原告製品
被告製品1
被告製品2
◆判決本文
1.原告製品の形態による不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」該当性
(1)不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」について
商品の形態そのものであっても、客観的に他の同種商品とは異なる特別顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、その形態が、特定の事業者によって長期間、継続的独占的に使用されることにより、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、その形態を有する商品が当該特定の事業者の出所を表示するものとして需要者に周知になっていれば(周知性)、出所表示機能を備えるに至ることもあり、この場合には、当該商品の形態が不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当する。
(2)特別顕著性について
原告製品全体の形態における、原告製品が、左右一対の側木の2本脚であり、かつ、座面板及び足置板が左右一対の側木の間に床面と平行に固定されている点(特徴①)、左右方向から見て、側木が床面から斜めに立ち上がっており、側木の下端が脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、側木と脚木が約66度の鋭角による略L字型の形状を形成している点(特徴②)、及び、側木の内側に形成された溝に沿って座面板と足置板の両方をはめ込み固定する点(特徴③)は、側木と脚木をそれぞれ一直線とするデザインと相まって、原告製品の日本での販売開始時点から被告各製品の販売時点までの間、他社の同種製品とは異なる特別顕著な特徴(「本件顕著な特徴」)となっていた。
(3)周知性について
原告製品の本件顕著な特徴は、遅くとも被告各製品の販売時点で、原告らの業務に係る商品を表示するものとして「周知」となっていた。
2.原・被告各製品の形態による不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」の類否
(1)不正競争防止法2条1項1号における商品の形態の類否の判断基準について
被告各製品の形態が、原告らの商品等表示と類似するか否かは、取引の実情のもとにおいて、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁判所昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁参照)。
(2)あてはめ
被告各製品は、側木の内側に溝が形成されておらず、側木の後方部分に、固定部材と結合してネジ止めするための円形状の穴が多数形成され、座面板及び足置板を側木の間で支持する支持部材、支持部材を側木の間において掛け渡された状態で側木に固定する固定部材及びネジ部材を備え、2本の側木後方に設けられた穴と固定部材を結合した状態でネジ部材を閉めることで、支持部材と固定部材によって側木を前後から挟持して押圧し、支持部材を側木に固定しており(構成f)、原告らの商品等表示の特徴③を備えていない。
したがって、被告各製品は、取引の実情の下において、取引者、需要者が、外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から原告製品と全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるものということはできない。
3.原告製品の形態の著作物性の有無等
(1)応用美術の著作物性の有無の判断基準について
原告製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られると解するのが相当である。
(2)あてはめ
原告製品の本件顕著な特徴①~③は、いずれも高さの調整が可能な子供用椅子としての実用的な機能そのものを実現するために可能な複数の選択肢の中から選択された特徴である。また、これらの特徴により全体として実現されているのも椅子としての機能である。したがって、本件顕著な特徴を備えた原告製品は、椅子の創作的表現として美感を起こさせるものではあっても、椅子としての実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象とすることができるような部分を有するということはできない。また、原告製品は、その製造・販売状況に照らすと、専ら美的鑑賞目的で制作されたものと認めることもできない。それのみならず、仮に、原告製品の本件顕著な特徴について、独立の美的鑑賞の対象となり得るような創作性があると考えたとしても、前記のとおり、被告各製品は、本件顕著な特徴を備えていないから、原告製品の形態が表現する、直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっているのであって、被告各製品から原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
1. 判決要旨1について
商品の形態が不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」に該当するために、近年、知財高裁その他の多数の裁判例(知財高判平成24年12月26日判時2178号99頁〔眼鏡タイプルーペ事件〕、知財高判平成27年4月14日判時2267号91頁〔TRIPP TRAPPⅡ事件〕、知財高判平成28年7月27日判時2320号113頁〔エジソンのお箸事件〕、知財高判平成29年2月23日(平28(ネ)10009号等)裁判所ウェブサイト〔吸水パイプ事件〕、知財高判平成30年2月28日(平29(ネ)10068号等)裁判所ウェブサイト〔不規則充填物事件〕、知財高判平成30年3月29日(平29(ネ)10083号)裁判所ウェブサイト〔ユニットシェルフ事件〕、知財高判令和5年10月4日(令5(ネ)10012号)裁判所ウェブサイト〔吸入器事件〕、知財高判令和5年11月9日(令5(ネ)10048号)裁判所ウェブサイト〔ドクターマーチン事件〕等)上、いわゆる特別顕著性及び周知性が要件とされており、判決要旨1(1)は、かかる裁判例に沿ったものである。
