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【特許★】「L-グルタミン酸生産菌及びL-グルタミンの製造方法」事件-引用文献に記載されたデータの理解につき、執筆者自身が述べた考察を重視した事例。⇒進歩性〇

2020年07月30日

-平成31年(行ケ)第10019号、令和2年3月25日判決言渡(森裁判長)-

 

◆判決本文

 

【本判決の要旨、考察】

本判決の事案では、進歩性判断において、公知文献(甲8)に記載されたデータから、当業者が如何なる技術思想を読み取れるか、「引用発明の認定」が争点となった。

無効審判請求人は、「甲8のTable 1.は,担体系とは別に,浸透圧調節チャネルという新たな排出経路を実験的に明らかにした」という甲8文献の開示事項を前提として、「甲8の時点において,担体系(特定の溶質分子を結合して一連の構造変化を行って細胞膜を通過させるタンパク質である担体による排出を指す。)によるコリネバクテリウム・グルタミカムからのグルタミン酸の排出が提唱されていたが,甲8のTable 1.は,担体系とは別に,浸透圧調節チャネルという新たな排出経路を実験的に明らかにしたから,甲8に接した当業者は,この浸透圧調節チャネルを排出経路として利用するよう動機付けられたはずである。」と主張した。

しかしながら、本判決は、引用文献(甲8文献)に記載されたデータの理解について、「グルタミン酸の排出については,浸透圧調節チャネルではなく,担体による排出である」という、甲8文献中において執筆者自身が述べた考察を重視して、甲8文献の開示に係る無効審判請求人による正反対の主張を否定し、進歩性を認めた審決を維持した。

本判決の事案では、データに関する執筆者の考察が引用文献中に記載されていたが、仮にそうではなく、データに関する執筆者の考察が別の文献中に当該データを引用しつつ記載されていた場合であっても、同様の議論が妥当すると思われる。

 
(判旨抜粋)

『…甲8のTable 1…の結果を受けて,クラマー博士をはじめとする甲8の執筆者らは,グリシンベタインなど多くが排出されている溶質については浸透圧調節チャネルから排出されたとしつつ,グルタミン酸の排出については,浸透圧調節チャネルではなく,担体による排出であるとの結論を導いている。Table 1.でグルタミン酸に次いで排出が制限されていることが観察されたリジンについては,…本件優先日当時までに,その輸送を担う担体がクラマー博士らによって発見されており,グルタミン酸の排出についてもリジンなどと同様に担体によるものであるとの説がクラマー博士らによって提唱されていた。そのクラマー博士が,自ら実験をした上でTable 1.の結果を分析し,甲8の共同執筆者の一人として上記のような結論を導いていることからすると,甲8に接した当業者が,それと異なる結論を敢えて着想するとは通常は考え難いところである。』

 

【関連裁判例の紹介(「引用発明の認定」が争点となった裁判例)】

 
1.特許権者有利な裁判例(進歩性〇)
 
(1)平成30年(行ケ)第10151号「ギャッチベッド用マットレス」事件<鶴岡裁判長>

*引用発明は,引用例に記載されたひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握可能であれば足りる。⇒引用発明の4通りの使用方法のうち1通りを認定できた。

