令和4年(行ケ)10084【重症心不全の治療剤】<本多>
*対象患者の相違点と用法容量の相違点を別個の相違点として容易想到性判断OK。
*患者を限定したが、公知医薬も当該患者にも投与されていたから、容易想到。
(判旨抜粋)
治療薬の用量を検討するに際しては、対象患者や治療の相違は当然に考慮に入れるべきものであり、治療薬に係る特許発明と引用発明の相違点を認定するに際し、対象患者や治療について相違点を認定したときに、用量についてこれら対象患者や治療を含めた相違点として重ねて認定する必要はないというべきである。したがって、本件審決が、前記の相違点1と区別して、トルバプタンの1日当たりの用量の点のみを相違点2として認定したことに誤りはない。…
本件特許発明は、NYHAクラスIVの患者に入院下で経口にて投与開始される重症心不全の治療薬と特定されている点(相違点1)、及び活性成分の1日当たりの用量が0.371mg/kg以下の範囲と特定されている点(相違点2)で甲2発明と相違する。
しかしながら、相違点1について、本件優先日当時、利尿薬は急性心不全、慢性心不全、心不全の重症度を問わず広く用いられていた薬剤であり、トルバプタンと同じ作用機序の利尿薬がNYHAクラスIVの患者に投与されていたことからも、重症でないとは即断できない患者を含むNYHAクラスI~IIIの患者に有効である甲2発明のトルバプタンをNYHAクラスIVの患者の治療薬とすることには十分な動機付けがあり、その阻害要因があったともいえず、容易に想到し得たということができる。また、治療薬を投与する際に患者が入院下であるか否かという点は実質的な相違点とはいい難い。さらに、本件優先日当時のトルバプタンの使用態様から、これを経口投与とすることは当業者が適宜なし得た事項というべきである。相違点2についても、これは甲2発明の最小有効量である1日1回30mgとほぼ同一の用量であって、1日当たりの用量を0.371mg/kg以下の範囲とすることに臨界的意義があるとも言えず、甲2の記載及び技術常識を参酌して用量を上記範囲とするのは適宜なし得ることというべきである。…
…利尿薬は、急性心不全と慢性心不全とを問わず、また重症と軽症~中等症とを問わず、心不全の症状の一つである体液貯留、うっ血、浮腫等を改善する治療薬として広く用いられており、さらに、上記主張の例は利尿薬とは異なる心不全治療薬が含まれているため、NYHAクラスIVであることを理由に利尿薬の取扱いを異にすべき旨が記載されていると読み取ることはできない。加えて、本件特許の試験はNYHAクラスIIIおよびIVの患者が混在した試験であり、NYHAクラスIVの患者のみの死亡数は明らかになっていないのであるから、NYHAクラスIVの患者に対する効果は不明である。
※本稿の内容は,一般的な情報を提供するものであり,法律上の助言を含みません。
執筆:弁護士・弁理士 高石秀樹(第二東京弁護士会)
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