-令和3年(ネ)第10040号「学習用具」事件<菅野裁判長>(CS関連発明)-
(原審・大阪地判平成31年(ワ)3273<杉浦>も均等論成立)
◆判決本文
ボールスプライン事件の最高裁判決(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決)
(第1要件)対象製品等との相違部分が特許発明の本質的部分ではないこと。(非本質的部分)
(第2要件)相違部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏すること。(置換可能性、作用効果の同一性)
(第3要件)相違部分を対象製品等におけるものと置き換えることが、対象製品等の製造等の時点において容易に想到できたこと。(置換容易性)
(第4要件)対象製品等が、特許発明の出願時における公知技術と同一、または公知技術から容易に推考できたものではないこと。
(第5要件)対象製品等が特許発明の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がないこと。
知財高判大合議判決「マキサカルシトール」事件(平成27年(ネ)第10014号)
第1~3要件 ⇒ イ号が特許発明と均等であると主張する者が主張立証責任を負う。
第4~5要件 ⇒ イ号について均等の法理の適用を否定する者が主張立証責任を負う。
(⇒従前からの、下級審裁判例・多数説・最高裁判例解説と同じ。)
「(2)特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏すること
…対象製品等において、『特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏する』かどうかは、特許発明の出願前の公知技術と特許発明とを対比して、従来技術では解決できなかった課題であって、当該特許発明により解決されたものを、対象製品等が解決するものであるかどうかにより決せられる。
すなわち、ここでいう特許発明の『目的』や『作用効果』は、あくまでも特許発明の出願時における従来技術と特許発明との対比により確定されるものであって、基本的には、明細書の『発明の詳細な説明』欄における『発明が解決しようとする課題』や『発明の効果』の項の記載に基づいて確定されるべきものである。
この際、明細書に記載された特許発明の作用効果のうち、当該課題の解決に加えて更に付加して認められる作用効果や実施例に特有の作用効果までも、本要件にいう特許発明の『目的』や『作用効果』として要件(2)の存否を判断するのは、相当ではない。そのように特許発明における課題の解決を超えた付加的作用効果や実施例に特有の効果までも対象製品等が同様に実現することを求めたのでは、均等の成立する余地がほとんどなくなってしまう。…」
「…均等の第2要件における「作用効果」は,特許発明の出願時における従来技術と特許発明との対比により確定されるものであって,基本的には,明細書の「発明の効果」の項の記載に基づいて確定されるべきものであるところ,本件明細書の「発明の効果」の欄には,「楽しみを感じながら知らず知らずに特定の国家や自治体,行政単位に関連する地域の地図上の形状,又は該地域を象徴する国旗,シンボルマーク等の模様,等の記憶対象が憶えられる。」(【0059】)と明記されており,原告製品を使用したコンピューターにおいても,イラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画が,これに対応する語句の音声データと同期して再生されることで,都道府県の形状を覚えることができるのであって,本件発明の効果を奏するものということができ,組画を地方単位でしか選択できない(都道府県単位で選択できない)からといって,上記効果を奏しないとはいえない。また,原告製品を使用したコンピューターにおいて,イラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画以外に都道府県位置画が存在することは,既に説示したとおり,本件発明の効果を奏した上で付加的な効果を生じさせるものにすぎず,均等の第2要件を充足しないという根拠となるものではない。」⇒均等論第2要件〇
(ⅰ)本件特許発明の課題の解決に関する「作用効果」と、(ⅱ)更に付加して認められる「作用効果」や実施例特有の「作用効果」を、区別して議論すべきである。
これらを「作用効果」の程度という土俵で議論して、(ⅱ)の効果はなくても(ⅰ)という程度の効果は奏していると議論しても、認められない傾向にある。
●大阪高裁平成13年4月17日(平成11年(ネ)第3750号)
