◆判決本文
『ほぼ並行状で相対向している一対の第1グリップ部と、該第1グリップ部それぞれの両端部同士を接続し、第1グリップ部相互の間隔に比し狭くしてほぼ並行状に相対向している一対の第2グリップ部とによって全体を平面からみてほぼ横長矩形枠を呈した一体のループ状に形成して成り、第1グリップ部は直線状もしくは緩やかな曲線状に形成され、第2グリップ部は正面からみて弓形に湾曲され、中央部分が相互に近接するように平面からみて矩形枠の内方に向かってやや窄まり状に形成されていることを特徴とするトレーニング器具。』
『(相違点3)本件発明1は、支持及びクランプアセンブリを備えないのに対し、甲1発明は、 これを備える点』
『甲1に「甲1記載の発明は、2つの主要構成要素(バー及びハンドルアセンブリと支持及びクランプアセンブリ)を有する」旨の記載や「バー10が中央に位置する重量支持プラットフォーム26に固定される」旨の記載があること、甲1の特許請求の範囲にバー及びハンドルアセンブリと支持及びクランプアセンブリとがまとめて記載されていること、甲1に支持及びクランプアセンブリを備えない発明についての記載がないこと、甲1にバー10のみが独立して運動器具としての作用効果を奏するとの記載又は示唆がなく、実際にも、バー10のみを使用しても上腕三頭筋に負荷が掛かるトレーニングをすることができないことなどからすると、甲1記載の上腕三頭筋運動具において、バー10は、重量支持プラットフォーム26等により構成される支持及びクランプアセンブリと不可分一体のものであり、バー10のみを上腕三頭筋運動具として使用することは想定されていないといえるから、甲1記載の上腕三頭筋運動具の部材の一つにすぎないバー10のみを抽出し、これを独立の運動器具として引用発明とすることはできない。』
<本件特許発明> | <甲1発明(「支持及びクランプアセンブリ」は28)> |
『本件においては、バー10のみ(甲7発明)が独立した引用発明であると認定することはできず、バー10のみならず重り支持部分をも備えた甲7発明(被告)が引用発明であると認定するのが相当であるから、甲7公報記載の発明を引用発明とする本件各発明の進歩性の判断…に当たっては、そのような甲7発明(被告)から重り支持部分を取り除くことについての容易想到性が問題となるところ、甲7発明(被告)におけるバー10は、甲7発明(被告)を構成する部材の一部であり、重り支持部分と不可分の部材であるから、バー10のみをもって、原告が主張するリング状の器具であるとみることはできない…。』
『原告は、本件発明1の構成が全て甲1発明に包含されるとして、本件発明1と本件審決が認定した甲1発明とを対比しても、両者の間に相違点はないと主張するが、…三頭筋運動器具の発明に関する甲1の記載から、その部材の一つにすぎないバー10のみを抽出し、これを独立した運動器具の発明であると解することができない以上、甲1発明は、支持及びクランプアセンブリとバー10とが不可分一体となった発明であるとみざるを得ず、したがって、本件発明1と甲1発明との間の相違点として被告が主張する相違点3を捨象することはできない。』
『甲1発明は、ウエイトリフティング装置として、バー10に錘支持部分(重量支持プラットフォーム26、クランプ部材28、固定支柱38)を固定し、錘40を重量支持プラットフォーム26に固着して使用することを前提とした発明である。すなわち、バー10は、重量支持プラットフォーム26等により形成される支持及びクランプアセンブリと物理的に一体となって作用効果を奏するものであるし、バー10が独立して運動器具としての作用効果を奏することについて、甲1には記載も示唆もないから、甲1に接した当業者にとって、甲1発明から支持及びクランプアセンブリを取り外す動機付けがあるとは認め難く、かえって、甲1発明から支持及びクランプアセンブリを取り外すことには阻害要因があるというべきである(…そもそも甲1発明は、支持及びクランプアセンブリを取り外し、バー10のみで使用することをおよそ想定していない発明であるというべきである。)。 したがって、当業者において、相違点3に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たものと認めることはできない。』