そのうえで、判決要旨1(2)及び(3)は、原告製品の形態について、原告主張の特徴①及び②のみならず、被告主張の特徴③をも含めて初めて、特別顕著性及び周知性を肯認し、不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」に該当すると判断したものである。その意味において、かかる判決要旨1(2)及び(3)の判断は、判決要旨2(2)における原・被告製品の形態が不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」として類似しないとの判断の前提をなすものともいえる。
2. 判決要旨2について
判決要旨2(1)は、不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」の類否の判断基準一般に係る判例(最判昭和58年10月7日民集37巻8号1082頁〔日本ウーマン・パワー事件〕)が、原・被告製品の形態による不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」の類否の判断にも適用されることを明示的に判示した数少ない裁判例(知財高判平成27年4月14日判時2267号91頁是認の東京地判平成26年4月17日(平25(ワ)8040号)裁判所ウェブサイト〔TRIPP TRAPPⅡ事件〕等)の一つである。
そのうえで、判決要旨2(2)は、原・被告各製品の形態について、被告各製品の形態が、上記構成fを備え、原告製品の形態の本件顕著な特徴③を備えていないことから、その類似性を否定したものである。この点、商品形態に係る不正競争防止法2条1項1号該当性が問題となった多数の裁判例のうち、同様の判断手法によったものは、必ずしも多くなく、例えば東京地判平成4年4月27日判時1431号148頁〔測定顕微鏡事件〕、東京高判平成13年12月19日判時1781号142頁〔MAGIC CUBE事件〕、知財高判平成27年4月14日判時2267号91頁〔TRIPP TRAPPⅡ事件〕等がある。ここで、特に、知財高判平成27年4月14日判時2267号91頁〔TRIPP TRAPPⅡ事件〕においては、「不競法2条1項1号の不正競争に該当するためには,他人の商品等表示,すなわち,本件においては,控訴人ら主張に係る控訴人製品の形態的特徴のうち特別顕著性が認められる点について,控訴人製品と被控訴人製品とが類似していることを要する」旨が判示されている。
3. 判決要旨3について
応用美術の著作物性の有無の判断基準について、近年、知財高裁の裁判例上、従前の下級審の多数の裁判例における段階理論的な加重要件説とは異なる、分離可能性説(知財高判平成26年8月28日判時2238号91頁〔ファッションショー事件〕)と無制限説(知財高判平成27年4月14日判時2267号91頁〔TRIPP TRAPPⅡ事件〕)とが並立し,その後の下級審,特に東京地裁の多数の裁判例上,分離可能性説が主流となった。そして,分離可能性説を著作権法2条1項1号前段所定の「思想又は感情を創作的に表現したもの」か否かの問題として採用したものと理解される知財高裁の裁判例(知財高判令和3年12月8日(令3(ネ)10044号)裁判所ウェブサイト〔タコの滑り台事件〕)もあったものの、判決要旨3(1)前段は、分離可能性説を、他の知財高裁の裁判例(知財高判令和3年6月29日(令3(ネ)10024号)裁判所ウェブサイト〔TRIPP TRAPPⅢ事件〕)と同様に、同号後段所定の「美術・・・の範囲に属する」か否かの問題として、採用したものと理解される。他方、判断方法や他の要件などの分離可能性説の課題が意識されたものか、或いは必ずしも分離可能性説によらない裁判例(「美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている」か否か自体に着目する東京地判令和2年1月29日(平30(ワ)30795号)裁判所ウェブサイト〔照明用シェード事件〕等)も散見されたことに鑑みたものか、判決要旨3(1)後段は、分離可能性を問題とせず、制作目的が専ら美的鑑賞か否かを問題とする判断基準を別個に判示したものである。
そのうえで、判決要旨3(2)は、原告製品の形態について、その特別顕著な特徴①~③各々かつ全体が実用的・機能的なものであることを認定し、かかる認定に基づき、上記判決要旨3(1)前段の判断基準をあてはめて、その著作物性を否定し、また、原告製品の製造・販売状況に照らして、同後段の判断基準をあてはめて、その著作物性を否定した。この点において、判決要旨3(2)は、他の知財高裁の裁判例(知財高判令和3年6月29日(令3(ネ)10024号)裁判所ウェブサイト〔TRIPP TRAPPⅢ事件〕)と同様に、原告製品の形態の著作物性を肯定した知財高判平成27年4月14日判時2267号91頁〔TRIPP TRAPPⅡ事件〕を、無制限説としてのみならず、結論としても、否定したものである。(さらに、判決要旨3(2)は、仮に原告製品の形態の著作物性を肯定した場合の仮定的な判断として、被告各製品の形態は、上記構成fを備え、本件顕著な特徴③を備えていないことから、原告製品の形態と表現上実質同一(複製)乃至類似(翻案)のものでもないと判断したものと理解される。)
1.原告製品の形態による不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」該当性
