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【特許★★】明細書中の図面から溝の不存在を看取し、除くクレームの訂正が認められた。引用発明は溝が必須であるから、阻害事由があるとして進歩性〇。

2022年10月26日

-令和3年(行ケ)第10111号「レーザ加工装置」事件<菅野裁判長>-

 
◆判決本文

 

【本判決の要旨、若干の考察】

1.特許請求の範囲(訂正後の請求項1、下線部「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていない」が訂正により追記された構成要件。相違点2)

ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、前記加工対象物が載置される載置台と、パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射するレーザ光源と、前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から出射されたパルスレーザ光を集光し、1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポットを形成させる集光用レンズと、隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部と、を備え、前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハであることを特徴とするレーザ加工装置。
 

2.本判決の抜粋

<新規事項追加に関する判示部分>

訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明から、概念的に包含されていた「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されているシリコンウェハ」ないし溝必須装置を除くにすぎないから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正事項1により、請求項1に係る発明の「レーザ加工装置」に新たな技術的事項が追加されることはない。本件明細書の記載に照らしてみても、…本件明細書等の図1及び図3は、加工対象物1上の切断予定ラインが図示された平面図であるが、図1のII-II線に沿った断面図である図2、図3のIV-IV線に沿った断面図である図4のいずれにおいても、溝は形成されていないことが看取される。そして、本件明細書の【0031】の「なお、シリコンウェハは、溶融処理領域を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコンウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。シリコンウェハの表面と裏面に到達するこの割れは自然に成長する場合もあるし、加工対象物に力が印加されることにより成長する場合もある。」との記載に鑑みれば、本件明細書のレーザ加工装置は、切断予定部分の溝の有無に依存せずに、改質領域を起点として切断できるものである。 したがって、本件明細書等には、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハないしこれを切断することができるレーザ加工装置が記載されているといえるから、この点からしても、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。…図1ないし4によれば、「切断予定ライン」は記載されている一方で、「溝」は記載されていないところ、訂正前の本件発明において「溝」が存在することが前提となっているのであれば、「切断予定ライン」を記載しながら「溝」をあえて記載しないことは不自然というほかない。…本件訂正は訂正要件を満たす…。

<進歩性に関する判示部分>

甲11文献に接した当業者が、基板201から、半導体ウエハーの切断に利用される内部応力をもたらす溝部203を捨象することは想定し得ず、加工対象物として、ブレイクラインに沿った溝が形成されていない基板201を採用し、表面に溝が形成されていない基板201の内部側に形成された加工変質部を形成するよう改変を行う動機付けは存在しないのみならず、このような改変にはむしろ阻害事由があるというべきであるから、甲11発明から、相違点2に係る本件発明1の構成に至ることはない…。
 

3.若干の考察

(1)図面に基づく補正・訂正・分割・優先権主張(新規事項追加)

以下に裁判例を紹介するとおり、本件明細書の図面に基づく補正・訂正・分割・優先権主張(新規事項追加)と、新規性・進歩性判断の場面における引用特許公報中の図面から読み取れる発明(引用発明の認定)とは、完全同一ではないとしても同様に考えることができる。

特許公報中の図面から読み取れる発明は、せいぜい、「大小関係」、「位置関係」、「配列/方向」、「形状」、「存在」が読み取れた事例と読み取れなかった事例があるという状況であり、「寸法」が読み取れたという裁判例は見当たらない。

裁判例の傾向としては、発明の課題に関連する要素は、特に注意して正確に描かれている傾向にあるから読み取れ易いといえるが、過度の期待は禁物である。図面に何らかの技術思想を込めている場合は、優先基礎出願においてそれを言語化しておくべきであろう。

(諸外国を見ても、米国MPEP、欧州審査ガイドライン、中国審査指南・最高人民法院司法解釈の記載からは、各国ともに、引用例の図面に基づく新規性欠如・本件明細書の図面に基づく新規事項追加の論点は、何れも読み取れにくい傾向で説明されている。)