(1)以下に引用するとおり、引用発明の認定において、引用文献に記載された具体的構成の一部を認定することは当然には許されず、一般的に、出願当時の当業者が当該一部の構成を発明(ひとまとまりの技術的思想)として認識できた必要がある。
本件各判決は、引用文献に記載された実施例が「構成Ⓐ(バー10)」+「構成Ⓑ(支持及びクランプアセンブリ26及び28)」である状況で、「構成Ⓐ(バー10)」のみを(主)引用発明として認定できないと判断したものであり、過去の多数の裁判例と整合する。
(2)他方、視点を変えてみると、過去の多数の裁判例は組合せによる進歩性が問題となった事案は、主引用文献に記載された具体的構成の一部を捨象して主引用発明を認定し、それに副引例を組み合わせて進歩性を否定できるかが問題となった事案である。
他方、本事案は新規性が問題となっており、「構成Ⓐ(バー10)」+「構成Ⓑ(支持及びクランプアセンブリ26及び28)」という主引用発明が、「構成Ⓐ」である本件特許発明と同一であるかが一つの争点であった。
本件特許発明は、「構成Ⓑ」を有しないことを発明特定事項としていないにもかかわらず、「本件発明1の構成が全て甲1発明に包含されるとして、本件発明1と本件審決が認定した甲1発明とを対比しても、両者の間に相違点はない」という原告の主張は何故排斥されたのであろうか?
仮に、主引用文献に記載された具体的構成の『イ号製品』が存在したときに、「構成Ⓐ」である本件特許発明を充足するにもかかわらず、「構成Ⓑ」が付加されていることを理由に非充足となるのであろうか?
この点について、本判決は「三頭筋運動器具の発明に関する甲1の記載から、その部材の一つにすぎないバー10のみを抽出し、これを独立した運動器具の発明であると解することができない」と判示していることから、逆に言えば、本件特許発明は『バー10のみ…を独立した運動器具の発明』であるとクレーム文言解釈したと理解する他ない。そうであるならば、(充足する構成に更なる構成を付加しても原則として充足という)充足論の一般論とも整合するし、「構成Ⓑ」が付加されていることを相違点としたことも納得である。
ただし、判決文中、本件特許発明を、「構成Ⓐ」のみであるとか、「構成Ⓑ」が付加されていないとかクレーム文言解釈を判示していないため、若干理解が難しいところである。
<1-1>知財高判平成19年(行ケ)第10065号【連結部材】事件
『引用例2に記載された連結部材は,「周方向に各々空間33により離間されて,環状列に配置された複数の弓形突出部32」を具えることにより,公知の連結部材に比べて,より柔軟な連結部を構成することを目的とするものと認められる。このような目的に照らせば,引用例2に記載された連結部材は,「周方向に各々空間33により離間されて環状列に配置された複数の弓形突出部32」に「フック部34」を形成したものとして開示されており,「周方向に空間33により離間されたフック部34」単独からなる構成が開示されているとは認められない。』
<1-2>知財高判平成18年(行ケ)第10138号【反射偏光子】事件<中野裁判長>
『…引用例1には,液晶表示素子,光源,表示モジュール,反射型直線偏光素子の各構成要素が記載されていると認められる。しかし,引用例1の液晶表示素子においては,反射型偏光子とミラーとの間に位相差板を配置することが,必須の構成であり,位相差板とミラーを有しない反射型偏光子単独では,「反射型偏光子」を用いる技術的意味を有しないものとなってしまう…。したがって,引用例1に審決のいう引用発明を構成する各構成要素が記載されていても,反射型偏光子を含む液晶表示素子の発明を,ひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握することはできない…。』
<1-3>知財高判平成22年(行ケ)第10056号【液体収納容器,該容器を備える液体供給システム】<塩月裁判長>
