-令和3年(ネ)第10029号「手摺の取付方法」事件<東海林裁判長>-
(原審・大阪地判平成29年(ワ)第10716号<杉浦裁判長>同旨)
◆判決本文
【本判決の要旨、若干の考察】
1.特許請求の範囲(請求項1)
A ベランダのパラペットP上にその長手方向に所定間隔おきに手摺支柱1を立設し,これら手摺支柱1の上端部に手摺笠木2を架け渡すことによって手摺本体3を形成してなる手摺の取付方法において,
B 手摺本体3の室外側に,手摺本体3の長手方向略全域にわたってガラス上縁部嵌合溝4が連通形成されるガラス用上枠5と,手摺本体3の長手方向略全域にわたって前記ガラス上縁部嵌合溝4に対応するガラス下縁部嵌合溝6が連通形成されたガラス用下枠7と,上下枠5,7間に,ガラス側縁部嵌合溝8,9が形成されてなる左右側枠10,11とからなるガラス取付枠14が一体又は一体的に設けられ,
C このガラス取付枠14に複数のガラス板12と各ガラス板 12間に目地材を取り付けるにあたって,目地材としてアルミ製目地枠13を用い,
D また手摺支柱1の室外側側面には,アルミ製目地枠13を係止するための係止爪 が突設され,
E アルミ製目地枠13の室内側側面には,アルミ製目地枠13を手摺本体3の長手方向の一方側から摺動させることによって前記係止爪に係止される被係止爪16が突設され,
F しかして,まず最初のガラス板12を室内側からその上縁部12aをガラス上縁部嵌合溝4に嵌合し,
G 次にその下縁部12bをガラス下縁部嵌合溝6に落し込むように嵌合する所謂倹鈍式によってガラス板12を上下枠5,7間に嵌め込み,
H 次にそのガラス板12を上下縁部嵌合溝4,6に沿って一方側から摺動させて,該ガラス板12の側縁部12cをガラス取付枠14の他方側の側枠のガラス側縁部嵌合溝8に嵌合し,
I 次にアルミ製目地枠13を上下枠5,7間を一方側から摺動させて,その被係止爪16を係止爪に係止させることによってアルミ製目地枠13を手摺支柱1に係止させ,これによって該目地枠13を最初のガラス板12の側縁部12dに係合保持させ,
J そして次のガラス板12を同様にして室内側から倹鈍式で上下枠5,7間に嵌め込み,これも同様に一方側から摺動させて,該ガラス板12の側縁部12cを先のアルミ製目地枠13に係合保持させ,
K このようにして複数のガラス板12とアルミ製目地枠13を交互にガラス取付枠14に室内側から取り付けることによって,手摺本体3の室外側長手方向略全域に複数のガラス板12が連続して手摺本体3とアルミ製目地枠13に囲繞されるようにして取り付けられる
L 手摺の取付方法。
2.事実関係(一審判決中の第2の2(4)イ)
「被告製品は,別紙被告製品説明書のとおりの構成を有するものであるところ,被告方法により取り付けられるものである。被告製品の取付けに当たり,被告は,別紙方法目録記載3の構成a~k のうち,手摺本体にガラス取付枠を取り付ける施工(構成a及びb)までを行い,その後のガラス取付作業(構成c~k)は,別の施工業者によって施工されている。被告方法の構成のうち,構成a~c,g,h及びlは,本件発明の構成要件A~C,G,H及びLをそれぞれ充足する。」
3.複数主体の充足論に関する判示抜粋(一審判決の抜粋)
「…被告は,被告製品を販売し,被告方法のうち,手摺本体にガラス取付枠を取り付ける施工までを行い,ガラス取付作業は別の施工業者によって施工されている(なお,弁論の全趣旨によれば,被告は,ガラスの販売は行っていないものと認められる。)。もっとも,…ガラス取付作業に当たる施工業者は,被告製品を使用して,被告の指定した被告方法により,被告の作業に引き続いて取付作業を行ったものと見られる。この点で,被告とガラス取付作業に当たる施工業者とは,共同して被告方法を実施していたものと評価できる。したがって,被告は,本件特許権の直接侵害に当たる行為をしていたものと認められる。」
⇒共同(直接)侵害
4.複数主体の充足論に関するその他の裁判例と整合すること
いわゆる「道具理論」により、方法発明の一部のみを実施した者が全体について直接侵害が成立するとした過去の裁判例[i]と結論において整合するが、理論は別である。
すなわち、「道具理論」では道具とされた一部実施者に直接侵害は成立しないと思われるが、本判決は、施工業者も「共同」主体であるため、施工業者も共同侵害が成立する。
物の発明についても、複数主体が関与する物(システム)の発明について、特許権の侵害を肯定した裁判例がある(東京地判平成16年(ワ)第25576号「ヤゲン付き眼鏡レンズの供給方法」事件(HOYA事件))。
何れの裁判例も、論理の違いはあるが、実施行為の一部を他人に行わせることで特許権侵害を免れることは出来ないという、同様の価値判断が妥当すると考えられる。
【関連裁判例の紹介(複数主体の関与と充足論)<米国重要判決を含む>】
1.単独の直接侵害が認められた裁判例
(1)東京地判平成16年(ワ)第25576号「ヤゲン付き眼鏡レンズの供給方法」(HOYA事件)
