(今回紹介する改正による変更点の概要)
改正前 | 改正後 |
時効の「中断」 | 時効の「更新」に変更
※名称の変更であって、実質的な内容の変更はありません。 |
時効の「停止」 | 時効の「完成猶予」に変更
※名称の変更であって、実質的な内容の変更はありません。 |
(新設) | 協議を行う旨の合意による時効の完成猶予という制度の創設 |
天災等による時効の停止の期間は2週間 | 天災等による時効の完成猶予の期間を3ヵ月に延長 |
(消滅時効に関する改正事項)
今回は、消滅時効に関する改正の最終回として、時効の完成猶予を取り扱う。今回の改正では、従来の時効の「中断」という概念が「更新」とされ、時効の「停止」という概念が「完成猶予」とされている。この「更新」と「完成猶予」の関係については、権利の存在について確証が得られたと評価できる場合を「更新」、権利者による権利行使の意思が明らかにされたと評価できる事実が生じた場合を「完成猶予」とされている。
そして、完成猶予については、①協議を行う旨の合意による時効の完成猶予、という制度を新設した他、②その他若干の改正がなされている。そこで、以下、①を中心に、②について若干言及する。
(①協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
改正前後の条文比較表
改正前 | 改正後(新設) |
なし
|
第百五十一条
権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。 一 その合意があった時から一年を経過した時 二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時 三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時 2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。 3 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。 4 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。 5 前項の規定は、第一項第三号の通知について準用する。 |
①については、改正後民法において新設される制度であり、改正後、いかに活用されていくのか注目すべき制度の1つである。
(1)制度趣旨
改正前民法においては、当事者間における協議中に消滅時効の完成時期が間近に迫ってきた場合、権利者が消滅時効の完成を阻止するために、必ずしも裁判等による解決を望んでいないにもかかわらず、裁判上の請求等の手段を採らざるを得ないケースが少なからず存在した。そこで、改正民法においては、一定の要件を満たした場合には、当事者間の協議それ自体により、時効完成の猶予を認めるものとした。
(2)制度内容
本条1項は、「権利について協議を行う」旨の合意を「書面」(電磁的記録によるものも含む。同条4項参照。)により行った場合に、
a)当該合意があった時から1年を経過した時
b)当該合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る)を定めたときは、その期間を経過した時
c)当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6カ月を経過した時
のいずれか早い時までの間は時効が完成しないというものである(なお、附則10条3項は、施行日前に本条の合意がなされた場合であっても、改正後の本条が適用されないとしているので、合意の時期には留意されたい。)。
また、本条2項は、1項に基づき時効の完成が猶予されている間に改めて1項の合意を行うことで猶予期間を延長することを認めたものである。ただし、完成猶予の期間は通算して5年を超えることはできない。
そして、本条3項においては、催告によって時効の完成が猶予されている間に本条1項の合意がなされた場合であっても、協議による時効の完成猶予の効力を有しないとされており、注意が必要である。
なお、本条による時効の完成猶予は、完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有することとなる(改正後民法153条2項)。
(②その他の改正点)
上記①の他、時効の完成猶予に関する改正は、細かい点も含めれば複数個所改正がなされているが、実質的な内容に関わるものとして、天災等による時効の完成猶予の期間が、改正前民法161条の2週間から3ヵ月に延長されたことが挙げられる(改正後民法161条)。
(Keywords)消滅時効、時効の更新、時効の完成猶予、民法改正
文責:山本 飛翔(弁護士)
本件に関するお問い合わせ先:mailto:t_yamamoto@nakapat.gr.jp