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【特許★】「ギャッチベッド用マットレス」事件-引用発明は,引用例に記載されたひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握可能であれば足りる。⇒引用発明の4通りの使用方法のうち1通りを認定した事例。

2020年04月20日

-平成30年(行ケ)第10151号、令和元年9月18日判決言渡(鶴岡裁判長)-

 

◆判決本文

 

【本稿の概要】

引用発明の認定は、新規性・進歩性判断に結論に影響を及ぼすことが多く、いわゆる、引用発明の「上位概念化の限界」が争点となることが多い。

すなわち、引用発明における具体的な実施例の記載と本願発明との間に構成の相違がある場合、進歩性を否定する立場としては、当該構成の相違を変更することの容易想到性を論証するよりも、当該構成を備えない抽象的な発明として引用発明を認定することを試みる。

何故なら、引用発明の具体的な構成を変更するために必要とされる動機付けのレベルは、引用発明において特定されていない(ブランクである)構成を採用するために必要とされる動機付けのレベルと較べて高度であるからである。

例えば、平成28年(行ケ)第10061号「入退室管理システム」事件<鶴岡裁判長>は、「本件訂正発明1との対比は,飽くまで複数の固定無線機の設置位置が『施設の各部屋』を含むがこれに限定されないものとして認定した引用発明Aをもってなされるのが相当である。」と認定して、引用発明が引用文献に記載された実施例に限られないとしたうえで、進歩性×とした。同判決は、引用発明がAならばBに変更する動機付けが必要であるが、引用発明に限定なければ「変更する動機付け」は問題とならないという枠組みを前提としている。

これに対し、平成29年(行ケ)第10062号「半導体デバイス」事件<高部裁判長>は、「引用例…SiCMOSFETの一の電極とSiCショットキーダイオードの一方の電極がいずれも不明であるとした本件決定の認定には,誤りがある…。…カソード電極からアノード電極に変更する動機付けがあるとはいえない…。」として、進歩性〇とした。同判決は、引用発明の構成は、不明でなく本件発明と異なる構成に特定されるところ、引用発明がAと特定されるとBに変更する動機付けが必要であるがこれが認められないとしたものである。

引用発明の構成の一部を独立して抽出できた事例として、本判決の他に、例えば、平成17年(行ケ)第10672号「高周波ボルトヒータ」事件は、「…引用発明の認定においては,引用発明に含まれるひとまとまりの構成及び技術的思想を抽出することができるのであって,その際引用刊行物に記載された具体的な実施例の記載に限定されると解すべき理由はない。…甲1自体には実現できるように記載されてない高周波誘導加熱の具体的な構成そのものは,…本件特許出願当時,…技術常識であったのであるから,当業者は,甲1の『…高周波加熱トーチ』の高周波誘導加熱に上記技術常識であった誘導加熱体の具体的な構成を参酌し,高周波誘導加熱を実現することができるものとして,甲1発明を把握することができたものと認められる。」と判示した。

他方、引用発明の構成の一部を独立して抽出できなかった事例として、例えば、平成30年(行ケ)第10041号「地殻様組成体の製造方法」事件<鶴岡裁判長>は、「引用文献には,放射性物質が検出された下水汚泥をどのように焼却するか,下水汚泥焼却灰はどの程度の放射性物質を含むものであるか,下水汚泥焼却灰をセメント原料化する際,できる限り影響が小さくなるようにどのような対策をするのか等,下水汚泥焼却灰を処分するに当たっての具体的な方法,手順,条件など,技術的思想として観念するに足りる事項についての記載は一切存在しない。そうすると,引用文献には,単に放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分に向けた方針,及び当該方針に関する有識者の意見が断片的に記載されているにすぎず,下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法というひとまとまりの具体的な技術的思想が記載されているとはいえない。」と判示した。

