【商標法】「Q&A 商標法律相談の基本」(中村合同特許法律事務所[編著])(第一法規, 2019)の抜粋をお届けします。
2.商品化段階における法的アドバイスと手続
(Q10)「商標登録出願の検討」
(Q)商標調査をした結果、登録及び使用が可能との結果を得ました。しかし、商標の使用を予定している商品の販売期間は2年程度の予定です。このような場合、費用と手間をかけてまで、商標登録をする必要はあるでしょうか。
(A)商標を付した商品の販売期間が2年と短いからといっても、商標を使用している期間内に、第三者が同一又は類似の商標について、同一又は類似の商品を指定して商標登録を取得してしまえば、商標を使えなくなってしまいます。
また、第三者が同一又は類似の商標を使用することにより、商品の出所について混同を生じるおそれなどもあります。
よって、第三者の商標権侵害にならずに安全に使用するため、及び、第三者による同一又は類似の商標の使用に対して権利行使を可能にするために、商標登録を取得することが望ましいといえます。
(Q11)「出願商標の選択① 使用態様に応じた出願商標の検討」
(Q)他人から商標権の侵害に基づくクレームを受けることなく安全に商標を使用するために、当社は商標登録出願をすることを考えております。当社の商標は図形と文字からなっており、両者を結合して使うこともあれば、図形と文字をそれぞれ単独で使用することもあります。当該図形と当該文字の結合商標についてのみ商標登録出願をしておけば十分でしょうか。
(A)質問者は「図形商標」と「文字商標」をそれぞれ単独で使用することを予定しているのであり、「図形商標」と「文字商標」のそれぞれについて商標登録出願をする必要があると考えます。
なお、「図形商標」と「文字商標」についてそれぞれ出願したうえでさらに「図形と文字の結合商標」を出願することは、ありふれた態様で結合されているのであれば基本的には必要ありませんが、両者の結合により別の異議が生じる場合等には出願を検討すべきでしょう。
(Q13)「出願商標の選択③ 文字商標の出願態様」
(Q)ある文字商標を漢字と平仮名でそれぞれ使いたいのですが、どのように出願したらよいでしょうか。
また、当該文字商標については、黒色だけでなく、赤色でも使用する予定ですが、異なる色彩の商標についてもそれぞれ出願する必要がありますか。
(A)漢字と平仮名の商標をそれぞれ使用するのであれは、実際の使用態様に合わせて2商標をそれぞれ出願するのが最も望ましいといえます。コストを抑えるために、漢字と平仮名を組み合わせた二段併記の態様で1商標として出願することもしばしば行われていますが、二段併記の商標については、その使用態様等に留意するとともに、効力が限定される可能性があることに注意が必要です。
黒色の文字商標のみを商標登録している場合、通常、赤色の文字商標の使用も「登録商標」の使用と認められますし、第三者が赤色の文字商標を使用することを排斥することもできます。したがって、原則として、色彩のみが異なる商標をそれぞれ出願する必要はありません。ただし、場合によっては異なる色彩を付すことによって登録商標とは非類似になることがありますので、注意が必要です。
(Q15)「出願国の選択」
(Q)日本だけでなく、将来的な事業展開を見据えて外国においても商標登録をすることを希望しております。日本でも外国でも同じ商標について商標登録を取得するために、留意すべき点はあるでしょうか。
(A)まず、商標登録出願の前に、日本で使用している商標が、外国において商標登録及び使用が可能か、商標調査をすべきです。登録が可能であれば、直接当該外国に、あるいはその他の出願のルートを使って商標出願をするかを判断します。
(Q16)「外国への出願手続① 米国出願」
(Q)当社はアメリカにおいて商標登録出願をすることを検討しております。アメリカで商標権を取得するに当たり、どのような点に留意すべきでしょうか。
また、いわゆるマドプロルートでアメリカを指定して出願する場合に留意すべき点はあるでしょうか。
(A)アメリカの商標制度は、コモンローの法体系の下、使用主義・先使用主義が採用されており、日本の商標制度と違いがあることをまず理解すべきです。
したがって、アメリカで商標を使用する際には日本との商標制度の違いを意識する必要があり、そしてなにより出願においてどのような出願方法を採択するか、また、指定商品・役務の表現はどうするかなどを検討すべきです。
マドリッドプロトコルを用いた、いわゆるマドプロ出願についても、アメリカを指定した場合には、別途、 「標章を使用する意思の宣言書(MM18)」の提出が必要で、また指定商品・指定役務の記載にも留意すべきです。
(Q22)「拒絶理由通知に対する対応⑤ 共存合意の有効性」
(Q)先行商標権者と交渉したところ、先行商標権者は対象の商標権を譲渡することはできないが、本件商標の登録を認める旨の同意書に署名することには応じられるとのことでした。特許庁に同意書を提出することで拒絶理由を解消することができるのでしょうか。
