吉田和彦(弁護士・弁理士)
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