なお、このような考え方は、当初明細書に記載した事項の範囲の解釈においても同様であり、新規事項追加の判断(補正・訂正・分割要件)においても同様である。例えば、平成24年(行ケ)第10425号「船舶」事件は、「…【0030】の記載から,バラスト水処理装置を『非防爆エリア』に配設する構成によって,『各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむ』という効果を奏する,ひとまとまりの技術的思想を読み取ることができ,本件発明6の『非防爆エリア』は,【0030】において実質的に記載されているというべきである。『非防爆エリア』の構成について特許法17条の2第3項の要件を満たさないとすることはできない。」と判示した。

本判決も上掲した各裁判例と同様に、「引用発明は,引用例に記載されたひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握可能であれば足りる」としたうえで、「引用発明の4通りの使用方法のうち1通りを認定できる」として、引用文献に記載された事項の一つを引用発明として認定することを許容し、結論として、進歩性を否定した審決を維持した。

 

【特許請求の範囲、本判決の抜粋、関連裁判例の紹介】

1.特許請求の範囲(【請求項1】)

「【請求項1】クッション性を有し,ベッド使用者の体重を支えるマットレス本体と,このマットレス本体を被包するカバーと,を有し,前記マットレス本体は,前記ベッド使用者の大腿部に対応する位置に,腰部及び背部に対応する位置の素材よりも硬い素材が配置されていることを特徴とするギャッチベッド用マットレス。」

 

2.本判決の抜粋

『 …引用文献1には,「マットレス装置452は家庭または他の療養施設での個人使用の為にユーザにより購入されることもある」…と記載されており,このように個人が使用する場合には,適切な感触を得られる硬さの部材の組合せが既に決定されているのであるから,多種多様な部材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法があることは想定されない。したがって,小売用テスト装置(店舗内のテスト用マットレス)に用途を限定しない引用実施例のマットレス装置452において,多種多様な部材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法があることは,一体不可分の必須の技術思想に当たらず,その中から一つの組合せ及び使用方法を抽出した例を引用発明とすることに支障はない。引用発明は,引用例に記載されたひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握可能であれば足りるところ,審決で認定された引用発明は,この要件を充たしているといえる。

もっとも,審決が,引用文献1に開示された多種多様な部材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法の中から,引用文献1に具体的には全く例示されていない例を抽出したのであれば,原告のいうように,本願発明1の相違点を予め減らすべく事後分析的な認定をしたといえることもあろう。しかしながら,…引用発明は,引用文献1に接した当業者が特段の「深読み」を要せずして把握し得る構成を備えたものであるから,審決に,事後分析的な認定をしたという誤りもない。…4通りの使用方法があることを引用発明1の認定において考慮しなかったことに誤りがあるとはいえない。』

 

3.関連裁判例の紹介(本件判決や既に紹介した判決を含む)

3-1.引用発明の構成の一部を独立して抽出できた裁判例

①平成30年(行ケ)第10151号「ギャッチベッド用マットレス」事件(鶴岡裁判長)

『小売用テスト装置(店舗内のテスト用マットレス)に用途を限定しない引用実施例のマットレス装置452において,多種多様な部材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法があることは,一体不可分の必須の技術思想に当たらず,その中から一つの組合せ及び使用方法を抽出した例を引用発明とすることに支障はない。引用発明は,引用例に記載されたひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握可能であれば足りるところ,審決で認定された引用発明は,この要件を充たしているといえる。』
 
②平成17年(行ケ)第10672号「高周波ボルトヒータ」事件

『…引用発明の認定においては,引用発明に含まれるひとまとまりの構成及び技術的思想を抽出することができるのであって,その際引用刊行物に記載された具体的な実施例の記載に限定されると解すべき理由はない。…甲1自体には実現できるように記載されてない高周波誘導加熱の具体的な構成そのものは,…本件特許出願当時,…技術常識であったのであるから,当業者は,甲1の『…高周波加熱トーチ』の高周波誘導加熱に上記技術常識であった誘導加熱体の具体的な構成を参酌し,高周波誘導加熱を実現することができるものとして,甲1発明を把握することができたものと認められる。」と判示した。』
 
