◆判決本文
1.商標法3条1項3号該当性について
商品の形状(包装の形状を含む)等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は商標登録を受けることができない旨を規定する商標法3条1項3号の趣旨は,①同号所定の標章,特に商品等の形状は,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美観をより優れたものとする等の目的で選択されることが多い反面,商品の出所を表示し自他商品を識別する標識として用いられることは少なく,需要者としても,商品等の機能や美観を際立たせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択されたものと認識しないことが多いこと,また,②商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを必要とし,その使用を欲するものであるから,先の商標登録出願のみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上適切でないことから,商標登録を許さないとしたものである。
したがって,商品等の形状は,同種の商品等が機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲を超える形状である等の特段の事情のない限り,普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当すると解するのが相当である。
そして,商品の包装容器の形状に係る位置商標である下記本願商標につき,包装容器の表面に付された連続する縦長の菱形の立体的形状は,その指定商品である第30類「焼き肉のたれ」の包装容器につき,機能や美観に資するものとして,取引上普通に採択,使用されている立体的な装飾の一つであり,その位置は,包装容器の上部又は下部が一般的である上に,その形状にも,格別に斬新な特徴があるとまではいえないことからすると,本願商標を構成する立体的形状及びそれを付す位置は,需要者及び取引者において,商品等の機能又は美観上の理由により採用されたものと予測し得る範囲のものであると認められる。
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当する。
① 本願商標
② 本願商標の詳細な説明
2.商標法3条2項の適用の有無について
立体的形状からなる位置商標が使用により自他商品識別力を獲得したといえるかどうかは,当該商標の形状,その使用期間及び使用地域,当該商標が付された商品の販売数量やその広告の期間及び規模並びに当該商標の形状に類似した形状を有する他の商品の存否等の事情を総合考慮して判断すべきである。
そして,本願商標使用商品は,その態様によれば,ラベル記載の標章が需要者に強い印象を与え,需要者は,出所識別標識として,ラベル記載の標章に着目するものと認められる一方,本願商標は,焼き肉のたれの包装容器について機能や美観に資するものとして取引上普通に採択,使用されている立体的な装飾の一つであり,ラベルに近接した位置に配置され,出所識別標識としては認識されにくいことからすると,本願商標を構成する立体的形状が本願商標使用商品において出所識別標識として認識されるとは認められない。
他方,「エバラ焼き肉のたれ 黄金の味」という商品が広く知られたとしても,それが常に本願商標使用商品と結びつくものとはいい切れない。また,本願商標使用商品の販売実績が相当に及んでいても,それによって,本願商標を構成する立体的形状が出所識別標識として認識されているものとは認められない。さらに,テレビCMにおいて本願商標使用商品の容器表面の本願商標を構成する立体的形状が視認できるように映し出される時間は短いものと認められるし,ラジオCMによって聴取者が本願商標を構成する立体的形状を認識することは困難であったと認められる。また,他の宣伝広告において本願商標を構成する立体的形状自体を出所識別標識として強く印象付けるような告知や表示が存在したとは認められない。また,本件アンケート結果は,本願商標使用商品の容器と比較の対象とされた容器の選択において相当とはいえない。
以上により,本願商標は,商標法3条2項所定の使用により識別力を獲得したものにも該当しない。
1.判決要旨1は,商品等の形状は,同種の商品等が機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲を超える形状である等の特段の事情のない限り,普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として,本来的識別力を有さず,商標法3条1項3号に該当すると判示したうえで,商品の包装容器の形状に係る位置商標について,同判示をあてはめて,その本来的識別力を否定したものである。
2.判決要旨2は,立体的形状からなる位置商標に関する商標法3条2項の適用での使用による識別力の獲得の有無について,当該商標の形状,その使用期間及び使用地域,当該商標が付された商品の販売数量やその広告の期間及び規模並びに当該商標の形状に類似した形状を有する他の商品の存否等の事情を総合考慮して判断すべき旨を判示したうえで,同判示のあてはめにおいて,商品等における立体的形状からなる位置商標の客観的な使用態様や他の本来的な出所識別標識との関係を重視して,これを否定したものである。
3.位置商標は,2015年4月1日より登録可能とされた新しいタイプの商標の一つであって,図形等を商品等に付す位置が特定される商標をいい,その登録事例としては,例えば,以下のものがある。
登録番号 | 商標権者 | 位置商標及び商標の詳細な説明(一部抜粋) |
第5804314号 | 株式会社ドクターシーラボ | ![]() 商品の包装用容器の本体側面の上半部に付された赤色の図形からなる。 |
第5805761号 | 株式会社セコマ | ![]() 広告物としての店舗におけるガラス窓や壁面の上部に付された図形からなる。商標は、上から順に白色、オレンジ色、白色の帯状の図形に複数の丸い図形を組み合わせたもの、及び、上から順に白色、赤色、白色の帯状の図形に複数の丸い図形を組み合わせたものからなる。図中の黒い破線で囲んだ場所は、位置商標の位置を示している。 |