『…④の周知技術の認定で審決が説示する「液体インク収納容器からの色情報」が単に液体インク収納容器のインク色に関する情報でありさえすればよいとすると,前記周知技術は,液体インク収納容器と記録装置側とが発光部と受光部との間の光による情報のやり取りを通じて当該液体インク収納容器のインク色に関する情報を記録装置側が取得することを意味するものにすぎない。このような一般的抽象的な周知技術を根拠の一つとして,相違点に関する容易想到性判断に至ったのは,本件発明3の技術的課題と動機付け,そして引用発明との間の相違点1ないし3で表される本件発明3の構成の特徴について触れることなく,甲第3号証等に記載された事項を過度に抽象化した事項を引用発明に適用して具体的な本件発明3の構成に想到しようとするものであって相当でない。』
<1-4>知財高判平成23年(行ケ)第10100号【高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板】事件
『…引用例の【表1】には,独立した5種の鋼が例示され,鋼1ないし鋼5には,含有されている元素の含有量が示されている。ところで,合金においては,それぞれの合金ごとに,その組成成分の一つでも含有量等が異なれば,全体の特性が異なることが通常であって,所定の含有量を有する合金元素の組合せの全体が一体のものとして技術的に評価される…。…
本件全証拠によっても,「個々の合金を構成する元素が他の元素の影響を受けることなく,常に固有の作用を有する」,すなわち「個々の元素における含有量等が,独立して,特定の技術的意義を有する」と認めることはできない。したがって,引用例に,複数の鋼(鋼1ないし鋼5)が実施例として示されている場合に,それぞれの成分ごとに,複数の鋼のうち,別個の鋼における元素の含有量を適宜選択して,その最大含有量と最小含有量の範囲の元素を含有する鋼も,同様の作用効果を有するものとして開示がされているかのような前提に立って,引用発明の内容を認定した審決の手法は,技術的観点に照らして適切とはいえない。
…引用例記載の発明の課題は,鋼の特性を利用して解決されるものであるところ,引用例には,1つの鋼を組成する成分の組合せ及び含有量が,一体として,鋼の特性を決定する上で重要な技術的意義を有することが示されているから,各成分の組合せや含有量を「一体として」の技術的意義を問題とすることなく,記載された含有量の個々の数値範囲の記載を組み合わせて発明の内容を理解することは,適切を欠く。
以上のとおり,審決は,引用発明の認定に誤りがある。』
<1-5>知財高判平成23年(行ケ)第10385号【炉内ヒータを備えた熱処理炉】事件<芝田裁判長>
『引用発明は,従来技術である第3図,第4図に記載の焼成炉の問題を解決するため,ファン28を炉内に設けた構成が特徴点となっているのであり,その特徴点をないものとして引用発明を認定することは,引用例に記載されたひとまとまりの技術的思想を構成する要素のうち技術的に最も重要な部分を無視して発明を認定するものであり,許されないというべきである。
引用発明においては,炉体の外部に配置された駆動モータにより駆動されるとともに一つの炉壁に支持されているファン28によって,ヒータの熱で高温になった雰囲気ガスを強制的に攪拌することで炉内温度を均一にするものであるから,ヒータ33は,ファン28と被焼成物が収容されている匣組み22との間に位置することが合理的であり,発熱体が炉側壁に沿って並列する構成は想定できないというべきである。』
<1-6>知財高判平成23年(行ケ)第10284号【オープン式発酵処理装置】事件
『…引用発明においては,撹拌機の構成と移動通路とは機能的に結び付いているものである。
そうすると,引用発明の発酵処理装置の構成から移動通路(15)を省略し,かつ奥行き方向に往復して撹拌する撹拌機の構成を長尺方向にのみ往復移動しながら撹拌動作する…周知技術に係る撹拌機の構成に改め,同時に概念的,論理的に複数に区切られた発酵槽内の領域を,発酵槽開口部の所望の個所から被処理物の投入・堆積・取出しを行うことができるようにするべく,領域ごとに被処理物の滞留日数及び撹拌頻度を管理することができるようにすることは,甲第2,第3号証に表れる構成が当業者に周知のものであるとしても,本件出願当時,当業者において容易ではあったと認めることはできない。』