③平成15年(行ケ)第348号「べら針」事件

上位概念化の限界(引用発明の構成の一部を独立して抽出できた事例)
 
④平成17年(行ケ)第10024号「フェンダーライナ」事件

上位概念化の限界(引用発明の構成の一部を独立して抽出できた事例)
 
⑤平成16年(行ケ)第159号「遊技機における制御回路基板の収納ケース」事件

上位概念化の限界(引用発明の構成の一部を独立して抽出できた事例)
 
⑥平成22年(行ケ)第10160号「封水蒸発防止剤」事件

上位概念化の限界(引用発明の構成の一部を独立して抽出できた事例) Cf.H22(行ケ)10162
 
⑦平成22年(行ケ)第10220号「携帯型家庭用発電機」事件

上位概念化の限界(引用発明の構成の一部を独立して抽出できた事例) Cf.H22(行ケ)10162
 
⑧平成22年(行ケ)第10381号「…エレベータのトラクションシーブ」事件<中野裁判長>

引用例中の図面から構成(大小関係)を読み取れた事例(図面から「寸法」は読み取れなかった)。
 
⑨平成23年(行ケ)第10099号「…印刷機」事件<塩月裁判長>

引用例中の図面から構成(配列/方向)を読み取れた事例
 
⑩平成23年(行ケ)第10002号「…補正機能を備えた装身具」事件<飯村裁判長>

引用例中の図面から構成(位置関係)を読み取れた事例
 
⑪平成25年(行ケ)第10111号「…吸収性物品」事件<飯村裁判長>

引用例中の図面から構成(位置関係)を読み取れた事例 Cf.H17(行ケ)10003 Cf.H21(行ケ)10002 Cf.H23(行ケ)10414 Cf.H27(行ケ)10141
 
⑫平成25年(行ケ)第10155号「車椅子」事件<清水裁判長>

引用例中の図面から構成(存在)を読み取れた事例
 
⑬平成26年(行ケ)第10274号「ラジアスエンドミル」事件<設樂裁判長>

引用例中の図面と、明細書の記載を併せて構成(形状)を読み取れた事例
 
⑭平成27年(行ケ)第10205号「車両用ルーフアンテナ」事件<設樂裁判長>

引用例中の図面と、明細書の記載を併せて構成(位置関係)を読み取れた事例
 
⑮平成27年(行ケ)第10094号「ロータリ作業機のシールドカバー」事件<高部裁判長>

引用文献中の図面から構成(位置関係)は読み取れた。
 
⑯平成29年(行ケ)第10173号「ドライブスプロケット支持構造」事件<森裁判長>

引用文献中の図面は正確でない⇒文章の開示を否定しない。
 
⑰平成27年(ワ)第1025号「pHを調整した低エキス分のビールテイスト飲料」事件<長谷川裁判長>

パラメータ同士に関連性がなければ、公然実施発明から、相違点である特定のパラメータのみを抽出して認定してもOK!!⇒進歩性× Cf.H24(行ケ)10275

『原告は,本件発明はエキス分の総量,pH及び糖質の含量の各数値範囲と飲み応え感及び適度な酸味付与という効果の関連性を見いだしたことを技術思想とするものであり,公然実施発明1はこのような技術思想を開示するものではないから,オールフリーの多数の分析項目の中からエキス分の総量,pH及び糖質の含量のみを抜き出して公然実施発明1を特定することは許されず,エキス分の総量,pH及び糖質の含量をひとまとまりの構成として相違点を認定すべきである旨主張する。…

本件発明は,特許請求の範囲の記載上,エキス分の総量,pH及び糖質の含量につき数値範囲を限定しているが,各数値がそれぞれ当該範囲内にあれば足りるのであり,これらが相互に特定の相関関係を有することは規定されていない。また,本件明細書の発明の詳細な説明の欄をみても,例えば,エキス分の総量が0.5重量%であるときはpHをどの範囲とし,これが2.0重量%であるときはpHをどの範囲とするのが望ましいなどといった記載は見当たらず,要は,エキス分の総量,pH及び糖質の含量がそれぞれ数値範囲内にあれば足りるとされている。…別紙1-1~3に示された公然実施発明1の多数の分析項目のうちエキス分の総量,pH及び糖質以外の成分等の分析結果は,本件発明の進歩性を検討するに当たり考慮する必要はないと考えられる。…本件発明の進歩性を判断する前提として公然実施発明1との相違点を認定するに当たっては,エキス分の総量,pH及び糖質の各数値をみれば足りる…。』

