令和5年(行ケ)10019【IL-4Rアンタゴニストを投与することによるアトピー性皮膚炎を処置するための方法】<宮坂>
*引用発明がフェーズ2臨床試験に至っても, フェーズ2の成功率は33%しかないから、フェーズ2の結果を見るまでもなく当然に治療上有効であると当業者が理解するとはいえない。
⇒進歩性〇
【相違点】本件訂正発明1は、中等度から重度のアトピー性皮膚炎(AD)であって、局所コルチコステロイド又は局所カルシニューリン阻害剤による処置に対して十分に応答しない患者を処置する方法に使用するための、治療上有効な量の抗ヒトIL-4R抗体又はその抗原結合断片を含む医薬組成物であるのに対し、引用発明は、治験薬組成物である点。
(判旨抜粋)
甲1の試験はフェーズ2臨床試験であるところ、フェーズ2の前に行われるフェーズ1臨床試験は、通常少数の健康人に対し治験薬の安全性や薬物動態を調査するものであり、患者に対する有効性の確認はフェーズ2臨床試験から始められることが技術常識である。そして、甲21…によれば、フェーズ2臨床試験の成功の確率は他のどのフェーズよりもはるかに低く、アレルギー疾患の場合、33%程度であり、このことからすると、フェーズ2臨床試験が行われていることから直ちに、当該治験薬が試験結果を見るまでもなく当然に治療上有効であると当業者が理解するとはいえない。
また、甲2~6を検討しても、本件特許の優先日前に、アトピー性皮膚炎患者に抗ヒトIL-4R抗体が投与されて、実際に治療効果が得られたことを示す証拠はない。アトピー性皮膚炎の急性期と慢性期におけるサイトカインの役割に関する本件特許出願の優先日における技術常識を踏まえると、甲1で使用されているREGN668(抗ヒトIL-4R抗体)が、甲3における抗体と同様、IL-4活性及びIL―13活性を遮断する能力を有するものであるとしても、少なくとも3年間の慢性アトピー性皮膚炎を患っており、IL-4が優勢である急性期とは異なり、IL-4よりもインターフェロンガンマ、IL-12産生が優勢となっていると考えられる引用発明における患者に対し、REGN668(抗ヒトIL-4R抗体)を治療上有効に用いることを当業者が想到し得たとはいえず、また、臨床症状の改善をもたらすことを容易に予測はできない状況であったと認められる。
また、甲24(審判乙4)に記載されるように、アトピー性皮膚炎における免疫経路の複雑さを考慮すると、IL-4の作用の遮断という、本件特許の優先日において、アトピー性皮膚炎の治療に対する使用実績のない特定のメカニズムに基づく治療薬について、臨床試験の結果を待つことなく、中等度から重度のアトピー性皮膚炎に対して治療効果が得られると予測をすることは困難であると認められる。そうすると、引用発明について、中等度から重度のアトピー性皮膚炎であって、局所コルチコステロイド又は局所カルシニューリン阻害剤による処置に対して十分に応答しない患者を処置する方法に使用するための、治療上有効な量の抗ヒトIL-4R抗体を含む医薬組成物であるという相違点に係る構成を備え、本件訂正発明1に該当する患者において、実際に本件明細書に示されたアトピー性皮膚炎の臨床症状の改善効果を示すものとすることは、甲1~6の記載から当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/292/093292_hanrei.pdf
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執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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