<1-7>知財高判平成29年(行ケ)第10119号、第10120号【空気入りタイヤ】事件<高部裁判長>
『 本件審決は,甲4に甲4技術が記載されていると認定した。しかし,…甲4には,特許請求の範囲にも,発明の詳細な説明にも,一貫して,ブロックパターンであることを前提とした課題や解決手段が記載されている。また,…甲4には,前記イ①ないし③の技術的事項,すなわち,溝面積比率,独立カーフ,タイヤ幅方向全投影長さとタイヤ周方向全投影長さの比に関する甲4技術Aが記載されている。そこで,これらの記載に鑑みると,上記イ①ないし③の技術的事項は,甲4に記載された課題を解決するための構成として不可分のものであり,これらの構成全てを備えることにより,耐摩耗性能を向上せしめるとともに,乾燥路走行性能,湿潤路走行性能及び乗心地性能をも向上せしめた乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供するという,甲4記載の発明の課題を解決したものと理解することが自然である。したがって,甲4技術Aから,ブロックパターンを前提とした技術であることを捨象し,さらに,溝面積比率に係る技術的事項のみを抜き出して,甲4に甲4技術が開示されていると認めることはできない。よって,本件審決における甲4記載の技術的事項の認定には,上記の点において問題がある。… 』
<1-8>知財高判令和1年(行ケ)第10102号【立坑構築機】事件<高部裁判長>
『原告らは,引用例3に記載された発明においても,本件発明と同様の「内輪,外輪,転動体」の一体構造が開示されているから,本件発明は特別に何ら技術的意義を有しないと主張し,また,引用例3から前記第3の2〔原告らの主張〕⑴のとおりの発明が認定されるべきであると主張する。しかしながら,引用例3から前記第3の2〔原告らの主張〕⑴のとおりの発明を認定することは,旋回座軸受の一部のみに着目することになるが,これだけでは旋回座軸受が一体として機能することがないから,引用例3から原告らの主張するように発明を認定することは相当でない。』
<1-9>知財高判平成27年(行ケ)第10077号【水洗便器】事件<清水裁判長>
『…原告は,ボウル面の上縁部に洗浄水を導く水平な通水路を備えることは,ボール面噴出口が1つであるか2つであるかを問わない周知技術である旨を主張する。しかしながら,水洗便器の技術分野において,洗浄水の噴出口の数,通水路の構造と洗浄水の供給路,流水路とは一連の技術事項であるといえ,このような一連の技術の一面だけに着目し,ひとまとまりの技術事項の一部を抽出することは,それ自体が技術思想の創作活動であるから,安易な抽象化,上位概念化は許されず,技術事項に対応した慎重な検討が求められるというべきである。…水洗便器の洗浄においては,洗浄水の供給の形態,噴出口の数,通水路及び流水路の形状に様々なものがあり,このような様々な洗浄方式の相違を考慮せずに,ボウル面の上縁部に洗浄水を導く水平な通水路を備えることが,噴出口の数,そして,それにより当然に異なる洗浄水の流路のいずれも問わない周知技術であると認めることは相当でなく,少なくとも,本件訂正発明及び甲1発明と同様の,洗浄水の水平方向への供給口が一つであって,その流路が一方向である水洗便器の洗浄方式を前提として,上記の周知技術が認められるか否かを判断すべきものといえる。』
<1-10>知財高判平成25年(ネ)第10025号【金属製ワゴン】事件<清水裁判長>
『乙7には,「箱底」の四辺に「側壁」と「内接片」が,この順序で連接されていて,四辺に近い方の「側壁」が,「支柱の幅の長さ分だけ切欠」かれている構成は,開示されていない。箱底から遠い外側側板の一部を切欠した甲2発明から,内外いずれの側板であってもその一部だけを切欠するという上位概念化した技術思想を抽出し,乙13発明の内側に折り返した内側側板に適用しようとすることは,当業者にとって容易とはいえず,これを容易想到とする考えは,まさに本件発明の構成を認識した上での「後知恵」といわなければならない。』
<1-11>知財高判令和2年(行ケ)第10066号【2軸ヒンジ】事件<森裁判長>
