方法発明の間接侵害(101条4号)~他の物と組み合せることにより方法発明を使用する物も含む。当該他の物を現に保有している必要なし。
方法の発明の間接侵害は、「その方法の使用にのみ用いる物の生産」等について成立する(特許法101条4号)。
本件で問題となった特許発明Aは、「【請求項1】ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって,上記記憶媒体は,少なくとも,所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており,上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり,上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,上記所定のキーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,ゲームシステム作動方法。」であった。
⇒要するに、特許発明Aは、「第2の記憶媒体」が装填されると、(標準のゲームに加えて)拡張されたゲームを楽しめるというものであった。
被控訴人(被告)は,『①本件発明A1の「第1の記憶媒体と…第2の記憶媒体とが準備されており」とは,実施行為者において各記憶媒体をゲーム装置に装填可能に準備することを意味するものであるところ,本編ディスクを保有せずにイ-9号製品等のみを保有しているユーザは,MIXJOYを選択することはないから,本件発明A1の方法を実施することがなく,かつ,イ-9号製品等には,単独でも十分楽しめる内容のゲームプログラムが備わっているから,イ-9号製品等は,社会通念上,経済的,商業的又は実用的な他の用途を有するものであって,本件発明A1の方法の使用にのみ用いる物ではない,②本件発明A1を実施する物は,「本編ディスク及びアペンドディスクを装填したプレイステーションからなるゲームシステム」であり,イ-9号製品等は,イ-9号方法等を実施する装置の生産に用いられる物に過ぎないから,「その方法の使用に…用いる物」に該当しない』旨主張した。
これに対し、本件判決は、『上記①の点について,…「第1の記憶媒体と…第2の記憶媒体とが準備されており」とは,ゲームソフトメーカ等により第1の記憶媒体及び第2の記憶媒体が提供され,ユーザにおいてこれを入手することが可能な状況を意味するものであって,ユーザにおいて各記憶媒体を現に保有することを意味するものではないと解される。』『上記②の点については,本件発明A1は,「記憶媒体…を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法」(構成要件A)であって,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填される」(構成要件D)ことを発明特定事項とするものであるから,「上記第2の記憶媒体」に相当するイ-9号製品等は,「その方法の使用に…用いる物」に該当するといえる。また,特許法101条4号の「その方法の使用にのみ用いる物」は,当該「物」のみにより当該特許発明を実施するものである旨の限定は付されていないから,他の物と組み合わせることにより当該特許発明を実施する物も「物」に含まれると解される。』と判示して、被控訴人(被告)の主張を斥けた。
ところで、方法の発明の「使用にのみ用いる物」の生産にのみ用いる物の生産等について特許法101条4号の間接侵害が成立するか否かについては、いわゆる「間接の間接」侵害という類型で議論されており、過去に知財高裁大合議判決「一太郎事件」がある。
すなわち、知財高裁(大合議)平成17年(ネ)第10040号「情報処理方法」事件(「一太郎事件」)は、「特許法101条4号…は,その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物についてこれを生産,譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであって,そのような物の生産に用いられる物を製造,譲渡等する行為を特許権侵害とみなしているものではない。」と判示して、「間接の間接」の類型について特許法101条4号の間接侵害は成立しないと判断した。
これに対し、本判決(平成30年(ネ)第10006号)は、「特許法101条4号の『その方法の使用にのみ用いる物』は,当該『物』のみにより当該特許発明を実施するものである旨の限定は付されていないから,他の物と組み合わせることにより当該特許発明を実施する物も『物』に含まれる」と判示して、本件事案においては、特許法101条4号の間接侵害が成立すると判断した。
もっとも、「一太郎事件」で「間接の間接」侵害が問題となった方法発明は『【請求項3】データを入力する入力装置と、データを表示する表示装置とを備える装置を制御する情報処理方法であって、機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン、および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させ、第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて、表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させることを特徴とする情報処理方法。』という発明であり、方法発明に直接使用する「物」は、情報処理装置(=パソコン)であったため、イ号製品であった、当該情報処理装置(=パソコン)に一太郎の情報処理機能を追加するための一太郎ソフトウェア(CD-ROM)は、方法発明に直接使用する「物」ではなく、方法発明に“間接的に”使用する「物」に過ぎないから、間接の間接」侵害とされたものである。
これに対し、本件カプコン事件は、イ号製品である「第2の記憶媒体」は「ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法」(本件特許発明A)に直接使用する「物」であるため、特許法101条4号が予定するところの“直接の(通常の)間接侵害”であるから、「一太郎事件」とは事案が異なり、不整合ということはない。
これら、「一太郎事件」及び本件カプコン事件から、方法発明を立てるときは、イ号製品として想定されるものが特許法101条4号が予定する“直接の(通常の)間接侵害”になるようにクレームを作成することが必須であろう。
知財高裁(大合議)平成17年(ネ)第10040号「情報処理方法」事件(「一太郎事件」)
(判旨抜粋)『・本件第3発明についての特許法101条4号所定の間接侵害の成否
…「控訴人製品をインストールしたパソコン」について,利用者(ユーザー)が「一太郎」又は「花子」を起動して,別紙イ号物件目録又はロ号物件目録の「機能」欄記載の状態を作出した場合には,方法の発明である本件第3発明の構成要件を充足するものである。そうすると,「控訴人製品をインストールしたパソコン」は,そのような方法による使用以外にも用途を有するものではあっても,同号にいう「その方法の使用に用いる物・・・であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するものというべきであるから,当該パソコンについて生産,譲渡等又は譲渡等の申出をする行為は同号所定の間接侵害に該当し得るものというべきである。しかしながら,同号は,その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物についてこれを生産,譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであって,そのような物の生産に用いられる物を製造,譲渡等する行為を特許権侵害とみなしているものではない。本件において,控訴人の行っている行為は,当該パソコンの生産,譲渡等又は譲渡等の申出ではなく,当該パソコンの生産に用いられる控訴人製品についての製造,譲渡等又は譲渡等の申出にすぎないから,控訴人の前記行為が同号所定の間接侵害に該当するということはできない。』