このような状況下において、本判決は、明細書中の図面から溝の「不存在」を看取し、除くクレームの訂正要件を満たすと判断したものであるから、新規性・進歩性判断時の引用発明の認定について、引用文献中の図面から構成の「存在」を読み取れると判断した後掲・平成25年(行ケ)第10155号【車椅子】事件<清水>、及び令和元年(行ケ)第10130号【非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット】事件<鶴岡>二次判決と並んで、重要な意義を有する裁判例である。
 

(2)「除くクレーム」と進歩性

除くクレームは近時多く[i]使われている。裁判例では、除くクレームは拡大先願(特許法29条の2)を克服するために極めて有用であり、拡大先願に対応する除くクレームが新規事項追加と判断されたり、除くクレームをしたクレームがなお拡大先願違反であると判断された裁判例が見当たらない。

除くクレームで進歩性が認められるケースは、本件発明と主引例との相違点が主引例の課題解決原理そのものであり、それを除くことに阻害事由がある場合に限られる。特許庁審査基準からは認められ難いし、裁判例でもこれが奏功した事例は3件しかないことから、進歩性の論点では、除くクレームに対する過度の期待は禁物である。また、3件の裁判例、日本の審査基準を見ても、進歩性確保のための除くクレームの補正・訂正等は、拡大先願違反を免れるための補正・訂正等と異なり、新規事項追加とならずに補正・訂正・分割要件の満たすためには、本願(本件)明細書中の根拠が必要とされているように見受けられる。(3件の裁判例は、何れも新規事項追加ではないと結論したが、本件明細書の開示を検討し、当てはめている。)

この意味でも、同じ新規事項追加の問題であるにもかかわらず、拡大先願違反を免れるための場合と、進歩性確保のための場合で基準がダブルスタンダードであると思われる。この点は、諸外国も同様であり、欧州ガイドライン中で進歩性肯定のために使うときは、Undisclosed Disclaimerは使えないと明記されているし、中国も<補正に関する事例比較研究:仮訳(日中韓2015年JEGPE)の事例27>に照らすと進歩性肯定のために使うときはUndisclosed Disclaimerは使えないと思われる。(なお、米国は、拡大先願に相当する米国特許法102条eの文献がnon-obviousnessの組合せの対象となるため、除くクレームの意義は低い。[ii])

 

【関連裁判例の紹介(①除くクレームで進歩性が認められた裁判例3件+審決1件<本件を含む>)】[iii]

≪権利者有利の裁判例≫

主引例の課題解決原理、本質的部分に関わる部分を除いてしまえば、進歩性も認められる!!

 
●平成29年(行ケ)第10032号【導電性材料の製造方法(銀フレーク)】事件<髙部>一次判決

*「除くクレーム」で進歩性が認められた‼ ⇒二次判決(大鷹)は拘束力を理由に同旨。

(判旨抜粋)…引用発明1の製造方法は,本件訂正発明9の「前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し(但し,銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除く),それにより発生する空隙を有する導電性材料を得る方法」とは異なる…。…引用例1は,銀フレークを端部でのみ焼結させて,端部を融合させる方法を開示するにとどまり,焼成の際の雰囲気やその他の条件を選択することによって,銀の粒子の融着する部位がその端部以外の部分であり,端部でのみ融着する場合は除外された導電性材料が得られることを当業者に示唆するものではない…。
 
●平成30年(ネ)第10006号【システム作動方法(カプコンv.コーエー)】事件<鶴岡>

*(原審と異なり、)「除くクレーム」で進歩性が認められた‼ ⇒実質的に構成の相違であるから、特殊な判断ではない。

(判旨抜粋)…「キャラクタ」,「プレイ実績」の情報をセーブできない記憶媒体を採用すると,前作のゲームにおける「キャラクタ」,「プレイ実績」の情報が記憶媒体に記憶されないこととなり,「前作のゲームのキャラクタで,後作のゲームをプレイする」,「前作のキャラクタのレベルが16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムを動作させる」という本件公知発明1を実現することができなくなることは明らかである。したがって,…本件公知発明1において,記憶媒体を,ゲームのキャラクタやプレイ実績をセーブできない「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更する動機付けはなく,そのような記憶媒体を採用することには,阻害要因がある。
 