 

3-2.引用発明の構成の一部を独立して抽出できなかった裁判例

①平成30年(行ケ)第10041号「地殻様組成体の製造方法」事件<鶴岡裁判長>

『引用文献には,放射性物質が検出された下水汚泥をどのように焼却するか,下水汚泥焼却灰はどの程度の放射性物質を含むものであるか,下水汚泥焼却灰をセメント原料化する際,できる限り影響が小さくなるようにどのような対策をするのか等,下水汚泥焼却灰を処分するに当たっての具体的な方法,手順,条件など,技術的思想として観念するに足りる事項についての記載は一切存在しない。そうすると,引用文献には,単に放射性物質が検出された下水汚泥焼却灰等の処分に向けた方針,及び当該方針に関する有識者の意見が断片的に記載されているにすぎず,下水汚泥焼却灰等の安全な処分方法というひとまとまりの具体的な技術的思想が記載されているとはいえない。』
 
②平成22年(行ケ)第10064号「被覆ベルト用基材」事件<飯村裁判長>

『…審決は,発明の解決課題に係る技術的観点を考慮することなく,相違点を,ことさらに細かく分けて(本件では6個),認定した上で,それぞれの相違点が,他の先行技術を組み合わせることによって,容易であると判断した。このような判断手法を用いると,本来であれば,進歩性が肯定されるべき発明に対しても,正当に判断されることが否定される結果を生じることがあり得る。相違点の認定は,発明の技術的課題の解決の観点から,まとまりのある構成を単位として認定されるべきであり,この点を逸脱した審決における相違点の認定手法は,適切を欠く。…原告において,このような問題点を指摘することなく,また,…審決のした本願補正発明の相違点…に係る認定及び容易想到性の判断に誤りがないことを自認している以上,審決の上記の不適切な点を,当裁判所の審理の対象とすることはしない。』(※結論は、特許権者不利)
 
③平成29年(行ケ)第10087号「建築板」事件<高部裁判長>

『…本件発明と主引用発明との間の相違点を認定するに当たっては,発明の技術的課題の解決の観点から,まとまりのある構成を単位として認定するのが相当である。かかる観点を考慮することなく,相違点をことさらに細かく分けて認定し,各相違点の容易想到性を個々に判断することは,本来であれば進歩性が肯定されるべき発明に対しても,正当に判断されることなく,進歩性が否定される結果を生じることがあり得るものであり,適切でない。…

本件発明1において,顔料の組合せと,紫外線硬化型インクを用いることとは,技術的意義が同一であるとはいえない。また,一般に,インクを構成する顔料は,インクの種類(紫外線硬化型インク,水性インク等)に合わせて選択しなければならないわけではないから…,顔料の組合せと紫外線硬化型インクを用いることとが,発明の技術的課題の解決の観点から,まとまりのある構成であるということはできない。…顔料の選択とインクの選択とは,別の相違点として検討されてしかるべきものである。…好適な変退色を実現するという本件発明の課題を解決する上では,各色の顔料の退色を同程度にすることが必要であるから,個々の顔料の選択(顔料の組合せ)は,本件発明の課題解決手段として重要な技術的意義があるといえる。したがって,本件発明1において,発明の技術的課題の解決の観点からは,顔料の組合せをひとまとまりの相違点として判断するのが相当である。』(※結論は、特許権者不利)
 
