<本件登録商標>
<引用商標>
知財高判令和4年2月22日(令和3年(行ケ)第10104号)(大鷹裁判長)
◆判決本文
【判決要旨】
1.「不正の目的で商標登録を受けた場合」(商標法47条1項括弧書き)の該当性について
本件商標と引用商標は,外観,称呼及び観念において異なり,本件指定商品に使用されても商品の出所に誤認混同を生ずるおそれがないから,類似しないことに照らすと,被告が本件商標の登録出願をし,その商標登録を受けたことについて,周知著名な引用商標に化体した顧客吸引力にただ乗りし,その出所表示機能を希釈化させ,又はその名声を毀損させる「不正の目的」があったものと認めることはできない。
2.本件商標の商標法4条1項7号該当性について
本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念において異なり,本件指定商品に使用されても商品の出所に誤認混同を生ずるおそれがないから,類似せず,また,被告が本件商標の登録出願をし,その商標登録を受けたことについて, 周知著名な引用商標に化体した顧客吸引力にただ乗りし,その出所表示機能を希釈化させ,又はその名声を毀損させる「不正の目的」があったものと認めることはできない。
よって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護するという商標法の目的に反するものであって,公正な取引秩序を乱し,商道徳に反するというべきであるとして,本件商標が商標法4条1項7号に該当するという原告の主張は、その前提において採用することができない。
【コメント】
1.判決要旨1は,「不正の目的で商標登録を受けた場合」(商標法47条1項括弧書き)の該当性について,商品の出所に誤認混同を生ずるおそれがなく,商標が類似しないことを主な根拠として、周知著名な商標に化体した顧客吸引力にただ乗りし,その出所表示機能を希釈化させ,又はその名声を毀損させるといった「不正の目的」がなかったことを認定判断したものである。
2.判決要旨2は,本件商標の商標法4条1項7号該当性について,商標が類似しないこと,及び,判決要旨1から「不正の目的」がなかったことを根拠に,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがないので,商標法4条1項7号に該当しない,と認定判断したものである。
3.結局,判決要旨1及び2は,本件商標が,引用商標と,商品の出所に誤認混同を生ずるおそれがなく,非類似であることを主な根拠として,「不正の目的」(商標法47条1項括弧書き)さらには公序良俗違反(商標法4条1項7号)を否定したものと理解される。
4.平成21年(行ケ)第10404号の商標登録取消決定取消請求事件及び平成29年(行ケ)第10203号の審決取消請求事件において、本件商標と類似する被告の商標「」が、原告の商標「
」との関係で商標法4条1項7号・11号・15号・19号に違反しない旨判示された。また、平成29年(行ケ)第10205号の審決取消請求事件において、本件商標が、原告の商標「
」との関係で商標法4条1項7号・11号・15号に違反しない旨判示された。今回の判決は、これらの判決を踏襲したものになる。一方、平成29年(行ケ)第10206号の審決取消請求事件においては、本件商標と異なり、文字要素を含まない被告の商標「
」が、本件と同様の原告の引用商標との関係で、商標法4条1項15号に違反する旨判示された。
【判決の抜粋】
1.「不正の目的で商標登録を受けた場合」(商標法47条1項括弧書き)の該当性について
「本件商標と被告標章の外観は,四足動物が右から左に向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれている点で共通し,その基本的姿勢等に似通った点があるものの,被告標章には本件商標において大きな構成部分である文字部分を有していないという顕著な相違があり,両商標は,外観,称呼及び観念において異なり,類似しないことに照らすと,原告が主張する被告による被告標章の商標登録の無効審決の確定後の被告標章の使用及びアダルトグッズへの被告標章の使用の事実があるからといって,被告が本件商標の登録出願をし,その商標登録を受けたことについて,周知著名な引用商標に化体した顧客吸引力にただ乗りし,その出所表示機能を希釈化させ,又はその名声を毀損させる『不正の目的』があったものと認めることはできない。」
2.本件商標の商標法4条1項7号該当性について
「原告は,本件商標と引用商標は,文字部分の相違により,商標全体として,外観,称呼及び観念において差異があるとしても,本件商標の動物図形と原告の業務に係る周知著名な引用商標との間に高い類似性が認められ,本件商標は引用商標のデザインの一部を変更してなるものとの印象を与えるから,引用商標の周知著名性と相俟って,本件商標に接した取引者,需要者は,本件商標の構成中の動物図形に着目し,引用商標を連想又は想起させ,その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるといえるため,本件商標を本件指定商品に使用する場合,引用商標の出所表示機能が希釈化され,引用商標に化体した信用,名声及び顧客吸引力,ひいては原告の業務上の信用を毀損させるおそれがある,本件商標は,引用商標に化体した信用,名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る等の目的をもって引用商標の特徴を模倣して登録出願し,その商標登録を受けたものであり,商標を保護することにより,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護するという商標法の目的(同法1条)に反するものであって,公正な取引秩序を乱し,商道徳に反するというべきであるとして,本件商標は,商標法4条1項7号に該当する旨主張する。
しかしながら,前記1で説示したとおり,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれにおいても異なるものであり,本件商標と引用商標が本件指定商品に使用されたとしても,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるものと認めることはできないから,本件商標と引用商標は,類似せず,また,被告が本件商標の登録出願をし,その商標登録を受けたことについて,周知著名な引用商標に化体した顧客吸引力にただ乗りし,その出所表示機能を希釈化させ,又はその名声を毀損させる『不正の目的』があったものと認めることはできないから,原告の上記主張は,その前提において採用することができない。」
【Keywords】商標法4条1項7号,商標法4条1項15号,商標法47条1項括弧書き,商標の類否,公序良俗違反,混同を生ずるおそれ,不正の目的,除斥期間,シーサー,プーマ
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません
執筆:弁理士 角谷 健郎、(日本弁理士会)
監修:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:k_iida☆nakapat.gr.jp (☆を@に読み換えてください。)