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【特許★★】審決取消請求事件(親・子・孫…と分割出願したとき、子出願に分割要件違反/新規事項追加の違法があると、孫の出願日が、親の出願日まで遡らない。)

2022年09月29日

-平成28年(行ケ)第10263号「配線ボックス」事件<髙部裁判長>(未来工業v.日動電工)-

 

◆判決本文

 

【本判決の要旨、付随論点についての関連裁判例】

1.本判決(「配線ボックス」事件判決)の抜粋(メルクマール部分)

 「分割出願が適法であるための実体的要件としては,①もとの出願の明細書又は図面に二以上の発明が包含されていたこと,②新たな出願に係る発明はもとの出願の明細書又は図面に記載された発明の一部であること,③新たな出願に係る発明は,もとの出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であることを要する。本件出願は,第1出願から数えて5世代目になる分割出願であるため,本件出願が第1出願の出願時にしたものとみなされるには,本件出願,第4出願,第3出願及び第2出願が,それぞれ,もとの出願との関係で,上記①ないし③の分割の要件を満たし,かつ,本件発明が第1出願の出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内のものであること,という要件を満たさなければならない。」

 ⇒「配線ボックス」事件では、出願当初明細書の2か所に記載された夫々の変更例が、互いに反するものではなく,同一の配線ボックスにおいて併存し得る変更であるとして、当業者は両方の変更例を含む発明も第1出願の出願当初明細書に実質的に記載されていたと認識すると判断され、途中世代の出願も第1出願の出願日に遡ると認められた。(最終的に、進歩性あり。)

 すなわち、親・子・孫と分割出願したとき、子出願に分割要件違反/新規事項追加の違法があると、孫の出願日が、親の出願日まで遡らない。

 それでは、子出願が出願時は親出願のクレームを引き写しただけであり新規事項追加が無かったが、出願後に補正した結果、新規事項追加となった場合には、孫の出願日が親の出願日まで遡るか?

 

2.子出願後に補正した場合⇒遡及効あり

 この点は裁判例が確立しており、子出願が出願時に新規事項追加が無かったとしても、出願後に補正して新規事項追加となった場合は、補正の遡及効により、子出願は分割要件違反/新規事項追加の違法があり、孫の出願日は、親の出願日まで遡らない。

 東京地判平成16年(ワ)第14649号「話の通話制御システム」事件<設樂裁判長>は、「本件出願2第1補正及び第2補正は,本件出願当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内において,本件分割出願における当初明細書の特許請求の範囲を増加し減少し又は変更した補正であるとは認められないから,本件分割出願は旧特許法44条1項の分割出願の要件を満たさないものであり,平成9年5月7日に出願されたものとみなされる。そして,本件出願2第1補正及び第2補正は,本件分割出願の当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものと認めることもできないため,特許法17条の2第3項に反する…」と判示して、分割要件を補正後のクレームで判断した。

 東京高判平成15年(行ケ)第65号「コンクリート埋設物」事件<篠原裁判長>(未来工業v.日動電工)は、「子出願に係る発明は,平成5年10月29日付け手続補正書(甲17)により補正され,親出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものでないこととなり,いったん特許権の設定登録がされた後,当該補正がされた発明のまま,その無効審決が確定し,子出願に係る特許権は,初めから存在しなかったものとみなされた。したがって,当該補正がされた発明はもはや訂正される余地はなく,子出願に係る発明は,親出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものでないこととなったから,子出願が分割の実体的要件を満たさないことは明らかである。そうすると,孫出願の分割の適否を検討するまでもなく,孫出願である本件特許出願の出願日が親出願の出願日まで遡及する余地はない…。」と判示して、子出願の分割要件を補正後のクレームで判断し、孫の出願日は、親の出願日まで遡らないとした。