 
(2)平成30年(行ケ)第10055号「散乱光式煙感知器」事件<鶴岡裁判長>

*主引用例の記載が技術的に誤っている。⇒引用例の認定誤り。

 
(3)平成29年(行ケ)第10117号「マイコプラズマ・ニューモニエ検出用イムノクロマトグラフィー試験デバイスおよびキット」事件<鶴岡裁判長>

*引用文献に製造可能な程度に記載がなく,29-1(3)「記載された発明」に該当しない。

 
(4)知財高裁(大合議)平成28年(行ケ)第10182号「ピリミジン誘導体」事件<清水裁判長>

*副引例も「発明」(=具体的な技術的思想)である必要がある。⇒「事項」では✕。
*選択発明の新規性・進歩性判断に通ずる。

 
(5)平成25年(行ケ)第10248号「排気ガス浄化システム」事件

*引用例の作用効果を奏するための必須の構成を省いて引用例を認定してはならない。

<=H24(行ケ)10005、H26(行ケ)10251>

 
(6)平成29年(行ケ)第10062号「半導体デバイス」事件<高部裁判長>

*引用発明の構成は、不明でなく本件発明と異なる構成に特定される。⇒引用発明がAと特定されるとBに変更する動機付けが必要。<Cf.下掲H28(行ケ)10061>

(判旨抜粋)「…引用例には,『…』との発明(…)が記載されているものと認められる。よってSiCMOSFETの一の電極とSiCショットキーダイオードの一方の電極がいずれも不明であるとした本件決定の認定には,誤りがあるというべきである。…カソード電極からアノード電極に変更する動機付けがあるとはいえないから,相違点1’に係る本件発明1の構成を当事者が容易に想到できたものであるとは認められない。」

 
2.特許権者不利な裁判例(進歩性×)
 
(1)平成25年(行ケ)第10012号「内燃機関」事件<富田裁判長>

*引用文献中の「任意に変更可能」である旨の記載が、実施例以外の発明を示唆している。<=H20(行ケ)10318<田中>>

 
(2)平成29年(行ケ)第10160号「光安定性の向上した組成物」事件<鶴岡裁判長>

*引用発明として認定すべき範囲の一般的基準を示した。<=H24(行ケ)10005、H25(行ケ)10248>

(判旨抜粋)「引用発明は,本件発明と引用発明との一致点及び相違点を抽出するための対比が可能な程度に特定されていれば足り,本件発明との対比に明らかに関係がない事項についてまで,引用例に記載されているとおりにそのまま認定しなければならないものではないと解される。また,審決が問題にしているベシル酸アムロジピンの含有量の限定や添加剤の限定は,課題解決のために必要な構成であるとはいえない。」

 
(3)平成23年(行ケ)第10201号「光学増幅装置」事件

*「刊行物に記載された発明」の適格性

(判旨抜粋)「特許法29条1項3号…所定の『刊行物に記載された発明』というためには,刊行物記載の技術事項が,特許出願当時の技術水準を前提にして,当業者に認識,理解され,特許発明と対比するに十分な程度に開示されていることを要するが,『刊行物に記載された発明』が,特許法所定の特許適格性を有することまでを要するものではない。」

 
(4)平成22年(行ケ)第10313号「パン・菓子用米粉組成物…」

*「用途発明」でも、新規性判断において引用発明に従来技術以上の作用効果があることは、要件とされるものではない。⇒引用例中の比較例も公知文献の適格性OK。

 
(5)平成24年(行ケ)第10124号「癌および他の疾患を治療および管理するための免疫調節性化合物を用いた…組成物」事件

*引用例自体に化合物の具体的構造が記載なくても、参照文献から当業者が認識できれば相違点でない。

 
(6)平成28年(行ケ)第10061号「入退室管理システム」事件<鶴岡裁判長>

*引用発明が引用文献に記載された実施例に限られないとした。⇒引用発明がAならばBに変更する動機付けが必要。引用発明に限定なければ進歩性を否定し易い。<Cf.上掲H29(行ケ)10062>

(判旨抜粋)「…本件訂正発明1との対比は,飽くまで複数の固定無線機の設置位置が「施設の各部屋」を含むがこれに限定されないものとして認定した引用発明Aをもってなされるのが相当である。…上記のように相違点1´を認定した場合,仮に同相違点に係る構成(移動体の位置検出を行うために複数の起動信号発信器を出入口の一方側と他方側に設置する構成)が本件特許の出願時において周知であったとすれば,引用発明Aとかかる周知技術とは,移動体の位置検出を目的とする点において,関連した技術分野に属し,かつ,共通の課題を有するものと認められ,また,引用発明Aは,複数の固定無線機の設置位置を特定(限定)しないものである以上,前記の周知技術を適用する上で阻害要因となるべき事情も特に存しないことになる…。」

 

