<知財実務オンライン>「 営業秘密管理指針改訂の概要」(経済産業省 黒川直毅弁護士)
<知財実務オンライン>「 営業秘密管理指針改訂の概要」(経済産業省 黒川直毅弁護士)
1.営業秘密管理指針改訂(2025年)の概要
今回の改訂は、テレワークの普及や生成AIの台頭、雇用の流動化といった社会情勢の変化、および最新の裁判例の動向を反映することを目的としている。
①従来、秘密管理措置の判断基準として重視されていた「合理的区分(秘密情報と一般情報の区別)」について、その位置付けを整理した。
⇒改訂指針では、合理的区分を絶対的な独立要件とするのではなく、「必要な秘密管理措置の程度」を判断するための一要素として内包させた。
これにより、企業の実態や情報の性質に応じた柔軟な管理体制を認める一方で、従業員に対して「これは秘密である」という企業の意思が客観的に認識できる状態(客観的認識可能性)が確保されている必要があることを改めて強調している。
②クラウドサービスの利用普及を踏まえ、アクセス権限管理の考え方を詳述した。
例えば、特定の部署内で広くアクセス権限が付与されていても、部署外からのアクセスが制限されていれば秘密管理性が認められ得る。
また、生成AIの利用において入力データが意図せず学習に利用され、非公知性を喪失するリスクや、ダークウェブを通じた漏洩事案への言及、リバースエンジニアリングと非公知性の関係など、技術動向に即した記述が追加された。
③近年の裁判例を踏まえ、有用性については「当該情報が事業活動に使用・利用されている限り、公序良俗に反する等の特段の事情がない限り充足される」こと、また「不正取得した者がそれを有効活用できるか否かは無関係である」ことが明記された。
非公知性については、製品を解析すれば容易に判明する情報は保護されないが、相当な時間や特殊技術を要する場合は非公知性が維持されるという基準を整理している。
★今回の改訂は「形式的な管理」から「実態に即した認識可能性の確保」へと重点が移っている。
多角的な思考で見れば、IT環境の変化を所与のものとして受け入れつつ、法的な保護の枠組みを維持しようとする試みである。
批判的に検証すれば、管理の柔軟性が増す一方で、企業側には「自社の管理措置が客観的に認識可能か」を立証する高度な説明責任が求められるようになると予測される。
(第268回)知財実務オンライン:「 営業秘密管理指針改訂の概要」(ゲスト:経済産業省 経済産業政策局 知的財産政策室 室長補佐 弁護士・弁理士 黒川 直毅)
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)