*複数主体が関与する物(システム)の発明について、特許権の侵害を肯定した事例
<損害賠償請求、差止請求は、システムを支配管理している者に対してのみ可能である旨を判示した。本件事案にも通ずるところである。
「…特許請求の範囲の記載や発明の詳細な説明の記載は,2つ以上の主体の関与を前提に,実体に即して記載することで足りると考えられる。この場合の構成要件の充足の点は,2つ以上の主体の関与を前提に,行為者として予定されている者が特許請求の範囲に記載された各行為を行ったか,各システムの一部を保有又は所有しているかを判断すれば足り,実際に行為を行った者の一部が「製造側」の履行補助者ではないことは,構成要件の充足の問題においては,問題とならない。
これに対し,特許権侵害を理由に,だれに対して差止め及び損害賠償を求めることができるか,すなわち発明の実施行為を行っている者はだれかは,構成要件の充足の問題とは異なり,当該システムを支配管理している者はだれかを判断して決定されるべきである。」
(2)大阪地判昭和36.5.4民集12.5.937「スチロビーズ」事件
*方法発明の一部実施~本件事案にも通ずる。
「…他人の特許方法の一部分の実施行為が他の者の実施行為とあいまって全体として他人の特許方法を実施する場合に該当するとき,例えば一部の工程を他に請負わせ,これに自ら他の工程を加えて全工程を実施する場合,または,数人が工程の分担を定め結局共同して全工程を実施する場合には,前者は注文者が自ら全工程を実施するのと異ならず後者は数人が工程の全部を共同して実施するのと異ならないのであるから,いずれも特許権の侵害行為を構成する…。」
(3)東京地判平成12年(ワ)第20503号「電着画像の形成方法」事件
*方法発明の一部実施~本件事案にも通ずる。
*輸出は、差止×⇒特許権の域外適用の問題 Cf.大阪高判H13年(ネ)240参照
「被告製品…を購入した文字盤製造業者によって,裏面の剥離紙を剥がされて,文字盤等の被着物に貼付されることは,『時計文字盤等用電着画像』という被告製品の商品の性質及び上記の被告製品の構造に照らし,明らかである。被告製品には,他の用途は考えられず,これを購入した文字盤製造業者において上記の方法により使用されることが,被告製品の製造時点から,当然のこととして予定されているということができる。したがって,被告製品の製造過程においては,構成要件⑥に該当する工程が存在せず,被告製品の時計文字盤等への貼付という構成要件⑥に該当する工程については,被告が自らこれを実施していないが,被告は,この工程を,被告製品の購入者である文字盤製造業者を道具として実施しているものということができる。したがって,被告製品の時計文字盤等への貼付を含めた,本件各特許発明の全構成要件に該当する全工程が被告自身により実施されている場合と同視して,本件特許権の侵害と評価すべきものである。」
(4)知財高判平成20年(ネ)第10085号「インターネットサーバのアクセス管理およびモニタシステム」
*方法の発明における侵害主体性が認められた。(トリッキーな事例判決)
「【請求項】インターネットよりなるコンピュータネットワークを介したクライアントからサーバーシステムへの情報ページに対するアクセスを提供する方法…
本件特許に係る発明の名称は『インターネットサーバーのアクセス管理およびモニタシステム』とされており,…特許請求の範囲の記載から,本件発明における『アクセス』が『インターネットよりなるコンピュータネットワークを介したクライアント』による『サーバーシステムの情報ページ』に対するものであることが明らかである上,構成要件BないしFに規定される各段階は,本件発明において提供される『アクセス』が備える段階を特定するものであると解されるから,このような本件発明の実施主体は,…『アクセスを提供する方法』の実施主体であって,被控訴人方法を提供して被控訴人サービスを実施する被控訴人である…。
本件発明は『アクセス』の発明ではなく,『アクセスを提供する方法』の発明であって,具体的にクライアントによるアクセスがなければ本件発明に係る特許権を侵害することができないものではない。また,本件発明に係る『アクセスを提供する方法』が提供されている限り,クライアントは,被控訴人方法として提供されるアクセス方法の枠内において目的の情報ページにアクセスすることができるにとどまるのであり,クライアントの主体的行為によって,クライアントによる個別のアクセスが本件発明の技術的範囲に属するものとなったり,ならなかったりするものではないから,クライアントの個別の行為を待って初めて『アクセスを提供する方法』の発明である本件発明の実施行為が完成すると解すべきでもない。」
2.教唆・幇助が認められた裁判例・認められなかった裁判例
(1)東京地判昭和62年(ワ)第6869号「部分かつら」事件~*幇助成立
