【商標】令和5年(ネ)10011「バレナイ二重」事件<清水響>
原告商標(2段書き)
「バレない
ふたえ」
被告標章(2段書き
「バレナイ
二重」
⇒非類似+商標的使用でない(商標法26条1項6号)
⇒請求棄却
(判旨抜粋)
<類否>
本件商標及び被告標章が商品の出所識別標識としての機能を果たすとしても、『バレないふたえ』及び『バレナイ二重』という表現そのものは、本件化粧品の品質及び効能に関するありふれた表現であるから、当該表現による出所識別機能は、かなり限定的なものであるといわざるを得ない。…
加えて、……本件商標及び被告標章の使用態様も併せ考慮すると、本件化粧品に係る需要者は、一般に、商品又はその包装等において、商品の出所を識別し得る外形的な表示(視認することのできる文字、模様、色彩等)の具体的態様に従って、商品(本件化粧品)の出所を識別しているものと認めるのが相当である。」
このような「取引の実情に照らすと、本件商標と被告標章の類否の判断においては、商品(本件化粧品)又はその包装等において具体的にされている出所識別標識の外形的な表示の態様、すなわち当該出所識別標識(商標)の外観の異同が、それらの称呼及び観念の異同と比べ、より需要者に対し強く支配的な印象を与えるものとして相対的に重要になるものと解される。」
そして、「本件商標と被告標章は、これらから生じる称呼及び観念をいずれも同一にする一方、これらの外観は、看者である本件化粧品の需要者にとって相紛らわしくない程度に相違するところ、前記アにおいて説示したところも踏まえ、これらの事情を総合して全体的に考察すると、本件商標と被告標章については、これらが同一の商品(本件化粧品)について使用された場合であっても、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできないから、少なくとも本件化粧品に使用される限りにおいては、被告標章は、本件商標に類似するとはいえないと評価するのが相当である。」
<商標法26条1項6項(一審判決の引用)>
(1) 証拠(掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア 「ばれない」、「バレない」、「バレナイ」の用例等 (ア) 「ばれない」との語は、「ばれる」という動詞に「ない」という打消しの助動詞が付されて成る語である。「ばれる」の語意は、秘密・嘘・悪事が露顕することであるから、「ばれない」とは、秘密等が露顕しないという意味となる。また、「ばれない」、「バレない」及び「バレナイ」は、平仮名のみ、平仮名とカタカナの組合せ又はカタカナのみである点で表記としては異なるものの、そのいずれであるかにより意味合いが異なるものではない。 (イ) インターネット検索の結果によれば、二重瞼を形成する美容施術や二重瞼形成用化粧品等の宣伝広告として、「作った二重だなんてバレない」、「バレにくい二重」、「バレない自然な二重まぶたに!?」、「絶対バレない!自然な二重まぶたの作り方」、「バレないコツ」、「本気でバレない二重の作り方」、「バレないふたえまぶた」「バレない・腫れない二重整形」といった表現が使用されていることが認められる(甲16、乙2~5)。また、「【専門家監修】アイプチのおすすめ人気ランキング15選【学生向けやバレないものも!】」と題して二重瞼形成用化粧品等をランキング形式で紹介するウェブページ(丙3)においても、「アイプチでは周りの人にバレてしまうのが心配な方も多いはずです。」、「使っていることがバレないようにしたいですよね!バレにくさを重視するなら、ファイバーや皮膜式のアイプチがおすすめです。」といった記載がされている。さらに、原告商品及び被告商品以外の二重瞼整形用化粧品等において、商品の説明として、「バレない整形級ふたえ」(丙1-1)、「バレない!テカらない!」(丙1-2・3)、「目をつぶってもバレない!」(丙1-4)、「閉じてもバレにくい!」(丙1-5)、「極細繊維ファイバーでバレないふたえ成形」(丙1-6)、「バレない!!整形メイク」(丙1-7)といった表現が見受けられる。加えて、二重瞼形成用化粧品等以外にも、鼻筋整形用の化粧品の説明として「バレない!カンタン!自然な仕上がり!」との表現が(丙2-1)、つけ爪(ネイルチップ)の説明として「バレないつけ爪」との表現が(丙2-2・3)、頬の美容整形施術の説明として「バレないリフト」との表現(丙2-4)が、それぞれ使用されていることが認められる。 イ 被告商品における被告標章の使用態様等 証拠(甲5)によれば、被告商品1の包装には、その表面の上部半分程度を占める大きさの黒色ハート形の図形が配置され、その図形内の最上段には下線付きの「長時間キープ」の文字が、中段には被告標章1が、いずれも包装のベース色であるピンク色で表示されている。また、その最下段には緑色の帯状の図形上に黒色で「リキッドタイプ」の文字が記載されると共に、当該帯状の図形の左端に接着した黒色丸形の図形内に緑色で「細筆」の文字及び筆先の形状のイラストが記載されている。さらに、同包装の下部左上側には、上下二段からなる「Eye Catching」、「Beauty」(なお、「Beauty」の「t」は、2画の交点の左側及び下側が右側及び上側に比して長い十文字状にデザインされている。)との記載が、下部左中央には同じく上下二段からなる「FUTAE」、「LIQUID」との記載が、下部右側には「♯目元サギメイク」との記載が、それぞれ置かれている。