本願商標
引用商標1及び2
◆判決本文
1.商標法4条1項11号及び15号と「取引の実情」について
(1)商標法4条1項11号と「取引の実情」について
商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品・役務に使用された場合に、商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品・役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察する必要があり、しかも、その商品・役務の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁)。
(2)商標法4条1項15号と「取引の実情」について
「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品・役務と他人の業務に係る商品・役務との間の関連性の程度、取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、上記指定商品・役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきである(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。
(3)本願補正商品の「取引の実情」について
スズキ株式会社(以下「スズキ社」という。)のオフロード車「Jimny(ジムニー)」(以下「ジムニー」という。)の名称(以下「Jimny商標」という。)は、本願商標の出願時以前から現在に至るまで、スズキ社の製造販売するオフロード車の名称を表示するものとして、我が国の幅広い年齢層の自動車ユーザー等の間で広く知られるに至っていた。
他方、ジムニーのカスタマイズ市場というべき特異なマーケットが成立しており、かかる特異なマーケットを意識した、本願商標の指定商品である第16類「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」(以下「本願補正商品」という。)に該当する情報雑誌は、かなり以前から存在し、いずれもスズキ社その他の自動車メーカー又はその系列ディーラー等とは直接関係のない第三者が発行主体となっており、これらの中でも特に販売実績があるのは原告が発行主体となっている雑誌「JimnyFan」(以下「本件雑誌」という。)である。
一方、スズキ社は、原告が本件雑誌を10年以上にわたって発行していることを知悉しながら、引用商標の無断使用であるとか、Jimny商標との関係での誤認混同を生じさせるといった警告、クレームを原告に伝えたことはない。むしろ、原告に広告料を支払って本件雑誌にジムニーの広告を掲載し、本件雑誌を購入するなどして、本件雑誌の発行を援助している。
2.商標法4条1項11号該当性について
(1)結合商標の分離・要部観察の許否の判断基準について
結合商標の構成部分の一部が、取引者・需要者に対して商品・役務の出所の識別標識として強く支配的な印象を与える場合、当該一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断するという手法が妥当することはある(最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
(2)本願商標の分離・要部観察の許否について
本件で問題とすべきは、本願商標を本願補正商品に使用したときに、取引者・需要者が出所識別標識としていかなる認識を有するかということである。
このような観点から考えると、まず、客観的な事実として、スズキ社を含む自動車メーカーが自ら又は系列ディーラー等を通じて、「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」を発行している事実は認められない。のみならず、スズキ社を含む自動車メーカーは、前述したジムニーのカスタマイズ市場等に係る業務に対して、第三者の活動を側面から援助することはあっても、主体的に関わることは避けていることがうかがわれる。このような中、本願商標を使用した本願補正商品に接した取引者・需要者において、スズキ社を含む自動車メーカー又はその系列ディーラー等が発行主体となっている(可能性がある)と認識するとは考え難い。
なお、オフロード車の改造に関心を有しているであろう本願補正商品の取引者・需要者が本願商標に接した場合、本願商標中の「Jimny」及び「ジムニー」の部分が、改造のベースとなる車両として強く支配的な印象を与えることは想像に難くないが(実際、本件雑誌がそれを意図していることは明らかである。)、それは「出所識別標識」とは次元の異なる問題であり、「Jimny」及び「ジムニー」の部分を結合商標の要部として抽出する根拠となるものではない。
(3)本願商標と引用商標の類否について
本願商標の全体観察を前提に引用商標と比較すると、本願商標と引用商標1及び2は、商標全体としての外観が異なることはもとより、下表のとおり、称呼及び観念も異なっており、両者の類似性を肯定することはできない。