「本件発明の作用効果は、…塗布面がより自然石らしくなるという点にも特色があり、…被告方法における骨材は、顔料等によって寒水砂や珪砂に人工着色を施したものである以上、塗布面の外観に自然石の色合いがそのまま表れることはない。したがって、原告方法が本件発明と同一の作用効果を奏するとはいえない。」
●大阪地裁平成12年1月28日(平成10年(ワ)第4202号)
「下端部が五〇〇㎜にわたって開口状態となっているイ号物件…は、蔦性植物が保護具の内部に侵入することを防止し、かつ保護具内部の遮光性を保持するという本件考案の作用効果を奏するものでもない。」
●大阪地裁平成16年10月21日(平成14年(ワ)第10511号)
「タンタル層の厚さを…構成要件A⑤における上限値を超えたものに置き換えたならば、高価な結晶性金属タンタルの使用量がその分増加し、 …中間層の厚さの上限を設定することで実現しようとした経済性が損なわれ、酸素発生用不溶性陽極の寿命を経済的な方法で長くするという本件A発明の目的も達せられないことは明らかである。したがって、タンタル層の厚さが3ミクロンを超える物件は、 …作用効果も同一ではないから、前記均等の要件②を充足しない。」
●東京地判平成11年1月28日(平成8年(ワ)第14828号、判時1664号109頁)
「本件特許発明における腸溶性物質HPに代えてASを用いても、一定の徐放性を有する腸溶性皮膜を施した遅効性ジクロフェナクナトリウムを得ることができると認められるから、これを速効性ジクロフェナクナトリウムと組み合せることにより、有効血中濃度を一定時間維持するジクロフェナクナトリウム製剤を得ることが可能なものと認められ、右の限度では同一の作用効果を奏するということが可能であるから、…置換可能性を肯定することができる。」
●平成22年(ネ)第10014号「地下構造物用丸型蓋」
「裁判所での実演は,実演者の開閉方法の巧拙等に大きく依存するものではあるが,被告製品Bも,本件作用効果①を一定程度奏するものと認められ,受枠に設けられているのが『凹曲面部』か『凹部』かによって大きな差異がない…。」
① 東京地判平成11年1月28日(平成8年(ワ)第14828号、判時1664号109頁)
⇒第1要件×、第2要件○
② 東京地判平成12年8月31日(平成10年(ワ)第7865号)
⇒第1要件×、第2要件○
③ 東京地判平成13年1月30日(平成12年(ワ)第186号)
⇒第1要件×、第2要件○
④ 東京高判平成13年3月22日(平成12年(ネ)第4764号)(上記②の控訴審) ⇒第1要件×、第2要件○
⑤ 東京地判平成13年5月29日(平成12年(ワ)第12728号)
⇒第1要件×、第2要件○
⑥ 大阪高判平成13年12月4日(平成12年(ネ)第3891号)
⇒第1要件○、第2要件×
作用効果の「程度」という議論に入ると、特許権者不利である。
特許権者としては、逆に、イ号と特許発明とが同一である作用効果を、特許発明の作用効果であると土俵を設定した上で、作用効果を奏する課題解決原理である技術的思想が、特許発明の本質的意義であると主張すべきである。この土俵上で議論する限り、第1要件が認められれば、第2要件も同様に認められ、第1要件と別個独立の論点を惹起しないから、特許権者有利である。
知財高判大合議判決「マキサカルシトール」事件(平成27年(ネ)第10014号)の事案においても、被告は、特許発明の効果が「工程数の短縮」であると主張したが、原告は、第1要件に関する文脈中で「…新規な方法により,マキサカルシトールの側鎖を有するマキサカルシトール等のビタミンD誘導体又はステロイド誘導体を製造できること」を効果として主張し、「工程数の短縮」は本件特許発明の作用効果ではないという論理を展開し、均等成立が認められた。
本判決(令和3年(ネ)第10040号)も、「原告製品が奏する効果は、「本件発明の効果を奏した上で付加的な効果を生じさせるものにすぎず,均等の第2要件を充足しないという根拠となるものではない。」として、そのような効果を奏しなくても均等の第2要件が否定されないと判断した。
① 平成21年(ネ)第10006号「中空ゴルフクラブヘッド」(飯村)
(1)置換可能性について
…「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」を用いたことによる目的,作用効果(ないし課題の解決原理)は,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることにある…。…被告製品では,金属製外殻部材の接着界面のみならず,その反対面側においても,FRP製下部外殻部材9を当てて加熱・加圧する成形がされているため,帯片8は,金属製外殻部材の接着界面の反対面側においても,繊維強化プラスチック製の外殻部材(FRP製上部外殻部材9)と,一体に接合している…ため,帯片8を,金属製外殻部材に設けた貫通穴に複数回通すことによって強度を確保する必要がない。…目的,作用効果(ないし課題解決原理)を共通にするものであるから,置換可能性がある。