加えて、下部のこれらの記載の間に存在する透明な窓部からは被告商品1の本体を視認し得るところ、これには、下部左上側と同様の構成からなる「Eye Catching」、「Beauty」との表示が存在する(ただし、全ての被告商品1において上記窓部から上記表示が看取し得ることを認めるに足りる証拠はない。)。他方、裏面には、表面と同様の構成からなる「Eye Catching」、「Beauty」の記載と、一連一体に並べられた「FUTAE LIQUID」の記載のほか、「アイキャッチングビューティ ふたえリキッド(二重まぶた化粧品)」の記載等があるが、被告標章1の記載はない。 次に、証拠(甲6)によれば、被告商品2の包装には、その表面の上部半分程度を占める大きさの黒色ハート形の図形が配置され、その図形内の最上段には下線付きの「長時間キープ」の文字が、中段には被告標章2が、いずれも包装のベース色である黄色で表示されている。また、その最下段には青紫色の帯状の図形上に黒色で「テープタイプ」の文字が記載されると共に、当該帯状の図形の左端に接着した黒色丸形の図形内の上部に水滴状のイラストが記載され、その中に黒色の「水」の文字が置かれると共に、当該水滴状のイラストの下に青紫色の「で貼る」の文字が置かれている。さらに、同包装の下部左上側には、被告商品1と同様の構成の「Eye Catching」、「Beauty」との記載が、下部左中央には被告商品1と同様の構成の「FUTAE」、「MESH TAPE」との記載が、下部右側には「♯目元サギメイク」との記載が、それぞれ置かれている(なお、下部のこれらの記載の間に存在する透明な窓部から視認可能な被告商品2の本体に、文字の記載は見受けられない。)。他方、裏面には、表面と同様の構成の「Eye Catching」、「Beauty」の記載と、一連一体に並べられた「FUTAE MESH TAPE」の記載のほか、「アイキャッチングビューティ ふたえメッシュテープ(二重形成片面テープ)」の記載等があるが、被告標章2の記載はない。 (2) 被告標章の使用態様等について ア 被告商品の需要者については、商品そのものの機能及びその販売チャネル(これが店頭及びオンライン通販であることは、当事者間に争いがない。)等に鑑みると、若い世代の女性に限定されず、一般消費者と見るのが相当である。この点に関する被告の主張は採用できない。 イ 上記(1)イ認定に係る被告商品の包装の表面及び裏面の各記載等を総合的に考慮すると、一般消費者からみて、被告商品の名称は、「Eye Catching Beauty FUTAE LIQUID」及び「アイキャッチングビューティ ふたえリキッド」(被告商品1)、「Eye Catching Beauty FUTAE MESH TAPE」及び「アイキャッチングビューティ ふたえメッシュテープ」(被告商品2)と認識されることがうかがわれる。 他方、被告標章については、上記(1)認定を踏まえると、以下のとおり理解される。すなわち、「ばれない」、「バレない」、「バレナイ」は、その表記いかんにかかわらず、秘密等が露顕しないという意味である。また、被告商品が属する二重瞼形成用化粧品等や二重瞼形成のための美容施術の宣伝広告においては、化粧品や美容施術により一重瞼を二重瞼に整えたことが他人に容易には露顕しないという当該化粧品ないし美容施術の効能や役務の内容の説明又はそのような効能等をうたうキャッチフレーズと理解される表現として、「ばれない」等に「二重」を組み合わせたものが多数みられる。また、二重瞼形成用化粧品等以外の化粧品や美容整形施術等美容関係の商品及び役務においても、「ばれない」等の語が、他人から当該化粧品や当該施術を使用していることが露顕しないという説明ないしそのような効能等のキャッチフレーズとして少なからず用いられていることがうかがわれる。これは、美容関係の商品等の需要者の多くが、当該商品等を使用して人工的・意図的にその状態を形成していることが他人には容易に明らかにならず、当該商品等を使用した結果が自然の状態として見られることを欲することを踏まえ、当該商品等の提供者において、その欲求にこたえる効果を訴求することを狙ったものと理解される。 「ばれない」等の語が美容関係の商品等においてこのように多く使用されている実情を踏まえると、二重瞼形成用化粧品等の需要者である一般消費者は、「バレナイ」に「二重」が組み合わされた被告標章につき、二重瞼を形成していることが他人に容易に露顕しない化粧品等であるという被告商品の効能等の説明ないしそのような効能等のキャッチフレーズと認識・理解するのがむしろ通常といえる。被告商品の包装において、被告標章は、「長時間キープ」、「リキッドタイプ」(被告商品1)又は「テープタイプ」(被告商品2)という文字等の記載に挟まれるように配置されていること、被告標章のほかに被告商品の名称と認識し得る記載が存在することなどを考慮すると、なおさらである。このことは、被告標章をなす「二重」の「二」の文字の下部が、その左端に二条の跳ねがあるかのように図案化されていることを考慮しても異ならない。 以上より、被告標章は、被告商品の需要者である一般消費者にとって、被告商品の効能等の説明ないしキャッチフレーズとして理解されるものであり、自他商品識別又は出所識別標識としての機能を有するものとは認められない。
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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