④平成23年(行ケ)第10385号「炉内ヒータを備えた熱処理炉」事件<芝田裁判長>

上位概念化の限界(引用発明の構成の一部を独立して抽出できない事例) H27(行ケ)10077同旨
 
⑤平成23年(行ケ)第10284号「オープン式発酵処理装置」事件

上位概念化の限界(引用発明の構成の一部を独立して抽出できない事例)
 
⑥平成29年(行ケ)第10119号、第10120号「空気入りタイヤ」事件<高部裁判長>

上位概念化の限界(引用発明の構成の一部を独立して抽出できない事例)

『本件審決は,甲4に甲4技術が記載されていると認定した。しかし,…甲4には,特許請求の範囲にも,発明の詳細な説明にも,一貫して,ブロックパターンであることを前提とした課題や解決手段が記載されている。また,…甲4には,前記イ①ないし③の技術的事項,すなわち,溝面積比率,独立カーフ,タイヤ幅方向全投影長さとタイヤ周方向全投影長さの比に関する甲4技術Aが記載されている。そこで,これらの記載に鑑みると,上記イ①ないし③の技術的事項は,甲4に記載された課題を解決するための構成として不可分のものであり,これらの構成全てを備えることにより,耐摩耗性能を向上せしめるとともに,乾燥路走行性能,湿潤路走行性能及び乗心地性能をも向上せしめた乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供するという,甲4記載の発明の課題を解決したものと理解することが自然である。したがって,甲4技術Aから,ブロックパターンを前提とした技術であることを捨象し,さらに,溝面積比率に係る技術的事項のみを抜き出して,甲4に甲4技術が開示されていると認めることはできない。よって,本件審決における甲4記載の技術的事項の認定には,上記の点において問題がある。』
 
⑦平成17年(行ケ)第10003号「色副搬送波振幅調整回路」事件

引用例の図面から構成を読み取れないとした事例
 
⑧平成21年(行ケ)第10002号「外径1.6mmの灌流スリーブ」事件

引用例中の図面から構成(大小関係)を読み取れないとした事例
 
⑨平成23年(行ケ)第10414号「…グラブバケット」事件<土肥裁判長>

引用例中の図面から構成(寸法)を読み取れないとした事例
 
⑩平成23年(行ケ)第10304号「靴用の通気性・防水性底革」事件<芝田裁判長>

引用例中の図面から構成(位置関係)を読み取れないとした事例
 
⑪平成25年(行ケ)第10015号「…エレベータ」事件<設樂裁判長>

引用例中の図面から構成(寸法)を読み取れないとした事例

⇒引用発明の課題と無関係の構成は読み取れない傾向にある。
 
⑫平成27年(行ケ)第10037号「斜板式コンプレッサ」事件<清水裁判長>

引用例中の図面から構成(形状)を読み取れないとした事例

⇒引用発明の課題と無関係の構成は読み取れない傾向にある。
 
⑬平成28年(行ケ)第10246号「レーザビームを形成するための装置」事件<鶴岡裁判長>

引用例中の図面から構成(形状)を読み取れないとした事例(出願人が引用発明の認定を争った事例)

⇒引用発明の課題と無関係の構成は読み取れない傾向にある。
 
⑭平成27年(行ケ)第10141号「発光装置」事件<清水裁判長>

引用例中の図面から構成(形状)を読み取れないとした事例

 
——————————————————————————

【判示事項(抜粋)(引用発明の認定に関する部分)】

1 取消事由1(進歩性の判断の誤り)について

(1) 引用発明の認定の誤り(取消事由1-1)について

ア 原告は,審決で認定した引用発明は,必須の構成要件である①ないし④の各事項(上記第3の1⑴に記載)を欠いており,誤りである旨主張する。

 確かに,原告が主張するように,引用文献1の【0128】ないし【0142】で開示される実施例(以下「引用実施例」という。)においては,マットレス装置を構成する複数の部材の堅さの選択及び組合せとして多種多様な選択肢があり得るところ,審決は,そのうちの一つを取り出した構成を引用発明として認定している。また,この一つの例についても,頭部と足部を入れ替え,又は表と裏とを入れ替えることによって,当該構成のマットレス装置は更に4通りの堅さ分布による使用が可能であるところ,審決は,このことに言及していない。そして,原告の上記主張は,審決によるこのような引用発明の認定の手法について,引用発明の課題(目的)を無視し,本願発明1との相違点を予め減らすべく事後分析的な認定をしたものであって誤っている旨主張するのである。

