【知財実務オンライン】特許裁判例事典第4版(知財塾)で新たに掲載した重要特許判決紹介(高石秀樹)

【知財実務オンライン】「特許裁判例事典第4版」(知財塾)で新たに掲載した重要特許判決紹介(中村合同特許法律事務所、高石秀樹)

1 動画全体の中心的メッセージ
明細書における「発明の課題」の設定が、サポート要件、実施可能要件、進歩性、新規事項追加、クレーム解釈及び充足論の全てに影響する。
したがって、単に分かりやすい日本語を書くという話ではなく、
• サポート要件を満たしやすくする
• 引用発明との動機付けを否定しやすくする
• 分割・補正の自由度を残す
• 将来の被疑侵害品をクレームに取り込みやすくする
• 不要な限定解釈を避ける
という各目的から逆算して、課題、効果、実施例及びクレーム文言を選択すべきである。

2 実施可能要件・サポート要件(5分56秒以降)
• 「~からなる」「~と~から合成される」等の文言は、その文言だけで排他的な意味に決まるのではなく、明細書記載の課題・技術的意義との関係で解釈される。
• 複数の部材からなる発明では、発明全体を一括して見るだけでなく、各部材について実施可能性を検討する。
• シミュレーションによる実施可能性の立証を認めた裁判例がある。
• クレームの極端な端部に実施困難な態様があっても、その極端な態様までクレームに含まれないとして、実施可能要件・サポート要件が肯定される場合がある。
• 明細書で細かな有効数字を設定すると、その精度で測定可能な条件の記載が要求される。
• 発明の課題を「従来技術の改善」とすると、実際に改善できることまで求められる。他方、「新たな構成又は代替手段の提供」とすれば、当該構成を提供できることによって課題解決を説明しやすくなる。
• 課題を実施例に即して限定的に設定すると、サポート要件を満たしやすくなるだけでなく、引用発明との課題の相違を進歩性にも利用できる。
• 数値範囲外との比較例や論文水準の厳密な科学的証明まで、常に必要となるわけではない。
• 明細書が引用する論文と矛盾する公知文献を複数提出することで、出願時の技術常識に関する判断を覆した事例が紹介されている。
• 課題解決に寄与しない副生成物・不純物を後からクレームアップすると、サポート要件違反又は新規事項追加となる危険がある。
• 第1次訴訟で問題とされなかった別のサポート要件違反が、第2次訴訟で認められる場合がある。
特に重要なのは、「改善」を不用意に課題としないことと、実施例から確実に認識できる限定的な課題を記載することの2点である。

3 明確性要件(21分54秒以降)
• 正確な測定が困難であることは、必ずしも明確性要件の問題ではなく、実施可能要件又はサポート要件の問題となる。
• 「略」「約」「ほぼ」は、課題を解決できる程度を当業者が認識できれば明確とされ得る。
• 他方、どの程度で課題を解決できるのか自体が不明であれば、「ほぼ」等の文言が明確性要件違反となる。
• 効果をクレームアップした場合、効果を満たさないものが排除されるとして明確とする裁判例と、なお記載要件違反を認める裁判例とがあり、判断は安定していない。
• PBPクレームについて、不可能・非実際的事情がないとして明確性要件違反となった事例も紹介されている。

4 新規事項追加・分割・優先権・訂正(26分18秒以降)
• 発明の課題に直接関係しない付加的構成は、実施例から削除又は上位概念化できる場合がある。
• 分割要件と補正要件は、新規事項追加の判断において同様に扱われる。
• 当初明細書に多数の課題及び構成の選択肢を個別に列挙しておけば、後の分割・補正で利用しやすい。
• 課題解決に不可欠でない構成は、分割・補正時に削除できる可能性がある。
• 当初明細書にない「実質的」等の文言を後から加えることは、得るものが少ない一方、優先権等を争われる危険がある。
• 分割出願の途中の世代に新規事項があると、後続する分割出願も原出願日に遡及できなくなる。
• 分割時にクレームだけでなく明細書本文を変更すると、明細書における新規事項追加によって分割要件違反となり得る。
• 新規事項追加に該当しなくても、訂正・補正による「実質的変更」が問題となる場合がある。
• 従来技術欄の記載は限定解釈に利用される一方、当該記載を根拠とする補正は認められないことがある。
• 誤記訂正は、当業者にとって訂正後の内容が一つに定まる場合でなければ認められにくい。
実務上は、分割時に明細書本文を不用意に変更しないこと、当初明細書に複数の課題・効果・構成を個別に列挙しておくことが重要である。