(2) 置換容易性…
(3)非本質的な部分か否かについて
本件発明の目的,作用効果は,…金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることにある。特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと,本件発明は,金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,貫通穴に繊維強化プラスチック製の部材を通すことによって上記目的を達成しようとするものであり,本件発明の課題解決のための重要な部分は,「該貫通穴を介して」「前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」との構成にある…。…「縫合材であること」は,本件発明の課題解決のための手段を基礎づける技術的思想の中核的,特徴的な部分であると解することはできない。
② 平成22年(ネ)第10014号「地下構造物用丸型蓋」(中野、東海林)
エ 均等論適用のための第1要件具備の有無
『閉蓋の際,バールで蓋本体を引きずるようにしたり,蓋本体を後方から押し込むだけで蓋本体を受枠内にスムーズに収めることができる』との作用効果(本件作用効果①)… 『蓋本体のガタツキを防止できるとともに、土砂、雨水等の地下構造物内部への侵入を防止できる』との作用効果(本件作用効果②) … 本件発明が本件作用効果①を奏する上で,蓋本体及び受枠の各凸曲面部が最も重要な役割を果たす…『受枠には凹部が存在すれば足り,凹曲面部は不要である』との控訴人の主張は正当であると認められ,本件発明において,受枠の『凹曲面部』は本質的部分に含まれない…。…明細書…の記載においては、本件作用効果②を奏するにあたり、受枠の凹部が『曲面部』であるかどうかは問題とされていない…、本件作用効果②を奏する上でも、受枠の凹部が『曲面部』であることは本質的部分には含まれない。
オ 均等論適用のための第2要件具備の有無
…裁判所での実演は,実演者の開閉方法の巧拙等に大きく依存するものではあるが,被告製品Bも,本件作用効果①を一定程度奏するものと認められ,受枠に設けられているのが『凹曲面部』か『凹部』かによって大きな差異がない… 。
③ 平成22年(ネ)10089「食品の包み込み成形方法及びその装置」(飯村)
ウ 均等侵害の要件①について
…本件発明1は,その後に続く椀状に形成する工程や封着する工程との関連が強く,その後の椀状に形成する工程や封着する工程にとって重要な工程である外皮材の位置調整を,既に備わる封着用のシャッタで行う点,そして,別途の手段を設けることなく簡素な構成でこのような重要な工程を達成している点に,その特徴があるということができる。
本件発明1においては,シャッタ片及び載置部材と,ノズル部材及び生地押え部材とが相対的に接近することは重要であるが,いずれの側を昇降させるかは技術的に重要であるとはいえない。よって,本件発明1がノズル部材及び生地押え部材を下降させてシャッタ片及び載置部材に接近させているのに対し,被告方法2がシャッタ片及び載置部材を上昇させることによってノズル部材及び生地押え部材に接近させているという相違部分は,本件発明1の本質的部分とはいえない。
エ 均等侵害の要件②について
ノズル部材及び生地押え部材を下降させてシャッタ片及び載置部材に接近させているのに代えて,押し込み部材の下降はなく,シャッタ片及び載置部材を上昇させてノズル部材及び生地押え部材に接近させる被告方法2によっても,外皮材が所定位置に収まるように外皮材の位置調整を行うことができ,外皮材の形状のばらつきや位置ずれがあらかじめ修正され,より確実な成形処理を行うことが可能であり(【0008】【0013】) ,より安定的に外皮材を戴置し,確実に押え保持することができ(【0011】),装置構成を極めて簡素化することができる(【0012】)といった本件発明1と同一の作用効果を奏する…。
④ 東京地裁平成23年(ワ)第8085号「洗濯機用水準器」(高野)