3.商標法4条1項15号該当性について
「Jimny(ジムニー)」は普通名称に由来しない造語と理解され、Jimny商標は、スズキ社の製造販売するオフロード車の名称を表示するものとして、我が国の幅広い年齢層の自動車ユーザー等の間で広く知られていたから、Jimny商標の周知著名性及び独創性の程度は、いずれも高いものと評価される。次に、スズキ社がJimny商標の下で展開する業務としては、オフロード車(ジムニー)そのものにとどまらない関連グッズ、付随サービスを含み得るものではあるが、「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」に係る業務は、スズキ社又はその系列ディーラー等とは直接関係のない第三者によって提供されているのが実情であり、スズキ社とは抵触関係に立たない「棲み分け」が成立していると認められる。したがって、Jimny商標に係る商品(オフロード車)と本願補正商品の取引者・需要者は、相当程度共通しているとしても、本願商標を本願補正商品に使用した場合に、スズキ社のJimny商標に係る商品・役務との混同を生ずるおそれは認められないというべきである。
1.判決要旨1について
判決要旨1(1)は、商標法4条1項11号所定の商標の類否の判断基準について、判例(最三小判昭和43年2月27日民集22巻2号399頁〔氷山印事件〕)により、特に「取引の実情」が考慮されるべきことを判示したものである。
また、判決要旨1(2)は、同項15号所定の「混同を生ずるおそれ」の有無の判断基準について、判例(最三小判平成12年7月11日民集54巻6号1848頁〔レールデュタン事件〕)により、特に「取引の実情」が考慮されるべきことを判示したものである。
そのうえで、判決要旨1(3)は、本件における同項11号所定の商標の類否及び同項15号所定の「混同を生ずるおそれ」の有無の各判断に当たり考慮されるべき本願補正商品の「取引の実情」を特に原告代表者の本人尋問を行って認定・判示したものである。
この点、本願商標の指定商品は、出願経過において、同項11号又は15号該当との拒絶理由通知を受けて、第16類「印刷物」一般から本願補正商品へ補正されたものであるところ、かかる補正が、同項11号所定の商標の類否及び同項15号所定の「混同を生ずるおそれ」の有無の各判断に当たり、拒絶査定及び拒絶審決では効を奏さなかったものの、本件判決では、判決要旨2及び3のとおり、本願補正商品の「取引の実情」に係る原告代表者の本人尋問も相俟って、効を奏したものであり、この点において実務上参考になろう。
2.判決要旨2について
商標法4条1項11号所定の商標の類否の判断基準のうち、特に結合商標の分離・要部観察の許否の判断基準について、リラ宝塚事件最高裁判決(最一小判昭和38年12月5日民集17巻12号1621頁)が、「簡易、迅速をたつとぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必らずしもその構成部分全体の名称によつて称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによつて簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがある」旨を判示した(下線部は筆者の付記。以下同様)のに対し、つつみのおひなっこや事件最高裁判決(最二小判平成20年9月8日集民228号561頁)は、リラ宝塚事件最高裁判決及びSEIKO EYE事件最高裁判決(最二小判平成5年9月10日民集47巻7号5009頁)を引用しつつ、「複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されない」旨を判示した。その結果、リラ宝塚事件及びつつみのおひなっこや事件各最高裁判決の各下線部の判示事項の関係及び射程範囲が問題とされ、現在、様々な下級審裁判例及び学説が併存する状況にある(同状況の詳細は、中川隆太郎「商標登録に向けて何を検討すべきか-結合商標の分離観察の基本と応用」ジュリスト1589号88頁等を参照されたい)。もっとも、いずれにしても、つつみのおひなっこや事件最高裁判決により判示された、結合商標の構成「部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合」に、その分離・要部観察が許されること自体は、実質的に特に争いがない。
そして、本件審決は、当該場合に該当するものとして、本願商標の構成部分「Jimny/ジムニー」の分離・要部観察ひいては本願商標と引用商標1及び2の類似性を肯定したものである。
これに対し、判決要旨2(1)は、一般論として当該場合に結合商標の分離・要部観察が許されることを確認・判示した。そのうえで、判決要旨2(2)は、結合商標を指定商品・役務に使用した際の出所に係る取引者・需要者の認識が如何なるものかという観点から、判決要旨1(3)で認定・判示した本願補正商品の「取引の実情」を考慮し、当該場合に該当しないものとして、本願商標の構成部分「Jimny/ジムニー」の分離・要部観察を否定した。そして、判決要旨2(3)は、判決要旨1(1)に係る商標法4条1項11号所定の商標の類否の判断基準の下で、判決要旨2(2)の結果として全体観察により、本願商標と引用商標1及び2の類似性を否定したものである。