【判示事項(抜粋)~進歩性に関する判示部分】

 
(1) 本件優先日当時のコリネ型細菌におけるグルタミン酸排出に関する知見について

ア(ア) コリネ型細菌を用いた発酵法によるグルタミン酸の工業的生産は早くから実用化されていたものの,細菌がどのようなメカニズムでグルタミン酸を菌体外へ排出するのかは長らく解明されていなかった(甲12,乙1,2,33)。

 (イ) 発酵法において,発酵が進んでグルタミン酸の排出が進むと,菌体外の方が,浸透圧が高い状態となるが,そのような状態になった後もグルタミン酸の排出が進行することが本件優先日以前に知られていたが,これは菌体外が低浸透圧の状態になった場合に,浸透圧調節チャネルからグルタミン酸が排出されることだけでは説明することができない現象である(乙28,39,弁論の全趣旨)。

 (ウ) 本件優先日以前,Reinhard Krämer 博士(以下「クラマー博士」という。)らは,コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて,L-リジン,L-スレオニン,L-イソロイシンなどのアミノ酸を輸送する担体を発見するとともに,グルタミン酸についても担体によって排出されるものであることを主張する乙39(Reinhard Krämer 他「Carrier-mediated glutamate secretion by Corynebacteriumglutamicum under biotin limitation」Biochimica et Biophysica Acta 1112 p115-123,1992年)と乙40(Reinhard Krämer「Secretion of amino acids by bacteria:Physiology and mechanism」FEMS Microbiology Reviews 13 p75-94,1994年)の二つの論文を発表していた(甲22,乙1,2,39~41)。

  1997年(平成9年)に執筆された甲8の共同執筆者の一人は,クラマー博士であるところ,甲8は,上記乙39,40を引用し,後述のとおり,甲8の実験で観察されたグルタミン酸の排出が担体によるものであるとの結論を導いている(甲8,乙39,40,42)。
 
イ 上記アに関連し,原告らは,証拠(甲47~50)からすると,本件優先日当時,コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて,グルタミン酸が,浸透圧に応じて浸透圧調節チャネルから排出されることが周知となっていたと主張する。

 しかし,甲47には,「特別な条件下で,大腸菌がトレハロースを排出した観察結果(StyrvoldとStrem 1991)およびコリネバクテリウム・グルタミカムがグルタミン酸を排出した観察結果(Shiioら 1962)は我々の研究と関連している。」との記載があるにすぎず,これだけで,原告らが主張するような技術常識があったと認めるには足りない。

 また,甲48,49はいずれも大腸菌に関する文献であって,そこからコリネバクテリウム・グルタミカムをはじめとするコリネ型細菌におけるグルタミン酸排出の技術常識の存在を認めることはできない。

 甲50には,その5頁の図に関して,コリネバクテリウム・グルタミカムの低浸透圧における相溶性溶質の排出が,少なくとも3種類の機械受容チャネル(浸透圧調節チャネル)を通じて起こる旨の記載がある。しかし,後述する甲8の記載からすると,浸透圧調節チャネルを通じた排出は全ての溶質について等しく行われるものではなく,特定の溶質について選択的に行われるのであると認められるから,上記排出されるべき「相溶性の溶質」の中にグルタミン酸が含まれるのかは,上記図だけからでは必ずしも明らかになっているとはいえず,甲50から原告らの主張する技術常識の存在を認めることはできない。

 以上からすると,原告らの上記主張を認めるに足りる証拠はない。

 
(2)甲8発明の認定の誤りについて(取消事由2)

前記(1)の事実関係を踏まえて,甲8において,原告らが主張するように,グルタミン酸が浸透圧調節チャネルから排出されたと認定できるかについて検討する。

ア 甲8の記載事項(甲8,乙31,乙31の2)

