【発明のカテゴリー③】
「製造方法の発明」の権利行使可能範囲(=直接生産物のみならず、間接生産物の販売を差止めできるか?)
⇒裁判例なし
⇒肯定的な学説
<ⅰ>特許法概説〔第13版〕(吉藤)438頁
<ⅱ>新・注解特許法〔第2版〕[上巻]53頁(平嶋)
⇒否定的な学説が見当たらない。
<ⅰ>特許法概説〔第13版〕(吉藤)438頁は、「…問題となるのは、直接生産物と間接生産物とでは中間の加工・処理方法等により、状態又は物性等が変化して全く異なるものとなる場合である。たとえば、①染料の製造法の使用によって生産した染料(直接生産物)によって染色して織物(間接生産物)を製造する場合、②中間体(最終生産物の原料)の製造法の使用によって生産した中間体(直接生産物)に慣用手段(常法)を施して最終生産物(間接生産物)を製造する場合である。」と説明した上で、「これらの場合に、直接生産物を特許のない外国で製造するとともに間接生産物をも製造し、これを国内に輸入するときは、方法特許権の効力は間接生産物に及ぶかどうか」という問題提起につき、「この場合は、次の理由によって、及ぶと解すべきであろう。特許法は、『直接』に限定する必要がある場合はその旨を明記している(37条4号参照)のであるから、これを明記しない2条3項3号を特に『直接』に限定解釈することは文理上不当であり、また、立法者が『直接』を明記することによって方法発明の保護を有名無実にするおそれがあること等を考慮したためであると解するのが妥当である。」と述べている。
(特許法概説(吉藤)を引用している論稿として、①「AI・OT関連発明の適切な保護について」(平成30 年度特許委員会第3 部会第2 グループ、パテント2019、Vol.72 No.14)、②「ゲノム編集技術の基本特許を巡る国際的動向及び研究開発への影響と対策」(知財管理2017、Vol.67 No.4)等がある。)
この考え方に基づくと、直接生産物から派生した物(間接生産物)に対しても製造方法の特許権の効力が及ぶこととなる可能性が高くなる。もっとも、この考えでは、直接生産物に係る物の発明に係る特許権が当該物から派生した物(間接生産物)に及ばない場合であっても、製造方法の発明に係る特許権であれば常に効力が及ぶというのであれば不整合が生じるし、間接生産物に及ぶ場合と及ばない場合があるというのであれば、どのような間接生産物に及ぶかという議論が残る。
<ⅱ>新・注解特許法〔第2版〕[上巻]53頁(平嶋)は、「物を生産する方法の発明における『実施』とは、当該生産方法の発明における『方法の発明』としての実施行為たる『使用』行為に加えて、当該生産方法によって得られた物(以下、『生産物』とする)について(物の発明としての)『実施』行為を併せたものとなる。なお、個々の実施概念の詳細な内容については、物の発明における実施の諸概念と共通する。したがって、物を生産する方法について特許権が存する場合には、当該生産方法による結果としての生産物として得られる物自体に限ってみれば特許発明としての保護要件を充足しているか否かにかかわらず、あたかも当該生産物についても物の発明として特許権が付与されている場合と同様に特許権の効力が及ぶことになる。」と説明している。
その上で、「生産物の範囲を画定する解釈を巡っては、生産物とは当該物を生産する方法によって直接的に生産される物(直接生産物)に限定されるのか、あるいは、直接生産物を基にしてさらなる処理や加工を添加された物までも含むと解されるのか、という問題がある」と問題提起をした上で、「物を生産する方法の発明というカテゴリーに対応する発明としては化学物質の生産方法が多く存在するところ、化学物質の生産方法の場合、当該生産方法による直接生産物については、製品となる最終生産物を得るための中間体として必須という位置付けにあるような物であるというケースも多々ある。このことから、直接生産物についての実施行為だけにしか特許権の効力が及ばないと画一的に解するのでは実質的に『物を生産する方法の発明』の法的保護として十分でない場合が生じることも想定される。このことから、生産物の範囲の解釈としてはいわゆる直接生産物に限定されることなく、直接生産物の物性や特徴、生産方法の技術的性質を考慮の上で、比較的広く解釈するほうが適切であると考えられる。学説上も、直接生産物に限られるものではないとする立場が有力である」とする。
なお、「新規物質については物の発明としての保護を受けることが可能となっている現行法の下ではこのような解釈を採ることの重要性は相対的に減じていることは確かであろう」と述べており、上述のとおり「生産物についても物の発明として特許権が付与されている場合と同様に特許権の効力が及ぶ」ことが念頭に置かれている。
もっとも、「その方法により生産した物」に含まれる間接生産物の範囲については、必ずしも確定的ではなく、「直接生産物の物性や特徴、生産方法の技術的性質」をどのように考慮するかという議論が残る。
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※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
本件に関するお問い合わせ先:h_takaishi☆nakapat.gr.jp(☆を@に読み換えてください。)