この点、判決要旨2(2)が、結合商標の構成「部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合」に該当するものとして分離・要部観察が許されるかどうかは、結合商標(本件においては本願商標)を指定商品・役務(本件においては本願補正商品)に使用した際の出所に係る取引者・需要者の認識が如何なるものかという観点から判断されるべきことを強調する点において、実務上参考になろう。
3.判決要旨3について
判決要旨3は、判決要旨1(2)に係る商標法4条1項15号所定の「混同を生ずるおそれ」の有無の判断基準の下で、判決要旨2(3)に係る本願商標と引用商標1及び2の非類似を前提に、Jimny商標の周知著名性及び独創性の高さや判決要旨1(3)で認定・判示した本願補正商品の「取引の実情」を考慮することにより、本願補正商品とJimny商標の商品(オフロード車)との間の関連性ひいては取引者及び需要者の共通性を考慮しても、「混同を生ずるおそれ」はないと判断したものである。
この点、引用商標の周知性の有無・高低と、その類似範囲の広狭及び混同のおそれの有無とは、原則として、正の相関関係にある(飯田圭「ストロングマークとウィークマーク」小野昌延ほか編「商標の法律相談Ⅰ」(青林書院、2017年)225頁等)一方、本件のように、引用商標の周知著名性及び独創性が高い、いわゆるスーパー・ストロングマークの場合には、寧ろ、判決要旨3のように、指定商品・役務の「取引の実情」等の如何により、類似性及び混同のおそれが否定され得る(林いづみ「原・被告の周知・著名性と混同のおそれの相関関係」パテント72巻(2022年)4号105頁等)点が、実務上参考になろう。
1.商標法4条1項11号及び15号と「取引の実情」について
(1)商標法4条1項11号と「取引の実情」について
「商標法4条1項11号の商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品・役務に使用された場合に、商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品・役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察する必要があり、しかも、その商品・役務の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁)。」
(2)商標法4条1項15号と「取引の実情」について
「商標法4条1項15号にいう『混同を生ずるおそれ』の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品・役務と他人の業務に係る商品・役務との間の関連性の程度、取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、上記指定商品・役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきである(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。」
(3)本願補正商品の「取引の実情」について
「本願商標の指定商品(本願補正商品)は、第16類『オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌』という極めて狭い市場において流通すると考えられる(いわゆるニッチな)商品である点に特徴があり、そのような本願補正商品についても、自動車の関連グッズや付随サービスに関する上記の一般論が妥当するのか等につき、取引の実情を明らかにした上、当該取引の実情に基づいて、商標法4条1項11号及び15号該当性の判断をする必要がある。」
「(1) スズキ社のオフロード車ジムニーについて(甲8、9、乙1~12、原告代表者)
ア スズキ社は、昭和45年にオフロード車『Jimny(ジムニー)』(以下、単に『ジムニー』という。)の販売を開始した。ジムニーは、その後、現在に至るまで50年以上にわたり、悪路走破性の高い軽四輪駆動車して量産され、世界累計販売台数は令和2年に300万台を突破した。同年、初代ジムニーは日本自動車殿堂『歴史遺産車』に選定され、『多様な用途に対応するロングセラーモデル』、『新たな軽自動車の道を切り拓いた歴史的名車』などと評価された。平成30年に20年ぶりにフルモデルチェンジしたジムニー(現行モデル)は、グッドデザイン金賞を受賞するなど、近年、特に人気が高まっており、令和5年11月の軽四輪車の新車販売速報で乗用車ベスト15の第12位にランキングされている。
