◆判決本文
1.防護標章登録の要件に係る商標法64条1項の「需要者の間に広く認識されている」の意義について
防護標章登録制度は,原登録商標の禁止権の及ぶ範囲を非類似の商品又は役務について拡張する制度である一方, 第三者による商標の選択・使用を制約するおそれがあることに鑑みると,商標法64条1項の「需要者の間に広く認識されている」とは,原登録商標の指定商品の全部又は一部の需要者の間において, 原登録商標がその商標権者の業務に係る指定商品を表示するものとして,全国的に認識されており, その認識の程度が著名の程度に至っていることをいうものと解するのが相当である。
2.商標法64条1項の「需要者の間に広く認識されている」との防護標章登録の要件の具備の有無について
原登録商標「Tuché」をパッケージに使用した「ストッキング」は,19年以上にわたり,全国的に継続的に販売されていること等の事情から,原登録商標は相当数の需要者において原告の業務に係るストッキングを表示するものとして認識されていたものと認められる 一方,その売上高は,毎年減少傾向にあり,市場シェアも減少傾向にある等の事情があることから,本件審決時において,大半の需要者が原登録商標を原告の業務に係るストッキングを表示するものとして認識しているものとはいえず,原登録商標に係る需要者の認識の程度は,著名の程度に至っているものと認めることはできない。「婦人用ソックス・タイツ」及び「女性用下着」の需要者でも同様である。
したがって,原登録商標は,本件審決時において,原告の業務に係る指定商品を表示するものとして「需要者の間に広く認識されている」ものと認めることはできない。
1.判決要旨1は,防護標章登録の要件のうち,商標法64条1項の「需要者の間に広く認識されている」の意義について,裁判例上,一般的に,「商標法64条1項所定の『登録商標が・・・需要者の間に広く認識されていること』との要件は,当該登録商標が広く認識されているだけでは十分ではなく,商品や役務が類似していない場合であっても,なお商品役務の出所の混同を来す程の強い識別力を備えていること,すなわち,そのような程度に至るまでの著名性を有していることを指すものと解すべきである。」と解釈されていた(知財高判平22・2・25(平21(行ケ)10189号)等)ところ,より具体的に需要者の意義,地理的範囲及び認識の程度について,原登録商標の指定商品の全部又は一部の需要者の間において,全国的に認識されており, その認識の程度が著名の程度に至っていることを要すると解釈したものである。
2.判決要旨2は,判決要旨1を前提に,本件原登録商標が本件審決時に商標法64条1項の「需要者の間に広く認識されている」との防護標章登録の要件を具備してなかったと認定判断したものである。
1.防護標章登録の要件に係る商標法64条1 項の「需要者の間に広く認識されている」の意義について
「同法64条1項の趣旨は,『商品に係る登録商標』(原登録商標)が商標権者の業務に係る指定商品を表示するものとして『需要者の間に広く認識されている』場合には,第三者によって,原登録商標がその本来の商標権の効力(同法36条,37条)の及ばない非類似商品又は役務に使用されたときであっても,出所の混同をきたすおそれが生じ,出所識別力や信用が害されることから,そのような広義の混同を防止するために,当該原登録商標と同一の標章について防護標章登録を受けることによって,禁止権の及ぶ範囲を非類似の商品又は役務について拡張することにあるものと解される。
このように防護標章登録制度は,原登録商標の禁止権の及ぶ範囲を非類似の商品又は役務について拡張する制度であり,一方で,第三者による商標の選択,使用を制約するおそれがあることに鑑みると,同法64条1項の『需要者の間に広く認識されている』とは,原登録商標の指定商品の全部又は一部の需要者の間において,原登録商標がその商標権者の業務に係る指定商品を表示するものとして,全国的に認識されており,その認識の程度が著名の程度に至っていることをいうものと解するのが相当である。」
「商標法64条1項の『商品に係る登録商標が自己の業務に係る指定商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている場合』との文言及び同項の趣旨(前記ア)に鑑みると,同項の『需要者の間に広く認識されている』にいう『需要者』は,『商品に係る登録商標』(原登録商標)の需要者をいうものと解されるから,この『需要者』の範囲を防護標章登録出願である本願の指定商品の需要者と重なる範囲に限定すべき理由はない。」
2.商標法64条1項の「需要者の間に広く認識されている」との防護標章登録の要件の具備の有無について
「原告使用商品は,2000年(平成12年)から19年以上にわたり,全国的に継続的に販売され,その売上高及び市場シェアから,原登録商標は相当数の需要者において原告の業務に係るストッキングを表示するものとして認識されていたものと認められるものの,一方で,原告使用商品の売上高は,毎年減少傾向にあり,2017年度(平成29年度)の売上高は2010年度(平成22年度)の売上高の3分の1程度であり,その市場シェアも減少傾向にあること,原告使用商品のパッケージに表示された原登録商標は,記憶や印象に強く残りやすいものとは直ちには認められないこと,原告使用商品の広告宣伝は,大規模なものとはいえず,その広告宣伝効果は限定的であること,本件アンケートは,実施時期が古く,アンケートの調査対象者もストッキングの需要者の一部にとどまっているため,本件審決時における原登録商標に係る需要者の認識の程度を判断する資料としては,適切なものではないのみならず,本件アンケートの結果においても,大半の需要者が原登録商標を認識していることを示すものとはいえないことを併せ考慮すると,本件審決時において,大半の需要者が原登録商標を原告の業務に係るストッキングを表示するものとして認識しているものとはいえず,原登録商標に係る需要者の認識の程度は,著名の程度に至っているものと認めることはできない。
また,本件においては,ストッキング以外の婦人用ソックス・タイツ及び婦人用下着の商品の関係においても,本件審決時において,原登録商標が需要者の間で原告の業務に係るこれらの商品を表示するものとして認識され,その認識の程度が著名の程度に至っていることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原登録商標は,本件審決時(審決日令和元年10月29日)において,原告の業務に係る指定商品を表示するものとして『需要者の間に広く認識されている』ものと認めることはできない。」
【Keywords】防護標章登録,商標法64条1項,需要者の間に広く認識されていること,需要者の意義,需要者の地理的範囲,需要者の認識の程度,「Tuché」,グンゼ
※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません。
文責:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)
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