 大阪高判平成14年(ネ)第2776号「コンクリート埋設物」事件<若林裁判長>(未来工業v.日動電工)も、「原告は,子出願が特許法44条により適法に分割された分割出願であり,…手続補正書による補正により,特許法40条に基づき,出願日が…繰り下がったに過ぎず,子出願の分割自体が不適法,無効となるものでない旨主張するが,…そもそも子出願の分割は分割要件を具備しておらず不適法であることは明らかであって,原告の上記主張は採用することはできない。…本件出願1(孫出願)は,子出願を親出願とする分割出願としては,その他の分割の要件も満たしているといえるから適法といえる。しかしながら,親出願との関係では,…子出願が親出願から適法に分割されたものとはいえない以上,本件出願1(孫出願)も親出願の時に出願したとみなされることはなく,子出願の時に出願したとみなされることとなり,子出願の出願日とみなされる…日に出願したとみなされることになる」と判示して、子出願の分割要件を補正後のクレームで判断し、孫の出願日は、親の出願日まで遡らないとした。同判決は、「補正の遡及効により分割不適法の事態などが生じる場合でも,補正を行った者はさらにこれを修正する補正を行うことにより不適法理由の解消を行うことなどが可能である。これらの点を考慮すると,親出願,子出願,孫出願と順次分割がされた場合において,子出願から孫出願への分割が分割要件に欠けるところがなかったとしても,子出願についての補正の有無,内容いかんにより,子出願の親出願からの分割がその要件を具備するか否かの帰趨が変動し,そのために,子出願の出願日が変動し,さらに孫出願の出願日が変動するような事態が生じることもやむを得ない」とも判示しており、子出願が新規事項追加の拒絶理由を受けたときに、子出願をさらに分割して孫出願を行うときには、絶対に放置してはならず、子出願が最終的に拒絶されるにしても、新規事項追加の拒絶理由は解消する補正をしておくべきである。(同判決は、それが可能であると判示している。)

 逆に、東京高判昭和50年(行ケ)第75号は、「もつとも、本件特許出願に関し、その後の補正によつて、右分割の要件が満たされるに至つたときには、これにより改めて出願日の遡及が認められることとなる場合があるので、本件補正がこの場合に当るかどうかについて検討する。」と判示して、分割要件を補正後のクレームで判断し、補正により分割要件違反が治癒されることを判示した。もっとも、同事案では、当該補正も補正要件を満たしておらず、分割要件違反が治癒されていないと判断され、「適法な分割出願であるということはできず、したがつて、出願日の遡及は認められず、現実の出願日…に出願したものとして、取り扱われることとな」ってしまった。

 

3.分割要件と補正要件の異同⇒裁判例では同じ

 この論点は学説が分かれており、両者を異なって理解する学説もある。

 しかし、裁判例を見ると、例えば東京地判平成15年(ワ)第9215号「止め具及び紐止め装置」事件<三村裁判長>は、「分割出願はもとの特許出願の時にしたものとみなされ(同条2項),新規性・進歩性の判断等については分割出願の基になった特許出願時を基準とすることになることなどにかんがみると,出願の分割は補正(特許法17条)と類似した機能を持つものであるといえるから,分割出願をすることができる範囲についても,もとの出願について補正をすることが可能である範囲に限られるものと解すべきであって(補正の要件を欠く場合にも出願の分割をなし得るとすれば,実質的には分割手続により補正の要件を潜脱することを許すことになり,不合理である。)」と判示して、分割要件と補正要件は同じとした。

 この点は、東京地判平成10年(ワ) 第8345号「養殖貝類の耳吊り装置」事件<三村裁判長>も同様に判示した。その他、裁判例を概観するも、分割要件と補正要件とで異なるメルクマールを立てた裁判例は見当たらない。

 

4.子出願の拒絶確定、無効確定、取下げの孫出願への影響⇒なし

 子出願が特許化されなくても、新規事項追加の無効理由を抱えたまま拒絶確定、無効確定、取下げでなければ、特許法44条1項に基づいて子出願の出願日が親出願日に遡る効果自体は失われないから、孫出願の出願日が親出願日に遡る効果も影響なく、失われない。

 例えば、東京地判平成27年(ワ)第8517号「畦塗り機」事件<嶋末裁判長>は、原出願⇒第1世代⇒第2世代⇒第3世代という経緯における第3世代の特許が権利行使された事案であり、第2世代の出願は取り下げられていたが、第3世代の出願日が、第1世代、原出願の出願日に遡及できることは当然視され、そもそも争われなかった。

 上掲した東京高判平成15年(行ケ)第65号、大阪高判平成14年(ネ)第2776号も、子出願の無効が確定したこと自体は、孫出願の出願日が親の出願日に遡れないことと関係ないと明示的に判示している。

