◆判決本文
1.不正競争防止法2条1項2号所定の著名表示冒用行為を行った者に対する同法5条3項に基づく使用料相当額の算定に当たって、事後的に定められる、使用に対し受けるべき料率は、通常の料率に比べて自ずと高額になるというべきで、①当該著名表示に係る実際の許諾契約における料率や、それが明らかでない場合には業界における料率の相場等も考慮に入れつつ、②当該著名表示の顧客吸引力の高さ、③当該冒用行為の態様並びに当該著名表示又はそれに類似する表示による当該冒用行為者の売上げ及び利益への貢献の度合い、④当該著名表示の主体と当該冒用行為者との関係など訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率が定められるべきである。
2.本件においては、①一審原告が、一審原告の著作物や商標等に関してこれまで締結したライセンス契約における料率、②「MARIO KART」表示及び「マリオカート」表示並びに一審原告表現物(マリオ、ルイージ、ヨッシー、クッパ)が著名なもので、高い顧客吸引力を有していること、③一審被告会社は、「MARIO KART」表示等の高い顧客吸引力を不当に利用しようとする意図をもって不正競争行為を行ってきており、それらが一審被告会社の売上げに貢献した度合いは相当に大きいと認められることといった事情からすると、本件ドメイン名(maricar.jp、maricar.co.jp、fuji-maricar.jp、maricar.com)を使用している店舗の売上げに係る料率は15%とし、本件ドメイン名を使用していない店舗の売上げに係る料率は12%とするのが相当である。
1.判決要旨1は、不正競争防止法上の著名表示冒用行為に係る使用料相当額の算定について、侵害プレミアムの定型的かつ実質的な上乗せを肯定するとともに、総合考慮すべき諸要素を類型的に例示したものであり、特許法上の特許権侵害に係る実施料相当額の算定について「必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。」旨及び「実施に対し受けるべき料率は,①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。」旨を判示した知財高裁大合議令和元年6月7日判決〔二酸化炭素含有粘性組成物事件〕と基本的に同旨のものである。
2.判決要旨2は、判決要旨1を本件事案にあてはめて、高額な使用料率を認定したものであり、近時及び今後の裁判例の傾向を示すものである。
1.「ア 不競法5条3項に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該商品等表示についての許諾契約における料率に基づかなければならない必然性はない。不正競争行為をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の料率に比べて自ずと高額になるというべきである。
不競法5条3項に基づく損害の算定に用いる,実施に対し受けるべき料率は,①当該商品等表示の実際の許諾契約における料率や,それが明らかでない場合には業界における料率の相場等も考慮に入れつつ,②当該商品等表示の持つ顧客吸引力の高さ,③不正競争行為の態様並びに当該商品等表示又はそれに類似する表示の不正競争行為を行った者の売上げ及び利益への貢献の度合い,④当該商品等表示の主体と不正競争行為を行った者との関係など訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。」
2.「これを本件についてみるに,①一審原告が,一審原告の著作物や商標等に関してこれまで締結したライセンス契約における料率(甲128の1・2),②原告商品等表示は,著名なもので(中間判決書の「第3 当裁判所の判断」4(2)及び6(1)),高い顧客吸引力を有していると認められること,③一審被告会社の不正競争行為の態様は,本判決の「第2 事案の概要」の2(4)~(6)並びに中間判決書の「第3 当裁判所の判断」1~7で判示したとおりであって,一審被告会社は,原告商品等表示の持つ高い顧客吸引力を不当に利用しようとする意図をもって不正競争行為を行ってきたのであり,原告商品等表示と類似する被告標章第1及び被告標章第2並びに本件各ドメイン名が一審被告会社の売上げに貢献した度合いは相当に大きいと認められることといった事情からすると,本件各ドメイン名を使用しているMariCAR店舗及び富士河口湖店の売上げに係る料率は15%とし,本件各ドメイン名を使用していないその他の店舗の売上げに係る料率は12%とするのが相当である。」
【Keywords】著名表示冒用行為、使用料相当額、使用料率、侵害プレミアム、考慮要素、総合考慮、MARIO KART、マリオカート、マリオ、ルイージ、ヨッシー、クッパ、任天堂、MARIモビリティ開発、MariCAR、マリカー
※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません
文責:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)
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