【論稿/商標】近年の商標の識別性に関する拒絶査定不服審判の審決の現状及び課題(浅田瑠衣、山田朋彦、パテント誌2025年10月)
1. 識別力判断の急激な「厳格化」の実態
近年、商標法第3条第1項(識別力)に基づく拒絶査定不服審判において、拒絶理由を覆して登録に至る比率(転覆率)が顕著に低下している。
2021年をピークに、2022年以降は登録審決の割合が急落している。
2. 判断手法の変化:全体観察から「恣意的」分解へ
2021年以前と2022年以降では、結合商標(A+B)の捉え方に明確な差異が生じている。
かつてのアプローチ(~2021年): 商標全体の使用例が乏しい場合や、語順に造語性が認められる場合は、一種の造語として識別力を認める傾向があった(例:『純生うどん』は登録)。
現在のアプローチ(2022年~): 商標全体の使用例がなくても、構成する各語の語義を丹念に拾い上げ、それらを恣意的に結びつけることで「特定の意味(品質表示等)を生じさせる」と断定する傾向がある(例:『純生さぬきうどん』は拒絶)。
懸念される手法(後知恵の危険性): 商品や役務を念頭に置きつつ、各文字の語義に関連語を補足して無理やり意味を導き出す手法は、特許の進歩性判断で禁じられている「後知恵」に近い。
3. ビジネスおよびブランディングへの影響
識別力判断の厳格化は、企業のブランド戦略に冷や水を浴びせるおそれがある。
暗示的商標の権利化困難: 「おーいお茶」や「ほぼカニ」のように、商品の魅力を想起させつつ需要を喚起する「攻めのネーミング(暗示的商標)」が軒並み拒絶されるリスクがある。
4. なぜ「是正」が働かないのか:審決取消訴訟の壁
審判の厳格化をチェックする機能が十分に働いていない。その最大の理由は、識別力欠如を理由とする審決取消訴訟の提起が極めて少ないことにある。
<アンケート結果(なぜ訴訟をしないのか)>
識別力欠如: 拒絶されても(独占はできないが)現実の使用は妨げられないため、「使用に際して問題がない」として、高額な費用をかける訴訟を断念するケースが多い(弁理士の約9割、企業の約8割)。
類否(類似): 他人の権利に抵触し使用停止リスクがあるため、類似による拒絶の場合は約5~6割が訴訟を検討・出訴する。
この結果、知財高裁による「識別力判断の妥当性チェック」が行われにくい構造になっている。
https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/4717
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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