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【特許★★★】美容器事件知財高裁大合議判決~特許権者の製品の一部分で特許発明の特徴部分が実施された場合における特許法102条1項での特許発明の寄与度の考慮の肯否及び方法等について判示された事例~

2020年03月05日

知財高特判令和2年2月28日(令和元年(ネ)第10003号)(髙部裁判長)

 

◆判決本文


【判決要旨】

1.特許法102条1項本文所定の「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者の製品であれば足りる。
 
2.特許法102条1項本文所定の「単位数量当たりの利益の額」は、特許権者の製品の売上高から、特許権者において上記製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額である。
 
3.特許法102条1項本文所定の「実施の能力」は、潜在的な能力で足り、生産委託等の方法により、侵害品の販売数量に対応する数量の製品を供給することが可能な場合は実施の能力があるというべきである。
 
4.特許法102条1項に基づき特許権侵害による損害額を算定する場合において、①特許発明が、回転体、支持軸、軸受け部材及びハンドル等の部材から構成される美容器の、軸受け部材と回転体の内周面の形状に特徴のある発明であること、②特許発明を実施した特許権者の製品は、支持軸に回転可能に支持された一対のローリング部を肌に押し付けて回転させることにより、肌を摘み上げ、肌に対して美容的作用を付与しようとする美容器であり、上記の特徴のある部分は同製品の一部分であること、③同製品のうち大きな顧客誘引力を有する部分は、ローリング部の構成であって、特許発明の特徴部分が特許権者の製品の販売による利益の全てに貢献しているとはいえないことなど判示の事情の下では、特許発明を実施した特許権者の製品において、特許発明の特徴部分がその一部分にすぎないとしても、特許権者の製品の販売によって得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となることが事実上推定されるが、当該特徴部分の特許権者の製品における位置付け、特許権者の製品が当該特徴部分以外に備えている特徴やその顧客誘引力などの事情を総合考慮すると、事実上の推定が約6割覆滅され、これを限界利益から控除すべきである。
 
5.特許法102条1項但書所定の「特許権者が販売することができないとする事情」は、侵害行為と特許権者の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいい、例えば、①特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性)、②市場における競合品の存在、③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、④侵害品及び特許権者の製品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在することなどの事情がこれに該当するところ、本件においては、この販売できない事情に相当する数量は、原告製品と被告製品の販売価格の差異を考慮すると、全体の約5割であると認めるのが相当である。
 
6.判決要旨4による金額割合的な控除や判決要旨5による数量割合的な控除とは別に、本件発明2が被告製品の販売に寄与した割合を考慮して損害額を減額することは、認めることができない。

 

【コメント】

1.判決要旨1は、特許法102条1項本文所定の「侵害行為がなければ販売することができた物」の意義、特に、特許権者等の製品が、特許発明の実施品であることを要するか(実施品必要説)、又は、侵害品の競合品であれば足りるか(競合品十分説)、について、知財高裁大合議判決として初めて、従来からの有力説(三村量一「特許権侵害による損害額の算定-特許法102条1項を中心に-」日本弁理士会中央知的財産研究所研究報告第43号「損害賠償論-更なる研究-」(平29)2頁、高林龍「標準特許法」(有斐閣、〔第6版〕平29)283頁等)及び従来の有力裁判例(東京高判平15・10・29(平15(ネ)1901号)最高裁HP〔溶接用エンドタブ事件〕等)である(原則)実施品必要説ではなく、従来からの多数説(中山信弘編著「注解特許法」上巻(青林書院、〔第3版〕平12)1003頁〔青柳昤子〕、古城春実「損害1 特許法102条1項に基づく請求について」牧野利秋=飯村敏明=三村量一=末吉亙=大野聖二編「知的財産法の理論と実務 第2巻 特許法〔Ⅱ〕」(新日本法規出版、平19)256頁、佐野信「損害2(特許法102条2項・3項)」飯村敏明=設樂隆一編著「知的財産関係訴訟」(リーガル・プログレッシブ・シリーズ)(青林書院、平20)222頁、増井和夫・田村善之「特許判例ガイド」(有斐閣、〔第4版〕平24)359頁〔田村善之〕、髙部眞規子「特許法102条1項をめぐる諸問題」渋谷達紀教授追悼論文集「知的財産法研究の輪」(発明推進協会、平28)188頁等)及び多数裁判例(東京高判平11・6・15判時1697号96、103頁〔潜熱蓄熱式電気床暖房装置等に用いる蓄熱材の製造方法事件〕、知財高判平24・1・24(平22(ネ)10032号)最高裁HP〔ソリッドゴルフボール事件〕、知財高判平27・11・19判タ1425号179、218頁〔オフセット輪転機版胴事件〕、知財高判平28・6・1判時2322号106、120頁〔破袋機事件〕等)である競合品十分説によるべき旨を判示したものである。
  もっとも、かかる特許権者等の製品と侵害品との競合・代替可能性の程度については、「特許権侵害による損害賠償である以上、これが売れればあれが売れなくなるという事実上の因果関係だけでは足らず、権利者が現実に製造・販売している製品の技術は、権利者が有する特許権と目的や効果が同じであることを要件とすべきであろう」とする見解(中山信弘「特許法」〔法律学講座双書〕(弘文堂、〔第4版〕令元)399頁)があり、傾聴に値するものと考えられる。
 