『(請求項2)…機能的に連動しており、一体的に構成され、…上記の一体的に構成された部材から、支持片511及び支持片512のみを取り出して、一対の支持片を有するという構成を甲2発明に適用する動機付けはない…。…甲2発明は、甲1発明のストッパ機構に相当する部材を備え…甲2発明は、選択的回転規制手段を有し…甲1発明の上記の一体的に構成された部材は、ストッパ機構と選択的回転規制手段を含むものであるから、甲1発明の上記の一体的に構成された部材を甲2発明に適用しようする動機付けもない…。』
<1-12>知財高判平成31年(行ケ)第10041号【創傷被覆材】事件<菅野裁判長>
『…甲4に記載された発明は,創傷面と第2層との間において適度な貯留空間を形成して創傷面上に適度な滲出液を保持するとともに,滲出液が面内方向に広がるのを防止する機能を有する多数の孔が設けられた第1層と,初期耐水圧シート材である第2層,水を吸収し保持することが可能なシート材(第3層)を一体化させた構造を有することにより,創傷面の湿潤状態を保つ技術的意義を有するものであるから,甲4に記載された発明のうち第1層のみを取り出して,甲1発明に適用する動機付けはない。…原告が主張する技術常識1の3つの機能は,そのような機能を有する創傷被覆材に関する上記3つの特許文献に記載されているにすぎず,具体的な創傷被覆材の構成を捨象して,このような特許文献の各記載から,創傷被覆材一般において,湿潤療法を効果的に行うためには,技術常識1の機能を持たせることが技術常識であると認めるには足りない。』
<1-13>知財高判令和1年(行ケ)第10159号【X線透視撮影装置】事件<菅野裁判長>
『…審決は,回転処理されるX線の画像は術者が装着したHMDの画像であること,操作者を兼ねた術者の位置情報が床面(センサ)からのものであるという構成を捨象して,「X線画像を見る者によるX線画像と実際の患者の位置把握を容易にするために,X線画像を見る者の位置情報に基づいてX線画像302の回転処理を行う」という技術事項(技術事項2)を認定したものであり,技術事項の範囲を不当に抽象化,拡大化するものといえ,誤りである。』
<2-1>東京高判平成15年(行ケ)第348号【べら針】事件
『甲5公報及び甲6公報…に接した当業者は,半抜き加工により被加工材を塑性変形させて凹部を形成する際,当該凹部の溝底の形状を平坦にするという技術手段を理解するに当たって,原告主張に係る甲5公報及び甲6公報記載の発明の目的や他の構成要素を,本件技術手段と一体不可分なものとして理解しなければならない理由はないから,当業者は,本件技術手段を,一般の金属板半抜き加工技術として,任意に転用可能な技術手段であると理解するというべきである。』
<2-2>知財高判平成17年(行ケ)第10024号【フェンダーライナ】事件
『原告は,引用例1の実施例1によると,吸音材の厚さは30mmであり,この厚さから密度を計算すると,密度は約0.03g/cm3となり,硬質繊維板どころか,JISに定義されている中質繊維板の密度よりもはるかに小さい旨主張する。しかし,審決が引用発明としているのは,数値による定量的な事項を捨象した「PET繊維を熱可塑性樹脂バインダー(バインダー繊維)で融着結合してなるPET不織布をコールドプレスし,所定形状に賦形した自動車のエンジンルーム内に適用される防音材」という発明である。そして,引用発明を,実施例1に記載されている定量的な事項によって限定されなければならないような事情は見当たらない。』
<2-3>知財高判平成17年(行ケ)第10672号【高周波ボルトヒータ】事件
『…引用発明の認定においては,引用発明に含まれるひとまとまりの構成及び技術的思想を抽出することができるのであって,その際引用刊行物に記載された具体的な実施例の記載に限定されると解すべき理由はない。
…甲1自体には実現できるように記載されてない高周波誘導加熱の具体的な構成そのものは,…本件特許出願当時,…技術常識であったのであるから,当業者は,甲1の「…高周波加熱トーチ」の高周波誘導加熱に上記技術常識であった誘導加熱体の具体的な構成を参酌し,高周波誘導加熱を実現することができるものとして,甲1発明を把握することができたものと認められる。』
