【知財実務オンライン】『進歩性の論点20個を一つ3分で総ざらい』(著者一同、監修=高石秀樹)

【知財実務オンライン】『進歩性の論点20個を一つ3分で総ざらい』(著者一同、監修=高石秀樹)

「進歩性の全て」の著者陣が、各自の執筆担当箇所を説明し、監修者(高石)がコメントを付している。
以下は、各論点についての高石のコメントである。

1.進歩性の判断フロー
組合せの動機付けと設計事項とは、相互に独立した別個の論理付けであるから、混同せずに個別に検討することが重要である。
どちらが有利かは事案によって異なる。
相違点に技術的意義(本件発明の課題解決との相関)が乏しい場合には設計事項とされやすい。
副引用例との組合せの動機付け及び阻害要因の有無を争いつつ、別ルートとして、相違点に係る構成は設計事項にすぎないとの主張がされることは、裁判実務上も多い。

2.引用発明の適格性
高石の補足コメントなし。

3.引用発明の認定における誤り
審決取消訴訟において取消事由として認められることが多いのは、(主・副)引用発明の認定であり、ここが最重要である。
特許庁は、審査・審判の論理に適合するよう主引用発明又は副引用発明を一定程度上位概念化して認定している。そのため、引用発明の認定には常に反論可能な点がないかを検討すべきである。

4.上位概念化
引用発明の構成を捨象し、抽象化することには、その発明の課題との関係による限界がある。技術的思想とは、技術的課題及びその解決原理によって把握されるものであり、課題と相関する構成を自由に捨象することはできない。
例えばC1をCへ上位概念化した結果、課題を解決しないものまで含まれるなら、C1を捨象することはできない。
他方、課題自体を抽象化する余地もあるため、「構成の抽象化」と「課題の抽象化」という2段階で検討すると整理しやすい。

5.内在特性
平成30年頃には、内在特性を当業者が認識できなかったことを理由に進歩性を肯定する裁判例が比較的多かった。令和3年から令和6年頃は、以前よりやや厳しく判断されているとの実務感覚がある。ただし、基本的な判断枠組みが変更されたわけではない。

6.引用発明の認定と技術的な一体不可分性
構成Cを引用発明の認定に残すことにより、構成Cを除去又は変更することに阻害要因があるとの議論につながる場合には、特許権者側に有利となる。
「可分」か「一体不可分」かにはグレーゾーンがあり、構成が発明の課題解決とどの程度相関しているかを検討する必要がある。そもそも、本件発明の課題レベルも、完全解決が課題なのか、従来技術よりもましであればよいというレベルの課題なのか、従来技術と同レベルの異なる代替的な解決手段を提供しただけなのか、という議論もある。

7.相違点の分け方
相違点Bと相違点Cを分けて認定されたとしても、相違点Bに係る構成を変更すると相違点Cに係る構成も変わってしまうという相互依存関係を主張できる。
このような議論は裁判所でも認められることがあるため、一方の相違点を埋めた結果、他方の相違点に影響が生じることを常に検討すべきである。
(東京地判平成27年(ワ)第1025号【ノンアルコールビール】事件<長谷川裁判長>も、主引例である公然実施発明における一つのパラメータを副引例を適用して変更したときに、他のパラメータが特許発明の数値範囲内であることを検討した。)

8.容易想到性判断の基本的な考え方―構成付加型・置換型・構成除去型
置換又は除去される構成Cが、引用発明の課題解決に必須であるか、少なくとも相関しているかが重要である。
引用例の従属項にはCがある一方、独立項にはCがない場合、引用発明自体がCを必須の構成として位置付けていないと反論できる。
その結果、Cは引用発明の課題解決に必須ではないとして、引用発明の課題の把握を修正させる方向に働き得る。引用例では、明細書だけでなく独立項及び従属項の関係まで確認すべきである。

9.動機付け
技術分野の関連性や作用・機能の共通性は前提的な事情とされ、引用発明中の示唆は、より強い動機付けとなり得る。
裁判所における近時の無効論では、主引用例及び副引用例を複数提出するだけでなく、相違点を埋める副引用例又は周知技術に加え、出願日当時に周知であった課題又は技術的要請を示す文献を提出し、組合せの動機付けを立証することがある。

10.阻害要因
進歩性の議論においては、主引用例の選定が最も重要である。
主引用発明と本件発明の課題が相反する場合、他の技術を組み合わせても本件発明には到達しにくい。

11.設計変更
設計変更論は、動機付けとは別ルートで進歩性を否定する別個独立の論理付けであるため、常に主張するくらいの心づもりでよい。
これに対抗するには、相違点となる構成が本件発明の課題解決に不可欠であるか、少なくとも相関することを明細書から示す必要がある。
裁判所は、現実に技術的意義があるかだけでなく、その関係が明細書に記載されているかを重視する。このため、出願当初の明細書に、各構成と課題・効果との関係を記載することが重要である。ただし、多数の構成を効果と結び付けると、侵害論におけるクレーム文言解釈や分割出願の柔軟性が損なわれる(本件発明の課題と相関する構成は捨象しにくいため、新規事項追加と判断されやすい。)という副作用が生じ得るため、バランスが必要である。