本件発明4は,取付けに別部品を必要とせず,当接面に凹凸があっても,安価に精度良く取り付けることができ,視認性にも優れる洗濯機用水準器を提供するという従来技術では達成し得なかった技術的課題を解決するために,ケースと係合部を一体に形成するとともに,ケースの外方にケース及び蓋体よりも下方へ突出する外部ケースを一体に備えさせたものであり,これが本件発明4特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分であると認められる。
そうであるから,…「取付部の内底面」という構成は,本件発明4の本質的部分でない…
被告らは,本件発明4が外部ケースの下端面を取付部の内底面に当接させて基準面とすることによって取付けの水平度の精度を良くするという課題を解決したものであるから,本件発明4の実質的価値が「取付部の内底面」という構成にもあるとして,本件発明4の本質的部分であると主張する。しかしながら,前記のとおり,取付部の内底面は,凹凸があることによって取付けの精度が悪くなるという問題点があるために,技術的課題を生じさせていた構成であって,課題を解決した構成ではない。
⑤ 平成25年(ネ)第10017号「オープン式発酵処理装置」(清水)
(1)本質的部分(第1要件)について
…堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどの不都合を解消するために,前後一対の板状の掬い上げ部材が,それぞれ回転軸の軸方向に対し所定角度内側(オープン式発酵槽の長尺壁の方向)を向くようにし,掬い上げ部材の内側に向いて傾斜した部材の外側が,その前方に堆積する堆積物の長尺開放面側の外端堆積部に当接し,斜め内側に向けてこれを掬い上げるよう,傾斜板を所定角度内側に向けて配置したことが,本件訂正発明2を基礎付ける特徴的部分である…。…
本件訂正発明2の攪拌機は,往復動走行に伴って正又は逆回転するものであることから,掬い上げ部が外端堆積部に当接する場合は,回転軸に直交する前後方向のいずれの場合もあり得ることから,そのいずれの場合においても,堆積物を掬い上げる必要があり,そのために,掬い上げ部材を前後にかつ前後方向に対し傾斜させて配置し,その前側の傾斜板の外面は斜め1側前方を向き,その後側の傾斜板の外面は斜め1側後方を向くように配向させて配設されたものと認められる。そうすると,掬い上げ部材が前後の両方向に傾斜されて配置されるとの構成も,本件訂正発明2を基礎付ける特徴的部分である…。
これに対して,本件訂正明細書2には,掬い上げ部材が2枚であることの技術的意義は,何ら記載されておらず, …傾斜板の外面が正又は逆回転時のそれぞれにおいて,外端堆積部に当接することが重要であるから,本件発明2の掬い上げ部材が2枚で構成されることに格別の技術的意義があるとはいえず,本件訂正明細書2に記載されるように2枚の部材を直接溶接してV字状を形成することと,1枚の部材を折曲してV字状を形成することとの間に技術的相違はないから,この点は本質的部分であるとはいえない。また, …前後に傾斜させる角度が,回転軸5aの中心軸線に対して10°~80°の角度であればよく,逆への字状が含まれることや,掬い上げる部材としても,平面な板状に限定されず,外端堆積部に当接して内側に掬い上げることができればよいことに照らすと,掬い上げ部材が,平面な板状で構成されていることも,本質的部分であるとはいえない。
⑥ 東京地裁平成24年(ワ)第31523号「流量制御弁」(長谷川)
…被告製品3は, …本件発明が制水駒を接合金具に内嵌するブッシュを介して通水室に内設するものであるのに対し… ,ブッシュを設けることなく制水駒を接合金具に形成されたV型のテーパに圧入することによって通水室に内設する構成を採用しているから, …文言上充足しない。
明細書の発明の詳細な説明の欄をみてもその具体的な構成やブッシュを設けることによる作用効果に関する記載は見当たらない。そして, …制水駒を通水室に内設することにより,1個の制水駒によって多様の流量制御に対応することができるという本件発明の技術的意義… に照らすと,制水駒は,上記形状の通水室内に下端から落ちることなく止まるよう,また,制水駒と通水室の間から水漏れがしないよう,通水室内に固定されていることを要すると解すべきものとなる。…通水室に制水駒を固定するに当たっては,これらを直接結合するか,他の部材を介して間接的に結合するかのいずれかであるところ,本件発明は後者を採用したものであるが,ブッシュを介在させることの技術的意義は明細書に記載されていない。また,物を製造するに当たり,製造原価を削減する,工程を減らし工期を短くするなどの目的で部品の数を減らすことは,当業者であれば当然に考慮すべき事柄と解される。 (★付加された構成により新たな効果を奏する場合に、第3要件を否定した裁判例も多数ある。後掲「第3」参照)
