(1)サブコンビネーションクレームにおける発明特定事項の認定基準
本判決は、サブコンビネーション発明(多機能システムの一部を構成する装置の発明)の要旨認定において、クレーム中に引用された「他のサブコンビネーション(相手方装置)」に関する事項が、いかなる場合に発明特定事項として参酌されるか(あるいは無視されるか)という判断の指針を示した点で、実務上重要な意義を有する。
本判決は、サブコンビネーションの相手方装置に関する記載について、「当該相手方装置のみを特定する事項であって、請求項に係るサブコンビネーション(自装置)の構造、機能等を特定しない場合」には、発明の要旨認定においてこれを除外(無視)するという判断枠組みを確認した。
すなわち、単にクレーム文言上に相手方装置の限定(例:高機能な携帯電話、アプリDL機能等)が含まれていたとしても、それが当該請求項に係る装置(例:受信装置)自体の構造・機能等に影響を与えない(=特定する意味を有しない)場合には、新規性・進歩性判断の前提となる本件発明の要旨認定から除外(無視)されることが確認された。
(2)「構造、機能等」への反映の有無(関連裁判例との対比)
本判決と、後掲の【関連裁判例】(肯定例・否定例)を俯瞰すると、サブコンビネーションクレームが発明特定事項として認められるか否かの分水嶺は、サブコンビネーションの相手方装置の特徴が、自装置の「構造・機能等」を特定(限定)しているかにあるといえる。
①発明特定事項と認められなかった事例(本判決、『情報処理装置事件』判決、『錠及び鍵事件』判決等)
本判決において、携帯電話(相手方)が「アプリをDLして機能追加する手段」や「クレジットカード機能」等を有しているか否かは、受信装置側から見れば、送られてくる識別情報(ID)を受け取るという基本動作において何ら差異を生じさせない。つまり、相手方装置の「内部事情」や扱う「情報の意味内容」が記述されているだけで、両者のインターフェースにおける信号形式や物理形状が変化しない場合、その記載は発明の要旨から除外される。
後掲する『情報処理装置事件』判決においても同様に、サーバが情報を抽出する「根拠(ロジック)」は通知を受ける側の構成を特定するものではないと判断され、『鍵事件』でも、錠の内部構造(タンブラーの仕組み)は鍵の物理形状(窪み)以外を特定しないとされた。
②発明特定事項と認められた事例(『ごみ貯蔵機器事件』判決、『液体収納容器事件』判決等)
他方、後掲する『ごみ貯蔵機器事件』判決では、回転装置の存在がカセットの係合構造や支持状態を直接決定づけていた。また、『液体収納容器事件』判決では、インク容器の発光部とプリンタ本体の受光部がシステムとして協働し、一方が他方の動作を直接制御・検知する関係にあった。
このように、サブコンビネーションの相手方装置の構成が、自装置の構成を「必然的に規定」する場合(物理的な嵌合や、システムとしての不可分な相互作用がある場合)には、発明特定事項として認められる。
(3)実務上の指針
本判決を踏まえると、サブコンビネーションクレームのドラフティングにおいては、単に「…という構成を有する(相手方装置)と通信する(自装置)」と記載するだけでは、自装置の構造、機能等を特定(限定)していないとして、発明特定事項とみなされないリスクがある。
サブコンビネーションの相手方装置の特徴的な構成に対応して、自装置側において「どのような信号処理を行うのか(復号、認証等)」、「どのような物理的形状が必要になるのか(嵌合、配置等)」、「タイミング制御がどう変化するのか」といった、自装置自身の構造・機能への「反映」をクレームアップすることが、有効な特許権取得及び行使のために有用である。
さらに進んで言えば、プリンタとインクカートリッジのように、自装置と相手方装置の両方を別々に製造・販売している場合は、其々についてサブコンビネーションクレームを特許化できるように、互いに相手方の装置により構造・機能が特定(限定)される関係になるように設計し、当該構造・機能に何らかの技術的意義を考察して明細書に記載しておくことが、特許出願戦略の一つとして考えられるだろう。
執筆:高石秀樹(弁護士・弁理士)
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