●令和3年(行ケ)第10111号【レーザ加工装置】事件<菅野>(本判決)

*本件明細書中の図面から溝の不存在を看取し、除くクレームの訂正が認められた

(判旨抜粋)…本件明細書等の図1及び図3は、加工対象物1上の切断予定ラインが図示された平面図であるが、図1のII-II線に沿った断面図である図2、図3のIV-IV線に沿った断面図である図4のいずれにおいても、溝は形成されていないことが看取される。…図1ないし4によれば、「切断予定ライン」は記載されている一方で、「溝」は記載されていないところ、訂正前の本件発明において「溝」が存在することが前提となっているのであれば、「切断予定ライン」を記載しながら「溝」をあえて記載しないことは不自然というほかない。
 
●<特許庁>訂正2017-390031

【請求項1】…抗体または抗体誘導体(ただし、抗体クローンAHIX – 5041:Haematologic Technologies社製、および抗体クローンHIX – 1:SIGMA – ALDRICH社製を除く)

⇒除かれた2つの公然実施発明(抗体)に基づいて 「凝血促進活性を増大させる」抗体を作成することは、当業者にとって容易想到ではなかった。

(審決抜粋)「…これら2つの抗体が『凝血促進活性を増大させる』ことまでが知られていたと認めるにたる証拠は示されていない。さらに、本件の優先日当時に、『第IX因子または第IXa因子に対する抗体または抗体誘導体」が「凝血促進活性を増大させる』ことが知られていたことを示す証拠もない。したがって、これら2つの抗体に基づいて『凝血促進活性を増大させる』抗体を作成することは、当業者にとって容易想到ではなく、訂正後の請求項1に係る発明は進歩性を有する…。」⇒進歩性〇
 

≪権利者不利の裁判例≫

●平成26年(行ケ)第10204号【経皮吸収製剤】事件<石井>

*除くクレームにおいて除かれる部分が物として明確でないことから、特許請求の範囲の減縮に当たらないとして、訂正要件×。=同一当事者の平成28年(行ケ)10160

 

【関連裁判例の紹介(②特許公報中の図面から読み取れる発明~新規事項追加)】[iv]

≪権利者有利の裁判例≫

●平成22年(行ケ)第10034号【ダブルアーム型ロボット】事件<滝澤>

*図面から分割に係る構成を読み取れると判断した。Cf.H23(行ケ)10261

(判旨抜粋)…原出願明細書において,コラム,旋回中心及び基端の関節部(肩関節部)の位置関係に関しては,図2において…が図示されており,同図における旋回中心,コラム及び基端関節部の回転中心軸の位置関係は,本件発明1の…構成…を満たす…。

本件発明1においては,…「R>r」の要件を満たす場合であっても,台座の旋回中心,肩関節部の回転中心,コラムが略一直線上に配置される構成以外では,ロボットの旋回半径を小さくするという作用効果が発揮されない場合も想定されるものであるが,当業者であれば,原告が前提とする極端な設計は採用しないことが通常であるし,特許請求の範囲が,作用効果を有しない構成を含むからといって,必ずしも常に分割要件を欠くものということはできない。
 
●平成11年(行ケ)第246号【コーティング装置】事件<篠原>

*図面のみに示された略正方形のワークを「矩形状ワーク」と訂正した。⇒当分野の技術常識を勘案して新規事項の追加とならないと判断した。

(判旨抜粋)…コーティング対象を矩形状のワークに特定することにより,結果的に,本件発明の装置自体がその構成において登録明細書及びその図面に記載された事項の範囲を超えるものとなる場合には,当該訂正は新規事項を含むものとして許されない。