そうすると,本件発明の特許請求の範囲及び明細書の詳細な説明の記載に接した当業者であれば,ブッシュを省略し,制水駒を通水室に直接結合する構成への設計変更を試みるものと考えられる。そして,本件発明の実施例に示されたとおり,通水室の断面及び制水駒の形状が円形であること,通水室には上端から下端方向に水が流れることからすれば,制水駒が下端から落ちることなく,かつ,制水駒と通水室の間から水が漏れないように両者を固定するため,接合金具の内側を下端側が狭まったV型のテーパ状に形成し,その円周部分に円盤状の制水駒を直接圧入するように構成することは,当業者にとって容易に想到できたものと考えられる。
⑦ 大阪地裁平成26年(ワ)第5210号「パック用シート」(高松)
ア 非本質的部分について
…従来のシートでも鼻の上部に切り込みは設けられておらず…,鼻の上部に当たる目頭付近部分は,従来技術によってもシートで覆うことが実現されていたのに対し,本件特許発明の技術的課題は,従来のパック用シートでは,小鼻部分にシートで覆えない大きな隙間が空き,また,シートの小鼻に対応した部分が浮き上がってしまう欠点があったことから,顔面で最も高く膨出する鼻の小鼻部分をもぴったりと覆うことにあり,本件特許発明は,「ほぼ台形の領域」にミシン目状の切り込み線を配するとしたことにより,不織布の横方向に伸びやすいという物性と相俟って,パック用シートが鼻筋や鼻の角度に沿って自然と横方向に伸び広がるようにし,隙間を生じることなく小鼻部分をもぴったり覆うようにしたものであると認められる。
これらからすると,本件特許発明は,鼻部にミシン目状の切り込み線を複数列配することによって,従来技術では困難であった小鼻部分を覆うことを実現した点に固有の作用効果があると認められる。そうすると,被告製品において,目頭の高さからやや下の部分までの領域に切り込み線が設けられていない点は,このような本件特許発明の固有の作用効果を基礎付ける本質的部分に属する相違点ではない…。
イ 置換可能性について
…被告製品は,目頭の高さからやや下の部分までの領域にミシン目状の切り込み線が設けられていなくとも,小鼻部分を含めた鼻全体に密着するものであると認められる。そうすると,被告製品も,本件特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであると認められる。
⑧ 知財高判(大合議)平成27年(ネ)10014「マキサカルシトール」事件
<第2要件>控訴人方法における上記出発物質A及び中間体Cのうち訂正発明のZに相当する炭素骨格はトランス体のビタミンD構造であり,訂正発明における出発物質…及び中間体…のZの炭素骨格がシス体のビタミンD構造であることとは異なるものの,両者の出発物質及び中間体は,いずれも,ビタミンD構造の20位アルコール化合物を,同一のエポキシ炭化水素化合物と反応させて,それにより一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造という中間体を経由するという方法により,マキサカルシトールを製造できるという,同一の作用効果を果たしており,訂正発明におけるシス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体を,控訴人方法におけるトランス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体と置き換えても,訂正発明と同一の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏しているものと認められる。
控訴人らは,訂正明細書に記載がある効果は,工程数の短縮のみであり,訂正発明の作用効果は,従来技術に比して,シス体を出発物質とした場合のマキサカルシトールの側鎖の導入工程を短縮したことにある,また,工程の短縮としての効率性はトータルとしての製造工程数で決せられるべきであり,総工程数が異なる場合は同じ作用効果を有しない旨主張する。しかし,…明細書に『発明の効果』の記載がない特許発明について,一部の従来技術との対比のみにより発明の作用効果を限定して推認するのは相当ではない。…訂正発明は,ステロイド環構造をビタミンD構造へ転換する工程をも包含しており,特に転換工程の有無を含めた全工程数の違い(少なさ)を,従来技術との違いとして認識しているわけではないことからすれば,訂正発明の作用効果を,従来技術に比して,マキサカルシトール等の目的物質を製造する総工程数を短縮できることと認定することはできない。
⑨ 大阪地判平成26年(ワ)第4916号「足先支持パッド事件」(高松)