2.判決要旨2は、特許法102条1項本文所定の「単位数量当たりの利益の額」の意義について、知財高裁大合議判決として初めて、純利益説ではなく、通説及び殆ど全ての裁判例である限界利益説によるべき旨を判示したものである。
 
3.判決要旨3は、特許法102条1項本文所定の「実施の能力」の意義について、知財高裁大合議判決として初めて、現存能力説ではなく、通説及び殆ど全ての裁判例である潜在的能力説によるべき旨を判示したものである。
 
4.判決要旨4~6は、特許権者等の製品及び/又は侵害品の部分での特許発明の実施の場合における特許法102条1項での特許発明の寄与度の考慮の肯否及び方法一般について、知財高裁大合議判決として初めて、但書所定の「譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情」の問題として考慮する見解(但書説)(田村善之「特許権侵害に対する損害賠償額の算定」パテ67巻1号(平26)141頁、高林龍「特許法102条2項の再定義」小泉直樹=田村善之編「はばたき-21世紀の知的財産法」(弘文堂、平27)464-465頁、中山信弘「特許法」〔法律学講座双書〕(弘文堂、〔第4版〕令元)401‐402頁、知財高判平18・9・25(平17(ネ)10047号)最高裁HP〔椅子式エアーマッサージ機事件〕、知財高判平24・1・24(平22(ネ)10032号)最高裁HP〔ソリッドゴルフボール事件〕、知財高判平26・3・26(平25(ネ)10017号等)最高裁HP〔オープン式発酵処理装置事件〕等)、及び、但書外の金額割合的な推定の一部覆滅事情の問題として考慮する見解(但書外説)(鎌田薫「特許権侵害と損害賠償-工業所有権審議会答申と特許法等改正案について-」CIPICジャーナル79号(平10)23頁、古城春実「特許法102条の損害算定と寄与率の概念:『液体充填装置におけるノズル』事件」AIPPIジャーナル51巻(平18)7号33頁、東京高判平11・6・15判時1697号96、103頁〔潜熱蓄熱式電気床暖房装置等に用いる蓄熱材の製造方法事件〕、知財高判平17・9・29(平17(ネ)10006号)最高裁HP〔液体充填装置におけるノズル事件〕等)ではなく、本文所定の「特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物」の「単位数量当たりの利益の額」の問題として考慮する見解(本文説)(佐野信「損害額(特許法102条1項~3項)の要件事実」大渕哲也=塚原朋一=熊倉禎男=三村量一=富岡英次「専門訴訟講座(6)特許訴訟〔下巻〕」(民事法研究会、平24)1187頁、設樂隆一「関西知財高裁10周年記念シンポジウムの基調講演等」知財ぷりずむ14巻160号(平28)14頁、髙部眞規子「特許法102条1項をめぐる諸問題」渋谷達紀教授追悼論文集「知的財産法研究の輪」(発明推進協会、平28)192頁、知財高判平28・1・19(平26(ネ)10038号)最高裁HP〔旅行業者向けシステムにおける検索及び行程作成業務用データベース著作権事件〕、知財高判平28・4・27判時2321号85、116-117頁〔接触角計算プログラム著作権事件〕等)を採用したものと理解される。
  そして、判決要旨4は、本文説の下で、原判決が寄与度をそのまま考慮して10%と認定判断したのに対し、一旦原告製品の単位数量当たりの利益額全体を特許権者の逸失利益額と事実上推定したうえで、かかる事実上の推定が寄与度の考慮により約6割覆滅されると認定判断したものである。かかる判決要旨4の認定判断は、形式的・法律的には本文説により事実認定・評価の問題としつつも、実質的には但書外説によるのと同様であり、事実認定・評価の問題としつつ実質的に侵害者による非寄与度の具体的な主張立証を必要とするものと理解される。この点、特許法102条2項において全体利益・非寄与度立証責任配分説を採用した知財高特判令和元年6月7日(平成30年(ネ)第10063号)〔二酸化炭素含有粘性組成物事件〕(髙部裁判長)とも実質的に軌を一にするものと理解されよう。
 
5.判決要旨5は、特許法102条1項但書所定の「特許権者が販売することができないとする事情」について,知財高裁大合議判決として初めて,特許法102条2項に係る非寄与度以外の推定覆滅事由をも類型的に例示した前掲知財高特判令和元年6月7日と同様に,数量割合的な控除事情として類型的に例示したものである。