「Aは被告に対し,部分かつらの止着部材の購入を申し込んだところ,被告は当初,止着部材を使用した部分かつらは,原告の特許権に係る「部分かつら」の技術的範囲に属する恐れがあるとして,Aの申し込みを断っていたが,同人の懇願に負けて,販売によって生じる責任を負わない旨断った上,止着部材の販売を承認し,Aはこれを自己の部分かつらに取り付けて製造販売した。…」
(2)大阪地判昭和63年(ワ)第9804号「受水槽」事件~*幇助不成立
「被告森松がハ号受水槽本体を組立・設置した当時、補助水槽の側面の三箇所に配管接続口を設けたハ号受水槽本体に対する内部配管方法はハ号物件の方法以外にもあったところ、須賀工業がハ号物件の内部配管方法を採用したことについて被告森松に明確な説明をした形跡や、ハ号物件の配管工事を担当した山田工業が被告森松と内部配管方法について打合せをした形跡はなく、結局、被告森松がハ号受水槽本体を組立・設置する段階において、その内部配管方法を具体的に認識していたことを認めるに足りる証拠はない。かえって、…須賀工業が自らの裁量によってハ号物件の内部配管方法を決定したと認めざるを得ないのであって、本件実用新案権を侵害するハ号物件を完成させるにあたり、被告森松が須賀工業と共同して行為したことは到底認められないし、須賀工業が右内部配管方法を採用してハ号物件を完成するにあたり、被告森松がこれを幇助したとも認められない。」
(3)大阪地判平成12年(ワ)第8545号「給水システム」事件~*教唆不成立
「…施工業者が本件発明の実施行為をするについて,被告がその意思決定をなさしめたといえるか否かが問題となる。…被告制御盤は,本件発明の実施にのみ用いられる物でないことからすると,そのカタログの記載のみから,被告が当該施工業者に対し,本件発明の技術的範囲に属する給水システムを設計,施行することについての意思決定をさせたものということは出来ない。」
(4)大阪高判平成12年(ネ)第3014号「五相ステッピングモータの駆動方法」事件~*幇助又は教唆成立
「共同不法行為 被控訴人製品は,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法を業として使用することができる機能を有する物であり,被控訴人は,被控訴人製品を購入したユーザーにおいて同機能を使用すれば,本件特許発明の直接侵害が成立することを十分に知っているにかかわらず,取扱説明書に当該機能を発揮することができることを明記した上で,ユーザーに被控訴人製品を販売し,被控訴人製品を購入したユーザーはスター結線を前提としたハーフステップ駆動方法を業として使用している。…
被控訴人製品を販売する行為は,不法行為<の予備行為として捉えられる教唆又は幇助行為に相当する。」
(5)大阪地判平成15年(ワ)第860号「点検口取付方法」事件~*幇助・教唆成立
「被告が被告キャビネットの設置を下請業者に委託して行う場合は、その設置は被告の行為とみられる。
また、被告が被告キャビネットを業者に販売し、業者がこれを設置する場合、業者は、被告の定めた仕様・設置方法により設置する他ない。被告は、シンクキャビネットについて、「流し台 施工説明書」において、「点検口の取りはずし方」を記載しているが、点検口を閉じる場合は、必ず被告方法を使用しなければならない。そうすると、これらの業者は、被告から指示され、被告方法を使用せざるを得ないから、被告は業者に対して被告方法の使用を教唆している。したがって、被告は、このような販売後の業者による被告方法の使用についても、民法719条に基づいて損害賠償責任を負う。」
(6)東京地判平成16年(ワ)第10667号「データ伝送方式」事件~*幇助・教唆不成立
不法行為の幇助についても、日本の国際裁判管轄OKとした事例。
⇒本件では、非充足と判断された。
(7)東京地判平成16年(ワ)第9208号「切削オーバーレイ工法」事件~*「幇助」者に対する差止請求は×
「特許法100条は,特許権を侵害する者等に対し侵害の停止又は予防を請求することを認めているが,同条にいう特許権を侵害する者又は侵害をするおそれがある者とは,自ら特許発明の実施(特許法)又は同法101条所定の行為を行う者又はそのおそれがある者をいい,それ以外の教唆又は幇助する者を含まないと解するのが相当である。けだし,① 我が国の民法上不法行為に基づく差止めは原則として認められておらず,特許権侵害についての差止めは,特許権の排他的効力から特許法が規定したものであること,② 教唆又は幇助による不法行為責任は,自ら権利侵害をするものではないにもかかわらず,被害者保護の観点から特にこれを共同不法行為として損害賠償責任(民法719条2項)を負わせることにしたものであり,特許権の排他的効力から発生する差止請求権とは制度の目的を異にするものであること,③ 教唆又は幇助の行為態様には様々なものがあり得るのであって,特許権侵害の教唆行為又は幇助行為の差止めを認めると差止請求の相手方が無制限に広がり,又は差止めの範囲が広範になりすぎるおそれがあって,自由な経済活動を阻害する結果となりかねないこと,④特許法101条所定の間接侵害の規定は,特許権侵害の幇助行為の一部の類型について侵害行為とみなして差止めを認めるものであるところ,幇助行為一般について差止めが認められると解するときは同条を創設した趣旨を没却するものとなるからである。