(ア) Abstract

a 572頁1行~6行

「細菌は,低浸透圧ストレスに対して,低分子量の溶質を遊離し,一定の膨脹圧を維持することによって応答する。我々は,コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて,浸透圧の突然の低下による様々な溶質の排出に関わる,浸透圧調節チャネルの機能を研究している。当該チャネルは,グリシンベタイン及びプロリンのような相溶性の溶質の排出を優先的に媒介する。同じような大きさの分子,例えば,グルタミン酸又はリジンの遊離は,制限され,ATPは,厳しい浸透圧ショックの後であっても,完全に維持された。」

b 572頁13行~14行

「これらの結果は,大腸菌のメカノセンシティブチャネルに類似の浸透圧調節チャネルが,C.グルタミカムに存在することを示唆する。」
 
(イ) Results

a 575頁のTable 1.

b 575頁右欄19行~576頁1行

「表1のデータは,C.グルタミカムにおいて浸透圧により引き起こされる溶質の排出は,特定の溶質について明確な選択性があることを示す。・・・表1のデータは,浸透圧により引き起こされる排出において,グリシンベタインがエクトインよりも選択的であることを実証する。・・・アラニンの放出の度合いは,エクトインと類似していたが,一方,グルタミン酸とリジンの流出は顕著に制限されていた。」

c 576頁左欄43行~52行

「化学的または放射化学的方法による本研究における排出の測定において,すべての主要な排出溶質が考慮されたことを確認するため,低浸透圧ショック後の細胞外の培地を1HNMRによって分析した・・・。得られたスペクトルから,対応する実験において細胞により放出された主要な化合物は,グリシンベタイン,プロリン及びエクトインであることが証明された。わずかな乳酸塩以外の化合物は,これらの実験において,顕著な量で検出されることはなかった。」
 
(ウ) Discussion

a 578頁左欄50行~60行

「低分子質量化合物の流出は,原理的には,膜漏出によって,タンパク質性チャネルによって,又は流出担体によって,媒介されることができる。三つの全ての可能性の例が既報である。この流出は,特定の基質に対して顕著な優先傾向を示すことが見出されたため,C.グルタミカムについては,単純な膜漏出の可能性は排除された。担体の関与は,複数の実験結果から非常に可能性が低いことが示された。この排出速度は非常に速く,すなわち,C.グルタミカムについてこれまでに既報の全ての担体(最速のものは,完全に誘導されたベタイン取り込み担体((BetP)の110μmol・min-1・gdm-1(Farwickら,1995)である)よりもずっと速い。」

b 578頁右欄26行~40行

「このシステムの興味深い特性は,特定の溶質に対するその選択性である。E.coliにおいては,激しい浸透圧ショックのもとでは,多かれ少なかれ,全ての低分子量化合物は放出された。C.グルタミカムでは,そのようなことは起こらず,補償溶質が主に排出された。グリシンベタインやプロリンと大きさが類似している分子,例えば,グルタミン酸も,あるいはより小さい無機イオン(Na+,K+)でさえも,明らかにこのチャネルをグリシンベタインやプロリンと同じ程度には使用していない。E.coliにおいて,激しい低浸透圧ショック後にやはり放出されるATPのような分子は(Berrierら,1992),C.グルタミカムにおいては完全に保持されていた。結果として,このチャネルの特性は,E.coliシステムとは異なるに違いない。C.グルタミカムのチャネルの分子としての正体(アイデンティティ)は判明していないが,観察されたC.グルタミカムのチャネルを介した透過性の順序については,異なる特異性を有する複数のチャネルが存在することにより説明可能である。」

c 578頁右欄46行~55行

「非特異的チャネル阻害剤Gd3+に対するこのチャネルの感受性の欠如は(Berrierら,1992;Schleverら,1993;Haseら,1995),E.coliにおいて記載されクローン化されたGd3+感受性MscLチャネルとは異なるものとして,それをさらに定義する(Sukharevら,1994)。しかしながら,この非特異的遮蔽剤が作用しないその他の例も存在する(Berrierら,1996)。したがって,C.グルタミカムのチャネルは,電気生理学的技術を用いることにより大腸菌において同定されたその他のタイプ,即ち,MscSと類似するかもしれない(Martinacら,1987,1990;ZorattiとPetronilli,1988;Berrierら,,1996)。」

d 579頁左欄39行~46行

「最後に,ここで強調されるべきは,ここで述べた排出チャネルは,よく知られた特定の代謝条件下で観察されるC.グルタミカムのグルタミン酸排出とは関係がないことである。継続的なグルタミン酸生産の条件下でのグルタミン酸排出は,その活性に関し浸透圧変化に応答しているようにも見えるが(ランバートら,1995年),その排出は,以前から示されているエネルギーに依存する特定の担体系によりなされるものである(グートマンら,1992年,クラマー,1994年)。」
 
