平成27年(行ケ)10127【レーザ加工装置】<髙部>
相違点1:「圧力水を冷却能力の低い気体に代える動機はなく,また,冷却能力を捨象して圧力媒体を気体に代えるのであれば,圧力媒体を冷却するために循環させる必要がなくなるので,流体供給経路と別体の流体排出経路を設ける理由もない」
相違点4:「引用発明においては,流体排出経路と流体供給経路との間における広さ(径の大きさ)の差異の存否自体,不明」+動機付けなし
⇒進歩性〇
https://courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/766/085766_hanrei.pdf
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*相違点1(流体の種類が気体か水か)について
まず裁判所は、引用例における「Fluid」という用語が、一般的に液体だけでなく気体も含む「流体」を指すかどうかに言及した。引用例原文はドイツ語で書かれており、「Fluid」は「流体」と訳される場合がある一方、自動車用語でいう「フルード」(液体)を意味しうるとの原告の主張もあった。しかし、裁判所は、いくつかの英独和辞典・独和辞典や、日本への同一出願時の公報などを総合し、引用例における「Fluid」が液体・気体を含む広い概念として用いられる可能性は十分あると認定した。
さらに、レーザビームの曲率制御を行う反射鏡において、液体の代わりに気体を用いる技術は周知例(例えば周知例1, 3など)に示されていると認められる。これらを総合して、引用発明において、圧力水ではなく気体を採用する構成は、当業者にとって容易に想起し得る事項と判断した。すなわち、相違点1については容易想到性を肯定し、本件審決の結論と同様に、引用例から当業者が気体を代用しようと考えること自体には阻害要因がないとしている。
*相違点4(流体排出経路を供給経路より狭くしたこと)について
本件発明では、気体を供給する経路よりも排出経路を狭くして、少ない流量で背面に必要な圧力をかけ、応答時間を短縮する狙いがあるとされる(明細書【0031】)。これにより、圧縮性流体である気体でも曲率可変ミラーの反応を高速化し、自在にレーザビーム径を調整することを可能にする利点を有するとされる。
一方、引用発明では圧力水を循環させる前提があり、排出管や供給管の径を狭くして少量で圧力を発生させるなどの記載はない。裁判所は、引用発明から当業者がこのように「排出経路を供給経路より狭くして圧力を効率的に上げる」という発想に至るかどうかを検討した。
+周知技術の検討
審決では、周知例として、気体を用いるシステムで排出側を絞ることにより圧力を高める技術は周知である、という指摘があった。しかし、裁判所は、提示された周知例(周知例10や11など)を吟味した結果、それらはいずれも技術分野が異なるか、あるいは「供給経路と排出経路の広狭を変えて圧力を上げる」ことを直接示すものではない、と判断した。
特に周知例11(貯蔵庫内のガス置換技術)は、レーザ加工とは全く異なる分野であり、「供給経路より排出経路を狭くする構成」を本件発明に適用すべき直接の示唆はないと認められる、とした。また、周知例7~9に関しても「気体の圧縮性から配管の容積を小さくすべき」という教示はあるが、「排出経路」と「供給経路」の相対的な広狭に関する示唆があるとはいえないと整理している。
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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