イ スズキ社は、引用商標1(令和2年1月8日登録)及び引用商標2(令和4年10月5日登録)の商標権者であるが、これら引用商標の登録以前から、その製造販売に係るジムニーにJimny商標を使用してきた。Jimny商標は、本願商標の出願時(令和5年1月17日)以前から現在に至るまで、スズキ社の製造販売するオフロード車の名称を表示するものとして、我が国の幅広い年齢層の自動車ユーザー等の間で広く知られるに至っていた。」
「(2) オフロード車の改造に関する取引の実情(甲1、7、原告代表者)
ア オフロード車の改造とは
オフロード車の改造(カスタマイズ)は、例えば、正規品のタイヤを大径タイヤに交換する、サスペンションに手を加え車高を上げる(下げる)、オフロード性能の向上のためにエンジンギア等の駆動系を変更する、前後のバンパーを変更して外観の印象を変えるなど、目的も手法も極めて多様なものが含まれる。
ジムニーは、車体価格が比較的安いこと、簡素で頑丈な構造ながら改造の余地が大きいこと、純正部品以外のものを含めカスタムパーツが豊富であること等から、改造のベースとなるオフロード車として特に人気が高い。そうした改造車のユーザーにあっては、本体の購入価格を大幅に超えて、数百万円もの費用をかけて改造を行うという事例も珍しくない。そのようなユーザーを相手に改造車やその部品を専門的に取り扱うショップも全国に相当数存在しており、また、ジムニー改造車のオーナー同士の交流も活発で、ジムニーのカスタマイズ市場というべき特異なマーケットが成立している(原告代表者の表現によると、ユーザーが濃く、すごく深いところでビジネスとして成り立っているとされる。)。
イ ジムニーの改造に関する情報雑誌
上記のような特異なマーケットを意識した情報雑誌はかなり以前から存在しており、いずれも原告が発行主体となっている『JIMNY SUPER SUZY』(平成10年創刊)及び本件雑誌(『JimnyFan』、平成24年創刊)のほか、『ジムニー天国』(平成9年創刊)、『jimny plus』(平成16年創刊)、『ジムニー スタイル』(平成17年創刊)、『JIMNY REPORT』(平成21年創刊)、『JIMNY CUSTOM BOOK』(平成24年創刊)、『JIMNY Turning』(平成27年創刊)がある。
これらの中でも特に販売実績があるのは本件雑誌であり、令和5年までに第13号までが発行され、最初の第1号~第3号は毎号3万部を発行し、そのうちの2万8000部を全国の書店やコンビニエンスストアに配本した。書店数が全国的に減少している近時の配本数は8000部台にとどまっているが、それでも業界内では高い部数を維持しているといえる。
本件雑誌の最新号(第13号、甲1)は、①表紙に、引用商標1と同じ字体を用いた『Jimny Fan』の題名と、『大好きなジムニーだから/オンリーワンに仕上げたい/そんなヒントが溢れる一冊!!』というキャッチコピーが大書されており、②本文は、ジムニーの改造車を取り扱うショップ及び取扱商品の紹介、個人オーナーに係るジムニー改造車の紹介(オーナーの顔写真付き。なお、紹介されている個人オーナーは全部で約450名に上る。)、改造部品の紹介が中心であるが、『林道走行の極意』といったオフロード車ユーザー向け関連記事も含まれている。また、③裏表紙には、スズキ社提供のジムニーの全面広告が掲載されている。
本件雑誌以外の上記各情報雑誌の多くも、上記②と似通った内容のものであり、いずれも本願補正商品に該当するものといえる。これら情報雑誌の発行主体は、いずれも、スズキ社その他の自動車メーカー又はその系列ディーラー等とは直接関係のない第三者である。
ウ 自動車メーカー等の本願補正商品への関わり
スズキ社が系例ディーラー等を通じて、ストライプ、サンバイザー、マット等のいわゆる純正部品を提供することはあり、本件雑誌においても、そうした純正部品を紹介することがある(このことは原告代表者も自認している。)。
しかし、スズキ社を含む自動車メーカーが自ら又は系列ディーラー等を通じて、『オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌』を現に発行している事実はなく、近い将来そのような情報雑誌の発行を予定しているといった事実もない(この点、下記(3)の事実認定の補足説明を参照)。
スズキ社は、原告が『Jimny Fan』という題名の本件雑誌を10年以上(「JIMNY SUPER SUZY」を含めれば20年以上)にわたって発行していることを知悉しながら、引用商標の無断使用であるとか、Jimny商標との関係での誤認混同を生じさせるといった警告、クレームを原告に伝えたことはない。むしろ、原告に広告料を支払って本件雑誌にジムニーの広告を掲載し、本件雑誌を購入する(ただし定価の7掛け)などして、本件雑誌の発行を援助している。」
2.商標法4条1項11号該当性について
(1)結合商標の分離・要部観察の許否の判断基準について