イ 検討

甲8のTable 1.には,上記のとおり,低浸透圧の状態になった際にグルタミン酸が排出されていることが記載されているが,beforeの値を基準にその排出量を検討すべきとする原告らの主張を前提としても,グルタミン酸は,浸透圧が540mOsmになるまでほとんど排出されず,540mOsmになって20%が排出されているにすぎないところ,これは,全部で11種類検討されている溶質の中でATPに次いで小さな値である。そして,上記のようなTable 1.の結果を受けて,クラマー博士をはじめとする甲8の執筆者らは,グリシンベタインなど多くが排出されている溶質については浸透圧調節チャネルから排出されたとしつつ,グルタミン酸の排出については,浸透圧調節チャネルではなく,担体による排出であるとの結論を導いている。

Table 1.でグルタミン酸に次いで排出が制限されていることが観察されたリジンについては,前記(1)アで認定したとおり,本件優先日当時までに,その輸送を担う担体がクラマー博士らによって発見されており,グルタミン酸の排出についてもリジンなどと同様に担体によるものであるとの説がクラマー博士らによって提唱されていた。そのクラマー博士が,自ら実験をした上でTable 1.の結果を分析し,甲8の共同執筆者の一人として上記のような結論を導いていることからすると,甲8に接した当業者が,それと異なる結論を敢えて着想するとは通常は考え難いところである。

以上からすると,原告らが主張するように,当業者が,Table 1.の結果を受けて,甲8に記載された浸透圧調節チャネルをグルタミン酸の排出と関連付けて認識すると認めることはできないというべきである。

そして,上記アで認定した甲8の記載内容からすると,本件審決の甲8発明の認定に誤りはなく,原告ら主張の取消事由2は理由がない。

 
(3) 容易想到性判断の誤りについて(取消事由3)

本件発明1と甲8発明との間には,本件審決が認定した前記第2の3(1)イの一致点及び相違点があることが認められる。

上記相違点の容易想到性について検討するに,前記(1),(2)で検討したとおり,本件優先日当時に,コリネバクテリウム・グルタミカムをはじめとするコリネ型細菌において,浸透圧調節チャネルがグルタミン酸の排出に関与しているということが当業者において周知になっていたとは認められないし,甲8に浸透圧調節チャネルがグルタミン酸の排出に関与していることが記載されているとも認められない。原告らは,甲8発明に,甲10,13~15及び周知技術・技術常識を適用することで,19型変異の構成を得ることができると主張するが,甲10,13~15に,コリネ型細菌において,浸透圧調節チャネルからグルタミン酸が排出されることを示唆する記載はなく,他に,そのような周知技術・技術常識が存したとも認められない。

そうすると,当業者が,甲8発明に甲10,13~15及び周知技術・技術常識を適用して,コリネ型細菌において浸透圧調節チャネルをコードするyggB遺伝子に着目し,それにグルタミン酸の排出を促すような変異を導入することを動機付られることはないというべきである。

その他,この点に関する原告らの主張は,上記認定を何ら左右するものではない。

したがって,上記相違点を容易想到ではないとした本件審決の判断に誤りはない。

 
 

原告(無効審判請求人):シージェイジャパン株式会社、シージェー チェイルジェダン コーポレーション

被告(特許権者):味の素株式会社

 

執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)(特許ニュース令和2年6月22日の原稿を追記・修正したものです。)

監修:吉田和彦(弁護士・弁理士)

 
本件に関するお問い合わせ先: h_takaishi@nakapat.gr.jp

 
〒100-8355 東京都千代田区丸の内3-3-1新東京ビル6階
中村合同特許法律事務所

 
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