そうすると,被告の前記行為が本件発明の実施及び特許法101条所定の行為に該当しない以上,仮に被告の行為が会員の施工行為を教唆又は幇助するものであったとしても,被告の上記行為の差止めを求めることは許されない…。」
(8)知財高判平成27年(ワ)第10097号「洗浄剤」事件~*「教唆」「幇助」者に対する差止請求は×
「特許法100条1項は,特許権を侵害する者又は侵害するおそれがある者…に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる旨を規定しているところ,特許権を侵害する者等とは,自ら特許発明の実施(同法2条3項)若しくは同法101条所定の行為をした者又はそのおそれがある者を意味し,特許権侵害の教唆,幇助をした者は,これに含まれないと解するのが相当である。」
3.米国の重要裁判例
(1)2005.08 CAFC NTP v. Research in Motion(BlackBerry事件)
物(システム)の発明の使用は、「システムの管理が行われ,システムの有益な使用が得られる場所」である。
方法の発明は、各段階が米国内で実施されなければならず,また「各段階が米国内で実施されていない限り,製法は§271(a)で要求されるように米国『内』で使用できない」。⇒方法クレームは非侵害,システムクレームは侵害。「米国内にいるRIMの顧客が情報の送信を管理しており,結果として生ずる情報交換から恩恵を受けた。」
⇒Centillion v. Qwest (2011.01)、Geprgetown Rail Wquipment v. Holland (2017.08)も、物(システム)の発明につき同旨。
(2)2014.06 米国連邦最高裁 LIMELIGHTv. AKAMAI
方法の発明(content delivery service)について、直接侵害が存在しない限り誘引侵害が成立しないとする原則及び米国特許法第271 条(f)(1)の立法趣旨に基づき、誘引侵害が成立するとしたCAFC en bancの判決を取り消した。(争点は、誘引侵害(米国特許法271 条(b))の有無‼) (方法発明の一部を顧客が行っていた事例。⇒CAFC en banc 2015.08に続く)
(3)2015.08 CAFC en banc AKAMAI v. LIMELIGHT
2014.06米国連邦最高裁の差戻後、「誘引侵害(271 条(b))」でなく、「直接侵害(271 条(a))」の有無を問題とした。
方法の発明(content delivery service)が複数主体により分割実施された場合の直接侵害(271 条(a))の成立要件について、全てのステップが単一主体により実行(performed)されたか起因(attribute)する場合は、直接侵害が成立するとした。
⇒直接侵害が成立する具体例としては、①他者を「指揮又は管理(direct or control)」する場合、及び、②他者と「共同事業体(joint enterprise)」を形成する場合を挙げた。⇒更に「指揮又は管理」の類型として、代位責任に係る一般法理を考慮して、❶代理関係(agent)、❷契約関係(contract)、❸特定の行為への参加又は利益の享受のために方法発明のステップの一部を実行し(first prong)、被疑侵害者が実行方法又はタイミングを確立する場合(second prong)を挙げた(two – prong test)。
⇒顧客は単に被告のガイダンスに従い、被告が、顧客が方法ステップの実行時にサービスを利用することができるよう、顧客の実行の方法及びタイミングを確立しているから、被告が顧客の残りの方法ステップの実行を指示または管理しており、クレームされた方法の全ステップは、被告により、または、被告に起因して実行されたことから、直接侵害成立。
控訴人・一審被告(被疑侵害者):井 上 商 事 株 式 会 社
被控訴人・一審原告(特許権者):株式会社サンレール
執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)(特許ニュース令和4年3月7日の原稿を追記・修正したものです。)
監修:吉田和彦(弁護士・弁理士)
〒100-8355 東京都千代田区丸の内3-3-1新東京ビル6階
中村合同特許法律事務所
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[i] 例えば、上掲・大阪地判昭和36.5.4民集12.5.937「スチロビーズ」事件、東京地判平成12年(ワ)第20503号「電着画像の形成方法」事件