 本件において,登録明細書等及びその図面には,コーティング対象であるワークがガラス基板,シリコンウェハー等である旨記載されている。本件発明の実施例を示す図2には,正方形のワークが記載されているが,もとより一実施例にすぎず,正方形以外の形状を除外すべき根拠はなく,かえって,登録明細書に塗布対象として明記されているシリコンウェハーは,その代表的な形状がほぼ円形状であることは技術常識に属するにもかかわらず,本件発明のコーティング対象として記載されている。また,原告は,登録明細書等には,矩形状のワークについて直接的かつ一義的に記載されていないとして,ワークの形状を矩形状とする本件訂正が登録明細書等に記載された範囲を超えるものであるとも主張するが,本件訂正が登録明細書等に記載された範囲内においてされたことは上記のとおりであるから,原告の主張は,採用することができない。

 
≪権利者不利の裁判例≫

●平成14年(行ケ)第521号【免震方法及び該方法に使用する免震装置】事件<篠原>

*図面から上位概念の技術的思想を読み取ることができないとして補正を却下した事例

(判旨抜粋)…滑り支承を上記のとおりに配置することが,当初明細書等の明細書に何ら記載されていないことは,上記のとおりであり,明細書が引用する図2の図示を参照するとしても,願書に添付した図面は,本来,当該発明の具体的構成を図示してその技術的内容を理解しやすくするため,明細書の補助手段として使用される任意書面であって,明細書の記載を補完するものであり,所定の様式が定められている(特許法施行規則25条,様式30)とはいえ,設計図面に要求されるような正確性をもって図示されるとは限らない。加えて,「滑り支承を上部建物の略中央部に周方向に配置する」とは,図2に示された横断面矩形の建物の場合において,上部建物の略中央部に滑り支承を周方向に配置することに限らず,例えば,…に配置する(参考図-2),…に配置する(参考図-3)などの下位概念を包含する上位概念の技術的思想に相当するものである。ところが,図2の図示からは,…に配置する(参考図-2)か,…に配置する(参考図-3)かは明らかでないから,結局,図2からは,「滑り支承を上部建物の略中央部に周方向に配置する」という上位概念の技術的思想を読み取ることはできない。さらに,被告が主張するように,仮に,中央部が,「参考図-4」に記載した斜線部であるとすると,「建物の略中央部の周方向」は,参考図-4に示されるように,斜線から成る略正方形の各頂点のみならず,各辺をも含むこととなるが,当初明細書等の図2から読み取れることは,中央部(参考図-4の斜線部)の略正方形の四つの頂点に,弾性滑り支承(同図の「○」印)が配置されていることにとどまり,本件補正に係る「建物の略中央部の周方向」の一形態である上記略正方形の辺上に配置した弾性滑り支承(同図の「●」印)は,当初明細書等の明細書に何ら記載されていないのであるから,当該弾性滑り支承(同図の「●」印参照)をも含む「滑り支承」を,「上部建物の略中央部に周方向に複数配置する」ことは,新規事項というほかはない。したがって,図2からは,当業者が,「滑り支承を上部建物の略中央部に周方向に複数配置する」という上位概念の技術的思想を読み取ることはできない…。
 
●平成23年(行ケ)第10261号【リニアモータ式単軸ロボット】事件<篠原>

*図面から分割に係る構成を読み取れないと判断した。分割要件×。Cf.H22(行ケ)10034

(判旨抜粋)…本件特許明細書等の【図2】には,ヘッド21配置側とは反対側の側面部にのみ放熱フィンが図示されているが,同図については,リニアモータ式単軸ロボットの縦方向のどの部分における横断面図であるかの指摘がない。【図2】には,ヘッド21の断面図が描かれており,【図1】…では,中央部分にヘッド21が記載されているから,ヘッド21を含む部分の横断面図であると認められるが,ヘッド21を含む部分は,全体からみれば僅かな部分にすぎない(ヘッド配置側の側面部の全長にわたって,多数の放熱フィンが形成されていないとは必ずしもいえない。)。したがって,【図2】の記載からは,ヘッドが設置されている側の側面部における,放熱フィンの有無や数を特定することはできない。このように本件特許明細書等にほとんど説明がない「放熱フィン」の構成について,これらの記載に接した当業者が,【図2】の上記図示から,ヘッド配置側の側面部において多数の放熱フィンが存在していないことを読み取ることはできないというべきである。