(2) 第1要件(非本質的部分性)
本件考案の技術的意義からすると,本件考案の本質的な作用効果は,足先支持パッドを足の付け根部下側に嵌め込んで,第2ないし第4指の指頭部と付け根を浮き上がらせて横アーチを形成し,土踏まずを維持して縦アーチを維持し,親指及び小指の指頭部と触球部,踵部の3点で身体を支える点にある…。親指及び小指は,接地して身体を支えるのであるから,それらの指の触球部の上辺から指頭部下辺までの間にパッドを嵌め込むことは,上記の作用効果を奏する上で必須のものとはいえない。…よって,本件考案の構成要件④と被告商品の構成との差異である,パッドの水平部が小指の指頭部下辺までの部分に達しているか否かという点は,本件考案の作用効果を基礎づける本質的部分に属する相違点ではない…。…したがって,…水平部が小指の指頭部下辺まで至り,水平部の上面及び第3凸状部の側面が小指の付け根部の下側と密接できるようになだらかに湾曲していること… に係る差異は,本件考案の固有の作用効果を基礎づける本質的部分に属するものではないというべきである。
⇒同判決も、第1要件の判断において、考案の固有の作用効果を基礎付ける部分を本質的部分と認定しており、第1要件と第2要件との関係は、【マキサカルシトール】大合議判決と整合する。
⑩ 東京地判平成27年(ワ)第6812号「搾汁ジューサー事件」(長谷川)
本件明細書の記載によれば,圧力排出路の存在は本件発明が解決すべき課題と直接関係するものではない。もっとも,…圧力排出路は,食材が網ドラムの底部で最終的に圧縮され脱水される過程で生じる一部の汁が防水円筒を超えてハウジングの外に流出するのを防ぐことを目的とするものであり,汁を排出するための通路をハウジング底面において防水円筒の下部縁に形成することは発明の本質的部分であるとみる余地がある。しかし,上記の効果を奏するためには,上記通路が防水円筒の下部縁に存在すれば足り,これをどのような部材で構成するかにより異なるものではない。そうすると,上記の異なる部分は本件発明の本質的部分に当たらないと解するのが相当である。
⇒同判決も、第1要件を満たす理由の一つとして、被告製品が有しない「圧力排出路」が発明の解決課題と直接関係ないことを挙げており、【マキサカルシトール】大合議判決と整合する。同判決は、発明と対象製品との相違点に係る構成が、発明の効果に関連するとしても、「どのような部材で構成するかにより異なるものではない」として、本質的部分に当たらないという結論を維持している。
⑪ 東京地判平成25年(ワ)7478「半導体チップの製造方法」
<第1要件>…本件明細書等には,「第二の割り溝」を形成する方法について,手法は特に問わないとしており,エッチング,ダイシング,スクライブ等の手法を用いることが可能であるとされ,このうち,線幅を狭くすることが可能であるなどの理由から,スクライブが特に好ましいとするにとどまっており…,「第二の割り溝」に関して,その形成の方法は特に限定されていない。
そして,本件においては,本件明細書等に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分であるという事情は認められない。…本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当たり,半導体層側にエッチングにより第一の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部分を形成し,サファイア基板側にも何らかの方法により第二の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部分を形成するとともに,それらの位置関係を一致させ,サファイア基板側の線幅を狭くした点にあると認めるのが相当であり,サファイア基板側に形成される第二の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部分が,空洞として溝になっているかどうか,また,線状の部分の形成方法としていかなる方法を採用するかは上記特徴的部分に当たらないというべきである。
⑫ 東京地判平成29年(ワ)第18184号「骨切術用開大器」(佐藤)※一審判決
<第2要件>被告は,揺動部材を閉じる際に,一方の揺動部材を閉じていくと,他方の揺動部材との係合が自動的に解除されるとの点も本件発明の作用効果に含まれるとの解釈を前提に,被告製品の場合,一方の揺動部材を閉じるだけでは,他方の揺動部材との係合は自動的に解除されないことから,本件発明と同一の作用効果を奏さないと主張する。しかし,本件明細書等に記載された本件発明の効果は,「本発明によれば,切込みを拡大した状態に維持しつつ,移植物の挿入を容易にすることができる」(段落【0012】)というものである。このような効果は,2対の揺動部材で切込みを拡大した後に1対の揺動部材を取り外すことにより実現することが可能であり,係合の解除が自動的に行われることは本件発明の効果に含まれない…。