12.有利な効果
この論点は、特許庁と裁判所との判断傾向が大きく乖離している。
特許庁では、「同質であるが際立って優れた効果(顕著な効果)」により進歩性を基礎付けやすい。
これに対し裁判所では、組合せが容易で構成が同じであれば、効果がクレームアップされている場合などを除き、「同質であるが際立って優れた効果(顕著な効果)」だけで進歩性を認めることには厳しい傾向がある。
裁判で主張する際は、単に「同質であるが際立って優れた効果(顕著な効果)」と表現するより、「従来技術とは異質な課題・異質な効果である」と質的な相違を示す方が認められやすい。顕著な効果が認められるレベルであれば、観点を変えれば、異質な課題・異質な効果と表現することが可能であるはずである。

13.周知技術
相手方が文献によって当時の技術水準を立証した場合、単に「そのようには書かれていない」と反論しても通りにくい。有効な反駁方針は、反対の内容を述べる文献を探し、当時の技術的理解が一義的ではなかったことを示す方法である。反対内容を示す文献を探すことを常に意識すべきである。
また、相違点を埋めるために周知技術を示す複数の文献を提出すると、その文献群の中に動機付けとなる周知の課題も含まれることが多い。周知技術には、相違点を埋める役割と、(出願時の技術水準として)動機付けを示す役割とが重なり得る。

14.容易の容易
平成27年頃に「容易の容易は容易ではない」と一般論を判示した判決が約8件出たが、そのうち少なくとも7件は、各段階を個別に見ても容易でないと判断していた。したがって、「容易の容易は容易ではない」という標語自体がリップサービスであった。
知財高判令和5年(行ケ)第10013号【磁極ハウジングの製作方法】事件<清水響裁判長>は、第1の変更によって当然生じる課題を解決するため、第2の変更を加えることも容易であるとした。「容易の容易」という言葉の効力は平成27年頃より弱まっているため、この標語に依存せず、各変更がそれぞれ容易でないこと、又は2つの変更を同時に行うことが容易でないことを具体的に主張すべきである。

15.用途・用途発明
侵害鑑定や充足論では、「○○用」という用途記載が発明を特定する意味を有するかを必ず検討すべきである。物の構成が同一で、用途記載が単にその用途に適することを述べるだけなら、用途が発明を限定せず、指定用途以外での使用についても文言充足が成立する可能性がある。
依頼者から「構成は同じだが用途だけが違う」と説明されても、直ちに非充足と判断してはならない。他方、「○○用」という用途記載が発明を特定しない場合、用途以外の残部に新規性・進歩性がなければ、当該請求項が無効理由を有することも併せて検討すべきである。

16.サブコンビネーション
サブコンビネーションは、(2026年7月時点における)直近1年間の特許庁におけるホットトピックの1つである。相手方の装置等との関係によって自己の構成・機能が限定されるなら、その記載は発明の限定事項となり、新規性判断にも影響する。逆に、自己の構成・機能が限定されないなら、限定要素とはならない。
近時は、限定するような記載であるのに実際には構成・機能の限定になっておらず、第三者に不測の不利益を与えるとして、明確性要件違反の拒絶理由、取消理由・無効理由とされる事例が増えている。
高石がこの点について2026年9月に論稿を出すので、欲しい方に提供する。

17.数値限定発明・パラメータ発明
パラメータ発明では、当該パラメータと本件発明の課題との間に強い相関があることが重要である。
その相関が明細書に記載されていれば裁判所は評価するが、明細書に記載されていなければ冷たく退けられる。したがって、出願当初の明細書に、パラメータがどのように課題解決へ結び付くかを書くことが、特許実務家が提供できる重要な付加価値となる。

18.選択発明
数値限定発明も選択発明の一類型である。上位概念から特定の下位概念を選択する類型では、従来技術と異なる課題及び選択肢との相関を本件明細書に記載していることが多く、進歩性が認められやすい。
列挙された複数の選択肢から1つを選ぶ類型は、選択肢の数だけで決まるものではないものの、選択肢が引用例に個別列挙されていると新規性・進歩性が認められにくい。もっとも、選択したものに固有の異なる課題・効果があれば、別途評価され得る。

19.除くクレーム
除くクレームは、新規事項追加及び記載要件との関係で現在も十分に利用価値がある。当初明細書等に除外対象を備えない態様が明示されていなくても、引用発明との重複を回避するための除くクレームとする補正・訂正が認められる場合がある。
例えば、溝がない図面を根拠に、「溝がない」という除くクレームが認められた裁判例もある。(知財高判令和3年(行ケ)10111【レーザ加工装置】事件<菅野裁判長>)
明細書に「○○を備えることが好ましい」と記載するときは、併せて「○○を備えなくてもよい」と明記しておけば、後に除外するための根拠となる。新規事項追加の判断では、開示された技術的事項が存在するかが問題となるため、将来除外する可能性のある事項を当初明細書で明示的に文章化することが重要である。

20.効果のクレームアップ
平成30年頃には、効果をクレームアップすることによって進歩性が認められた裁判例が多く、この手法を推奨していた。しかし、令和3年・4年頃には、クレームに追加された効果が、引用発明と共通する構成から当然に生じる内在的な効果にすぎず、独立の相違点を構成しないとして、進歩性を厳しく判断する裁判例が続き、以前より厳格化しているとの実務感覚がある。
もっとも、効果を発明特定事項として考慮し得るとの一般的な判断枠組み自体が変更されたわけではなく、効果のクレームアップは依然として検討する価値がある。ただし、サポート要件や実施可能要件等の記載要件についても厳しく判断される場合があるため、その点を十分に手当てする必要がある。

https://www.youtube.com/watch?v=2UiXUHCApZQ
 
 
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)

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