◆判決本文
平成27年法律第54号による改正前の不正競争防止法2条7項所定の「技術的制限手段」のうち,ライセンスの発行を受けた視聴機器にインストールされたビューアによる復号が必要となるよう影像を暗号化して送信し、影像の視聴を制限する方式によるものについて,同改正前の不正競争防止法2条1項10号所定の「当該技術的制限手段の効果を妨げる」とは,当該方式により必要となる復号の機能を奏して当該方式それ自体を無効化することを要せず,当該ビューアにその構成要素として一体的に組み込まれ,復号後の影像の記録・保存を防止する機能を有し,当該ビューア以外で影像を視聴できないようにするプログラムについて,当該機能を無効化し,復号後の影像の記録・保存により当該ビューア以外で影像を視聴できるようにすることでも足りる。
本判決は,刑事事件において,被告人らによる顧客らに対するプログラム「コミスケ3」の提供行為が,不正競争防止法21条2項4号所定の図利加害目的での平成27年法律第54号による改正前の不正競争防止法2条1項10号(現17号)所定の不正競争に当たる旨を判示した控訴審判決(大阪高判平29・12・8(平28(う)598号))に対する上告を上告趣意が刑事訴訟法405条所定の上告理由に当たらないとして棄却したものである。その際,判決要旨は,職権で,同プログラムが,暗号化方式での「技術的制限手段」それ自体を無効化するものではなく,これと共に用いられたソフトウェア「Qガード」による復号後の影像の記録・保存を防止する機能を無効化し,復号後の影像の記録・保存により正規ビューア以外で影像を視聴できるようにするものであった点について,なお「技術的制限手段の効果を妨げる」ものに当たる旨を判示したものである。
「不正競争防止法(平成27年法律第54号による改正前のもの。以下『法』という。)2条7項は,電磁的方法により影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像,音若しくはプログラムの記録(以下『影像の視聴等』という。)を制限する手段であって,視聴等機器が特定の反応をする信号を影像,音若しくはプログラムとともに記録媒体に記録し,若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像,音若しくはプログラムを変換して記録媒体に記録し,若しくは送信する方式によるものを『技術的制限手段』と定め,同条1項10号は,営業上用いられている技術的制限手段により制限されている影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為等を『不正競争』としている。
所論は,本件技術的制限手段は,視聴等機器が特定の変換(復号)を必要とするよう影像を変換して送信する暗号化の方式によるものであるところ,F3は復号の機能を有しないから技術的制限手段の効果を妨げるプログラムではないと主張する。
・・・そこで検討すると,原判決が是認する第1審判決の認定及び記録によれば,以下の各事実が認められる。
本件技術的制限手段は,ライセンスの発行を受けた特定の視聴等機器にインストールされた本件ビューアによる復号が必要となるよう,電子書籍の影像を暗号化して送信し,影像の視聴等を制限するものであった。
Windows対応版の本件ビューアには,復号後の影像の記録・保存を防止する機能を有し,本件ビューア以外で上記影像の視聴ができないよう影像の視聴等を制限するプログラムである『G』が組み込まれていた。Gは,本件ビューアを構成するプログラムの一つとして,本件ビューアと同時にインストールされ,Gのない状態では,本件ビューアは起動せず,ライセンスの発行を受けることも送信された影像の視聴もできないようにされていた。
F3は,Gの上記機能を無効化し,復号後の電子書籍の影像を記録・保存することにより,本件ビューア以外での上記影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムであった。
・・・以上の事実関係によれば,Gの上記機能により得られる効果は本件技術的制限手段の効果に当たり,これを無効化するF3は,技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムに当たると認められる。したがって,F3を提供した被告人両名の行為は,法2条1項10号の不正競争に当たり,法21条2項4号に該当する。」
【Keywords】不正競争防止法2条1項17号,「技術的制限手段の効果を妨げる」の意義
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
文責:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)
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