 この点は、特許庁の実務も同様である。(例えば、「畦塗り機」事件の第3世代である特許の特許査定を見ると、出願日が原出願の出願日に遡及することが明記されている。)

 

5.若干の考察(子出願が新規事項追加の拒絶理由を受けた場合の対応方策)

 上記紹介した各裁判例に鑑みれば、子出願が新規事項追加の拒絶理由を受けたときに、子出願をさらに分割して孫出願を行うときには、絶対に放置してはならず、子出願が最終的に拒絶されるにしても、新規事項追加の拒絶理由は解消する補正をしておくべきである。(同判決は、それが可能であると判示している。)

 そうであるとすれば、子出願から孫出願を分割するときは、子出願を補正するコストを厭わずに、必ず手続補正をし、新規事項追加ではないクレームにして終わるべきである。このとき、子出願が拒絶確定しても孫の出願日が親出願日に遡及することを妨げないから、補正後の子出願は、新規事項追加を免れればよく、例えば新規性欠如でも差し支えない。

 もっとも、最後の拒絶理由以降において、限定的減縮のみが認められる場面においては、新規事項追加ではないが新規性欠如のクレームにする手続補正が限定的減縮違反とされる可能性もある。最後の切り札として考えられるのは、全請求項を削除する補正をして終わることかもしれない。特許法44条1項の要件は「もとの出願の明細書又は図面に二以上の発明が包含されていたこと」であるから、請求項が無くても分割要件を満たすという考え方もあるかもしれない。補正後の子出願が「新たな特許出願」(特許法44条)に該当するかは懸念が残るが、新規事項追加のまま子出願が終われば一巻の終わりであるから、最終手段としては全請求項を削除する補正をするしかないだろう。

 この点、東京高判平成13年(行ケ)第421号「側溝構造」事件も、「本件訂正によって請求項の全部が削除されたことにより,本件実用新案登録は,初めから存在しなかったものとみなされる…」と判示して、実用新案登録は初めから存在しなかったものとみなされるが、実用新案登録出願が初めから存在しなかったものとみなされるとは述べていない。

 同様に、東京高判平成15年(行ケ)第65号「コンクリート埋設物」事件<篠原裁判長>(未来工業v.日動電工)も、「無効審決が確定し,子出願に係る特許権は,初めから存在しなかったものとみなされた。」と判示して、特許権は,初めから存在しなかったものとみなされる…」と判示して、特許権は初めから存在しなかったものとみなされるが、特許出願が初めから存在しなかったものとみなされるとは述べていない。

 もっとも、請求項を全部削除する訂正自体は観念し得るとしても、上記のとおり、補正後の子出願が「新たな特許出願」(特許法44条)に該当するかは懸念が残ることに加え、この点について裁判例が存在しないため、一巻の終わりを避けるために万策尽きた場面を除き、念のため避けておきたい方策である。

 他の方策としては、例えば以下のようなものがある。

 1つには、子出願を補正するとき(又は子出願の分割出願時)に、”絶対に新規事項追加にあたらず請求項を1個用意しておく”ことである。(この”絶対に新規事項追加にあたらない請求項は、独立特許要件を満たす必要がある。何故なら、そうでないとこの請求項を理由に、子出願全体が拒絶されてしまうからである。)そうすれば、最悪でも当該1個の請求項を残して子出願を終えることができるから、上掲した問題を全て解決できる。ただし、親が特許査定されて広くチャレンジする場面であれば格別、親出願が拒絶された後の分割出願においては、絶対に新規事項追加にあたらず、且つ、独立特許要件を満たす請求項を設けることは困難である場合も多いと思われる。(例えば、実施例の1点のみをクレームアップした請求項を設けることが考えられる。)

 また、子出願について、限定的減縮でなくても兎に角新規事項追加を含まない手続補正書を提出し、判断される前に出願を取下げるという発想も有り得る。ただし、補正の遡及効がいつ発生するのか(=補正要件違反であっても、手続補正書提出時に補正の遡及効が直ちに発生するのか)という論点があり、裁判例がないところが気になるところである。