(1)不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」について
「不競法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の商品等表示を使用等し、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為は、不正競争行為に該当すると定めている。その趣旨は、他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用等し、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認、混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより、周知性ある商品等表示の有する出所表示機能を保護し、事業者間の公正な競争を確保する点にある。同号にいう『商品等表示』とは『人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの』とされているが、商品の形態そのものであっても、客観的に他の同種商品とは異なる特別顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、その形態が、特定の事業者によって長期間、継続的独占的に使用されることにより、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、その形態を有する商品が当該特定の事業者の出所を表示するものとして需要者に周知になっていれば(周知性)、出所表示機能を備えるに至ることもあり、この場合には、当該商品の形態が不競法2条1項1号の『商品等表示』に該当するというべきである。」
(2)特別顕著性について
「原告製品の形態の具体的構成における特徴的な形態に、具体的構成におけるその他の形態をも併せて総合的に考慮すると、原告製品全体の形態の特徴的要素は、原告製品が、左右一対の側木の2本脚であり、かつ、座面板及び足置板が左右一対の側木の間に床面と平行に固定されている点(特徴①)、左右方向から見て、側木が床面から斜めに立ち上がっており、側木の下端が脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、側木と脚木が約66度の鋭角による略L字型の形状を形成している点(特徴②)、側木の内側に形成された溝に沿って座面板と足置板の両方をはめ込み固定する点(特徴③)を基本とし、原告製品が、側木及び脚木からなる2本脚、背板、座面板及び足置板、横木、細い金属棒等という必要最低限の部材で構成される中で、側木と脚木はそれぞれ一直線で端部に角度のあるものとされ、側木及び脚木の端部のみが結合されて形成された2本脚が、正面視で床面に垂直で相互に平行となるように配置され、側木と脚木の結合部分から離れた脚木中央部に横木が配置されるとともに、側木には細い金属棒が配置され、背板は側木の最上部に配置され、座面板と足置板は前方を直線的形状とされて側木の溝にはめ込まれることにより、原告製品全体の形態において、特徴①から特徴③までを無駄のない直線的な形態として際立たせ、洗練されたシンプルでシャープな印象を与えるものとしていることが認められる。そして、このような子供用椅子の形態について、被告各製品の販売時点で原告製品以外に使用されていることを認めることはできない。
したがって、原告製品全体の形態における特徴①から特徴③までは、側木と脚木をそれぞれ一直線とするデザインと相まって、原告製品の日本における販売を開始した昭和49年頃から、被告各製品の販売時点までの間、他社の同種製品とは異なる特別顕著な特徴(以下「本件顕著な特徴」という。)となっていたものと認めるのが相当である。他方、原告らの主張する本件形態的特徴(特徴①及び特徴②)のみでは本件顕著な特徴と認めるには足りない。」
(3)周知性について
「原告製品は、昭和47年にノルウェーにおいて販売が開始され、世界累積販売台数が1400万台に上っており、日本においても、昭和49年頃から輸入販売され、現在に至るまで百貨店、家具専門店、子供用品専門の小売店等の多数の店舗で販売されて、平成2年度から令和2年度までに約110万台以上が販売されており、そのデザイン性の高さからノルウェーデザイン協議会の『クラシック賞』(平成7年)や日本の『グッドデザイン賞』(平成17年)等の複数の受賞歴があり、イリノイ工科大学『現代の偉大なデザイン100選』(令和2年)にも選出され、世界各国の複数の美術館等にも収蔵されており、家具・インテリア雑誌や幼児保育雑誌を中心に多数の日本の雑誌にも掲載されたり、SNS等でも原告製品に関して多数投稿されたりしている。そして、原告製品の展示や広告、写真においても、売り場では原告製品を横向きに複数並べるという展示方法がとられたり、広告では横向きに複数並べた写真が採用されたり、写真では斜め方向や横方向から撮影された写真等が大半であって、雑誌に掲載されたほとんどの写真では側木内側に溝があることを確認することができるのであるから、少なくとも子供用椅子の購入や実際の使用を検討する一般消費者が注目するであろう原告製品を俯瞰し得る展示や写真においては、本件顕著な特徴を確認することができることが認められる。」
「したがって、原告製品の本件顕著な特徴は、被告各製品が販売されるようになった遅くとも平成27年8月10日時点で、原告らの業務に係る商品を表示するものとして『周知』となっていたと認めるのが相当である。」
2.原・被告製品の形態による不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」の類否
(1)不正競争防止法2条1項1号における商品の形態の類否の判断基準について