<2-4>東京高判平成16年(行ケ)第159号【遊技機における制御回路基板の収納ケース】事件
『本件決定が刊行物2,3を引用したのは,遊技機の制御回路基板の収納ケースにおいて,該収納ケースの底板部に基板固定ピンを突設し,該基板固定ピンにより前記収納ケースの底板部に制御回路基板を固定させることが本件特許出願時に周知であったことを明らかにするためである。そして,制御回路基板を同基板の収納ケースの底板部に固定する技術と制御回路基板の収納ケースに静電気(電磁波)対策を施す技術とは技術的に関連性がないことは刊行物2,3の記載及び技術常識に照らして明らかであり,刊行物2,3の上記技術事項を刊行物1発明に適用する際に,静電気対策上悪影響があるか否かの問題は生じない…。』
<2-5>知財高判平成22年(行ケ)第10160号【封水蒸発防止剤】事件
『引用発明2は,…粘着剤層(2a)が担う軽剥離が可能とするとの機能は,粘着剤層(2b)とは独立した機能の併存によって達成されるものであるから,粘着剤層(2b)が存在することによって影響を受けるものではなく,粘着剤層(2a)のみによって独自に発揮されるものということができる。そうであるから,…当業者は,引用発明2の構成に係る粘着力が相対的に弱い粘着剤層(2a)と粘着力が相対的に強い粘着剤層(2b)とをそれぞれ別個の構成のものとして認識することができ,それぞれが有する技術的意義も個別に認識することができるから,粘着剤層(2a)について,チップ状ワークを粘着剤層から剥離する時の軽剥離性に着目し,この粘着力が相対的に弱いものとして,独立して抽出することができるものということができる。』
<2-6>知財高判平成22年(行ケ)第10220号【携帯型家庭用発電機】事件
『なるほど,引用発明は,引用例記載の「携帯用扇風機」における,太陽光発電及び充電時の一態様であって,一義的には当該扇風機の駆動に供するものであるといえる。しかし,引用発明が開示する太陽光発電,充電時の開示された構造及びその機序は扇風機の駆動と直接関係しているものではなく,それ自体が技術的に独立し,技術的に扇風機の駆動と分離して論ずることができる…。したがって,引用例におけるこのような記載事項に接した当業者は,引用例に記載された事項を総合的にみて,独立した技術思想として,多目的活用可能な太陽電池である引用発明を読み取ることができる…。』
=平成17年(行ケ)第10105号【レンジ用炊飯器】事件
<2-7>知財高判平成18年(行ケ)第10499号【無線式ドアロック制御装置】事件<篠原裁判長>
『引用例2には,1つの技術のみが記載されているというものではなく,…種々の発明が記載されているところ,その中から,引用発明2Aという公知技術を把握することもできれば,付随事項①及び②を含めた公知技術を把握することもできる。そして,前者は,後者の上位概念に当たることが明らかであるが,公知技術との対比における進歩性の認定判断においては,本件発明に最も近い技術を選択するのが常道である。…スイッチが露出して設けられている場合,意図しない接触等により,スイッチの誤操作が生じ得ることは,経験則上明らかな事項であり,露出して設けられているスイッチによって施錠したり解錠したりする構造のものにおいては,スイッチの無意識的な誤操作によりロックが解除されるという事態が起こり得るという技術常識は,当業者が当然に気が付くものであり,かつ,その問題意識を持っているべきものである。したがって,引用例2に接した当業者が,引用発明2Aに着目し,これを選択することは,ごく容易なことというべきである。』
(原告)コモライフ株式会社
(被告)有限会社MAKIスポーツ
執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)(特許ニュース令和6年6月17日の原稿を追記・修正したものです。)
監修:吉田和彦(弁護士・弁理士)
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
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