 最後に、子出願について、審判請求後、審判官に(最初の=限定的減縮の縛りが無い)拒絶理由を通知してもらい、新規事項追加でないように補正するという発想も有り得る。審判官に拒絶理由を通知する義務がないことが懸念材料であるが、実務上、審判官は事情を話せば拒絶理由を通知してくれるようであり、そうであればここでの問題は解決できる。

 

【「配線ボックス」事件判決の判旨抜粋】

 甲9明細書に本件ボックスの記載があるか否かについて,以下検討する。・・・

 上記【0047】等に記載された変更例の構成と,【0067】に記載された変更例の構成は,いずれも第1の実施形態に対する変更を具体化した構成であるが,これらは互いに反するものではなく,同一の配線ボックスにおいて併存し得る変更であるから,当業者であれば,甲9明細書の記載を総合することにより,【0047】等に記載された変更と【0067】に記載された変更とを,ともに具体化した構成も実質的に記載されていると認識するものと解される。
 そして,上記のとおり,【0067】には,「変更例において円孔18等は場合によっては削除される」との記載があるところ,円孔18は第2の接続部50bに対応する孔であるから,上記の【0047】等に記載された変更と【0067】に記載された変更とをともに具体化した構成では,第2の接続部50bが削除された構成も含まれると解される。
 以上を総合すると,甲9明細書に接した当業者であれば,「固定部」を「ボックス本体の左側壁及び右側壁の少なくとも一方」に設け,「ボックス本体の側方に開口」して「接続孔に連通する挿入開口」を「前記固定部が形成された側壁に相対向する側壁の上端部及び下端部」に形成するとともに,「該当接座部が形成された側壁に相対向する側壁の前記挿入開口に連通する前記接続孔」は,厚み方向の大きさが電線管の径と同じで,左右方向(幅方向)の大きさが電線管の径よりも小さいように形成され,「電線管の外周面が前記挿入開口よりも外方へ突出するように該電線管を接続する」という構成,すなわち,「ボックス本体」の左右両「側壁」に「挿入開口」を形成した上,左右両側から「電線管」を挿入した場合に「電線管の外周面が前記挿入開口よりも外方へ突出するように該電線管を接続」できるという構成が記載されていると認識することができる。
 そして,前記のとおり,本件ボックスは,ボックス本体の左右両側壁に「挿入開口」が形成され,その「挿入開口」に連通する「接続孔」が,厚み方向の大きさは「電線管」の径と同じで,幅方向の大きさは「電線管」の径よりも小さくなっており,左右両側から「接続孔」に「電線管」を挿入した場合,「電線管の外周面が前記挿入開口よりも外方へ突出する」ようになる構成であり,甲9明細書に記載の構成はかかる構成も含んでいるから,本件ボックスの構成は,甲9明細書の記載の範囲内であると認められる。