「被告各製品の形態が、原告らの商品等表示と類似のものに当たるか否かは、取引の実情のもとにおいて、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁判所昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁参照)。」
(2)あてはめ
「被告各製品は、本件顕著な特徴を構成している特徴①から特徴③までとの対比において、左右一対の側木の2本脚であり、かつ、座面板及び足置板が左右一対の側木の間に床面と平行に固定されており(特徴①)、左右方向から見て、側木が床面から斜めに立ち上がっており、側木の下端が脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、側木と脚木が約66度の鋭角による略L字型の形状を形成している(特徴②)が、側木の内側に溝は形成されておらず、側木の後方部分に、固定部材と結合してネジ止めするための円形状の穴が多数形成され、座面板及び足置板を側木の間で支持する支持部材、支持部材を側木の間において掛け渡された状態で側木に固定する固定部材及びネジ部材を備え、2本の側木後方に設けられた穴と固定部材を結合した状態でネジ部材を閉めることで、支持部材と固定部材によって側木を前後から挟持して押圧し、支持部材を側木に固定しており(構成f)、原告らの商品等表示の特徴③を備えていないものと認められる。」
「したがって、被告各製品は、本件顕著な特徴を備えていないから、取引の実情の下において、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるものということはできない。よって、原告らの商品等表示と被告各製品の形態が類似すると認めることはできない。」
3.原告製品の形態の著作物性の有無等
(1)応用美術の著作物性の判断基準について
「原告らが主張するように、作成者の何らかの個性が発揮されていれば、量産される実用品の形状等についても、著作物性を認めるべきであるとの考え方を採用したときは、これらの実用品の形状等について、審査及び登録等の手続を経ることなく著作物の創作と同時に著作権が成立することとなり、著作権に含まれる各種の権利や著作者人格権に配慮する必要から、著作権者の許諾が必要となる場面等が増加し、権利関係が複雑になって混乱が生じることとなり、著作権の存続期間が長期であることとも相まって『公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与する』という著作権法の目的から外れることになるおそれがある。立法措置を経ることなく、現行の著作権法上の著作権の制限規定の解釈によって、問題の解決を図ることは困難といわざるを得ない。他方、著作権法2条1項1号によれば、『著作物』ということができるためには『文芸、学術、美術又は音楽の範囲』に属する必要があるところ、実用品は、それが美的な要素を含む場合であっても、その主たる目的は、専ら実用に供することであって、鑑賞ではない。実用品については、その機能を実現するための形状等の表現につき様々な創作・工夫をする余地があるとしても、それが視覚を通じて美感を起こさせるものである限り、その創作的表現は、著作権法により保護しなくても、意匠法によって保護することが可能であり、かつ、通常はそれで足りるはずである。これらの点を考慮すると、原告製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られると解するのが相当である。著作権法2条2項は、『美術の著作物』には『美術工芸品』を含むものとする旨規定しており、同項の美術工芸品は実用的な機能と切り離して独立の美的鑑賞の対象とすることができるようなものが想定されていると考えられるのであって、同項の規定は、それが例示規定であると解した場合でも、いわゆる応用美術に著作物性を認める場合の要件について前記のように解する一つの根拠となるというべきである。」
(2)あてはめ
「本件顕著な特徴は、2本脚の間に座面板及び足置板がある点(特徴①)、側木と脚木とが略L字型の形状を構成する点(特徴②)、側木の内側に形成された溝に沿って座面板等をはめ込み固定する点(特徴③)からなるものであって、そのいずれにおいても高さの調整が可能な子供用椅子としての実用的な機能そのものを実現するために可能な複数の選択肢の中から選択された特徴である。また、これらの特徴により全体として実現されているのも椅子としての機能である。したがって、本件顕著な特徴は、原告製品の椅子としての機能から分離することが困難なものである。すなわち、本件顕著な特徴を備えた原告製品は、椅子の創作的表現として美感を起こさせるものではあっても、椅子としての実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象とすることができるような部分を有するということはできない。また、原告製品は、その製造・販売状況に照らすと、専ら美的鑑賞目的で制作されたものと認めることもできない。それのみならず、仮に、原告製品の本件顕著な特徴について、独立の美的鑑賞の対象となり得るような創作性があると考えたとしても、前記のとおり、被告各製品は、本件顕著な特徴を備えていないから、原告製品の形態が表現する、直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっているのであって、被告各製品から原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。」
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※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません
文責:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:k_iida☆nakapat.gr.jp (☆を@に読み替えてください。)