⑶ 争点1-1-3(間接侵害(特許法101条4号)の成否)について
ア 前記⑴のとおり,イ-9号方法等は,本件発明A1の技術的範囲に属するものである。
そして,イ-9号製品等は,別紙9「イ号方法の構成」記載のとおり,ゲーム装置であるWii(イ-9号製品),PlayStation2(イ-16ないし22,23②,24ないし30及び35ないし40号製品)及びPlayStation3(イ-31ないし34号製品)に装填してゲームシステムを作動させるためのゲームソフトであり,上記ゲーム装置に装填されて使用される用途以外に,社会通念上,経済的,商業的又は実用的な他の用途はないから,イ-9号方法等の使用にのみ用いる物であると認められる。
したがって,特許法101条4号により,被控訴人が,業として,イ-9号製品等の製造,販売及び販売の申出をする行為は,本件特許権Aを侵害するものとみなされる。
イ これに対し被控訴人は,①本件発明A1の「第1の記憶媒体と…第2の記憶媒体とが準備されており」とは,実施行為者において各記憶媒体をゲーム装置に装填可能に準備することを意味するものであるところ,本編ディスクを保有せずにイ-9号製品等のみを保有しているユーザは,MIXJOYを選択することはないから,本件発明A1の方法を実施することがなく,かつ,イ-9号製品等には,単独でも十分楽しめる内容のゲームプログラムが備わっているから,イ-9号製品等は,社会通念上,経済的,商業的又は実用的な他の用途を有するものであって,本件発明A1の方法の使用にのみ用いる物ではない,②本件発明A1を実施する物は,「本編ディスク及びアペンドディスクを装填したプレイステーションからなるゲームシステム」であり,イ-9号製品等は,イ-9号方法等を実施する装置の生産に用いられる物に過ぎないから,「その方法の使用に…用いる物」に該当しない旨主張する。
そこで,被控訴人の上記主張について検討する。
(ア)a まず,上記①の点について,本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明A1は,「所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており,」(構成要件B-1,B-2)「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,」(構成要件D),「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,上記所定のキーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,」(構成要件D-1,D-2)「ゲームシステム作動方法」(構成要件E)であることを理解できる。
そして,上記構成要件D,D-1及びD-2の記載によれば,ユーザが第2の記憶媒体のみを保有し,第1の記憶媒体を保有しない場合でも,ユーザにおいて「上記第2の記憶媒体」を「上記ゲーム装置に装填」すること,その際に,「上記所定のキーを読み込んでいない場合」に当たるとして,「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させる」ことは可能であることを理解できる。
一方,本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)には,「第1の記憶媒体と,…第2の記憶媒体とが準備されて」いることについて,「準備」をする主体は実施行為者(ゲームをプレイするユーザ)であり,「準備」とは各記憶媒体をゲーム装置に装填可能に準備すること,
すなわち,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき」に,実施行為者において第1の記憶媒体を保有することであると解釈すべき根拠となる記載はない。
b 次に,前記⑴ア(イ)のとおり,本件明細書Aの発明の詳細な説明には,「本願発明」の技術的意義が記載されているところ,かかる技術的意義を達成するために,「第1の記憶媒体と…第2の記憶媒体とが準備されており」の意味を,実施行為者(ゲームをプレイするユーザ)において各記憶媒体をゲーム装置に装填可能に準備することに特定する必然性は見いだし難い。このように特定しなくとも,ゲームソフトメーカ等により第1の記憶媒体及び第2の記憶媒体が提供され,ユーザにおいてこれを入手することが可能な状況にあれば,上記技術的意義は達成可能であると考えられる。
c 以上の本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書Aの記載によれば,本件発明A1の「第1の記憶媒体と…第2の記憶媒体とが準備されており」とは,ゲームソフトメーカ等により第1の記憶媒体及び第2の記憶媒体が提供され,ユーザにおいてこれを入手することが可能な状況を意味するものであって,ユーザにおいて各記憶媒体を現に保有することを意味するものではないと解される。
そして,同様の理由により,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき」に,実施行為者において第1の記憶媒体を保有することが必要であるとは解されない。
したがって,イ-9号製品等を保有するユーザが,本編ディスクを保有していないとの事実は,イ-9号製品等が本件発明A1の方法の使用にのみ用いる物であるとの判断を左右するものではない。
(イ) 次に,上記②の点については,本件発明A1は,「記憶媒体…を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法」(構成要件A)であって,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填される」(構成要件D)ことを発明特定事項とするものであるから,「上記第2の記憶媒体」に相当するイ-9号製品等は,「その方法の使用に…用いる物」に該当するといえる。また,特許法101条4号の「その方法の使用にのみ用いる物」は,当該「物」のみにより当該特許発明を実施するものである旨の限定は付されていないから,他の物と組み合わせることにより当該特許発明を実施する物も「物」に含まれると解される。
(ウ) 以上によれば,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(原告:控訴人)株式会社カプコン
(被告:被控訴人)株式会社コーエーテクモゲームス
執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)(特許ニュース令和2年9月14日の原稿を追記・修正したものです。)
監修:吉田和彦(弁護士・弁理士)
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