◆判決本文
本件は、自動車部品の仕入れ及び販売等を業とするa社の従業員として、同社から同社の販売先・販売商品・販売金額等の履歴が記録された得意先電子元帳を示されていた被告人Y1が、(1)Aと共謀の上、令和2年10月27日、同社のサーバにアクセスし、同得意先電子元帳における得意先b社及び仕入先c社に係る本件情報①を記録したファイルをa社から貸与されていたパソコンに保存する方法で取得し、(2)被告人Y2と共謀の上、同月28日、同社のサーバにアクセスし、同得意先電子元帳における得意先d社に係る本件情報②を表示し、LINEの画像キャプチャ機能を利用して画像ファイルとして記録する方法で取得した、という事案である。
原審(札幌地判令5・3・17(令3(わ)915号)労経速2529号13頁)は、上記(1)及び(2)の各事実について、営業秘密領得罪に係る不正競争防止法21条1項3号ロに該当するものとして有罪と認定判断し、被告人Y1及び2を各罰金30万円に処し、これに対し、被告人両名が控訴した。かかる原判決の理由中、本件情報の秘密管理性を肯定した部分は、概略、本件情報は、①競合他社や取引先等の外部者への漏洩を防止する必要の高い情報であることが、従業員等にとって明らかであったというべきことに加え、②●●システムにアクセスする際にIDやパスワード等が必要とされ、本件情報には従業員だけがアクセスできるように制限されていたこと、③●●システムから得意先電子元帳の情報を出力する際の警告画面と同意確認により、これを出力する従業員は、本件情報を社外の者に漏洩することが禁止される旨の警告を認識したはずであることを踏まえれば、本件情報の管理状況は、従業員等において、本件情報が秘密であることを十分に認識できるものであったと認められ、本件情報の秘密管理性を肯定できる、というものである。
これに対し、札幌高裁は、第2に述べるように、本件情報の秘密管理性を否定し、原判決を破棄し、被告人両名を各全部無罪とした。
1.本件情報の性質について
本件情報は、a社のb社やd社に対する販売実績、c社から仕入れた原価等の情報であり、a社の営業にとって客観的に有用な情報である。そして、競業他社や取引の相手方に明らかになることで、a社が取引上不利な立場になることも容易に想定される情報である。また、以上からすれば、本件情報が、a社にとって外部への漏洩を防止する必要性の高い情報であり、実際に公然とは知られておらず、一般に流出していない情報であったことや、本件情報にアクセスするa社の従業員等もそうした認識を持つことが容易であったことも認められる。もっとも、本件情報が不正競争防止法21条1項3号、2条6項の「営業秘密」に該当するといえるためには、上記のような有用性、非公知性に加えて、さらに、a社において、経済合理的な秘密管理措置により、本件情報を秘密として管理しようとする意思が従業員に明確に示され、結果として従業員が当該秘密管理意思を容易に認識し得ることが必要であると解される。
2.秘密管理措置の存否について
(1)●●システムにアクセスする際には、USBアクセスキーを挿入し、企業認証ログイン画面において、a社共通の企業認証アカウントを入力し、更に従業員ログイン画面において、各従業員に付与されたIDとパスワードを入力するといった手順が要求されている。もっとも、●●システムには、本件情報のような営業秘密にかかわるものに限らず、在庫数や日報といった機能も搭載されており、上記の手順は、本件情報を含む営業秘密に属する情報へのアクセスのみならず、●●システムに搭載された諸機能を利用するために要求される手順にすぎないとも考えられる。また、●●システムは、上記のように多岐にわたる機能が搭載されているため、a社の従業員であれば、自己に付与されたID及びパスワードを用いてアクセスすることができ、得意先電子元帳自体にアクセスする際に新たにパスワード等の入力を求めるなどといった制限は設けられていなかった。そうすると、本件情報を含む得意先電子元帳に記録されている情報に接する従業員において、a社が当該情報をその他の秘密とはされない情報と区別し、特に秘密として管理しようとする意思を有していることを明確に認識できるほど、客観的な徴表があると認めることはできず、●●システムにアクセスする際に、IDやパスワード等を入力するなどの手順を要するということのみでは、a社が十分な秘密管理措置を講じていたと認めることはできないというべきである。