イ よって検討するに,引用文献1の記載によれば,引用実施例に係るマットレス装置452が上記のように多種多様な部材の選択及び組合せや4通りの使用方法を開示しているのは,引用実施例が「小売用テスト装置として」利用され【0142】,「小売業者は店舗内のテスト用マットレスの台数を減ずることで床面積を節約し得ると共に,ユーザは小売業者から購入しようとするマットレスの感触を適合調整し得る」【0128】ように,店舗内のテスト用マットレスに特化した課題(目的)又は作用効果に関する事項を強調するためであると解される。しかし,引用文献1には,「マットレス装置452は家庭または他の療養施設での個人使用の為にユーザにより購入されることもある」【0142】と記載されており,このように個人が使用する場合には,適切な感触を得られる硬さの部材の組合せが既に決定されているのであるから,多種多様な部材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法があることは想定されない。

 したがって,小売用テスト装置(店舗内のテスト用マットレス)に用途を限定しない引用実施例のマットレス装置452において,多種多様な部材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法があることは,一体不可分の必須の技術思想に当たらず,その中から一つの組合せ及び使用方法を抽出した例を引用発明とすることに支障はない。引用発明は,引用例に記載されたひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握可能であれば足りるところ,審決で認定された引用発明は,この要件を充たしているといえる。

ウ もっとも,審決が,引用文献1に開示された多種多様な部材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法の中から,引用文献1に具体的には全く例示されていない例を抽出したのであれば,原告のいうように,本願発明1の相違点を予め減らすべく事後分析的な認定をしたといえることもあろう。

 しかしながら,審決が認定した引用発明は,部材の選択及び組合せ(認定に係る構成のK,O及びQ)については,引用文献1に「所望であれば」「好適には」として具体的に例示された構成を採用している。また,使用方法については,引用文献1の【図24】に具体的に示された例をそのまま用いており,頭部と足部とを入れ替えることも,表と裏とを入れ替えることもしていない。このように,引用発明は,引用文献1に接した当業者が特段の「深読み」を要せずして把握し得る構成を備えたものであるから,審決に,事後分析的な認定をしたという誤りもない。また,引用文献1の例示に基づいて具体的に認定した引用発明に,例示であることを示す「所望であれば」「好適には」という文言を加えなければならない理由もない。

エ なお,部材の選択及び組合せについて審決が認定した構成(K,O及びQ)をとるとき,頭部端ブロック490と足部端ブロック492の堅さは等しいから,頭部側と足部側とを入れ替えたとしてもベッド使用者の身体の各部位に相当するコア458の各部位の堅さは変わらない。また,引用文献1において,トッパ発泡体の上側と下側及びキルティングパネルの頂部と底部につき,厚さ又は堅さを違えることに関する言及は何らみられないから,マットレス装置452を裏返すことに技術的意義があるとは考え難い。これらの点からしても,4通りの使用方法があることを引用発明1の認定において考慮しなかったことに誤りがあるとはいえない。

オ 以上によれば,原告の主張は採用することができない。
 

原告(特許出願人):パラマウントベッド株式会社

被告:特 許 庁 長 官
 

(Keywords)特許、新規性、進歩性、パラマウントベッド、引用発明の認定、ひとまとまり、不服、ギャッチベッド、マットレス、技術思想、鶴岡
 

執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)(特許ニュース令和2年2月10日の原稿を追記・修正したものです。)

監修:吉田和彦(弁護士・弁理士)

 

本件に関するお問い合わせ先: h_takaishi@nakapat.gr.jp
〒100-8355 東京都千代田区丸の内3-3-1新東京ビル6階
中村合同特許法律事務所

 
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