(A)日本では、いわゆる同意書制度は採用されておらず、たとえ先行商標権者から同意書を得て、提出しても、先行商標との関係での拒絶理由を解消することはできません。例えば対象の商標登録出願を一時的に先行商標権者に譲渡し、その出願について先行商標権者名義で登録査定を得られた後に、その出願を出願人に譲渡するといったような別の手段での対応を検討する必要があります。
3.市場導入段階における法的アドバイスと手続
(Q30)「商標の類否」
(Q)当社は新商品の商品名(商標)について商標権を有しています。当社の新商品がヒットしたことから、他社が当社商品と競合する商品を発売してきました。当該他社商品の商標は、当社商標に似ていると思うのですが、商標権侵害を主張できるほど似ているのかどうかがわかりません。商標が類似しているか否かは、どのように判断されるのですか。
また、登録要件の審査段階における類否判断と、権利行使の段階における類否判断とで、判断の手法等は異なりますか。
(A)商標の類否は、対比される商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるか否か、によって判断されます。出所の誤認混同を生ずるおそれがあるか否かは、商標が外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得るかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである、とされています。
前者の判断基準は、審査の段階でも、権利行使の段階でも変わりませんが、後者の場合は、口頭弁論終結時の、より具体的な取引の実情が考慮されることになるため、結論は異なり得るといえます。
(Q34)「商標的使用④ デザイン的な使用」
(Q)販売予定のTシャツのデザインに、被服等を指定商品とする他人の登録商標の図形が含まれていることが判明しました。このように、他人の登録商標を含むデザインのTシャツを、当該他人に無断で販売することは、商標権の侵害となるのでしょうか。
(A)本件のように、他人の登録商標を装飾的に使用する場合には、商標的使用には当たらないと評価され、商標権侵害を構成しない場合があります。
装飾的な使用が商標的使用に当たるか否かは、①デザインとして使用された他人の登録商標の周知・著名性の程度、②商品に付された当該登録商標の大きさ・位置・他のデザインとの関係、当該商品における(当該登録商標とは異なる)本来の商標の有無、及び、本来の商標が付されている場合の当該商標の使用態様、並びに、③商品の取引慣行等の事情を総合的に考慮して判断されますので、これらの観点から検討が必要になります。
(Q37)「警告状の送付② インターネットショッピングモール等に対する警告」
(Q)当社のよく知られた登録商標によく似た標章が付された商品がインターネット上のショッピングモールに出店する20社以上の会社により、販売されています。どのように対応すればよいでしょうか。
各出店者に対して警告状を送付する必要がありますか。
(A)インターネット上のショッピングモールで侵害品が販売された場合、権利侵害を知ってから合理的な期間内に販売を中止させなかったときは、出店者だけでなく、ショッピングモール運営会社にも、権利侵害の責任が生じます。したがって、ショッピングモール運営会社に対し、内容証明郵便を送付すれば、各出店者に対応することなく、インターネット上のショッピングモールでの販売を中止させることができます。また、ショッピングモールの運営会社が、オンライン上の権利侵害の差止申請を受け付けていますので、そちらから運営会社に請求する方が容易で、スムーズな場合も考えられます。
(Q39)「中国における商標権侵害」
(Q)当社の商品名、パッケージによく似た商品が中国の市場に出回っています。どのように対応すればよいでしょうか。
また、中国で第三者が当社に無断で当社の商品名を商標登録している場合には、どうすればよいでしょうか。
(A)貴社が中国において商標権を有している場合には、中華人民共和国商標法(以下、「中国商標法」という)を根拠として、また、商標権を有していない場合であっても、(日本の不競法に相当する)反不正当競争法等を根拠として、①私的な紛争解決方法、②行政機関を通じた紛争解決方法(行政による摘発)、及び、③裁判所を通じた紛争解決方法(侵害訴訟)により、模倣品の販売差止めや損害賠償等を求めることが考えられます。悪質な場合には④公安局に刑事告訴することにより、刑事措置を求めることもできます。
また、第三者が貴社に無断で商標登録をしている場合には、中国商標法に基づき、中国の商標評審委員会に当該登録商標の無効宣告を請求することが考えられます。
なお、本件のように、中国における模倣品対策や冒用による商標登録の無効宣告を請求すること等に関しては、法制度や行政手続・裁判手続が日本とは異なる点も多いので、日本の法律事務所を通じて、知的財産法の実績・経験の多い現地代理人事務所に対応を依頼することをお勧めします。
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)