(2)警告文の主語は、「株式会社eが提供するデータの利用範囲は」となっており、第三者への情報提供等の制限の対象は、●●システムを提供するe社が提供するファイルレイアウト等の秘密情報と解するのが文面上自然であるし、文末が「第三者へのデータ提供等は『契約違反』に該当します。」となっており、ここでいう「契約」は、e社とa社との間の契約を指すとみるのが自然である上、警告画面末尾には、「※詳細については、締結致しました『秘密保持等確認書』をご確認ください。」と付記されていることから、a社からe社に提出された「秘密保持等確認書」をみてみると、その1条2項1号において、第三者への情報提供等が制限される秘密情報の範囲から、a社が●●システムの使用を通じて自ら入力・作成・登録等した純粋な同社固有のデータを明確に除外しており、これに該当する同社固有のデータであると解される本件情報は、前記警告画面が第三者への情報提供等を制限する対象とはなっていないものと認められる。したがって、前記警告画面の趣旨は、e社のファイルレイアウトなどの秘密情報を保持するところにあるものと解されるから、これをもって、a社自身の秘密管理意思の現れとみることはできないといわざるを得ない。
(3)a社が各従業員の入社時に誓約書を提出させていることによっても、本件情報が同誓約書における守秘義務の対象か否かは客観的に明らかになってはおらず、これらをもってa社が本件情報について秘密として管理する意思を表示していたと認めることは困難である。
(4)a社の就業規則に照らすと、本件情報が社外への持ち出しを禁止されるいずれかの情報に当たると解されるところであるが、a社の従業員に対する就業規則の周知等の手続が適正になされていたかについては疑義が残るところであるし、その他、a社において、営業秘密の取扱いについて、従業員に注意喚起をしていたような事情もうかがえないことにも照らせば、この点をもって秘密管理措置が十分であったということもできない。
1.はじめに
営業秘密の保護強化のための平成27年不正競争防止法改正前・後より営業秘密侵害刑事事件が増加しており、例えば過去10年における営業秘密侵害事犯の検挙事件数は、平成26年の11件から令和5年の26件へと2倍を超えるに至っている(警察庁生活安全局生活経済対策管理官「令和5年における生活経済事犯の検挙状況等について」(令和6年4月)20頁)。そして、かかる営業秘密侵害刑事事件の増加傾向は、さらに営業秘密の保護を強化し、国際的な営業秘密侵害事案に係る手続を明確化した令和5年改正不正競争防止法の令和6年4月1日からの施行によって、強まりこそすれ、弱まることはないであろうことが予想される。一方、かかる増加傾向の営業秘密侵害刑事事件においても、一般には、日本の刑事裁判一般(地裁の刑事通常第一審事件の終局区分に係る最高裁判所事務総局「令和4年司法統計年報概要版2刑事編」(令和5年8月)5頁参照)と同様に、有罪率が極めて高いであろうことが想定される。もっとも、かかる状況の下で、近時、本件を含めて3件の全部無罪判決が下されるに至っており(他に濾過テストにより磁気センサに関する保有者の技術情報と被告人の開示情報との共通部分の非公知性を否定した名古屋地判令4・3・18(平29(わ)427号)裁判所ウェブサイト及び被疑侵害者に由来・化体する有用性・非公知性の乏しい顧客情報の秘密管理性を否定した津地判令4・3・23(令2(わ)282号)LEX/DB25592281)、注目されるところである。
2.判決要旨1について
不正競争防止法上の営業秘密の保護要件の一つである秘密管理性(不正競争防止法2条6項)について、アクセス制限を認識可能性の担保のための一手段に留まると位置付けた平成27年1月28日の営業秘密管理指針の全部改訂の後における近時の裁判例上、重要な技術情報はアクセス制限が不徹底でも秘密管理性が肯定され易い傾向にある(大阪高判平30・5・11(平29(ネ)2772号)裁判所ウェブサイト是認の大阪地判平29・10・19(平27(ワ)4169号)裁判所ウェブサイト〔高強度アルミナ長繊維事件〕、名古屋高判令3・4・13(令2(う)162号)2021WLJPCA04136005〔塗料配合表事件〕、東京地判令4・12・9(令3(特わ)129号)裁判所ウェブサイト〔携帯電話基地局情報事件〕等)。