<第5要件>本件意見書の主旨は,特許庁審査官に対し,引用例1が一対の揺動部材を開示していることを指摘し,それに対し,本件発明は,開閉可能な2対の揺動部材を組み合わせ,一方の揺動部材を他方の揺動部材に係合するための係合部を設けることにより,両揺動部材が同時に開くことを可能にするものであることを説明する点にあるというべきである。そして,同意見書には,係合部の構成,すなわち,係合部を揺動部材の一部として構成するか,揺動部材とは別の部材により構成をするかを意識又は示唆する記載は存在しない。そうすると,…同記載をもって,同意見書の提出と同時にされた本件補正により構成要件Eが追加された際に,原告が,係合部を揺動部材とは別の部材とする構成を特許請求の範囲から意識的に除外したと認めることはできない。
⑬ 東京地判平成29年(ワ)第29228号「流体供給装置及び…プログラム」(柴田)
被告給油装置では,選択された給油量と実際の給油量との差に基づき給油後に記憶媒体に加算を行っているが,これは,内容的には,給油後に,給油前に差し引いた金額との精算をしているということができる…。…
本件発明1は,流体の供給後の精算に当たり,供給前の入金データの額から,流量値に相当する金額を差し引き,それらの差額データの金額を金額データに加算しているのに対し,被告給油装置においては,選択された給油量と実際の給油量の差を計測し,それに油の単価を乗じて返金額を求めていて,それぞれの発明においてそれらを行うための演算手段,料金精算手段を有しているが,これらは,流体の供給の終了後の精算に当たり,当初に入金した額と実際に供給された油に相当する額との差額をどのように計算するかについての違いであり,前記に照らして,本件発明1の従来技術に見られない特有の技術的思想 を構成する特徴的部分であるということはできない。
⑭ 東京地判平成29年(ワ)第32839号「美容器」(田中)
<第1要件、第2要件>本件発明の技術的思想からすれば,分枝部の軸孔とハンドル本体の凹部が連通していない場合であっても,ハンドルを,凹部を有するハンドル本体と,その凹部を覆うハンドルカバーで構成するときには,なお上記の従来の構成の問題点により生ずる技術的課題を解決できることに変わりはなく,この点を置換することによって全体として本件発明とは異なった別の技術的思想となるということはできない。また,新被告製品のように,「連通する軸孔」との構成をとらずに連通していない構成をとった場合にも,ハンドルの成形精度や強度を高く維持するとともに,美容器の組み立て作業性が向上されるとの上記作用効果を奏することについては,本件発明と変わらないものと認められる。したがって,本件発明と新被告製品の異なる部分(相違部分)は本件発明の本質的部分ではなく(第1要件の充足),本件発明の構成を新被告製品の構成に置き換えたとしても,本件発明の目的を達成でき,同一の作用効果を奏するといえる(第2要件の充足)。…
<第4要件>シャインは,新被告製品と全くその構成を異にするものであり, 新被告製品と対比すると,課題解決原理を全く異にする別の技術的思想によるものと評価するほかない。
⑮ 大阪地判平成31年(ワ)第3273号「学習用具」事件<杉浦>
本件明細書記載の従来技術に加え,甲11発明及び乙6発明をも考慮すると,本件発明のうち,コンピューターを備え,対応する語句が存在する原画を該語句と結びつけて覚えるための学習用具であり,前記コンピューターが,前記原画(乙6発明の完全文字22に相当。以下,本項において括弧内は,乙6発明において相当する構成を意味する。)と,該原画に関連する画像(パーツ関連アニメ24)からなる1セットの画像データが複数個記録された記録部(画像ファイルFV)と,記録部に記録された複数個の1セットの画像データから,表示すべき画像データを選択(1セクション分の英単語のデータを1単位として読み込み)する手段と,選択された画像データにより,原画,該原画に関連する画像を順次表示する画像表示手段(ディスプレイ7)と,前記原画と,原画に関連する画像に対応する語句の音声データ(それぞれ,英単語音声データ,連想文の音声データ)が記憶された記録部(音声ファイルFA)と,記録部から前記語句の音声データを選択(1セクション分の英単語のデータを1単位として読み込み)する手段と,前記選択された語句の音声データを再生する手段(スピーカ6)とを含み,前記画像表示手段が,原画と,該原画に関連する画像の表示を,対応する語句の再生と同期して表示(シンクロ出力処理)する学習用具という点は,従来技術にも見られたものといえる。