・・・

エ 原告の主張について
(ア) 原告は,【0067】には,第1の実施形態及び第2の実施形態の「接続孔20,38」及び「挿入開口21,39」を左右両方に設けるように変更することは記載されているが,第1の実施形態における「接続孔20」及び「挿入開口21」の構成を電線管の外周面が挿入開口よりも外方へ突出するように構成された「接続孔50」及び「挿入開口51」に変更し,さらに,それを左右両方に設けるように変更することは記載されていない,仮に【0067】の記載事項を「接続孔50」にも適用することができるとしても,接続孔50の一構成要素である「第1接続部50a」を個別化して新たな「接続孔」とし,左右両方に設けるという構成に再構成することを許容する記載はどこにもないと主張する。
しかし,前記のとおり,甲9明細書に接した当業者であれば,【0067】に記載された変更例と,【0047】,【0050】及び図11に記載された変更例を合わせて具体化した構成が記載されていると認識することができる。そして,前記のとおり,【0067】には「変更例において円孔18等は場合によっては削除される」との記載があり,円孔18は第2の接続部50bに対応する孔であるから,上記構成においては,第2の接続部50bが削除された構成も記載されており,左右両側に「接続孔50」及び「挿入開口51」を設けた場合に,そのいずれにおいても接続部50aを採用する構成も含まれると解される。
したがって,甲9明細書の記載を総合すると,当業者であれば,第1の実施形態における「接続孔20」の構成を,厚み方向の大きさが電線管の径と同じで,幅方向の大きさが電線管の径よりも小さくなるように形成し,電線管が接続された場合,電線管の外周面が挿入開口よりも外方へ突出するように構成された接続孔となるようにするとともに,その接続孔を左右両方に設けるように変更することが記載されていると認識するから,原告の主張は採用できない。
(イ) 原告は,「接続孔50」は,そもそも,「第1接続部50a」と「第2接続部50b」とを有することによって,種々の接続態様で使用できるという利点を有するものであり,【0050】の記載は,両者が一体であることを前提としていると主張する。
しかし,【0050】には,第1接続部50aにおいて,電線管10を接続することも,大径電線管60を接続することもできるとの記載はあるものの,第1接続部50aと第2接続部50bとが不可分一体であることが前提であるとの記載はない上,【0054】には,第2接続部50bを使用しない構成も記載されている。そして,前記のとおり,【0067】には「変更例において円孔18等は場合によっては削除される」と記載され,円孔18は第2の接続部50bに対応する孔であるから,【0047】,【0050】,図11に記載された変更例と【0067】に記載された変更例とをともに具体化した構成においては,第2の接続部50bが削除された構成も含まれる。
(ウ) 原告は,図11に記載された接続孔50はあくまで一方向から2本の電線管を挿入するように構成されたものにすぎず,左右両側から電線管を挿入することを許容する「本件ボックス」の構成を開示するものではないと主張する。
しかし,前記のとおり,甲9明細書の記載を総合すれば,左右両側から1本の電線管を挿入することを許容する「本件ボックス」の構成も含まれるから,原告の主張は採用できない。
(エ) 原告は,電線管を接続したときに電線管の外周面が挿入開口よりも外方へ突出するのは第1接続部50aに大径電線管60を接続した場合のみであり,甲9明細書には,電線管のサイズや組合せの違いを問わずに本件ボックスのように構成してもよいことは記載されていない旨主張する。
 しかし,前記のとおり,本件ボックスは,ボックス本体の左右両側壁に「挿入開口」が形成され,その「挿入開口」に連通する「接続孔」が,厚み方向の大きさは「電線管」の径と同じで,幅方向の大きさは「電線管」の径よりも小さくなっており,左右両側から「接続孔」に「電線管」を挿入した場合,「電線管の外周面が前記挿入開口よりも外方へ突出する」ようになる構成であり,「電線管の外周面が前記挿入開口よりも外方へ突出する」ようになるのは,その「挿入開口」に連通する「接続孔」が,厚み方向の大きさは「電線管」の径と同じで,幅方向の大きさは「電線管」の径よりも小さくなっているからであり,電線管のサイズや組合せの違いを問わず,いかなる電線管が接続されたときであっても,電線管の外周面が挿入開口よりも外方へ突出するというものではない。
 そして,前記のとおり,甲9明細書の記載を総合すると,ボックス本体の左側壁及び右両側壁の両方に「挿入開口」を形成するとともに,その「挿入開口」に連通する「接続孔」が,厚み方向の大きさは「電線管」の径と同じで,幅方向の大きさは「電線管」の径よりも小さくなっており,左右両側から「接続孔」に「電線管」を挿入した場合,「電線管の外周面が前記挿入開口よりも外方へ突出する」ようになる構成が記載されており,電線管の外周面が挿入開口よりも外方へ突出するのが,第1接続部50aに大径電線管60を接続した場合に限定されるとの記載はない。そうすると,甲9明細書には,本件ボックスの構成が記載されているから,原告の主張は採用できない。
(オ) 原告は,甲9明細書には,本件ボックスが奏する有利な作用効果について記載がない旨主張する。
しかし,本件ボックスが甲9明細書に記載されている事項の範囲内であることは前記のとおりであり,そうである以上,本件ボックスが奏する作用効果が記載されていないことを理由に新たな技術的事項が導入されたことにはならないから,原告の主張は採用できない。
 
オ 小括
以上によれば,本件ボックスの構成が甲9明細書に記載されていないため,本件出願が分割要件に違反するとの原告の主張は,理由がない。

以 上

執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)(特許ニュース令和4年8月22日の原稿を追記・修正したものです。)

監修:吉田和彦(弁護士・弁理士)

 

〒100-8355 東京都千代田区丸の内3-3-1新東京ビル6階

中村合同特許法律事務所

 
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