第5807881号
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株式会社エドウイン | ![]() ズボンの後ろポケットの左上方に付され、「EDWIN」の欧文字が表された赤い長方形のタブ図形からなる。 |
第5858802号 | 株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント | ![]() ゲームプログラムの操作用コントローラーの右上部に付されたボタン部分の立体的形状からなる。 |
第5873740号 | 亀田製菓株式会社 | ![]() 米菓又は豆菓子の包装用容器の左上部分に付された図形からなる。そして、前記図形については、青色の縦長略リボン形状及びその左右両辺に接する部分を白色とし、該縦長略リボン形状内に赤い太線の横長六角形とその内部に赤い細線の横長六角形を配してなるところ、両横長六角形の輪郭に接する外側部分並びに赤い細線の細長六角形の内側部分を白色とする構成からなるものである。 |
第5874850号 | 株式会社 資生堂 | ![]() 化粧用綿の包装用袋に描かれた正面中央部の上半部に付された図形からなる。 |
第5918807号 | 京セラ株式会社 | ![]() 包丁(ナイフ)の刃の形状、包丁(ナイフ)の刃の全面に付された色彩、包丁(ナイフ)の刃の向かって左上に付された図形及び「KYOCERA」の欧文字からなる。 |
第5960200号 | キユーピー株式会社 | ![]() 赤い太線からなる網の目状の図形を配した構成からなるものであり、商品包装の前面の上部約5分の2の部分に位置します。 |
第6015898号 | ヤマハ株式会社 | ![]() 電気バイオリンの向かって右側のみに存在するフレーム部分の立体的形状からなる。 |
第6028117号 | フレッドペリー(ホールディングス)リミテッド | ![]() ポロシャツの左胸に月桂冠の図形と襟の端の周りと両袖の袖口部分の周縁に二重の線からなる図形を付したものよりなる。 |
第6034112号 | 日清食品ホールディングス株式会社 | ![]() 商品包装の上方部の周縁に付された図形と、商品包装の下方部の周縁に付された図形とを組み合わせた図形からなる。 |
第6044632号 | 株式会社エスエスケイ | ![]() 靴の左側面に付された図形からなる。 |
第6103554号 | 伊藤忠商事株式会社 | ![]() 履物の側面の後方に付され、「CONVERSE」、「Chuck Taylor」、「ALL STAR」の欧文字、星形の図形及び「R」の欧文字を円で囲んだ図形が表された円形の図形からなる。 |
第6125626号 | 株式会社サクラクレパス | ![]() 油性マーキングペンの本体における筆記部側部分の周縁に付された縞模様の図形からなる。 |
第6183484号 | プーマ エスイー | ![]() 商品「履物及び運動用特殊靴」の側面に付された図形からなる。 |
1.商標法3条1項3号該当性について
(1)商標法「3条1項3号は,その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状(包装の形状を含む。・・・),生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,態様,提供の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は,商標登録を受けることができない旨を規定しているが,これは,同号掲記の標章は,商品の産地,販売地その他の特性を表示,記述する標章であって,取引に際してこれらを使用する必要性が高く,誰もがその使用を欲するものであるから,特定人による独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,これらの標章は,一般的に使用される標章であって,多くの場合,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないことから,登録を許さないとしたものである。同号掲記の標章のうち商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,その反面として,商品・役務の出所を表示し自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少なく,需要者としても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美観を際立たせるために選択されたものと認識するものであり,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。また,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを必要とし,その使用を欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないといえる。したがって,商品等の形状は,同種の商品が,その機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,3条1項3号に該当すると解するのが相当である。」
(2)そして,「本願商標は,標章を付する位置が特定された位置商標であり,商品を封入した容器の胴部中央よりやや上から首部にかけて配された立体的形状からなり,その立体的形状は容器周縁に連続して配された縦長の菱形形状であり,各々の菱形形状は中央に向かって窪んでいるものである。・・・包装容器の表面に付された連続する縦長の菱形の立体的形状は,焼き肉のたれの包装容器について,機能や美観に資するものとして,取引上普通に採択,使用されている立体的な装飾の一つであり,その位置は,包装容器の上部又は下部が一般的である上に,その形状に,格別に斬新な特徴があるとまではいえないことからすると,本願商標を構成する立体的形状及びそれを付す位置は,需要者及び取引者において,商品の機能又は美観上の理由により採用されたものと予測し得る範囲のものであると認められる。」