 

【判決の抜粋】

1.「特許法102条1項は,民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり,特許法102条1項本文において,侵害者の譲渡した物の数量に特許権者又は専用実施権者(以下『特許権者等』という。)がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を,特許権者等の実施の能力の限度で損害額とし,同項ただし書において,譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事情を侵害者が立証したときは,当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものと規定して,侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の立証責任の転換を図ることにより,より柔軟な販売減少数量の認定を目的とする規定である。
 特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば,特許権者等が『侵害行為がなければ販売することができた物』とは,侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品,すなわち,侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解すべきである。」
 
2.「また,『単位数量当たりの利益の額』は,特許権者等の製品の売上高から特許権者等において上記製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した額(限界利益の額)であり,その主張立証責任は,特許権者等の実施の能力を含め特許権者側にあるものと解すべきである。」
 
3.「特許法102条1項 ……の『実施の能力』は,潜在的な能力で足り,生産委託等の方法により,侵害品の販売数量に対応する数量の製品を供給することが可能な場合も実施の能力があるものと解すべきであり,その主張立証責任は特許権者側にある。」
 
4.「 (3) 侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額
  ……
   ウ 原告製品の限界利益の額
  ……
  本件発明2は,回転体,支持軸,軸受け部材,ハンドル等の部材から構成される美容器の発明であるが,軸受け部材と回転体の内周面の形状に特徴のある発明であると認められる(以下,この部分を「本件特徴部分」という。)。
 原告製品は,前記アのとおり,支持軸に回転可能に支持された一対のローリング部を肌に押し付けて回転させることにより,肌を摘み上げ,肌に対して美容的作用を付与しようとする美容器であるから,本件特徴部分は,原告製品の一部分であるにすぎない。
 ところで,本件のように,特許発明を実施した特許権者の製品において,特許発明の特徴部分がその一部分にすぎない場合であっても,特許権者の製品の販売によって得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となることが事実上推定されるというべきである。
  ……
  しかし,上記のとおり,原告製品は,一対のローリング部を皮膚に押し付けて回転させることにより,皮膚を摘み上げて美容的作用を付与するという美容器であるから,原告製品のうち大きな顧客誘引力を有する部分は,ローリング部の構成であるものと認められ,また,前記アのとおり,原告製品は,ソーラーパネルを備え,微弱電流を発生させており,これにより,顧客誘引力を高めているものと認められる。これらの事情からすると,本件特徴部分が原告製品の販売による利益の全てに貢献しているとはいえないから,原告製品の販売によって得られる限界利益の全額を原告の逸失利益と認めるのは相当でなく,したがって,原告製品においては,上記の事実上の推定が一部覆滅されるというべきである。
  そして,上記で判示した本件特徴部分の原告製品における位置付け,原告製品が本件特徴部分以外に備えている特徴やその顧客誘引力など本件に現れた事情を総合考慮すると,同覆滅がされる程度は,全体の約6割であると認めるのが相当である。
  ……上記の推定覆滅は,原告製品の販売による利益に対する本件特徴部分の貢献の程度に着目してされるものであり,当該部分の製造費用の割合のみによってされるべきものではない。」
 
5.「(5) 一審原告が販売することができないとする事情
  ……『販売することができないとする事情』は,侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいい,例えば,①特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性),②市場における競合品の存在,③侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),④侵害品及び特許権者の製品の性能(機能,デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在することなどの事情がこれに該当するというべきである。
  ……本件においては,前記イ(ア)aで判示した事情(筆者注:原告製品と被告製品の販売価格の差異)を考慮すると,この販売できない事情に相当する数量は,全体の約5割であると認めるのが相当である。」
 
6.「(6) 本件発明2の寄与度を考慮した損害額の減額の可否について
  前記(3)及び(5)のとおり,原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たっては,本件発明2が原告製品の販売による利益に貢献している程度を考慮して,原告製品の限界利益の全額から6割を控除し,また,被告製品の販売数量に上記の原告製品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た一審原告の受けた損害額から,特許法102条1項ただし書により5割を控除するのが相当である。仮に,一審被告の主張が,これらの控除とは別に,本件発明2が被告製品の販売に寄与した割合を考慮して損害額を減額すべきであるとの趣旨であるとしても,これを認める規定はなく,また,これを認める根拠はないから,そのような寄与度の考慮による減額を認めることはできない。」

 

【Keywords】美容器、知財高裁大合議判決、特許法102条1項、主張立証責任、実施品必要説、競合品十分説、純利益説、限界利益説、現存能力説、潜在的能力説、侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額、事実上の推定、一部覆滅、販売することができないとする事情、寄与度、本文説、但書説、但書外説、MTG、ファイブスター
 

※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません。

 

文責:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)

本件に関するお問い合わせ先:k_iida@nakapat.gr.jp

 

 

 
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