一方、全体として、秘密管理性の否定例は減少したものの、非公知性・有用性の否定例が増加したため、営業秘密性の肯・否定例それ自体は余り増減がないようである。そして、このように非公知性・有用性も実質的な争点とされ得る状況も相俟ってか、上記全部改訂の前・後における近年の裁判例上、非公知性・有用性が乏しい特に営業情報は営業秘密であることを明らかにする相応の措置が要求されることにより秘密管理性が否定され易い傾向にある(東京地判平17・2・25判時1897号98頁〔病院処方薬リスト事件〕、東京地判平19・10・30(平18(ワ)14569号等)裁判所ウェブサイト〔名刺情報事件〕、東京地判平20・11・26判時2040号126頁〔仕入先情報事件〕、青森地判平31・2・25判時2415号54頁〔顧客情報事件〕、東京地判令2・10・28(令元(ワ)14136号)裁判所ウェブサイト〔名刺情報等事件〕、知財高判令5・2・21(令4(ネ)10088号)裁判所ウェブサイト是認の東京地判令4・8・9(令3(ワ)9317号)裁判所ウェブサイト〔AI情報事件〕等)。
このような両各傾向の下で、特に本件のように重要で非公知性・有用性が高い営業情報に関する秘密管理性の肯否が問題になるところ、判決要旨1は、重要で非公知性・有用性が高い営業情報であっても、その旨を従業員が主観的に容易に認識し得るだけでは足りず、なお保有企業の客観的な秘密管理措置それ自体が必要とされる旨を判示したものである。かかる判決要旨1は、秘密管理性について、秘密管理指針及び裁判例上、アクセス制限は保有企業の秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性の担保のための一手段に留まるとされ得るものの、なお保有企業の当該意思が秘密管理措置それ自体により従業員等に対し明確に示されることが必要とされることに、整合するものと理解されよう。
3.判決要旨2について
(1)判決要旨2(1)について
秘密管理指針及び裁判例上、一般に、保有企業の秘密管理措置として、対象情報について、一般情報から合理的に区分し、営業秘密であることを明らかにする措置が必要とされることからすれば、本件においても、得意先電子元帳へのアクセス制限なら格別、他の様々な一般情報をも含むシステム全体へのアクセスにID・パスワードを要することのみでは不十分と考えられるため、判決要旨2(1)は、かかる秘密管理指針及び裁判例と整合するものと理解されよう。
(2)判決要旨2(2)について
秘密管理指針及び裁判例上、一般に、保有企業の秘密管理措置として、対象情報について、一般情報から合理的に区分し、営業秘密であることを明らかにする措置が必要とされることからすれば、本件においても、警告等の措置は、得意先電子元帳における、保有者の本件情報に係るものであることを要し、システムベンダの営業秘密に係るものでは足りないと考えられるため、判決要旨2(2)は、かかる秘密管理指針及び裁判例と整合するものと理解されよう。
(3)判決要旨2(3)について
秘密管理指針上、対象情報について営業秘密であることを明らかにする措置として、主として、媒体の選択や媒体への表示、媒体に接触する者の限定、ないし、営業秘密たる情報の種類・類型のリスト化、秘密保持契約などで守秘義務を明らかにすること等が想定される。また、裁判例(東京地判平17・2・25判時1897号98頁〔病院処方薬リスト事件〕、知財高判令元・8・7金商1579号40頁〔まつげエクステ施術履歴〕、知財高判令3・11・17(令3(ネ)10038号等)裁判所ウェブサイト是認の東京地判令3・3・23(平30(ワ)20127号等)裁判所ウェブサイト〔生命保険顧客情報〕等)上、就業規則・守秘誓約書上の一般的・抽象的な守秘義務では不十分とされる。よって、本件においても、従業者の入社時の一般的・抽象的な守秘誓約書では不十分であり、本件情報が従業者の守秘義務の対象に含まれることが明らかでなければならないと考えられ、判決要旨2(3)は、かかる秘密管理指針及び裁判例と整合するものと理解されよう。
(4)判決要旨2(4)について