他方,乙6発明の完全文字22及びパーツ関連アニメ24は,原画,該原画の輪郭に似たもしくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画といえるような関係性を有するものではない。その再生順も,完全文字22を表示した後にパーツ関連アニメ24を表示するものであって,第一の関連画,第二の関連画,原画の順に表示するものではない。甲11発明においても,漢字,古代文字及び絵文字が相互に似た輪郭を有するものではあっても,その表示の順に定めはなく,古代文字及び絵文字に対応する語句を有するものではなく,また,唱え言葉も,これらに対応する語句を含んだものではない。
したがって,本件発明のうち,組画の1単位として,原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画から成る組画を組画記録媒体に記録する点,画像表示手段に表示するに際し,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に表示する点,第一の関連画に対応する語句,第二の関連画に対応する語句,原画に対応する語句から成る語句の音声データを,音声記録媒体に記録し,音声再生手段で再生し,前記画像表示手段が前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画を対応する語句の再生と同期して表示する点は,本件明細書の従来技術に記載されていないことはもとより,甲11文献及び乙6文献のいずれにも記載がない。
そうすると,上記各点が本件発明の本質的部分というべきである。
⑯ 東京地判平成28年(ワ)25436「L-グルタミン酸の製造方法」<矢野>
<第3要件>被告は,第3要件にいう容易想到とは,当業者であれば,誰もが特許請求の範囲に明記されているのと同じように認識できる程度の容易さと解すべきであり,そのような容易さはなかった旨主張するが,…当業者である,本件発明2の属する細菌を用いたグルタミン酸発酵工業における平均的技術者を基準として,…容易想到性は認められる…。
<第5要件>出願時において,出願人である原告が,本件発明2の課題を解決し得るような,コリネバクテリウム・カルナエ由来の変異型yggB遺伝子を用いた具体的な構成を特定し,サポート要件その他の記載要件を満たす形で特許請求の範囲に記載することが容易に可能であったとは認められない…。…特段の事情が存するとは認められない。
⇒進歩性欠如の拒絶理由通知に対応する補正で除かれた方法について、均等侵害が成立した!!
※Flexible barが柔軟に運用される世界的な傾向に沿っている!! (米独英も判決有り)
⇒予測可能性の基準時を「出願時」としたことは、一つの合理的な説明としては、「補正時」に予測可能であっても、当該予測対象物/方法が明細書に開示されていなければ、新規事項追加となり補正できないから、それを明細書中に記載することが可能であった出願時を基準としたと考えられ、合理性が認められる。仮に、補正時に予測可能であり、当該予測対象物/方法が明細書に開示されていたにもかかわらず更に限定的な補正をしたという出願経緯であったならば、また別の論理で意識的除外として均等論第5要件違反と結論することも可能であろう。
2002年5月のFesto米国連邦最高裁判決は、Flexible Bar を採りながら、『出願経過禁反言が適用された場合の反駁3要件,❶対象物が「出願時」に予測不能であった、❷減縮補正の根本的理由が対象物に対して殆ど関係ない、❸対象物を記載できなかった合理的理由がある。』というメルクマールを判示した。しかし、その後のCAFC判決は、予測不能かどうかの基準時を「補正時」としたものが多く、その後のCAFC判決が基準時を「補正時」とする流れを作ったといわれている。(「審査経過禁反言・出願時同効材と均等論」(愛知、日本工業所有権法学会年報(2015)))
控訴人・一審被告(被疑侵害者):株式会社しちだ・教育研究所
被控訴人・一審原告(特許権者):株式会社キャニオン・マインド
執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)(特許ニュース令和4年2月14日の原稿を追記・修正したものです。)
監修:吉田和彦(弁護士・弁理士)
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