5 新規性・公然実施・進歩性(45分48秒以降)
• 新規性では、本件発明と引用発明との課題が異なっていても、客観的構成が一致すれば新規性が否定される。
• 引用文献に物質名又は用途が記載されていても、当業者が実施できなければ、引用例適格性が否定され得る。
• 同じ引用文献でも、引用発明をどのように認定するかによって、審決取消訴訟と侵害訴訟とで進歩性の結論が異なる場合がある。
• 展示会で外観しか確認できず、内部構成を知ることができない場合、その内部構成について公然実施が成立しないことがある。
• 出願前製品がクレームの数値範囲に入っていれば、その数値範囲に入るとの認識がなくても公然実施が成立し得る。
• 独占的販売であっても、NDA等の秘密保持義務がなければ公然実施となり得る。
• 引用発明が既に課題を解決している場合、別の解決手段を採用する動機付けが否定される場合がある。
• 反対に、「さらに良くする」動機付けを認めた裁判例もあり、双方の系列を把握する必要がある。
• 課題解決に関連する複数の相違点は、個別に分断せず、一体の構成として容易想到性を判断すべき場合がある。
• 一方のパラメータを動かすと他方も変動する場合や、複数の解決手段がトレードオフの関係にある場合には、単純な組合せが困難であるとの主張が可能である。
• 「試みることが容易である」というだけでは、進歩性否定の理由として不十分とする傾向がある。
• 他方、相違点を埋めた結果として新たな課題が生じ、その課題を別の周知技術で解決するという2段階の動機付けを認めた裁判例もある。
• 相違点が明細書記載の課題と関係しない場合、設計事項と評価されやすい。

6 クレーム解釈・均等・侵害論(1時間5分15秒以降)
• 「~からなる」「実質的に~からなる」の意味は、クレーム文言だけでなく、明細書の課題・実施例との関係で決まる。
• 親出願の審査過程における主張・限定が、子・孫の分割出願にも包袋禁反言として影響する場合がある。
• 「~に結合された」という文言について、一体構造でも充足するとした事例がある。
• 「調節」「調整」は、単に一定範囲内にあるだけでなく、能動的に変更できる構成を要求すると解釈される危険がある。
• 全実施例に共通する構成は、発明の技術思想又は本質的部分として、限定解釈の根拠となり得る。
• 均等論は構成の置換に限られず、構成の一部を欠く場合にも成立し得る。
• 複数の部品を別々に製造・販売しても、一括して扱っている場合には直接侵害となり得る。直接侵害となれば、部品の輸出についても差止めの余地が生じる。
• クレーム上のパラメータを測定できず、被疑侵害品が数値範囲に属することを立証できない場合、非充足となり得る。
• 国外から日本向けに製品を送付する行為について、日本における「譲渡の申出」を認めた事例も紹介されている。

7 結論
• 明細書の課題設定が、記載要件、進歩性、新規事項及びクレーム解釈を横断して影響する。
• 課題を不用意に「改善」とせず、「新たな構成・代替手段の提供」とすることも検討すべきである。
• 当初明細書には、複数の課題、効果、構成及び実施態様を個別に記載して、将来の分割・補正の余地を残すべきである。
• 「全て」「必ず」「調整」「調節」「実質的」等の文言は、将来の限定解釈又は新規事項追加の原因となり得るため、法的効果を考えて使用すべきである。
• 訴訟では、自方に有利な裁判例だけでなく反対系列の裁判例も把握し、複数の法的構成を予備的に主張すべきである。

https://www.youtube.com/watch?v=O4lh04wJ2E4

 

※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)

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