「そうすると,本願商標を構成する立体的形状は,同種の商品が,その機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲のものであり,その範囲を超えた形状であると認めるに足りる特段の事情は存在しない。したがって,本願商標は,商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり,3条1項3号に該当すると認められる。」
(3)これに対し,「本願商標と全く同一の位置,形状の模様を付した容器が,原告のもの以外になかったとしても,それにより直ちに本願商標に識別力が認められるものではない。・・・3条1項3号の趣旨に照らせば,商品等の形状は,同種の商品が,その機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,同号に該当するというべきであり,全く同一の位置,形状の模様を付した容器が他にないということだけでは,上記の特段の事情が存在するとはいえない」。
2.商標法3条2項の適用の有無について
(1)「立体的形状からなる位置商標が使用により自他商品識別力を獲得したといえるかどうかは,当該商標の形状,その使用期間及び使用地域,当該商標が付された商品の販売数量やその広告の期間及び規模並びに当該商標の形状に類似した形状を有する他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断すべきである。」
(2)そして,「一般に,食用又は飲用の液体の包装容器である瓶又はペットボトル等の容器にはラベルが貼付されており,ラベルには,商品名,製造者,販売者を示す標章や文字,商品の内容を示す文字等が記載されており,商品名,製造者,販売者を示す標章や文字は,目立つ態様で記載されていることが往々にしてあり,需要者がラベルによって商品を特定したり商品の出所を認識することは,顕著な事実である。そのため,需要者は,食用又は飲用の液体の包装容器である瓶又はペットボトル等の容器を見るときにラベルに注意を払うものと認められ,ラベルの記載が需要者に強い印象を与えるものと認められる。そして,本願商標使用商品についてみても,その態様・・・によれば,本願商標使用商品は,ラベルに記載された『エバラ』や『黄金の味』の標章が需要者に強い印象を与え,需要者は,出所識別標識として,ラベルの『エバラ』や『黄金の味』の標章部分に着目するものと認められる。このように,ラベルに記載された標章や文字が需要者に強い印象を与え,出所識別機能を果たしており,他方,本願商標が,焼き肉のたれの包装容器について機能や美観に資するものとして取引上普通に採択,使用されている立体的な装飾の一つである連続する縦長の菱形の立体的形状からなり・・・,ラベルに近接した位置に配置され・・・,ラベルが強い印象を与える反面でラベル以外の出所を表示する標識としては認識されにくい状況にあることからすると,本願商標使用商品において,本願商標を構成する立体的形状が出所を識別させる標識として認識されるとは認められない。」
(3)他方,「『エバラ焼き肉のたれ 黄金の味』という商品のうち多くの部分を本願商標使用商品が占めると推認される・・・一方で,本願商標使用商品とは異なる包装の商品もあること・・・からすると,『エバラ焼き肉のたれ 黄金の味』という商品が広く知られたとしても,それが常に本願商標使用商品と結びつくものとはいい切れない。」
また,「本願商標使用商品の態様に照らして,本願商標使用商品において,自他商品識別機能を果たしているのはラベルであり,本願商標を構成する立体的形状が出所を識別させる標識として認識されるとは認められないことからすると,本願商標使用商品の販売実績が相当に及んでいても,それによって,本願商標を構成する立体的形状が出所を識別させる標識として認識されているものとは認められない。」
さらに,「実際に行われた宣伝広告においては,テレビCMにおいて,本願商標使用商品の容器表面の本願商標を構成する立体的形状が視認できるように映し出される時間は短いものと認められる・・・し,本願商標が商品容器表面に付された立体的形状からなる位置商標であることからすると,ラジオCMによって,聴取者が,本願商標を構成する立体的形状を認識することは困難であったと認められる。また,・・・(他の)宣伝広告において,本願商標を構成する立体的形状を,商品又はその容器の特徴としてうたうなど,その立体的形状自体を商品の出所を表示する標識又は自他商品を識別する標識として強く印象付けるような告知や表示が存在したとは認められない。」
また,「本件アンケートは,本願商標の識別力の有無を立証するという観点からすると,本願商標使用商品の容器と比較の対象とされた容器の選択において相当とはいえないものと認められ,本件アンケ―トの結果は,本願商標を構成する立体的形状に識別機能があることを立証するものとは認められず,その識別機能を判断する上で重視することはできない。」
(4)以上により,「本願商標を構成する立体的形状は本願商標使用商品において使用され,本願商標使用商品は相当数販売され,その宣伝広告も行われてきたが,本願商標は,使用により自他商品識別力を獲得したとは認められず,したがって,使用をされた結果需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるものに当たらないから,3条2項に規定する要件を具備しているとは認められない。」
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※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
文責:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)
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