 原告は,製図法における全断面図の性質(全断面図は,当該製品の基本的な形状を表わす性質のものである。)等から【図2】の断面構造は可動部2全体に共通の構成であると理解できる旨主張する。願書に添付すべき図面について,特許法施行規則25条は,様式30により作成しなければならないと規定し,様式30〔備考4〕は,「原則として製図法に従って……描くものとし……」と規定し,〔備考9〕は,「図中のある個所の切断面を他の図に描くときは,一点鎖線で切断面の個所を示し,その一点鎖線の両端に符号を付け,かつ,矢印で切断面を描くべき方向を示す。」と規定するが,同図について切断面の個所の指摘がないことは上記のとおりである。原告は,【図2】は,その断面奥が片側多数フィン構成となっていると見るべきであり,これは断面部分のみならずその奥部分まで描かれるという断面図の性質から導かれる帰結であると主張するが,原告が引用するJIS製図法等においても断面奥部分の図示が省略されることがあるから,原告の上記主張は採用することができない。本件特許明細書等には,【図2】の断面構造が可動部2全体に共通の構成である旨の記載はなく,【図2】から原告主張の構成を把握することはできない。

 
【関連裁判例の紹介(③特許公報中の図面から読み取れる発明~引用発明の認定)】[v]

以下の裁判例は、新規性・進歩性判断において引用特許公報中に図面から読み取れる発明(引用発明の認定)に関する裁判例であるが、引用発明の認定と、補正・訂正・分割要件・優先権主張時の明細書の開示(新規事項追加にあたるか否か)とは、完全同一ではないとしてもパラレルであるため、参考になると思われる。

≪権利者有利の裁判例≫

引用文献中の図面から、「引用発明の課題」と無関係の構成(形状、数値等)は読み取れない(開示が否定される)傾向にある。※引用文献中の図面から、読み取れなかった構成⇒大小関係、位置関係、寸法(2件)、形状(3件)。
 
●平成27年(行ケ)第10037号【斜板式コンプレッサ】事件<清水>

*引用例中の図面から構成(形状)を読み取れないとした事例⇒引用発明の課題と無関係の構成は読み取れない傾向にある。

(判旨抜粋)甲1は公開特許公報であるから,甲1に掲載された図は,いずれも特許出願の願書に添付された図面に描かれたものであるところ,特許出願の願書に添付される図面は,明細書を補完し,特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図であるから,当該発明の技術内容を理解するために必要な程度の正確さを備えていれば足り,設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。…シュー10に筒状部が存在するか否かといった,甲1発明の課題,解決手段及び作用効果に直接関係のない技術的事項まで認識すべきものではない。
 
●平成28年(行ケ)第10246号【レーザビームを形成するための装置】事件<鶴岡>

*引用例中の図面から構成(形状)を読み取れないとした事例(出願人が引用発明の認定を争った事例)⇒引用発明の課題と無関係の構成は読み取れない傾向にある。
 
(判旨抜粋)…引用発明の課題,解決手段及び作用効果に直接関係のない技術的事項まで正確に表現されていると解するのは相当でない。
 
≪権利者不利の裁判例≫

引用文献中の図面から、読み取れた構成⇒大小関係(当該判決中でも、「寸法」は読み取れなかった)、位置関係(4件)、配列/方向、形状、存在
 
●平成22年(行ケ)第10381号【…エレベータのトラクションシーブ】事件<中野>

*引用例中の図面から構成(大小関係)を読み取れた事例(図面から「寸法」は読み取れなかった)。

(判旨抜粋)特許出願に係る図面も,技術文献の図面である以上,概略的かつ定性的な事項については大きな誤りはなく記載されているというべきであって,単なる大小関係等については十分に読み取ることができる…。
 
●平成23年(行ケ)第10099号【…印刷機】事件<塩月>

*引用例中の図面から構成(配列/方向)を読み取れた事例。

(判旨抜粋)甲3の図2は…記録媒体2の搬送方向Xに直交する方向とは,記録媒体2の幅方向であることを認めることができる。また,甲3の図5は,画像記録装置の主制御部分を表すブロック図であるところ,同図から,制御装置は制御部30及び画像記録ユニット50を備えることを認めることができる。
 
