知財高判令和3(ネ)10086【ランプ】<本多> ※先使用権成立
*数値限定発明につき設計変更後の製品も先使用権の範囲内とした。
⇒先使用製品のバラツキを(現実の先使用物よりも若干広く)認定した後、適宜調整可能範囲を先使用権が及ぶ(同一性の)範囲として認定した。
⇒パラメータを認識していなかくても、先使用権成立
「カナデンは…共同研究その他の形で関与していた…事情も見当たらない…カナデンに納品された平成24年4月…既に一般向けに販売されていた…ことによると、カナデンに対する…納品が…守秘義務を…前提…とは考え難い。
⇒公然実施~新規性×
【請求項1】…複数のLEDチップの各々の光が前記ランプの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅をy(mm)とし、隣り合う前記LEDチップの発光中心間隔をx(mm)とすると、y≧1.09xの関係を満たす、ランプ。
(判旨抜粋)
…被控訴人403W製品全24本について、左から25番目と50番目のLED2個についてy/x値を計測したところ、左から25番目のLEDについては、最小値1.303、最大値1.388、平均値3σが1.281、1.397であり、左から50番目のLEDについては、最小値1.297、最大値1.381、平均値3σが1.272、1.403であったことが認められる。ここで、工業製品にあっては、同一生産工程で生産されても、その品質はさまざまな原因によってばらつきが存在するものであり、照明器具においても同様のことがいえると解されるところ、上記のとおり、被控訴人403W製品においても、それぞれ数値範囲にばらつきが生じているものと理解できる。また、品質管理の手法としては、製品の検査結果を要求される品質標準と比較して、この差(製造誤差)を標準偏差の3倍(3σ)の範囲に収めることが一般的に採用される手法の一つであると理解できる…。これらを踏まえると、被控訴人403W製品のy/x値は、実測値で1.27~1.38程度、一般的な製造誤差を考慮した場合である3σは、403W製品に要求される品質標準は不明であるものの、一般的な管理手法に照らせば、実測された平均値がそれに該当するといえ、被控訴人403W製品のy/x値は、おおむね1.27~1.40程度であったと認めることができる。…
以上のことを踏まえると、403W製品に具現化された発明であるy/x値が1.4 を超える部分から1.7又は1.7を超える範囲は、被控訴人においてx値を適宜調整することで実現していた範囲であって自己のものとして支配していた範囲であるといえる。…さらに、本件各発明1の課題であるLED照明の粒々感を抑えることは、LED照明の当業者において本件優先権主張日前から知られた課題であり、当業者はこのような課題につき、本件パラメータを用いずに、試行錯誤を通じて、粒々感のない照明器具を製造していたものといえる。そのような技術状況からすると、「物」の発明の特定事項として数式が用いられている場合には、出願(優先権主張日)前において実施していた製品又は実施の準備をしている製品が、後に出願され権利化された発明の特定する数式によって画定される技術的範囲内に包含されることがあり得るところであり、被控訴人が本件パラメータを認識していなかったことをもって、先使用権の成立を否定すべきではない。…
093015_hanrei.pdf (courts.go.jp)
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)