「結合商標の構成部分の一部が、取引者・需要者に対して商品・役務の出所の識別標識として強く支配的な印象を与える場合、当該一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断するという手法が妥当することはある(最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。」
(2)本願商標の分離・要部観察の許否について
「本件で問題とすべきは、本願商標を本願補正商品に使用したときに、取引者・需要者が出所識別標識としていかなる認識を有するかということである。
このような観点から考えると、まず、客観的な事実として、スズキ社を含む自動車メーカーが自ら又は系列ディーラー等を通じて、『オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌』を発行している事実は認められない。のみならず、原告代表者によれば、スズキ社を含む自動車メーカーは、前述したジムニーのカスタマイズ市場(上記2(2)ア参照)等に係る業務に対して、第三者の活動を側面から援助することはあっても、主体的に関わることは避けていることがうかがわれる。このような中、本願商標を使用した本願補正商品に接した取引者・需要者において、スズキ社を含む自動車メーカー又はその系列ディーラー等が発行主体となっている(可能性がある)と認識するとは考え難い(そのような認識を基礎づける証拠は一切提出されていない。)。
なお、オフロード車の改造に関心を有しているであろう本願補正商品の取引者・需要者が本願商標に接した場合、本願商標中の『Jimny』及び『ジムニー』の部分が、改造のベースとなる車両として強く支配的な印象を与えることは想像に難くないが(実際、本件雑誌がそれを意図していることは明らかである。)、それは『出所識別標識』とは次元の異なる問題であり、『Jimny』及び『ジムニー』の部分を結合商標の要部として抽出する根拠となるものではない。」
(3)本願商標と引用商標の類否について
「そうすると、本願商標の全体観察を前提に引用商標との比較をすべきところ、引用商標1及び引用商標2のいずれも、本願商標の構成部分である『Fan』及び『ファン』に相当する構成を欠いている。その結果、本願商標と引用商標1及び引用商標2は、商標全体としての外観が異なることはもとより、下表のとおり、称呼及び観念も異なっており、両者の類似性を肯定することはできない。
3.商標法4条1項15号該当性について
「Jimny商標がスズキ社の製造販売するオフロード車の名称を表示するものとして、我が国の幅広い年齢層の自動車ユーザー等の間で広く知られていたことは上記のとおりであり、また、『Jimny(ジムニー)』は普通名詞に由来しない造語と理解されるものである。したがって、Jimny商標の周知著名性及び独創性の程度は、いずれも高いものと評価される。」
「本願商標の指定商品(本願補正商品)は、第16類『オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌』という極めてニッチな商品であるところ、取引の実情として先に認定したとおり、スズキ社を含む自動車メーカーが自ら又は系列ディーラー等を通じて、『オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌』を発行している事実はなく、また、本願商標を使用した本願補正商品に接した取引者・需要者において、スズキ社を含む自動車メーカー又はその系列ディーラー等が発行主体となっている(可能性がある)と認識するとも考え難い。
加えて、スズキ社は、原告が本願商標の構成と同じ題名の本件雑誌を10年以上にわたって発行していることを知悉しながら、Jimny商標との関係での誤認混同を生じさせるといった警告、クレームを原告に伝えたことがないばかりか、原告に広告料を支払って本件雑誌にジムニーの広告を掲載するなどして本件雑誌の発行を援助していることも前述のとおりである。」
「以上の事実関係に原告代表者の供述を総合すると、スズキ社がJimny商標の下で展開する業務としては、オフロード車(ジムニー)そのものにとどまらない関連グッズ、付随サービスを含み得るものではあるが、『オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌』に係る業務は、スズキ社又はその系列ディーラー等とは直接関係のない第三者によって提供されているのが実情であり、スズキ社とは抵触関係に立たない「棲み分け」が成立していると認められる。」
「以上によれば、本願商標を本願補正商品に使用したとしても、スズキ社のJimny商標に係る商品・役務との混同を生ずるおそれは認められないというべきである。」
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※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません。
文責:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)
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