秘密管理指針上、対象情報について営業秘密であることを明らかにする措置として、主として、媒体の選択や媒体への表示、媒体に接触する者の限定、ないし、営業秘密たる情報の種類・類型のリスト化、秘密保持契約などで守秘義務を明らかにすること等が想定される。また、秘密管理指針及び裁判例(知財高判令3・11・17(令3(ネ)10038号等)裁判所ウェブサイト是認の東京地判令3・3・23(平30(ワ)20127号等)裁判所ウェブサイト〔生命保険顧客情報〕、知財高判令5・2・21(令4(ネ)10088号)裁判所ウェブサイト是認の東京地判令4・8・9(令3(ワ)9317号)裁判所ウェブサイト〔AI情報事件〕等)上、従業者等の就業規則・守秘誓約書上の守秘義務それ自体よりも、保有者の秘密管理措置の実態の方が重視される。よって、本件においても、本件情報が就業規則上従業者の守秘義務の対象と解されることのみでは必ずしも十分ではないと考えられ、判決要旨2(4)は、かかる秘密管理指針及び裁判例と整合するものと理解されよう。
4.まとめ
2及び3に述べたところにより、本件判決は、直ちに近年の否定裁判例の類型には位置付け難いものの、営業秘密管理指針及び裁判例と整合するものと理解されよう。
1.本件情報の性質について
「本件情報は、原判決が適切に認定するように、a社のb社やd社に対する販売実績、c社から仕入れた原価等の情報であり、a社の営業にとって客観的に有用な情報である。そして、競業他社や取引の相手方にこうした情報が明らかになることで、a社が取引上不利な立場になることも容易に想定される情報である。これらのことは、a社の規模や業界における優越的な地位を前提としても、異なるものではない。また、以上からすれば、本件情報がa社にとって外部への漏洩を防止する必要性の高い情報であり、実際に公然とは知られておらず、一般に流出していない情報であったことや、本件情報にアクセスするa社の従業員等もそうした認識を持つことは容易であったことも認められる。もっとも、本件情報がこのような性質を有するものであるとしても、本件情報が不正競争防止法21条1項3号、2条6項の「営業秘密」に該当するといえるためには、上記のような有用性、非公知性に加えて、さらに、秘密管理性、すなわち、a社において、経済合理的な秘密管理措置により、本件情報を秘密として管理しようとする意思が従業員に明確に示され、結果として従業員が当該秘密管理意思を容易に認識し得ることが必要であると解される。」
2.秘密管理措置の存否について
(1)「まず、本件情報は●●システム内の得意先電子元帳内に保管されていた情報であるところ、●●システムにアクセスする際には、原判決が適切に認定しているとおり、USBアクセスキーを挿入し、企業認証ログイン画面において、a社共通の企業認証アカウントを入力し、更に従業員ログイン画面において、各従業員に付与されたIDとパスワードを入力するといった手順が要求されている。もっとも、●●システムには、本件情報のような営業秘密にかかわるものに限らず、在庫数や日報といった機能も搭載されており、上記の手順は、本件情報を含む営業秘密に属する情報へのアクセスのみならず、●●システムに搭載された諸機能を利用するために要求される手順にすぎないとも考えられる。また、●●システムは、上記のように多岐にわたる機能が搭載されているため、a社の従業員であれば、自己に付与されたID及びパスワードを用いてアクセスすることができ、得意先電子元帳自体にアクセスする際に新たにパスワード等の入力を求めるなどといった制限は設けられていなかった。そうすると、本件情報を含む得意先電子元帳に記録されている情報に接する従業員において、a社が当該情報をその他の秘密とはされない情報と区別し、特に秘密として管理しようとする意思を有していることを明確に認識できるほど、客観的な徴表があると認めることはできず、●●システムにアクセスする際に、IDやパスワード等を入力するなどの手順を要するということのみでは、a社が十分な秘密管理措置を講じていたと認めることはできないというべきである。」