●平成25年(行ケ)第10155号【車椅子】事件<清水>

*引用例中の図面から構成(存在)を読み取れた事例。

(判旨抜粋)引用例の図面は…かなり写実的なものであり,形状,寸法,配置等に正確性を欠く模式図のような類のものとはいえず,当業者が上記認定のとおりに理解することの妨げになるようなものではない。しかも,引用例における文言上の記載とも矛盾するものではない…。
 
●令和元年(行ケ)第10130号【非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット】事件<鶴岡>二次判決

*引用例中の図面から構成(存在)を読み取れた事例。

(判旨抜粋)甲6の図1は,図中に示されたスケールが40.0㎛であり,粒子の大きさについて1㎛の差異までも正確に認識し得るほどに鮮明であるとは必ずしもいえないものであるが,スケールとの対比により,粒子の大きさがある程度の範囲にあるかどうかを判断することは可能である…。
 
●平成26年(行ケ)第10274号【ラジアスエンドミル】事件<設樂>

*引用例中の図面と、明細書の記載を併せて構成(形状)を読み取れた事例。

(判旨抜粋)刊行物1には,ギャシュ底面5’が,「一つの曲面」で形成され,具体的には,適当な中心O1を中心とし半径rを有する「円弧面」により形成される旨の記載があるのであるから,引用発明においては,第4図及び第6図において円弧として示されているギャシュの底面領域部分だけではなく,ギャシュの底面全域の形状が,同じ円弧面(滑らかに連続する一つの凸曲面)によって形成されていることを刊行物1の記載から認定することができる。
 
●平成27年(行ケ)第10094号【ロータリ作業機のシールドカバー】事件<髙部>

*引用文献中の図面から構成(位置関係)は読み取れた事例。

(判旨抜粋)…【図3】によれば,弾性部材23の延設された前端部23aは,低摩擦係数の部材14の後端部14aと重ね合わされていること,すなわち,低摩擦係数の部材14のメインカバー12への固定位置において低摩擦係数の部材14と重ね合わされていることを理解することができる。また,弾性部材23は,それが取り付けられる複数の座24のうち,最も前方側にあるものよりさらに前方側では自由な状態であることを理解することができる。

 
(原告・無効審判請求人)株式会社東京精密

(被告・特許権者)浜松ホトニクス株式会社

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[i] よろず知財コンサルティングのブログ2022年3月14日号(萬秀憲)https://yorozuipsc.com/blog/4130957

[ii] Cf. Google LLC v. Conversant Wireless Licensing S.A.R.L. (Fed. Cir. 2018)
Claim:「携帯電話のネットワークを通じて(特定の端末の)位置を探索すサービスを提供する方法であって、…位置探索の対象となる端末を事前に登録することなく当該サービスが提供される。」
⇒先行技術文献には、「位置探索の対象となる端末を事前に登録することなく当該サービスが提供される」という趣旨の記載や説明は無し。「情報の機密性の理由から、位置探索の対象となる端末のリスト(事前登録情報)が保管されている事が好ましい」という記載あり。
⇒CAFC判決「本件の場合、事前登録の開示があるのだから、それがオプションであるか否かに関わらず、Negative Limitationの開示にはあたらない」という特許権者の主張について、PTABの検討は不十分。⇒差し戻し

[iii] YouTube動画「除くクレームの活用」https://www.youtube.com/watch?v=MCoshkBBcRo

[iv] YouTube動画「新規事項追加と、本件発明の課題」https://www.youtube.com/watch?v=caYkLhd5rYM

[v] YouTube動画「<引用発明の認定>公報の図面から引用発明を読み取れるか?」https://www.youtube.com/watch?v=Ew49FtfJVwE&t=77s

 

執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)(特許ニュース令和4年9月20日の原稿を追記・修正したものです。)

監修:吉田和彦(弁護士・弁理士)

〒100-8355 東京都千代田区丸の内3-3-1新東京ビル6階

中村合同特許法律事務所

 
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