(2)「また、原判決は、●●システムの得意先電子元帳内の情報を、CSVを含むテキスト形式で出力しようとした際に、前記のとおりの警告画面が表示されることも、a社の秘密管理意思の現れであるとしている。しかしながら、警告文の主語は、「株式会社eが提供するデータの利用範囲は」となっており、第三者への情報提供等の制限の対象は、●●システムを提供するe社が提供するファイルレイアウト等の秘密情報と解するのが文面上自然であるし、文末が「第三者へのデータ提供等は『契約違反』に該当します。」となっており、ここでいう「契約」は、e社とa社との間の契約を指すとみるのが自然である上、警告画面末尾には、「※詳細については、締結致しました『秘密保持等確認書』をご確認ください。」と付記されていることから、a社からe社に提出された「秘密保持等確認書」(原審甲31添付資料4)をみてみると、その1条2項1号において、第三者への情報提供等が制限される秘密情報の範囲から、a社が●●システムの使用を通じて自ら入力・作成・登録等した純粋な同社固有のデータを明確に除外しており、これに該当する同社固有のデータであると解される本件情報は、前記警告画面が第三者への情報提供等を制限する対象とはなっていないものと認められる。したがって、前記警告画面の趣旨は、所論がいうようにe社のファイルレイアウトなどの秘密情報を保持するところにあるものと解されるから、これをもって、a社自身の秘密管理意思の現れとみることはできないといわざるを得ない。前記警告画面の趣旨がこのように解される以上、確かに、原判決のいうように、同警告画面を見たa社従業員が、本件情報を含め得意先電子元帳機能から出力しようとしている情報を社外の者に漏洩することが禁じられている旨の警告と誤解する場合があることは想像するに難くないところではあるが、そうだかからといって、上記結論を左右するものではない。」
(3)「また、原判決は指摘していないものの、a社が、各従業員の入社時に誓約書を提出させていることも秘密管理意思の根拠として考え得るところであり、現に被告人Y1がa社に対し提出した平成24年6月6日付誓約書には「貴社の諸規則や命令を必ず遵守します。」「貴社の利害に関する機密、取引先の内情等は一切他言いたしません。」(原審甲21)、被告人Y2がa社に対し提出した平成5年3月21日付誓約書にも「貴社の諸規則や命令を必ず遵守致します。」「貴社の利害に関する機密、取引先の内情等は一切他言致しません。」(原審甲23)との記載が認められる。しかしながら、これらによっても本件情報が上記誓約書における守秘義務の対象か否かその範囲は客観的に明らかになってはおらず、これらをもってa社が、本件情報について秘密として管理する意思を表示していたと認めることは困難である。」
(4)「さらに、a社の就業規則においては、その9条において、「(27) 会社内外を問わず、在籍中又は退職後においても、会社、取引先等の秘密、機密性のある情報、顧客情報、企画案、ノウハウ、データ、ID、パスワードおよび会社の不利益となる事項を第三者に開示、漏洩、提供しないこと。また、コピー等をして社外に持ち出さない事。」(原審甲4)との規定があり、この点に照らすと、本件情報が社外への持ち出しを禁止されるいずれかの情報に当たると解されるところであるが、a社の従業員に対する就業規則の周知等の手続が適正になされていたかについては疑義が残るところであるし、その他、a社において、営業秘密の取扱いについて、従業員に注意喚起をしていたような事情もうかがえないことにも照らせば、この点をもって秘密管理措置が十分であったということもできない。」
3.小括
「以上のとおり、原判決が秘密管理性を認めた根拠として挙げた事情は、いずれもその根拠として十分なものとはいい難く、その他原審で取り調べられた各証拠に照らしても、a社が本件情報について、秘密管理意思を客観的に明示した十分な秘密管理措置を講じていたと認めるには合理的な疑いが残るというべきであるのに、これを認めた原判決の判断は、論理則、経験則等に照らし、不合理というほかなく、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認が認められる。これに対し、検察官は、答弁書でるる主張するが、それらを検討しても以上の認定、判断は左右されない。
したがって、各弁護人のその余の所論について検討するまでもなく、事実誤認をいう各論旨は理由がある。」
【Keywords】不正競争防止法21条1項3号ロ、営業秘密領得罪、不正競争防止法2条6項、秘密管理性、得意先電子元帳、秘密管理措置、アクセス制限、守秘義務
※本稿の内容は、一般的な情報を提供するものであり、法律上の助言を含みません
文責:弁護士・弁理士 飯田 圭(第二東京弁護士会)
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